追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

慈善資本主義…(3)追記

2017年09月13日 | 政治・経済
中央公論9月号「ハーバードの日本再発見」…欧米大学が驚く底力と言う特集記事の中に「格差を広げないサムライの資本主義」というのが有った。
かの有名なベストセラー「ジャパン・アズ・ナンバーワン・アメリカへの教訓」の著者、ハーバード大名誉教授、E・F・ブォ―ゲルによる執筆である。
この特集は作家・佐藤智恵氏の編集だが氏の著作「ハーバードでいちばん人気の国・日本」で紹介しているように日本に好意ある人物の諭評なので幾分割り引く必要があるが、成程と頷く点も多い。

ブォ―ゲル教授は世界の格差問題を研究しているが、世界で格差が拡大する中で日本は比較的緩やかで止まっているのは日本には伝統的に「フェア・シェア」という基本原理が有る。アメリカ人は勝負に勝ってパイを独り占めしようとするが、日本人は最適な分配方法はどれかと考える。日本は江戸時代に地方分権制度が確立し、富と権力が地方の「藩」に分散した。藩の指導者は藩を維持する為にその力を強くする必要があり、その為には藩の住民の経済力や教育を高める必要があることをよく認識していたのである。
農民であれ、女性であれ学校に行き読み書き計算を学び、農村社会でも互いに助け合う経済システムが出来上がっており、経済格差があまり大きくならなかったのは藩の指導者の考えによるところが大きい。
明治時代、或いは戦後に於いても日本の指導者はサムライの精神を持ち続けており日本の資本主義は日本流にアレンジされた資本主義になったと考えられる.

ソニーの盛田昭夫やホンダの本田宗一郎などの経営者は社員全員が豊かになることを目指した。
盛田は「うちは絶対にレイオフをしちゃいかん。利益が下がってもいいから全員をキープしろ。その代り不景気の間を利用して社員教育を行う」
本田は「社長なんて偉くもなんともない。課長、部長、包丁、盲腸と同じだ。要するに命令系統をはっきりさせる記号に過ぎない」との名言が残っている。

カルロス・ゴーンの2016年の年収は10億3500万円。対するトヨタ社長の豊田章男氏は3億5000万円といわれている。日産に2兆円もあった負債を消したのだから、ゴーン氏にそれだけの収入があっても、当然といえば当然なのかもしれない。しかし、会社再建の名のもと、多くの社員たちがリストラされたのも事実。経営者のみが評価され富を享受する欧米型の資本主義と、サムライ資本主義、どちらが人を幸せにするだろうか。
然しアメリカ流のマネーゲームが日本の資本主義を欧米流に替えつつあることは事実である。
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慈善資本主義…(3)

2017年09月07日 | 政治・経済
巨額の寄付で社会を変える「慈善資本主義」、そこにはカーネギー達が行ってきた単純な慈善事業から一歩進んで、自分達がビジネス成功の過程で習得した経験・知識・ノウハウをフルに活用し、より効率的・広範囲に社会改革や人類の福利向上を図ろうというのである。
然しそこにはビル・ゲイツやジョージ・ソロス達超富裕層の独善性が透けて見える。

貧困問題に取組む国際NGO「オックスファム」が指摘するように労働者に正当な賃金を払い、正しく納税せよと言う主張の背景には慈善資本主義は社会の格差を肯定し固定化乃至助長するのに繋がる。寄付をすれば格差社会は許容されるのだというのは強者の論理である。
選挙で選ばれた国民の代表が税を通じて富の再分配を行うと言う社会の構造が損なわれ、強者の目の届かないところ、強者の気にいらない分野には支援が届かないと言う危険性が伴う惧れもある。更にはNGOやその他の市民活動が支えてきた社会の秩序維持、社会の変革も力を削がれ消滅を辿るだろう。

アメリカの場合は慈善資本主義が税制に大きな歪みを生じさせている。
J・ソロスの所得税率は15%程度で限界(最高)税率39.6%とは程遠い。彼は自分の秘書より税率が低いのはどこか間違っていると正直に述べている。B・ゲイツも似たようなものだろう。その大きな理由は慈善事業に寄付をすると税金の控除を受けられる点にある。
米国連邦税法上、特定の米国内の宗教、慈善、文化、教育団体が寄付金の所得控除適格と認定されており、それら団体への寄付金が所得から控除が可能となる。
(日本にも寄付金の税額控除・所得控除の制度はあるが対象となる寄付の相手が政治団体等限定されて居り,且つ控除金額にも限度がある)
例えばJ・ソロスが100万ドルを慈善事業に寄付した場合限界税率を40%と仮定すると彼の実質負担は60万ドルとなり残りの40万ドルは税金から、即ち実質的には納税者が負担したことになる。
アメリカでは長期(一年以上)保有の株式の売却益や配当金は所得税10%から15%の税率適用の納税者は非課税扱いになる。(25%、28%、33%、35%にカテゴリーされる納税者には定率15%の税率、39.6%にカテゴリーされる高所得者には定率20%の税率が適用される。)
超富裕層は寄付を通じて所得税率を下げることにより規模の大きいキャピタルゲインや配当の税金を免れているのである。
彼等は節税を行いながら慈善事業への寄付者としての名声を得、格差社会への非難をも回避していると言われても仕方がない。

