追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

アナおそロシアー6

2022年09月09日 | 国際政治
アナおそロシアー6 【ロシア衰退への道】
 ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経過した。短期間でゼレンスキー政権を打倒、ロシア傀儡政権を樹立して属国化し、最終的にはベラルーシを含めた巨大スラブ国家を形成しようとのプーチンの妄想はウクライナの予想に反する頑強な抵抗で、脆くも崩れ去ろうとしている。
ウクライナ侵攻は色々な副作用を生じ、プーチンの目論見に反してロシアが衰退への坂道を転がり始める契機となってしまった。
一つはウクライナの惨状を目にし、周辺諸国にロシアへの強烈な警戒感を植え付けてしまった事である。(自由、民主主義、市場経済、明るく開放的な世界)とは真逆の(暗く、残忍、貧困、独裁的、不自由)なロシアに対する拒否反応、ロシアの影響下に入る事だけは何としても避けたいと言う強い思いである。
先ず5月18日、フィンランドがスウェーデンとともに北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。これまでロシアを刺激しない様にとの配慮から中立を保ち、経済発展、教育、福祉などで世界の模範とされてきたフィンランドが米国主導の軍事同盟に加わる決意をしたことはロシアのウクライナ侵攻が欧州に与えた衝撃の強さを示し、バルト3国やポーランドの防衛力強化に弾みをつける事に繋がった。
更に深刻なのは、NATOに対抗しワルシャワ条約機構に替わるものとして結成されたロシア主導の軍事同盟CSTO(集団安全保障条約機構)の足並みの乱れである。ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス、タジキスタン6か国で構成するCSTOは5月16日、条約締結30年の区切りの意味合いも込めて、モスクワで首脳会合を開催した。プーチン露大統領は公開された会合冒頭の演説で、「ウクライナではネオナチと反露主義が横行し、米欧も奨励している」と主張したが、ベラルーシのルカシェンコ大統領を除き、各国首脳から同調する発言は出なかったばかりか、異例のロシア批判やウクライナ侵攻の早期終結を促すような発言が出たほか、共同声明にも侵攻を直接支持する文言は一切記載されず、足並みの乱れを露呈する結果となった。友好国の結束と協力体制の構築を期待したロシアの思惑は外れ、かえって求心力の低下を世界に晒す結果となってしまった。 
 ウクライナで多数の民間人死傷者が発生し「侵攻に関与すれば自国も欧米の制裁対象になりかねない」との懸念が拡大した。ロシアからの経済、軍事分野での統合圧力が強く、領土をウクライナ侵攻のために利用させてはいる(ベラルーシ)でさえ支援はそこ迄、国内には親ウクライナ感情も根強く、派兵要請には応じていない。石油、天然ガス、石炭、ウラン、銅、鉛、亜鉛などに恵まれた(資源大国・カザフスタン)は北部にロシア系住民が多く住むことから、領土の一部をロシアに併合されるとの懸念が根強く、米情報機関によるとベラルーシ同様ロシアからの派兵要請を断ったと報じているだけでなく、5月9日のロシアの戦勝記念日、パレードなどの祝賀行事の開催もとりやめ、ウクライナに対して医薬品や食料を輸送するなどの人道支援も行う等ロシアとの距離を取り始めている。3月の国連総会でのロシア非難決議ではキルギス・タジキスタンと共に反対はしなかったものの棄権に回っている。
更に8月10~20日、タジキスタンでCESTメンバーのカザフスタン・キルギス・タジキスタン3か国にウズベキスタンを加えた中央アジア4か国とパキスタン、モンゴルも加えた米国主導による共同軍事演習が行われた。中央アジア4か国は南側にアフガニスタンと隣接している為、イスラム過激派の浸透を強く警戒、ロシアがアフガンのタリバン政権と関係を築きつつある事に懸念を抱いて居り、米国との関係維持を図っている理由の一つはこの点にもある。カザフスタンはEUトップの電話協議で欧米の対露制裁の影響で高騰する世界のエネルギー価格安定の為、石油・ガスを供給する用意があると伝えており、これに反発したロシアはカザフ原油の黒海輸出港を停止に踏み切り、関係は一層冷え込み始めている。

