追憶の彼方。

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動物奇譚 (1) 蚊について

2024年09月04日 | 文化・文明

動物奇譚

(1) 蚊について

8月18日「天声人語」に(蚊)にまつわる記事が載った。漱石の弟子物理学者の寺田寅彦がエッセーの中で、「蚊帳の中は暑苦しい、しかし蚊に責められるのはそれ以上に嫌いだから仕方なしに毎晩いやな蚊帳にもぐり込んで我慢して居る」 と不満を漏らしている。しかし何時の頃からか、クーラーの普及と生活様式の変化で蚊帳が姿を消し、蚊に悩まされる事がとんと減った。しかし防御の無い屋外の動物はどうしているのだろう。蚊や虻(あぶ)、蚋(ぶゆ)などの虫よけに、尻尾という道具を備えてはいても、それだけであの猛攻は防ぎきれないだろう。

所が、山形県の置賜(おきたま)総合支庁が先ごろ、愉快な実験結果を発表した。放牧している黒い和牛をシマウマのような柄に塗ったところ、尻尾や頭を振って虫を追い払うしぐさが激減したそうだ。愛知県の技術開発を参考に「半信半疑でやってみたら、本当に虫が来なくて」、生産者も驚いたという。愛知県のホームページを調べたところ、「黒毛和牛をゼブラ模様に塗った「シマウシ」は吸血昆虫の飛来が減少、吸血昆虫対策技術の開発」と言う誇らしげな技術開発報告が掲載されている。曰く、「アブやサシバエなどの吸血昆虫は、ウシにストレスを与えるとともに、牛白血病などの病気を媒介するので、通常は薬剤で吸血昆虫を殺虫するが、今回薬剤に代わる新たな吸血昆虫対策技術を検証し、本成果は、米国の科学誌PLOS ONEに2019年10月4日に掲載された。」

(シマ牛の写真)

この記事を読んで真っ先に頭に浮かんだのは、尻尾を振らなくなった牛の「オックス・テールの美味しさは大丈夫か?」と言う点だった。尻尾は牛肉の中で1番動かす部位で、旨味がギュッと凝縮され、 こってりとした味わいと、しっかりとした肉質で、食べごたえ満点。特に和牛のテールは通常の牛テールよりも旨味と甘味、コクが凝縮されていると言われている。そう言えば、イギリスやアメリカの「オックステールスープ」や焼肉店などにある(テールスープ)を思い浮かべる事が多いが、しかし諸外国、特にイタリアではスープ以外の料理として食べられる事も多い。例えばローマ名物の「コーダ・アッラ・ヴァッチナーラCoda alla vaccinara」と言う名の下町庶民の家庭の煮込み料理がローマの伝統料理に昇格し今日に至っている。イタリアでは経験出来なかったが、ブラジルでイタリー人移民の手でハバーダ(Rabada)と言う有名料理として根付くことになり、サンパウロ出張時にその美味を経験する事が出来た。日本のCookpad レシピでも紹介されている。

(シマウシ)に話を戻すと、縞馬のシマの機能が明らかになったという研究論文が基になって実験が始まったと考えられる。論文は何故(シマウマ)は(シマシマ)なのか? 従来言われて来た4つの仮説に対して反論する事から出発した。

仮説1. 後ろの風景に縞模様が溶け込み、捕食者に見つかりにくい(最も有力だった仮説)。反論…他の縞をもった偶蹄類は、森林に住んでいるが、シマウマを含む馬の仲間は、開けた草原にいることが多く、縞によって紛れられるような環境にいることは少ない。

仮説2. 体温を下げるのに役立つ。縞の白と黒の部分で温度差ができ、空気が流れることで体温が下がるという仮説。 反論…同様の気温や日射のある場所に、シマウマも縞のないウマの仲間もおり、特別にシマウマが暑さに耐性があるとは考えにくい。

仮説3. 捕食者が獲物のサイズや逃げるスピードを間違える。これは、シマウマの縞模様のおかげで、捕食者がシマウマが走っている速さやシマウマのサイズを見誤り、シマウマを捕らえるのを失敗しやすくなるという説。 反論…シマウマの主たる捕食者はライオンだが、ライオンは縞馬狩りには群で行い、成功率も高いので余り役立っていないことが推察される。

仮説4. 群れの中で個々を見分けるのに使っている。反論…縞のないウマの仲間も、シマウマと同様の群れを形成しており、ウマが視覚、聴覚、嗅覚を使って、他個体を認識していると仮定するなら、縞が他個体を識別するのに差ほど重要とは考えにくい。

そんな中、新たに有力な説が唱えられた。縞が吸血性のハエの仲間に血を吸われないようにするのに役立っているのではないかという説です。吸血性のハエが、シマシマ模様の上にとまることが少ないという結果は、複数の論文で報告されていて、その理由は(体の輪郭がわかりにくくなる)、(背景とのコントラストが小さくなる)等により縞模様に近づかないという可能性が挙げられているのである。

蚊に戻ろう!。蚊は海外を含めると凡そ3500種類、日本には100種類ぐらいで、夜に刺すアカイエカ、昼に刺すヒトスジシマカ、北海道や東北で多いヤマトヤブカ、ビルの地下などにいるチカイエカ、汚い水たまりで発生するオオクロヤブカが有名。温度、二酸化炭素、水分という3つの要素に惹かれて近づくので、体温の高い人、活発な人、汗かきな人が刺され易い。但し汗をかきすぎると体温が下がるのであまり刺されないらしい。その他、水々しい肌の人、色黒な人、体脂肪の高い人が好かれ、血液型はO、B、AB、Aの順に刺されやすいという実験結果がある。酒を飲むと体温が上がり、二酸化炭素放出が増え、注意力散漫になるので格好の餌食となる。

しかし蚊の主食は花の蜜や樹液で、糖分さえあれば生きていける。事実、蚊に砂糖水をガバガバ飲ませて「蚊にウイルスに対抗する免疫力」を強化させ、感染症の媒介を防ごうとの研究も行われている。蚊が血液を吸う時、「プハ―、美味い、切れがあって,コクもある」なんて言っている訳ではない。 交尾したメスの蚊が卵を育てるために、良質なタンパク源である血を栄養リッチなサプリメントとして吸血している、謂わば次世代の為の生存戦略なのである。尻尾に叩き潰されたり、動物の背中で待ち受ける鳥達に食べられる危険を冒してでも必死で血を求める、血を充分吸えたかどうかで産卵数に大きな差が出るからである。吸血すると200個前後産卵するが、しないと4~50個に止まると言われている。オスや処女の蚊は血を吸わないのは勿論のことである。

動物奇譚 (1) 蚊について……2

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