アメリカの経済学者によれば納税者は超富裕層の寄付や慈善事業に無理やり付き合わされているのは不合理だと述べている。
米国の寄付金の行き先を見てみると、宗教団体への1000億ドル(全体の33%)というのが圧倒的に大きく、教育の400億ドル(13%)がそれに次いでいる。
イスラム教徒や仏教徒、或いは原理主義的キリスト教に反感を抱く人達までがそのようなキリスト教の団体への寄付に知らぬ間に付き合わされている。教育に付いても同じ、彼等の出身校や彼等の子弟が通う学校への寄付に付き合わされているのである。

この様な矛盾点を正そうとオバマ前大統領は、富裕層の課税強化や法人税制の見直しを毎年のように主張してきたが、議会多数派の野党・共和党による反対で実現出来なかった。
オバマ氏が提唱してきた税制改革は(1)富裕層の資産売却益に対する課税強化(2)金融機関への新税(3)法人税率を下げるのと引き換えに企業が海外にためる留保利益に課税強化――に大別できる。 とくに力点を置いたのが、経済格差の是正だ。中低所得層には育児支援を狙った手厚い優遇税制を敷き、財源は富裕層増税と金融機関への課税強化でまかなうと言うものである。
然しクレバーなオバマ大嫌いのトランプ政権、その中心は金融機関出身の超富裕層、金融改革は逆方向に動き始めている。

共和党が推進する税制が格差社会の元凶である。
寄付をすることにより所得税率を下げ投資促進の美名の下に長期キャピタルゲインタックスを無税化することにより富裕層が益々富を得る。
トランプは更に法人税率の引き下げを打ち出している。これにより株価が上昇し、配当が増える、格差拡大以外の何ものでもない。
トランプに票を投じたプアー・ホワイト達、やっと彼の欺瞞に気が付き始めたようだ。
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慈善資本主義…(2)

2017年09月05日 | 政治・経済
2009年にアメリカ人が慈善寄付をした総額は3000億ドル(約33兆円)。日本の一般会計税収が37兆円程度であるから、その約90%に当たる金額である。
これをアメリカ人1人あたりの金額に直すと8万円強になる。この様な多額の寄付をする習慣はキリスト教の影響による処が大きいとされてきた。「上流階級の人間は上流である為には神から課せられた義務…高貴な義務…Noblesse obligeと呼ばれる精神が必要であり、社会に富を還元すること、つまり慈善事業や寄付文化は お金持ちの義務という考え方が必要である。」と言う思考である。
只最近の動向はそんな綺麗ごとだけでは無さそうだ。
かつてカーネギーが鉄鋼業と鉄道で巨万の富を築いたが、庶民から収奪して財をなしたとして、「盗人男爵(robber barons)」と呼ばれたが、カーネーギーホールや カーネギーメロン大学を造って汚名を晴らそうと腐心したと言われている。
アメリカの超富裕層は社会不安が人種差別から格差問題に飛び火し略奪や暴動、革命が起こりその矛先が自分達に向かってくることを真剣に恐れている。

社会における人々の所得分配の不平等を示す指標としてジニ係数が有る。国家内における所得水準の格差を示す指標で数値が「1」に近いほど格差が進行し不平等の度合いが高いとされ、「0」に近いほど平等な状態であることを示す。0.4が社会騒乱が始まる値で0.6になると暴動が起こると言われている。
ジニ係数が0になるような社会はありえない。それは努力しようとしまいと、結果が同じ社会で、なんの活力も生まれないし逆の意味で不平等の最たるものと言える。
日本は、0.336と、対象42ヶ国中21位となっている。ジニ係数が一番高い国は南アフリカ0.62。。。治安は非常に悪い。
スウェーデン・デンマークは0.26程で最も低い国だがここ最近上昇傾向にある。税金が高いが、福祉制度は充実している。
イギリス0.36-13位、アメリカ0.39-9位、日本も含め係数は右肩上がり、格差拡大が一層進んでいる。