もう一つは、ロシア連邦からの離脱・独立問題で、内部崩壊に繋がる深刻な問題である。国家と民族を同一視する民族主義運動・エスノナショナリズムの世界的な高まりはロシアも例外ではない。アメリカの場合は最初から新天地に馴染もうする心づもりで移住してくる人々は、新天地の生活に馴染めるように自らのアイデンティティーをアメリカに合うように変化させていく。しかし、自分の先祖が数世代にわたって暮らしてきた土地に今も暮らす人々は、民族意識を政治的アイデンティティーの基盤に据えている。この為往々にして政治権力を求めて各民族集団が競い合うことになり、近年この傾向が一層強まりつつある。ロシア人は帝政ロシアの時代はロシア正教により統合されていたが、その後領土拡張により、イスラム教やチベット仏教、ユダヤ教、シャーマニズムの様な土着宗教が入交り、結局ソ連時代はマルクス・レーニン主義がそれに取って代わる事となった。社会主義を放棄した現在のロシア連邦時代はそれに代わるものが無く、ナショナル・アイデンテイテイ・クライシス(国家への帰属意識の低下)が連邦からの離脱・独立を意識させることに繋がり始めている。
ロシアの全人口1億4200万人の78%(1億1100万人)はロシア人であるが、残りは僅か1千人強のシベリアのケット人にいたるまで、190以上の民族から成り立っている。又ロシア連邦の構成主体は85に昇る多さである。首都(モスクワ)と(サンクトぺテルブルグ)は(特別市)、これに共和国(21)、州(46)、自治管区(9)、地方(7)、自治州(1)から成り、まさに多民族国家である。此の内、共和国はロシア民族以外の民族が連邦の枠内で自民族の名を国名にし、国土や国語を持ち名義上国民国家を形成して居り何時でも連邦離脱・独立の外形的準備は整っている。共和国で人口の大きい(パシコルトスタン共和国410万人)、(タタールスタン共和国380万人)、(ダゲスタン共和国258万人)等は、(スタン国)の名前が示す通りペルシャの流れを酌むイスラム教徒(スンニ派)を中心とする民族が居住する地域である。(「スタン」とは、ペルシア語で「土地」という意味、「カザフスタン」とは「カザフ人の土地」を意味する)。
その他にもイスラム教徒を中心とする(チェチェン共和国)、他3共和国が存在する。共和国は州や自治管区と異なり独自の憲法を持つことが出来るが,連邦の法律と衝突することも多いと言われて居り、近年プーチンが中央集権体制を強化する為、自治権を大幅に削減、監視体制の強化を図りつつある。こうした動きを背景に一部の共和国で分離主義のマグマが溜まり始めて居り欧米の経済制裁による経済問題への不満や、独裁政治に対する反発等を契機に一気に噴出する危険性を孕んでいる。元々分離志向が強かったのはチェチェン、タタール、トウヴァなどであるが、サハ、バシコルトスタン等の共和国でもこの傾向が見えた。特にチェチェン共和国の主要民族であるチェチェン人はイスラム教徒で独立志向が強く,帝政ロシア時代の1994年~96年の第1次と、1999年からの第2次の2度にわたり、自治と独立を求めロシアと戦って来た。ロシア軍がチェチェンに侵攻し紛争が始まったが、チェチェン側はゲリラ戦で抵抗すると同時に,ロシア国内で爆弾テロなどで対抗し紛争が激化、2度の紛争による死者は 10万人を超える惨事となったが、とりわけこの紛争でのロシア軍による民間人に対する残虐極まりない不法行為・殺戮行為は世界を震撼させることとなった。プーチンの強硬手段により2009年までに戦闘は終結したが、火種は燻ぶり続けている。独立を目指すグループがチェチェン共和国の指導者、故ジョハル・ドダエフに忠誠を誓い、1000人規模の「ドダエフ大隊」を結成しウクライナ支援の為にロシア軍と戦っている。
 更に英国防省によると5月15日、ロシアがウクライナに投入した地上戦力の3分の1を失った可能性が高く、約5万人が死亡または負傷したとみられると発表したが、戦死者の大半をロシア南部出身者、特にイスラム教徒が多い北カフカス地方のダゲスタン共和国の兵士が最多で135人。次いで、シベリア連邦管区のモンゴル系少数民族ブリャート人が住むブリャート共和国出身者が98人だった。又多数のバシコルトスタン共和国出身の兵士が動員され、8月時点で171人が戦死したとも報じられている。モスクワ等の都市部ロシア人に反戦機運が乏しいのも、ロシア人の死者が殆どいない事が原因とみられるが、このような不公平な扱いに対する反発が連邦に対する不満として蓄積される可能性が高い。コーカサス地方のチェチェン、イングーシ、タゲスタンの共和国は何れもイスラム教徒が中心でロシア人が他共和国に比べ極端に少なく、しかも隣接して居るところから、分離独立問題が波及する可能性が十分存在する。1991年末と同じように、ロシアという植民地帝国に残る異民族の共和国たち、あるいは有力州が自己主張を強めて、国家主権に等しい権限を主張し、税収を中央に送らないという現象も起り得る。シベリア鉄道など重要な物流の線が、これらの存在によって阻害されると、ロシアは1つの国として機能しなくなるだろう。
