追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

木偶の棒総理・岸田

2022年09月23日 | 政治・経済
木偶の棒総理・岸田
5月に行われたマスコミ世論調査で、政権支持率が不支持から一挙に反転し岸田政権支持率は50パーセントを超えた。安倍・菅の(酷(国)税無駄遣いのヤリタイ放題政権)の空虚なビジョンやキャッチフレーズ、虚言・妄言・失言から解放されて、ヤレヤレと言う様な一種奇妙な安堵感を覚えたのと、コロナ第6波の一時的鎮静化やロシア制裁へのNATOへの追随、連合吉野会長が自民党茶坊主・田崎と同じスシローと化して自民党に取り込まれた為、野党の存在感希薄化に拍車をかけることに繋がった等々、岸田政権は何もしないのに、労せずしてタナボタ高支持率を懐にした。
訳も分らぬのに、トップダウン一辺倒で回りを混乱に陥れた安倍へのアンチテーゼとして「聞く力」を岸田首相の看板に掲げ、併せて総裁選公約の「岸田ビジョン」として「分断から協調へ」と言う耳障りのいいスローガンを打ち出した。しかしこの協調は自民党内部の話で、我々一般社会に対しては無神経にも真逆、国民の分断を煽るような事を平気で行い、国民無視で全く恥じるところが無い。
岸田の言う協調とは安倍・菅・麻生、その他老醜際立つ痴ほう人紛いの(無能実力者)に対する気配り・ご機嫌取りで、其の為に右顧左眄する姿は何とも痛々しく、ひ弱な総理の姿を炙り出してしまった。もう一つの公約は自派閥・名門宏池会の創設者・池田隼人を真似て「令和版所得倍増計画」を華々しくぶち上げたが、早々と腰砕けとなって「資産所得倍増計画」と言う、似て非なるものに変身させてしまった。「聞く力」は「聞くだけで何もしない・出来ない」 「聞きすぎて何をしたいのか意味不明」と言う自民党内に定着していた悪評が、一挙に一般社会にまで広まり、参院戦・自民危なしの空気が漂い始めた。そこに降って湧いたのが安倍殺害事件である。選挙演説中の衝撃的で生々しいテレビ映像に、すわ、「テロだ、暗殺だ、」と蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。「暴力による言論封殺」、「民主主義を破壊するもの」等々、与野党一斉に声明を発表し、メデイアも追悼の翼賛報道を垂れ流した。それに加えて、テレビ放映された衝撃的な殺害画面に、感情を揺さぶられ情緒的となった人々が献花台に行列を為す様な追悼の動きが、「安倍のミクス」やその失政の軌道修正をしないが為に、悪化する「岸田・インフレ」への批判を選挙戦のテーマから欠き消してしまった。更に殺害目的が統一教会の広告塔となり組織を支援して来た安倍に対する恨みである事が選挙終了まで意図的に伏せられたため、参院選は安倍の弔い合戦の様相を呈し自民の圧勝となった。岸田首相も思わぬ圧勝と、何かと小舅・大舅の様に口先介入しウルサイ重しとなっていた人物が忽然と居なくなり、思わぬ成り行きに動転してしまったのと、更には安倍の取巻き似非保守の(なんちゃって右翼)や党内最大派閥・清話会の支持を取り込む格好の材料とばかり、熟慮も無しに「安倍の国葬」をぶち上げてしまった。国葬をすれば外国要人が来日し弔問外交で国際社会に自分の顔を売り込む絶好のチャンスとも考えた。安倍に対する追悼など二の次、巨額の国税を使って自己の政権の座を安定・延命させようとの意図が丸見えである。しかし事件が落ち着き色々な事実が判明すると、容疑者には政治的意図は皆無、従ってテロや暗殺と言った大それたものではなく、憎むべき統一教会の広告塔、支援者である安倍に対する怨恨から生じた単なる殺害事件に過ぎない事が判明し、其の上自民党・安倍の清話会が統一教会と持ちつ持たれつの深い関係にある事実が次々表面化するにつれ、国民の事件に対する見方が180度転換した。この反社組織とは安倍の祖父岸が育て、父親を経て3代に亙り緊密な関係を続けて来た安倍元総理、それに連なる国会を代表する三権の長・衆議院議長・細田、経産大臣(現政調会長)萩生田、安倍の実弟・岸防衛相の他、安倍の腰巾着・山谷えり子(元国家公安委員長)や下村博文(元文科相)等の清話会メンバーが深く関って居り国政に迄影響を及ぼしている可能性が出て来たことで内閣支持率が急落した。