余りにも行き過ぎた格差社会、更に進展を続ける格差の広がりに対する超富裕層の懸念というか一種恐怖に近い物が有るようだ。
アメリカ大統領トランプは米国内長者番付で113位、世界でも324位、内閣に金融を中心に富豪仲間を集め新内閣の資産総額は140億ドル超、世界各国のGDPランキング120位前後になると言われている。このような超富豪政府が白人貧困層に受ける公約を乱発するのは富裕層の懸念を代弁しているともとれる。
アメリカでは超富裕層向けの避難所ビジネスが出現しているとの報道がある。社会秩序の崩壊や核戦争でアメリカ社会が混乱に陥った際、安全な隠れ家を提供すると言うのを謳い文句にしている。冷戦時代に建設された核シェルター等を居住可能な住宅に作り替える、パイロット付の自家用機を購入し、カナダ、スウエーデン、ニュージランドに居住権、土地・住居を取得すると云った動きである。

ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットなどの大金持ちが、何千億円の巨額の寄付を行なっていることが往々にして美談として語られる。然し本当にそうだろうか、このような米国式のやり方を無批判に称賛するのは正しいのだろうか。

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慈善資本主義

2017年09月02日 | 政治・経済
アメリカで2011年に盛り上がった「ウォール街を占拠せよ!」運動。そのスローガンは、「We are the 99%!」(私たちは、99%だ!)であった。
その意味する所は「トップ1%はますます豊かになっているが、残り99%は、ますます貧しくなっている!」。
このスローガンを裏付けるデータが発表されている。

貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム」は、1月17日から20日までスイスで開催される世界経済フォーラム(通称ダボス会議)に先がけて、格差問題に関する最新の報告書「99%のための経済(An Economy for the 99%)」を発表した。そこでは、富める者と貧しい者の間の格差は、これまで考えられていたよりも大きく、世界で最も豊かな8人が世界の貧しい半分の36億人に匹敵する資産を所有していることが明らかになったとレポートしたのである。
「世界では、10人にひとりが一日2ドル以下でしのぐことを余儀なくされている中、ごく一握りの人たちが莫大な富を有している。格差拡大は、何億もの人々を貧困の中に封じ込め、社会に亀裂をつくり、民主主義をも脅かしている。世界は今、99%のための経済を必要としている。各国政府は、労働者に適正な賃金が支払われるよう保障し、租税回避を阻止するだけでなく、競って法人税減税を推し進めるようなことをやめるために協力、協調しなければならない。そして、株主の利益だけでなく、従業員の利益と社会への貢献を考える企業への支援を惜しんではならない。」と警告を発している。

フォーブスの長者番付によると、上位8人の億万長者は以下の面々だ。
1位:ビル・ゲイツ(マイクロソフト社創業者)  
2位:アマンシオ・オルテガ(スペインの実業家。ZARA創業者)
3位:ウォーレン・バフェット(投資家)
4位: カルロス・スリム・ヘル(メキシコの実業家。中南米最大の携帯電話会社アメリカ・モビルを所有)
5位:ジェフ・ベゾス(Amazon.com創業者)
6位:マーク・ザッカーバーグ(Facebook創業者)
7位:ラリー・エリソン(オラクル創業者)
8位:マイケル・ブルームバーグ(前ニューヨーク市長)
レポートによると、上位8人の資産は合計で4.26兆ドルで、全人類の下位半分の資産に匹敵する。「大企業と超富裕層が税金を逃れ、賃金を下げ、政権に影響を与えることによって、いかに格差の広がりに拍車をかけているかを詳述している」と解説した。
世界経済を牽引するリーダーが毎年ダボスに集まる。自分たち自身と自分たちが経営する企業による公正な税負担、そして被雇用者への生活賃金の支払いを約束することこそその責務である、と訴えている。
ダボス会議常連の超富裕層は格差が拡大することを真剣に恐れ始めている。

米 マイクロソフト の共同創業者ビル・ゲイツ氏と投資会社バークシャー・ハサウェイを率いるウォーレン・バフェット氏は、2010年に出した「ギビング・プレッジ(寄付誓約宣言)」で話題を呼んだ。世の中の超富裕層に富の大半を寄付するよう呼びかける取り組みだが、これが契機となって富裕層の間で前向きに社会還元しようという意欲をかき立てる一助になったと言われている。
今年のダボス会議直後にMS社創業者のビルゲイツの財団がウオーレン・バフェットから譲渡された「バークシャー・ハサウエイ」社株6千万株時価96億ドルを売却し慈善事業に寄付すると言う景気のいい話が新聞紙上を賑わした。この二人に加えフェイスブック創業者のマーク。ザッカ―バーグ氏も自社株の99%を慈善目的に使うと表明している。

宇宙開発・疾病撲滅・社会改革等自分の関心ある分野に貢献したい。政府や国際機関が行うべき分野に踏み込みその規模は小国の国家予算を超える金額に達しており、寄付で社会を変える謂わば「慈善資本主義」の様相を呈していると言われている。

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