ロシアはモンゴル治世下でモスクワ大公国という小さな都市国家から出発して、17世紀にやっとウラル山脈を越え、1860年にウラジオストックとその周辺の沿海地方を中国・清朝から取り上げて、現在の広大な版図を作った。西のモスクワから東のウラジオストック迄,全長約9300キロ,特急のロシア号に乗っても最短6泊7日、世界最長の鉄道である。ロシア極東のウラジオストク市は、2010年に市の創設150周年を盛大に祝った。帝政ロシアは1860年の北京条約によりこの地をロシア領に併合し、この天然の良港に、「極東を制圧せよ」を意味する(ウラジオストク)という名前を付けた。だが、中国の新しい歴史教科書には、「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」との記述が登場した。中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねない状況にある。ロシアは世界一広大な土地面積を有し世界最多16の主権国家と国境を接するが中国との国境は4209Km(モンゴルとは3485Km)で中国との間には国境紛争が絶えず、1960年代末には国境線の両側に、658,000人のソ連軍部隊と814,000人の中国人民解放軍部隊が対峙する事態になった。在北京ソビエト連邦大使館に対する紅衛兵の襲撃や、国境地帯での発砲事件など両国の小規模な衝突は度々起き、極東及び中央アジアでの度重なる交戦の後、両軍は最悪の事態に備え核兵器使用の準備を開始するまでに至ったものの、本格的な軍事衝突は起きず、結局2004年10月プーチン大統領と胡錦濤国家主席両首脳によるロシア側の大幅な譲歩による政治決着で最終的な中露国境協定が結ばれ現在に至っている。ウクライナ侵攻により世界で孤立化を深めるロシアにとって、経済・軍事等あらゆる面で中国が頼みの綱である。中露間で歴史的なパワーシフトが進む中、ロシアにとって、中露国境問題は大きな火種、悩みの種でもある。日本の尖閣諸島問題、明日は我が身である事に気づいている筈である。
ソ連解体後、ロシアの衰退は静かに進行していたが、原油や天然ガスの高騰にかまけて宇宙や核武装に現を抜かして居た為にロシア経済は世界に大きな後れを取り、理不尽なウクライナ侵攻に対する前例のない大規模な経済制裁によって衰退へのスピードを加速することになった。原油・天然ガス価格の異常な高騰で制裁の痛みは緩和されているに過ぎないが時間の経過とともにボデイブロウとなって、効いてくるはずである。石油と天然ガスは、その採掘に対する課税、輸出に対する課税、輸出収入に対する課税などを総計すると、ロシア政府歳入の50%以上を占めてきた。この収益源から派生する商業等のサービスも含めて、ロシア経済はやっと韓国と同程度のGDPを維持できているに過ぎない。  EUは、年末までにはロシアの原油輸入を止めると宣言して居り、既にEUの企業はロシア原油の購入を控えている。ロシアは、EUに代わる顧客としてインド・中国に頼らざるを得ないが、買いたたかれることは間違いない。天然ガスはドイツが需要の半分近くをロシアに依存しているために、簡単には切れないが、湾岸、米国からのLNG輸入、そしてこれまでの方針を変えて原発、石炭発電を復活させることで、かなりの削減が可能になり、ロシアにとって大きな痛手である。軍事的、経済的実力などの面でのウクライナに対するロシアの軍事力・経済力の優位は、ウクライナの決然とした抵抗・反撃と、西側国家のウクライナへの持続的、有効な援助によって霧消したばかりか、ロシアと、NATOとの武器技術装備、作戦などの分野での実力差が、ウクライナ・ロシアの優劣の勢いの違いをさらに突出させることになった。
電撃作戦でウクライナ侵攻作戦は短期間に終わらせることが出来ると考えたプーチンの目論見は水泡に帰し、 今回の戦争を何時、どんな形で終結させるかという決定権は、すでにロシアの手中から離れてしまった。折角手に入れたクリミア半島さえウクライナの反転攻勢で危うくなりつつあり、この劣勢が更に周囲の離散を助長することになる。
ウクライナ情勢を受けて国際的に対露感情が悪化している状況下、頼れるのは最早、中国だけである。
ロシアにとって最大の戦略的武器である原油・天然ガスが有効に機能しなくなった時、ロシアは多くの領土を失い、中国の属国となって北朝鮮と同じ道を歩むことに成りかねない。
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アナおそロシア―5 【ウクライナ侵攻準備工作】

2022年07月25日 | 国際政治
アナおそロシア―5
【ウクライナ侵攻準備工作】
ロシアの代表的作家、M・シーシキンが「プーチンは皇帝か」と言う標題で、「ロシア人であることに苦痛を感じる」と言う悲壮な思いを込めたエッセイを7月5日の朝日新聞に寄稿した。その中でウクライナは「むごたらしい、血塗れた過去から逃れる為に、民主的な未来を築く道を選んだ。」「ロシアの僭称者(せんしょうしゃ=皇位を勝手に名乗る人物)はそれが気に食わないから憎むのだ、自由で民主的なウクライナがロシアの規範となり得るから、これを破壊することが大事なのだ。」と述べている。