慌てた岸田は局面打開を図る為、「統一教会との関係断絶」をスローガンに内閣改造・党役員一新に踏み切った。
しかし蓋を開けてみると顔ぶれたるや、「反社組織との関係は切れません」と国民に挑戦状を叩き付けるかの様な陣容となり、一層の支持率低下と国葬反対の機運を盛り上げる結果となった。
安倍の腰巾着で反社組織と最も関係の深い一人萩生田を重要ポスト政調会長に起用し、歩行も儘ならない安倍の実弟・岸信夫を防衛大臣から総理補佐官に横滑りさせたほか、山際経済再生、加藤厚労の様な濃厚関係者を含め8人の閣僚が関係していたことも判明している。安倍お気に入りの高市早苗経済安保相や馬鹿丸出し杉田水脈政務官の登用は安倍に対する餞別の意味合いもあるのではとの噂も聞かれ、更には濃厚接触の疑惑は大臣だけではなく、副大臣や政務官にも広がり、岸田本人も疑惑が持ち上がって、永田町のトレンドワードはたちまち、岸田統一教会内閣”と揶揄される始末である。更に安倍自身が統一教会票を自民党員への配分を差配して居た点、主席秘書官・井上義行が教会から信者扱いされる程親密な事、岸信夫や萩生田の様に安倍の周辺には教会との関係が極めて濃厚な人物が数多く居た事、更には教会の名称変更や安倍や取巻きの右翼紛いの連中の主張が統一教会の主張と全く同じであるところから、統一教会の最大の支援者は安倍一族ではないかと言う事実が浮かび上がった。統一教会に恨みを持つ人間に殺害された支援者・安倍を国葬にして良いのかと言う疑問が出てきて当然である。安倍国葬に対する問題点は、(1)国葬が統一教会信者に信者である事の正当性を与える大きな材料になりこの反社組織を利することに繋がる。(2)国葬の法的根拠がない上、国葬自体「敬意と弔意を国全体として表明する」ものである以上、憲法第19条が保障する「思想及び良心の自由」を侵害することになり、民主主義の理念にも反し、憲法違反である。岸田首相は国民全体に弔意を強制するものでは無いと釈明し始めたが、それでは国葬ではなくなることに成り、明らかに論理矛盾で今や支離滅裂である。(3)巨額の無駄遣いとの国民の非難をかわす為に。費用の算定を過小に発表し国民を欺こうとした下心が見え見えである。当初は2.5億であったものがその後隠蔽体質を非難され16.6億に修正されたが、オリパラ費用が膨大に膨れ上がった例を見せつけられた国民はだれも信用していない。東京新聞によれば、世界各国の要人が集った皇位継承式典関係費として、警察庁は警備費として28億5000万円、防衛省も要人輸送ヘリなどで2億5000万円、外務省も滞在費などで43億1000万円の支出があった、と報じている。これらを合計すると、じつに74億1000万円もの支出となり、物価高騰も手伝い100億に達すると言う声も聞かれる。無駄遣いのやりたい放題だった安倍の追悼に相応しい壮大な無駄遣いとの自虐的な声が聞こえる。(4)安倍が国葬の対象として相応しいかと言う大きな問題がある。安倍の功績とは一体何か。国葬に対し国論が完全に2分したかに見えるが、反対が賛成を遥かに上回る。ネットでのデジタル献花には13万人近い献花があったと報じられているが、添えられたコメントは「国民の為に人生を捧げて下さった。」「体を張って日本と国民を支えて下さった。」の様に何れも情緒的で、国民の為に何をしたのかと言う具体的なものが皆無に近い。具体的に言い表せる様な功績が無いのである。一方、反対署名のコメントには「モリ・カケ・サクラ等の政治の私物化に始まり、安倍のミクスによる金融システム破壊と経済低迷・格差拡大、官僚のモラル低下、虚偽発言・答弁の連発による政治不信、仮病による無責任な政権放り投げ」等具体的な指摘が数多くあった。多くの人が「こんな人物の為に我々の税金が一円たりとも使って欲しくない」と言う反対論に100%同意である。
