追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

トランプリスク…(3)

2018年07月24日 | 国際政治

「我々欧州は他国に完全に頼ることができる時代は終わった。私はこの数日でそれを経験した。我々欧州人は自らの運命を自分たちの手に握らねばならない。欧州人として、自らの運命のために闘う必要があると知るべきだ」メルケル独首相は、昨年のG7首脳会議(サミット)の後、支持者に向けてこう演説した。
メルケル氏は、3月の初会談以来、トランプ氏と緊張した関係を続けており、ガス供給で一定割合をロシアに頼るドイツを「ロシアの捕虜だ」とこきおろす等、国のトップに対する非礼な対応も数多い。冒頭のメルケル氏の言葉はトランプ氏への反感の混じったものではあるが、険悪な米欧関係を欧州の強みに転換させようとする試みともいえる。米国頼むに足らず,米国との対立を軸として欧州は団結しなければならないという意味を込めたものである。NATO軍の縮小,EU統合軍へのシフトが動き始めている。欧州でのトランプ支持は極めて低い。欧州のトランプ・アメリカ離れ=「アメリカの世界的な孤立化傾向」は今後鮮明になっていくだろう。
   
しかし、この不人気…反トランプ…が、欧州の価値観に梃入れをする効果を生んでいる。ナショナリズムとポピュリズムの合わさった最近の風潮は、トランプが選ばれた時が最高潮で、以後アメリカを反面教師にポピュリスト政治家はオーストリア、オランダ、フランスで敗退している。EUからの脱退を強硬に主張したメイ首相も、総選挙で多数派を失った。
NATO首脳会議ではEUへの防衛費負担増額を要求するばかりで肝心のEU加盟国が攻撃を受けた際の集団的安全保障=アメリカの支援には触れずじまいでEUの不信感を増幅した。トランプはスコットランドでアメリカの敵は何処かと問われ最初に挙げたのがEUてある。ロシアとの関係では「友人でも敵でもない、競争相手だ。」と述べどちらが同盟国かと失笑を買っている。
交渉相手の多い同盟国EUは苦手と敬遠して居り、英国のEU完全離脱を盛んにけしかけている。
メイ首相との会談もその外交手腕をけなし、EUとの交渉の仕方を教えてやったという様な、外交上非礼極まりない態度で完全な上から目線。女王陛下との会談内容を外部に漏らすのは禁じ手だが「陛下はEU離脱は複雑な問題だと述べた」と暴露するなど非礼な態度でイギリス市民の総スカンを食って反トランプの大規模デモにまで発展した。

フィンランドのヘルシンキで行われたプーチンとの首脳会談でトランプの危うさ、とりわけトランプのDeal外交の危うさが露呈した。
シンガポールでの米朝首脳会談は非核化を華々しくぶち上げたが何ら具体的成果が無い為トップ会談の「シンガポールモデル」と呼ばれているが実際には相手の北朝鮮は大きな成果を得ており、これと同様今回の会談でも相手に得点を与えたがトランプやアメリカが得たものはマイナス点でしかない。トランプはDealの達人と自称するがその手腕も大いに疑問である。

先ずテレビ映像で報じられたトランプの緊張し何処か落ち着きのない様子がアメリカ大統領の威厳、優位性を貶めたという印象すら強めたとの論評もある。
ロシアにとってワールドカップ直後に何の譲歩をすることもなくアメリカ大統領と会談が出来たというだけで、孤立したロシアというイメージの払拭に繋がったという世界へのアピール効果、それだけでも大きな得点である。
加えて4年前のクリミア併合に付いてトランプ大統領は違法だというがロシアの見解は違う。この問題に付いて話すことは何もないとプーチンは記者会見でピシャリと一蹴、これにトランプは何の反諭も出来ず欧州や米国内から非難の声が挙がった。

又会談の焦点でもあった“ロシア疑惑” 、トランプは「プーチン大統領は首脳会談でアメリカ大統領選へのロシアの関与を力強く否定した。 私もロシアの関与を信じる理由はない。」、というプーチン大統領の主張を受け入れた。
疑惑の中心人物といえるプーチン大統領に話をぶつけ否定の言葉を引き出すことで、『やましいことはない』と潔白を印象づけて、幕引きを図りたいねらいがあったとみられるが、関与を認めている自分の国の情報機関よりもプーチン大統領の言い分を信じるのかとして共和党の重鎮も含めアメリカ国内から批判が続出、逆効果となった。
アメリカとEUの分断を望んでいたロシアのプーチンにとって当に棚ボタの結果である。

自由、民主主義、法の支配といった西側世界を結び付ける価値観による同盟はトランプにとって意味をなさない。優先すべきは目先の「金、得か損か、勝った・やっつけたか」でしかない。
軽薄・直情的なトランプのトップ会談は通訳しか同席していないし何を話したかの記録がない為、非常に危険視されている。
米朝会談の内容についても少しずつ問題が表面化しつつある。海千山千のプーチンや金正恩の狙いはそこにある。今後どんな問題が飛び出すか不気味である。