前回ブログで触れた通り、ウクライナが存在している限り、彼等が決して手放しはしないであろう民主主義思想が、読み書きも覚束ないロシアの農民にじわじわ浸透し、次第に民主主義に目覚めて来ることが、プーチンや腐敗した一握りの取巻き既得権益連中の生命・財産に対する大きな脅威になる事を恐れているのである。ポーランドやバルト3国が必死になってウクライナを支援するのも、いち早く民主主義を経験し,スターリン、プーチンの様なロシアの僭称者が行う残忍極まりない悪夢の様な独裁社会に戻りたくないと言う思いが最大の動機である事は間違いない。
プーチンはこの民主化蔓延の恐怖を払拭する為にウクライナの民主政権を打倒し、プーチンの傀儡政権を作って属国化する為の準備を早くから着々と進めて来た。独裁体制を強化する為の大幅な憲法改正がそれである。
1993年に制定されたロシア連邦の憲法では「三権分立」らしきものはあるが、大統領権限がその上部・枠外に置かれ異常に強いものであった為、プーチンはこれを巧みに使って独裁制の強化を図った。
プーチンの憲法改正作業は2008年に始まった。この年の憲法改正で大統領任期を2期8年から2期16年に延長し、2014年の改正では大統領が検事の任免権を獲得など司法や検察機関への大統領権限を拡大した。仕上げは2020年3度目の大幅改正である。プーチンの任期は6年2期(12年)で2024年迄であったが、これを無かった事にし、新たに2期12年、2036年迄大統領に居座り続ける事が出来る様に改正した。謂わば任期のリセットである。加えて大統領の地位を高めるような次の項目、「議会が承認した首相を解任する権限」「現職だけでなく大統領経験者にも不逮捕特権適用」「大統領経験者は終身上院議員とする」を、お手盛りで付け加えた。更に独裁体制を築くため『安全保障会議』という上下両院のトップも議決権を有する常任委員を務める最高意思決定機関が、『国家元首(大統領)に協力する機関』と位置づけられた。これによってロシア軍部隊が国外で活動する際に必要となる「議会の承認」も、この憲法改正によって形骸化させる事が可能となった。
更に今回の改正には、国民のナショナリズムを高める為、北方領土返還に反対する声等に配慮して「外国への領土割譲の禁止」や、次のような「愛国主義・保守的条項」も追加された。曰く(1)「千年の歴史によって団結し、我々に理想および神への信仰、ならびにロシア国家発展の継続性を授けた祖先の記憶を保持する」 (2)「歴史的真実の保護を保障する」 (3)「『国外に居住する同胞』の権利行使、利益保護の保障」 (4)「国際組織の決定は、ロシア連邦憲法と矛盾すると解釈された場合、ロシア連邦において執行されない」。これらは何れも国外への軍事侵攻を国家挙げて正当であると宣言するものと見做し得るものであった。
2014年、ウクライナが進めて来たEUへの完全加盟を目的とした協定を破棄し、ロシア中心のユーラシア経済連合への加盟に舵を切ろうとした親露派で汚職塗れの(V.ヤヌコービッチ大統領)をマイダン革命により打倒、ロシアに亡命させたが、これに不満を持ったドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)で、ロシアが支援するウクライナからの分離独立派が「人民共和国」として独立を宣言を行い、内戦状態に陥った。同時にロシアはクリミア自治共和国に独立宣言させ、半島をロシアに編入する措置を取った。更にウクライナのドンバス住民は(プーチン・ロシア)にとって「国外の同胞」に他ならない故、改正憲法によりロシアはドンバス住民の権利と利益を保護する義務を負っていることになる。2022年2月21日、遂にプーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア派2地域の独立を承認するとテレビ演説で表明した。ロシアはドンバス地域をウクライナの一部とは見なさないとし、分離独立地域に公然と軍隊を派遣し、国外の同胞である独立派を保護するために同盟国として介入するという主張に道を開くことになった。全て筋書き通り、用意周到な準備工作であった。
ドンバス地域(ドネツィク州とルハーンシク州)はウクライナ国土面積の10%を占め、重要な採炭地域である。ロシアから炭鉱景気の出稼ぎ先を求めて大勢の貧しい小作農が集まり、1897年のロシア帝国の国勢調査によれば、地域人口の52.4%がウクライナ人であり、28.7%がロシア人だった。ドンパス地域はスターリン、ヒトラーにより第2次世界大戦前後に壊滅的被害を受け、戦後復興の為多数のロシア人労働者が流入した為、人口比率はさらに変動した。ロシア人居住者は1926年の63万9千人から、1959年にはほぼ4倍の255万人に伸びた。1989年ソ連国勢調査では、ドンバスの人口に占めるロシア人の比率を45%と報告している。一方2015年11月にRating Group Ukraineによって行われた調査ではドネツィク、ルハーンシク州(親ロシア派占拠地域を除く)の住民の75%が(ドンバス全体がウクライナに留まる)ことを望んでいる事が判明した。7%は(ロシアへの併合)を、1%は(ドンバスが独立国になる事)を、3%は(親ロシア派テロリストが出て行き、ドンバスはウクライナに留まる事)を選択している。