作家の赤坂真理氏が朝日新聞の「国葬考」欄で今回の事件で「自民党の(中身の無さ)が明らかになった。「何も上手くいっていないのに,上手くいっているように見せかける」のが安倍の本質であるが、本当は既に終わっている筈の自民党を終わっていない様に見せかけていた実態、自民党の空虚さを銃撃事件が白日の下に晒す結果となった。国葬は「自民党を弔う葬儀に見えて来た」との論評を加えられているが、まさに慧眼である。
岸田首相は「国葬を判断した首相として、批判、意見を真摯に受け止め、正面からお答えする責任がある」「閉会中審査の場に私自身が出席し、テレビ(中継)入りで質疑にお答えする機会をいただきたい」「丁寧な説明に全力を尽くす」と訴えた。 国葬実施の是非を論じる際に安倍元首相と旧統一協会との関りの問題を除外することはあり得ない。ところが、9月8日の衆議院議員運営委員会での質疑において、安倍元首相と旧統一協会との関りについて質問が出ると、委員長の自民党議員山口俊一氏が「国葬とは関係ないから答える必要がない」 と質疑を妨害した。事あるごとに丁寧な説明をすると言うが、同じことの繰り返しで、薄汚い言い訳でしかない。既に岸田の後任として茂木幹事長が出ているらしいが、日本の前途は暗い。
安倍元首相には葉茶滅茶総理の名前を進呈したが、岸田首相には木偶の棒総理が最も相応しい。
(註;木偶の棒…1 人形。あやつり人形。でく。2 役に立たない人。気のきかない人。人のいいなりになっている人。)
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アナおそロシアー6

2022年09月09日 | 国際政治
アナおそロシアー6 【ロシア衰退への道】
 ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経過した。短期間でゼレンスキー政権を打倒、ロシア傀儡政権を樹立して属国化し、最終的にはベラルーシを含めた巨大スラブ国家を形成しようとのプーチンの妄想はウクライナの予想に反する頑強な抵抗で、脆くも崩れ去ろうとしている。
ウクライナ侵攻は色々な副作用を生じ、プーチンの目論見に反してロシアが衰退への坂道を転がり始める契機となってしまった。
一つはウクライナの惨状を目にし、周辺諸国にロシアへの強烈な警戒感を植え付けてしまった事である。(自由、民主主義、市場経済、明るく開放的な世界)とは真逆の(暗く、残忍、貧困、独裁的、不自由)なロシアに対する拒否反応、ロシアの影響下に入る事だけは何としても避けたいと言う強い思いである。
先ず5月18日、フィンランドがスウェーデンとともに北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。これまでロシアを刺激しない様にとの配慮から中立を保ち、経済発展、教育、福祉などで世界の模範とされてきたフィンランドが米国主導の軍事同盟に加わる決意をしたことはロシアのウクライナ侵攻が欧州に与えた衝撃の強さを示し、バルト3国やポーランドの防衛力強化に弾みをつける事に繋がった。
更に深刻なのは、NATOに対抗しワルシャワ条約機構に替わるものとして結成されたロシア主導の軍事同盟CSTO(集団安全保障条約機構)の足並みの乱れである。ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス、タジキスタン6か国で構成するCSTOは5月16日、条約締結30年の区切りの意味合いも込めて、モスクワで首脳会合を開催した。プーチン露大統領は公開された会合冒頭の演説で、「ウクライナではネオナチと反露主義が横行し、米欧も奨励している」と主張したが、ベラルーシのルカシェンコ大統領を除き、各国首脳から同調する発言は出なかったばかりか、異例のロシア批判やウクライナ侵攻の早期終結を促すような発言が出たほか、共同声明にも侵攻を直接支持する文言は一切記載されず、足並みの乱れを露呈する結果となった。友好国の結束と協力体制の構築を期待したロシアの思惑は外れ、かえって求心力の低下を世界に晒す結果となってしまった。 