メデイアの報道に対する口汚い批判は表現の自由を真っ向から否定するものであり、最早自由主義世界、同盟国のリーダーたりえない姿が明瞭になった。
トランプの遊説先での演説は嘘と誇張で固めた自慢話と野党やメデイアに対する悪口雑言、それをテレビタレント時代に培った短い文章による漫談的な語り口、それが分かりやすいとバカ受けする。それがトランプを熱狂的に支持するアメリカ白人層の実態である。全ては選挙に勝つ為のポピュリズム=無知な大衆への迎合でしかない。何の成果も無く相手を利しただけの米朝、米ロ首脳会談を如何に大きな成果を上げたかに作り変え、都合のいい漫談に仕立て上げるか見ものである。

トランプリスク…世界貿易戦争への崖っぷち…(4)
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トランプリスク・・・(2)

2018年07月20日 | 国際政治

アメリカ隣国メキシコに新興左派政権権が誕生した。前大統領はトランプに従属的で、NAFTAの交渉も弱腰、トランプの口から出続ける中傷にもメキシコ人の名誉を守ることさえ出来なかったのが大きな敗因であると報じられている。
第2次世界大戦後、ラ米諸国ではクーデターが頻発し、軍事独裁政権が数多く誕生したが、メキシコは文民統治体制を維持し「メキシコの奇跡」と呼ばれる高度経済成長を達成、1968年にはラ米地域初の近代オリンピック、メキシコオリンピックを開催している。
産油国メキシコは原油価格の上昇が追い風となったこともあって、経済は堅調を維持していたが、アメリカ等に倣って新自由主義を推進し社会改革よりも経済開発を優先、1992年アメリカの強い要請で米・加・メキシコ3国による北米自由貿易協定(NAFTA)を締結した。
しかし、この協定は徹底した合理主義・市場原理に貫かれて居た為に、大地主や資本家を大いに潤したが先住民や農民といった低所得者層の生活基盤を破壊し極端な貧富の差を生み出した。汚職が蔓延し人口の4割が貧困層という状況が麻薬や犯罪を生み治安の悪化に拍車をかけたが、漸くこの混迷した現状打破に庶民の夢を託され、身の危険をも顧みず颯爽と登場したのがロペス・オブラドール(愛称AMLO)新大統領である。香辛料で有名な「タバスコ」州出身のAMLOはトランプのように汚い手を使ってギリギリの線で大統領になったわけではない。ハンモックに寝ながら先住民インデイオに農業指導を続けてきた様な庶民に寄り添う筋金入りの人物、生まれながらの裕福な家庭に育ち、口先だけで誠意の欠片もないトランプとは凡そ住む世界が違う人物、メキシコ大統領選初めて50%超の票を獲得圧勝して、一般大衆の絶大なる信頼を得ている。夫人は作家で教養・知性・先見性等政治家としての資質はトランプなど足元にも及ばない。
必ずしも反米強硬派ではないが、反トランプである事だけは確かで今後理不尽な要求には断固たる強い立場で対応するだろう。強い相手には弱腰、腰砕けとなるトランプには難敵の出現であることは間違いない。
トランプはNAFTAのメンバーであり隣国でもあるカナダ・メキシコを貿易不均衡を理由に事ある毎に聞くに堪えないような下品な悪口雑言で非難を繰返しているがこの制度は元々アメリカが仕掛けたシステムであり3国の経済発展に大きく寄与してきた。
自国に都合が悪くなるとルールを変えようと主張するのは常に米欧社会の横暴極まりないやり方だ。スポーツの世界も全く同じ、自らの非力・努力不足は認めず成績が悪いのはルールや相手のせいにしたがるのはトランプはじめ西欧人の性癖、見慣れた風景である。
メキシコは第二次世界大戦でラ米ではブラジルとメキシコの2国だけがアメリカをサポートしドイツ・日本と戦った。カナダは9・11アメリカ同時多発テロ事件後のアフガン戦争にアメリカに協力し戦争で多くの自国民の血を流した。トランプには目先の自分ファーストの利益だけで恩義のある隣国への敬意や感謝の念など全く念頭にない。
オバマが努力したキューバとの関係改善策も単にオバマ嫌いというだけで制裁強化策を打ち出してぶち壊してしまった。ハイチ・エルサルバドルからの移民・難民を「肥溜めみたいな国からなんであんなにやってくるんだ」「ハイチ人はみんなエイズに感染している」、大統領が決して口に出してはいけない言葉である。
キューバ危機でもわかる通りカリブ海諸国はアメリカの南の玄関先である。
アメリカは何時までも世界のトップに居られるわけではない。特に経済力では中国に追い抜かれるのは時間の問題である。イギリスの例でも分かる通りトップの座を譲り渡すと国力の低下は加速度を増す。
そのような状況を考えれば地続きの隣国カナダ・メキシコ、更にはカリブ海諸国、南米各国と友好関係を維持して置く事が如何に大事であるか、やがて思い知る事になるだろう。
目先の利益しか見えない近視眼のトランプは当に「トランプリスク」其の物である。