この様にドンパスの過激な親露独立派もロシアからの移民に過ぎないにも拘らず、彼等の意向だけを受けてドンパスはロシア同胞の地だと称してロシアに併合する動きは、ウクライナ全体は勿論多くのドンパス住民の意向を無視した暴挙であり、民主主義国家の対露批判を招く事に繋がった。例えば多数の移民を行け入れている米国で移民が一か所に集まって独立を叫び、出身国が軍事支援を行ったらどうなるか。7千万人近い世界に散らばった華僑が各国でチャイナタウンを独立国家として宣言したら、当然その国家は排除しようとするだろう。ウクライナが行っている事はこれと左程違わない様に見えるがどうだろう。
プーチン大統領はウクライナ侵攻を命じた時、ロシア帝国の栄光を取り戻すことを夢見ていた。 しかし思惑通りにことは運ばず、自身が尊敬する(スターリン)の恐怖政治を復活させることになった。3月には偽情報オンパレードのプーチン政権が偽情報を流した者は最長15年の禁固刑に処するとの法律を作り、多くの言論人を逮捕した為政府批判の声は全く聴かれなくなり頭脳の海外流出を加速させた。 過去に例のないほど嘘と暴力を多用し、パラノイア(偏執症)にとらわれている21世紀のスターリンに変身し、国際原則など平気で踏みにじり、民主主義が育たず人権意識が希薄な社会主義ソ連の姿を如実に再現したのである。
【ウクライナがEU加盟を望む理由】
イギリスのブレグジットが行われるような時代に、ウクライナの国民がEU加盟への希望を募らせ、ロシア政府傀儡の独裁者打倒に立ち上がり革命を行った事は世界を驚愕させた。人々を革命に駆り立てたのは、EUへの加盟が、ウクライナを(独立した)(自由で)(豊かな)民主国家へ導く道が開かれていると考えたからである。EUへの加盟条件は厳しいが課題をひとつ一つクリアーすることで洗練された近代国家に脱皮していくことが可能になる。EUに加盟することで、ウクライナはロシア世界の一部ではなく、欧州の独立主権国家という地位を確立し、同時にヨーロッパ並みの生活水準に近づくことが出来るという見本が近隣に存在したからである。
隣国ポーランドはベルリンの壁が崩壊した1989年に西欧側に鞍替えした。それに比べてウクライナはどうか。余りにも長くロシアに強く束縛されている状態が足を引っ張っている。
ポーランドの1人当たりGDPは1990年から3倍になったが、ウクライナの1人当たりGDPは1990年代に半減し、2020年現在でも30年前の水準より25%低い。
元共産主義国だった15カ国(*Ref)のうち、2013〜2019年間の1人当たり所得の伸びは、他の国々の平均が年間3%だったのに対し、ロシアはわずか0.5%と3番目に低い伸びを記録した。これよりひどかったのは、ベラルーシと、ウクライナである。
【Ref;(スラブ4か国)ロシア、ウクライナ、ベラルーシ モルドバ、(旧カザフカース3か国)グルジア(ジョージア)、アゼルバイジャン、アルメニア、(中央アジア5か国)カザフスタン、トルクメニスタン、    ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、(バルト3国)エストニア、ラトビア、リトアニア】
バルト3国は91年に旧ソ連から独立したが、人口が少なく(各国とも100~350万人程度)、経済規模も小さかったこともあって社会主義の計画経済から市場経済への移行に必要な各種構造改革がスムーズに行われ、財政も健全に維持され、EU加盟条件クリーアーに大きな混乱が無かった。只ユーロ圏諸国との経済格差はまだ大きく一人当たりGDPはユーロ圏平均の半分弱に止まっているが、こうした格差をビジネスチャンスと考え、他のEU加盟国などからの投資が増加している。例えば、エストニアへの対内直接投資はGDPの20%強に達する。国内の投資ブームとも相俟って、不動産価格は一昨年、昨年と大幅に上昇した。雇用の拡大による所得増加を主因に、個人消費も拡大している。又北欧諸国、ドイツとの密接な経済関係もあって、それら諸国への輸出が増加している。
この結果、これら3カ国は高い実質経済成長を続けて居り、01~05年の実質GDP成長率は年率8%弱を記録した。
比較的貧しかったポーランドの成長は目を見張るものがある。ポーランド経済は、2000年代以降、マイナス成長になった年が一度もなく、また、近年の成長率は、EU全体の成長率を上回り、個人消費、投資、輸出がいずれも好調に推移している。個人消費の好調さの背景には、FDI(外国からの直接投資)流入による雇用、所得環境の改善がある。投資の拡大を後押ししているのは、EU基金を利用したインフラ工事である。輸出の拡大は、ドイツ向けの自動車関連が牽引している。