 ウクライナで多数の民間人死傷者が発生し「侵攻に関与すれば自国も欧米の制裁対象になりかねない」との懸念が拡大した。ロシアからの経済、軍事分野での統合圧力が強く、領土をウクライナ侵攻のために利用させてはいる(ベラルーシ)でさえ支援はそこ迄、国内には親ウクライナ感情も根強く、派兵要請には応じていない。石油、天然ガス、石炭、ウラン、銅、鉛、亜鉛などに恵まれた(資源大国・カザフスタン)は北部にロシア系住民が多く住むことから、領土の一部をロシアに併合されるとの懸念が根強く、米情報機関によるとベラルーシ同様ロシアからの派兵要請を断ったと報じているだけでなく、5月9日のロシアの戦勝記念日、パレードなどの祝賀行事の開催もとりやめ、ウクライナに対して医薬品や食料を輸送するなどの人道支援も行う等ロシアとの距離を取り始めている。3月の国連総会でのロシア非難決議ではキルギス・タジキスタンと共に反対はしなかったものの棄権に回っている。
更に8月10~20日、タジキスタンでCESTメンバーのカザフスタン・キルギス・タジキスタン3か国にウズベキスタンを加えた中央アジア4か国とパキスタン、モンゴルも加えた米国主導による共同軍事演習が行われた。中央アジア4か国は南側にアフガニスタンと隣接している為、イスラム過激派の浸透を強く警戒、ロシアがアフガンのタリバン政権と関係を築きつつある事に懸念を抱いて居り、米国との関係維持を図っている理由の一つはこの点にもある。カザフスタンはEUトップの電話協議で欧米の対露制裁の影響で高騰する世界のエネルギー価格安定の為、石油・ガスを供給する用意があると伝えており、これに反発したロシアはカザフ原油の黒海輸出港を停止に踏み切り、関係は一層冷え込み始めている。

もう一つは、ロシア連邦からの離脱・独立問題で、内部崩壊に繋がる深刻な問題である。国家と民族を同一視する民族主義運動・エスノナショナリズムの世界的な高まりはロシアも例外ではない。アメリカの場合は最初から新天地に馴染もうする心づもりで移住してくる人々は、新天地の生活に馴染めるように自らのアイデンティティーをアメリカに合うように変化させていく。しかし、自分の先祖が数世代にわたって暮らしてきた土地に今も暮らす人々は、民族意識を政治的アイデンティティーの基盤に据えている。この為往々にして政治権力を求めて各民族集団が競い合うことになり、近年この傾向が一層強まりつつある。ロシア人は帝政ロシアの時代はロシア正教により統合されていたが、その後領土拡張により、イスラム教やチベット仏教、ユダヤ教、シャーマニズムの様な土着宗教が入交り、結局ソ連時代はマルクス・レーニン主義がそれに取って代わる事となった。社会主義を放棄した現在のロシア連邦時代はそれに代わるものが無く、ナショナル・アイデンテイテイ・クライシス(国家への帰属意識の低下)が連邦からの離脱・独立を意識させることに繋がり始めている。
ロシアの全人口1億4200万人の78%(1億1100万人)はロシア人であるが、残りは僅か1千人強のシベリアのケット人にいたるまで、190以上の民族から成り立っている。又ロシア連邦の構成主体は85に昇る多さである。首都(モスクワ)と(サンクトぺテルブルグ)は(特別市)、これに共和国(21)、州(46)、自治管区(9)、地方(7)、自治州(1)から成り、まさに多民族国家である。此の内、共和国はロシア民族以外の民族が連邦の枠内で自民族の名を国名にし、国土や国語を持ち名義上国民国家を形成して居り何時でも連邦離脱・独立の外形的準備は整っている。共和国で人口の大きい(パシコルトスタン共和国410万人)、(タタールスタン共和国380万人)、(ダゲスタン共和国258万人)等は、(スタン国)の名前が示す通りペルシャの流れを酌むイスラム教徒(スンニ派)を中心とする民族が居住する地域である。(「スタン」とは、ペルシア語で「土地」という意味、「カザフスタン」とは「カザフ人の土地」を意味する)。