トランプリスク…(3)へ

私にとってメキシコは心の故郷の一つである。メキシコオリンピックで日本がメキシコを下し、アジア初の銅メダル獲得、釜本が得点王、ユネスコ国際フェア―賞を受賞した。3位決定戦は「メヒコ!・メヒコ‼」の応援で始まったが日本のラフプレーの無いフェアーな戦い振りに最後は「ハポン!・ハポン!!」に変わったとも伝え聞いた。体操やマラソンの君原の活躍もあって日本人びいきの人が多く、出張や観光で訪れる度にメキシコ人から随分歓待された。水郷ソチミルコ、テオティワカン のピラミッド,有名なメキシコのダンス音楽マリアッチ発祥の地・グワダラハラ、当時南米はチェ・ゲバラの影響等もあって騒然とし始めていたがメキシコは未だ治安も良く天国の様な国であった。
何よりも懐かしいのは野外音楽堂で聞いたカルロス・サンタナのラテンロックである。「ブラックマジック・ウーマン」「Samba Pa Ti 」この2曲がクラッシック一辺倒からロック・ポップスへの扉を開いてくれた思い出の曲である。


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「トランプリスク」と「安倍リスク」

2018年07月16日 | 国際政治

「トランプリスク」と「安倍リスク」

「魚は頭から腐る」とはロシアの格言らしいが、この格言がいま最も当てはまるのは、アメリカと日本ではないかと危惧される。
「トランプリスク」はアメリカと世界を、「安倍リスク」は日本を確実に衰退に向かわせている。
山本二郎法大教授によればこの疫病神の様な二人の共通点は、以下多少の修正を加えると次の通りである。
①自己愛が極めて強く幼児性の強いリーダーが権力を握って好き放題、政治の私物化を行っている。②二つ目は自己愛の裏返しとして批判や攻撃に対し極めて不寛容で敵対的になる。攻撃の仕方が極めて幼児的で軽薄そのものである。③3番目は相手を攻撃し、或いは責任を回避する際に嘘、偽り,出鱈目をためらわず、ありとあらゆる手段を使う。それが嘘であることがバレても一向に恥じるところが無い。「主観的にこうあって欲しい」と思う事と「客観的に物事はこうである」という両者の区別がつかない、つまり事実と虚構の区別がつかない反知性主義の典型ということになる。
④4つ目は権力の過剰な乱用である。行政は元より司法にまで手を伸ばし自分達のカラーに変えてしまう。内閣法制局を首相がコントロールし憲法解釈迄変えてしまうという事件があったが、二人とも権力の源泉である人事権を徹底的に活用する。
トランプの場合は「You're fired!」であり、安倍の場合は官邸主導の人事である。アメリカの場合は気骨のある政治家や官僚が居たので多くは辞任したが、日本の場合は平目役人が増え、首相や政権の意向・期待を過剰に忖度し、更には首相や政権の嘘を隠す為の嘘、文書の改竄の積み重ねが常態化してしまい、行政に止まらず会社を始めあらゆる団体・組織、スポーツ界に至るまで社会全体のモラルが完全に地に落ちてしまった。日本のモラール・活力の疲弊は目を覆うべき物があり日本の行く末が極めて憂慮される。
「トランプリスク」は世界的影響度の大きさから事態は深刻である。
トランプの物差しには「自分ファースト」、「金」、「損か得か」「勝つ為のハッタリ、恫喝」、「選挙対策」しか無いように見受けられる。
グローバル化の進んだ世界では人種・宗教・考え方・利害の相違が必ず存在し世界的な調和を図る為には常に相手の立場や状況を考え問題の対応に当たるという姿勢・態度が不可欠である。
アメリカ・ファーストしか念頭にないトランプにとってはグロ―バルという意識が完全に欠如している。又全身醜い欲望の塊の様なこの人物には相手に対する敬意や尊敬の念はもとより社会人として必要不可欠な礼儀・常識が欠如しているとしか思えない。トランプの下品・粗野な演説に狂気・乱舞するアメリカの聴衆の映像を見ているとアメリカよどこへ行く、大丈夫かという懸念が益々大きくなる。
共和党主流派や民主党、とりわけオバマ前大統領やクリントンの様な知性と権力が結びつくことへの、大衆の反感が如何に根強いか、反知性主義こそトランプの原動力であることは疑いない。

しかしトランプの傍若無人な外交姿勢に世界は少しずつアメリカと距離を置き始めた気がする。


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