好調な景気を背景に、2000年代には20%にも達していた失業率が2018年には3%台まで低下した。今や人手不足の深刻化が話題になるほどである。この低失業率が示すような雇用所得環境の好転は、個人消費拡大を支える要因になっている。
景気拡大を背景に、税収増加によって財政赤字が縮小しており、また、公的債務残高の対GDP比率もEUが定めるマーストリヒト基準(60%)よりも低く、財政状態は比較的健全である。
ポーランドは人手不足が深刻化しているが、労働需給ギャップを補っているのが、主に2百万人に昇るウクライナ人出稼ぎ労働者を中心とする外国人労働者である。

ウクライナ人は出稼ぎ等を通じ、いち早くロシアの頸木(くびき)から逃れた隣国が、(独立した)(自由で)(豊かな)民主国家を謳歌している状況を見てロシア・プーチンへの決別を決意したのである。

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あなおそロシア…4

2022年06月28日 | 国際政治
あなおそロシア…4
スターリン信奉者プーチンの登場(2)…プーチンの目指すもの

米国元駐ロ大使Ⅿ・マクフォールの分析を一部借りれば、「プーチンはソ連崩壊後の10年間、その崩壊に主導的役割を演じた人々の下で、忠実に働いて居り、1999年エリツィン大統領により大統領代行に任命された当時はソ連崩壊を受容していたと思われる。今はソビエトの崩壊に反対だったと主張しているが、当時は、欧米志向で市場原理に基づく考えを必ずしも拒否せず(EUへの加盟すら考えていた節がある)。そのプーチンが自らの考えを一変し、ロシアをより独裁的な手法で統治する必要性を感じたのは、下院選挙に於ける不正疑惑が発端で自身が率いる政権に対する大規模なデモが起き、自らの政治的基盤に危険を感じたことが大きな起爆剤となった。」
とりわけ民主主義やその支持者に対して病的なほどに疑い深くなり、遂にはスターリンの「独裁主義」を通り越し、ピョートル大帝の「専制主義」を渇望するに至る迄、変貌してしまったのである。その大きな契機となったのが2014年、ウクライナで大規模な市民の抗議活動でロシア寄りの政権が崩壊した「マイダン革命」であった。プーチンは、「アメリカの支援を受けたネオナチによる政権奪取だ」と陰謀論を展開、ウクライナ領・クリミア半島をロシアに併合し親露派武装勢力に命じてドンバス地方を戦争に巻き込むなど、クリミア危機・ウクライナ東部紛争へとエスカレートさせていったのである。
青少年期からスパイに憧れ自分を育てたKGB時代に培われた猜疑心の強いメンタリテイが、市民社会の意思決定には極めて懐疑的となり、背後に西欧諸国による世論操作が有ると陰謀論に陥りやすい性癖が頭をもたげ始めたのは間違いない。ロシアの民主化団体、リベラルなジャーナリズム、野党等の政権に対する批判勢力、彼等はロシアに在り乍ら、外国の為に働く裏切り者と言うのである。 こうした世界観に基づいて、スターリン時代の人権弾圧を調査・記録する団体「メモリアル」を解散に追い込み、反プーチン運動の指導者・野党党首のアレクセイ・ナヴァリヌィをKGBお決まりの手法、神経剤による毒殺で抹殺しようとしたが失敗した為逮捕に切り替え、メディアやインターネット空間に対する統制を強めてきた。  戦争が始まってからは、政権の意向に沿わない報道を続けるテレビ局やラジオ局を閉鎖し、TwitterやFacebookといった西側のSNSもブロックしている。情報管制、反政府運動への弾圧はソ連・スターリン暗黒時代、監視社会へ逆戻りさせたが、プーチンの本性が現れたと見るべきだろう。
ウクライナのマイダン革命は、ウクライナにとっては「脱ロ入欧」「民主主義=人間の尊厳」への道であったが、プーチンにとっては「民主主義の否定」と「大国主義」への契機となった。
かってプーチンは米・ブッシュ大統領に対し「ウクライナは神がロシアに与えた特別な土地だ」と述べたと伝えられて居リ、EUやNATOに加盟すれば永遠にロシアの手から離れてしまう恐れがある。ロシアとウクライナは同じスラブ民族であり文化的、歴史的に見ても「一つの国」であったし、大ロシア,中ロシア、白ロシア(ベラルーシ)3国によるスラブ統一国家を作りたいと言う帝国主義的野望が水泡に帰す恐れがある。
更にこの野望を実現する為にはウクライナに対する欧米の影響を排除して置く事が不可欠である。既にウクライナは民主主義国家であるが、民主主義はロシアの独裁主義体制に対する大きな脅威になる可能性が大きい。民意によって指導者、政権が代わり得る事になれば、プーチンの様な独裁者が神経剤や放射性物質を使ってが政敵を抹殺して来た事実が表面化し、自らの生命に関わる事態に至る事が目に見えている。ウクライナが武力でロシアに侵攻することなどあり得ないが、最大の脅威はプーチン体制を破壊しかねない民主主義がロシアに浸透して来る点にあり、これを阻止する為に武力を使ってウクライナの体制転換を図る必要があったのである。