その他にもイスラム教徒を中心とする(チェチェン共和国)、他3共和国が存在する。共和国は州や自治管区と異なり独自の憲法を持つことが出来るが,連邦の法律と衝突することも多いと言われて居り、近年プーチンが中央集権体制を強化する為、自治権を大幅に削減、監視体制の強化を図りつつある。こうした動きを背景に一部の共和国で分離主義のマグマが溜まり始めて居り欧米の経済制裁による経済問題への不満や、独裁政治に対する反発等を契機に一気に噴出する危険性を孕んでいる。元々分離志向が強かったのはチェチェン、タタール、トウヴァなどであるが、サハ、バシコルトスタン等の共和国でもこの傾向が見えた。特にチェチェン共和国の主要民族であるチェチェン人はイスラム教徒で独立志向が強く,帝政ロシア時代の1994年~96年の第1次と、1999年からの第2次の2度にわたり、自治と独立を求めロシアと戦って来た。ロシア軍がチェチェンに侵攻し紛争が始まったが、チェチェン側はゲリラ戦で抵抗すると同時に,ロシア国内で爆弾テロなどで対抗し紛争が激化、2度の紛争による死者は 10万人を超える惨事となったが、とりわけこの紛争でのロシア軍による民間人に対する残虐極まりない不法行為・殺戮行為は世界を震撼させることとなった。プーチンの強硬手段により2009年までに戦闘は終結したが、火種は燻ぶり続けている。独立を目指すグループがチェチェン共和国の指導者、故ジョハル・ドダエフに忠誠を誓い、1000人規模の「ドダエフ大隊」を結成しウクライナ支援の為にロシア軍と戦っている。
 更に英国防省によると5月15日、ロシアがウクライナに投入した地上戦力の3分の1を失った可能性が高く、約5万人が死亡または負傷したとみられると発表したが、戦死者の大半をロシア南部出身者、特にイスラム教徒が多い北カフカス地方のダゲスタン共和国の兵士が最多で135人。次いで、シベリア連邦管区のモンゴル系少数民族ブリャート人が住むブリャート共和国出身者が98人だった。又多数のバシコルトスタン共和国出身の兵士が動員され、8月時点で171人が戦死したとも報じられている。モスクワ等の都市部ロシア人に反戦機運が乏しいのも、ロシア人の死者が殆どいない事が原因とみられるが、このような不公平な扱いに対する反発が連邦に対する不満として蓄積される可能性が高い。コーカサス地方のチェチェン、イングーシ、タゲスタンの共和国は何れもイスラム教徒が中心でロシア人が他共和国に比べ極端に少なく、しかも隣接して居るところから、分離独立問題が波及する可能性が十分存在する。1991年末と同じように、ロシアという植民地帝国に残る異民族の共和国たち、あるいは有力州が自己主張を強めて、国家主権に等しい権限を主張し、税収を中央に送らないという現象も起り得る。シベリア鉄道など重要な物流の線が、これらの存在によって阻害されると、ロシアは1つの国として機能しなくなるだろう。
ロシアはモンゴル治世下でモスクワ大公国という小さな都市国家から出発して、17世紀にやっとウラル山脈を越え、1860年にウラジオストックとその周辺の沿海地方を中国・清朝から取り上げて、現在の広大な版図を作った。西のモスクワから東のウラジオストック迄,全長約9300キロ,特急のロシア号に乗っても最短6泊7日、世界最長の鉄道である。ロシア極東のウラジオストク市は、2010年に市の創設150周年を盛大に祝った。帝政ロシアは1860年の北京条約によりこの地をロシア領に併合し、この天然の良港に、「極東を制圧せよ」を意味する(ウラジオストク)という名前を付けた。