もう一つはプーチンの大国思考である。プーチンにすれば東西冷戦構造を終結させたのはロシアの努力に依る処が大きい。其れにも拘らずEUやNATO加盟国はロシアを評価せず、大国として遇する事をしないばかりか、ロシアの意向を無視してソ連から独立した国を次々EU,NATOに取り込んでいるとの不満がある。
プーチンの耳に聞こえて来る「産業無き核大国」、「資源の呪いに覆われた国」「図体の大きい北朝鮮」と言う様なロシア評を払拭し、世界に大国として認めさせるには、ウクライナを取り込む必要が是非とも必要であると考えているのである。
ウクライナは鉄鉱石・チタン等の鉱物資源も豊富であり、とりわけ小麦の輸出余力は大きい。ロシアは輸出余力世界トップで両者合わせると、石油・天然ガス以上に世界(市場)を支配することが出来る途方もない戦略物資であり、核兵器と合わせて硬軟取り混ぜ世界を支配する強力な武器となると睨んでいる可能性が強い。
更にウクライナの科学技術力の高さである。欧州で数多くのウクライナの科学者が活躍し、ソ連の宇宙科学にも大きな貢献をして来たと言う経緯がある。とりわけIT分野では東欧のシリコンバレーと言われる程で公共サービスは略デジタル化され、スマホで完結する迄進んで居り、ロシアにとっても垂涎の的である。ウクライナ避難民の人達が老若問わず、スマホの画像を見ながら自由に連絡を取り合っているのは目を見張る光景である。
もう一つプーチンを悩ましているのがロシアの人口危機である。人口の減少は経済規模の縮小に直結し,益々「大国への道」から遠ざかる。ロシアの人口学者の試算では現在1億4千5百万人の人口は、2035年迄に1千2百万人減少する可能性がある。プーチンは2021年極東の小学校で1917年のロシア革命と91年のソ連崩壊が無ければ「我々の人口は今5億人だったはずだ」と嘆息交じりに話したと伝わっている。
クリミア半島の住民を計算に含め、更に「パスポーティゼーション」政策で親ロ派武装集団が実効支配する東部ドンパス地方の住民にロシアのパスポートを発給し「ロシア人」としてカウントするような事迄行っている。ジョージア侵攻で使ったのと同じ手法であるが人口減を食い止める為には見境が無い程追い詰められているようである。2020年年次教書演説で「ロシアの運命は我々の数に掛っている。」と訴え少子化対策に多額の予算を回したが、歯止めが効かず、人道回廊と称してウクライナ人を有無を言わせずロシアに避難・誘導し、子供の誘拐報道も後を断たない。ウクライナ政府発表によれば5月末時点で23万人の子供を含む130万人のウクライナ人がロシアに移住させられ、過疎地であるシベリヤや極東に定住するよう強制されていると伝えている。(ウクライナ側のプロパガンダの可能性もあり、割り引いて受け止める必要があるかもしれない。只、5月25日付で新たに占領したへルソン州などの人民にロシア・パスポート発給促進の大統領令に署名したのは事実である。)
ウクライナ人口の取り込み成否は別にして、ロシアにとって頭の痛い問題が山積している。
一つは政権批判分子に対する弾圧や、欧米の経済制裁逃れの為の若者及び頭脳流出である。ロシア当局の5月の発表によれば、1~3月ですら出国者は380万人、その勢いは増している。侵攻前から海外移住者が毎年4~50万人、特に18~24歳の若者の過半数が移住希望を持っていると調査結果が出ている。一方スラブ人の海外流失に反し、イスラム教徒の多い地区での出生率は2前後を維持し,尚且つ中央アジアからのイスラム教徒の移民が多い為、スラブ系の割合は現在の80%から2050年までに60%まで下がる可能性があると人口学者が指摘する。
ロシア政府高官はスラブ人によるロシア正教社会を維持する為にウクライナ、ベラルーシが是非とも必要であると述べている。ウクライナ侵攻は元々少ない20代の若者を犠牲にして居り、人口問題の行く末に暗雲ともなっている。


あなおそロシア…5
ロシアの今後…に続く
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あなおそロシア…3

2022年06月18日 | 国際政治
あなおそロシア…3
スターリン信奉者プーチンの登場(1)