だが、中国の新しい歴史教科書には、「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」との記述が登場した。中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねない状況にある。ロシアは世界一広大な土地面積を有し世界最多16の主権国家と国境を接するが中国との国境は4209Km(モンゴルとは3485Km)で中国との間には国境紛争が絶えず、1960年代末には国境線の両側に、658,000人のソ連軍部隊と814,000人の中国人民解放軍部隊が対峙する事態になった。在北京ソビエト連邦大使館に対する紅衛兵の襲撃や、国境地帯での発砲事件など両国の小規模な衝突は度々起き、極東及び中央アジアでの度重なる交戦の後、両軍は最悪の事態に備え核兵器使用の準備を開始するまでに至ったものの、本格的な軍事衝突は起きず、結局2004年10月プーチン大統領と胡錦濤国家主席両首脳によるロシア側の大幅な譲歩による政治決着で最終的な中露国境協定が結ばれ現在に至っている。ウクライナ侵攻により世界で孤立化を深めるロシアにとって、経済・軍事等あらゆる面で中国が頼みの綱である。中露間で歴史的なパワーシフトが進む中、ロシアにとって、中露国境問題は大きな火種、悩みの種でもある。日本の尖閣諸島問題、明日は我が身である事に気づいている筈である。
ソ連解体後、ロシアの衰退は静かに進行していたが、原油や天然ガスの高騰にかまけて宇宙や核武装に現を抜かして居た為にロシア経済は世界に大きな後れを取り、理不尽なウクライナ侵攻に対する前例のない大規模な経済制裁によって衰退へのスピードを加速することになった。原油・天然ガス価格の異常な高騰で制裁の痛みは緩和されているに過ぎないが時間の経過とともにボデイブロウとなって、効いてくるはずである。石油と天然ガスは、その採掘に対する課税、輸出に対する課税、輸出収入に対する課税などを総計すると、ロシア政府歳入の50%以上を占めてきた。この収益源から派生する商業等のサービスも含めて、ロシア経済はやっと韓国と同程度のGDPを維持できているに過ぎない。  EUは、年末までにはロシアの原油輸入を止めると宣言して居り、既にEUの企業はロシア原油の購入を控えている。ロシアは、EUに代わる顧客としてインド・中国に頼らざるを得ないが、買いたたかれることは間違いない。天然ガスはドイツが需要の半分近くをロシアに依存しているために、簡単には切れないが、湾岸、米国からのLNG輸入、そしてこれまでの方針を変えて原発、石炭発電を復活させることで、かなりの削減が可能になり、ロシアにとって大きな痛手である。軍事的、経済的実力などの面でのウクライナに対するロシアの軍事力・経済力の優位は、ウクライナの決然とした抵抗・反撃と、西側国家のウクライナへの持続的、有効な援助によって霧消したばかりか、ロシアと、NATOとの武器技術装備、作戦などの分野での実力差が、ウクライナ・ロシアの優劣の勢いの違いをさらに突出させることになった。
電撃作戦でウクライナ侵攻作戦は短期間に終わらせることが出来ると考えたプーチンの目論見は水泡に帰し、 今回の戦争を何時、どんな形で終結させるかという決定権は、すでにロシアの手中から離れてしまった。折角手に入れたクリミア半島さえウクライナの反転攻勢で危うくなりつつあり、この劣勢が更に周囲の離散を助長することになる。
ウクライナ情勢を受けて国際的に対露感情が悪化している状況下、頼れるのは最早、中国だけである。
ロシアにとって最大の戦略的武器である原油・天然ガスが有効に機能しなくなった時、ロシアは多くの領土を失い、中国の属国となって北朝鮮と同じ道を歩むことに成りかねない。
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