ロシア人は非常にプライドが高く、インテリでさえ自分達は他の民族よりも優れて居り、ロシアは特別な国であると信じている節がある。この為帝政ロシア時代も、社会主義ソ連の時代も、そして凋落した今のロシアでさえ、大国である、或いは大国として存在したいという厄介な国・傍迷惑な国、それががロシアであり、誰よりも大国意識が強いのがプーチンなのである。ロシアはあたかもアメリカと対峙する「大国」のように振る舞っており、国際世論の非難の嵐を受けながらも、国際原則を平気で無視する行動をとり続けるのは、ロシアは大国だから誰に遠慮する必要も無い、名実共に大国であることを確固たるものにする為の必要不可欠な行為なのであると、強く信じ切っているからである。その信念は幼少期からの経験に基づく所が大きい。プーチンの青少年期1960~70年代のソ連は絶好調で、『ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行』を成功させ宇宙技術は世界トップ、73年と79年にはオイルショックによる原油価格の高騰により、ソ連経済は順調に成長を重ねていた。同時期アメリカはベトナム戦争にも完敗し、疲弊して活気を失っていたこともありロシア人の多くは「まもなく米国を追い越せる」と信じ切っていた時期でもある。

1922年に成立し1991年に崩壊したソ連は、アジアとヨーロッパにまたがる世界最大の多民族国家で、その面積2240万2200平方キロメートルは地球の全陸地面積の6分の1弱を占め、アメリカ合衆国の約2.4倍、日本の約60倍に相当した。100以上の民族が住み、人口は2億9010万(1991)で、中国、インドに次いで世界第3位であった。ロシア連邦になってからは領土は米国の2倍近く、日本の45倍もあるが、人口は1億4400万人強で、日本より2000万人ほど多いに過ぎず、それも年々減少傾向にある。主な産業は、広大な国土から産出される豊かな資源で、原油の生産は世界3位、天然ガスの輸出量は世界一、穀物大国で小麦、大麦、トウモロコシの輸出は世界有数である。宇宙開発においてはトップ級の技術を持ち、日本人宇宙飛行士の多くを国際宇宙ステーション(ISS)に運んだのはロシアのロケットである。ただし、核兵器や宇宙産業のような国策産業以外の技術力では日本や他の先進国より大きく劣って居り、其の為、経済規模を表す国内総生産(GDP)は170兆円ほどで、米国の10分の1以下、日本の3分の1以下、G7(主要7カ国)各国だけでなく韓国をも下回る11位に過ぎない。兵力でも、ソ連崩壊時140万人だったロシア陸軍は28万人(陸上自衛隊の2倍)に減り、別組織の空挺(くうてい)軍と海軍歩兵を加えて地上戦兵力は36万人で、装備も旧式の時代遅れのものが多いと言われている。 そんなロシアが、世界トップとして誇っているのが殺人兵器・核兵器の数である。核弾頭保有数は米国を上回り、プーチンは核兵器の使用を脅迫の道具に使うなど、ロシアにとっては核兵器が「力の源泉」と言えるだろう。この様に見てくると今やロシアが世界に誇れるのは、領土、核兵器、化石燃料、穀物、宇宙開発技術程度で、経済体制、産業構造、技術開発力などの経済力を決定づける基本的な要因から見て『大国』と言える材料は極めて乏しいと言わざるを得ない。
プーチンはロシアがこのような状態に陥ったのは1991年のソ連崩壊に有ると見ており、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」、「歴史的過ち」であると広言し、ソ連邦の復元、ロシア帝国の栄光を取り戻すことが名実ともに『大国』へ復帰する為に不可欠であり、今回のウクライナ侵攻も『失地回復』であると戦争を正当化しているのである。
この様な背景もあって、プーチンが世界で最も尊敬する人物はロシアの近代化と大国化を推進した「ピヨートル1世(大帝)」であると広言している。(大国化はエカテリーナ2世にも引き継がれ、プーチンはこの女帝も褒め称えて居る)
17世紀はじめ(1613年)に成立したロシア・ロマノフ朝は、スウェーデン王国、ポーランド王国に圧迫され、東ヨーロッパでは弱小勢力にすぎなかった。国内では農奴制の上に有力貴族が存在し、産業も未熟で、近代的な軍隊の創設が急がれていた。ロマノフ朝の君主は自国の後進性に気づき、制度・産業の西欧化を進める必要性を痛感し、特にピョートル1世(大帝)は西ヨーロッパ諸国に習った国家の創出をめざし、自ら大視察団の一員に加わって、産業・軍事・税制・官僚制などで特にプロイセンを手本とした改革が行われた。日本・明治維新の岩倉欧米視察団もプロイセンの官僚制を手本として改革を行って居り、服装も和服を改め、ちょん髷を断髪にするなど洋風化を進めたが、ピョートルも外遊から帰国すると、その服装も西欧風に改めた。其の上挨拶にきた貴族を捕まえては、そばに控えた召使に羊毛用のハサミを持たせ、あごひげをちょん切ってしまった。ロシアの貴族は昔からあごひげを蓄える習慣があったが、ピョートルは「新しいロシア」にはそぐわないと、貴族たちのあごひげを切ってしまったのである。
ピヨートルの大国化は目覚しいものがあった。南下政策ではオスマン帝国が支配する黒海沿岸に進出し黒海に繋がるアゾフ海に面したアゾフを奪取して一帯を支配する拠点を構築した。北方政策ではバルト海の覇権をめぐってスウェーデンとの20年の長期に亙る北方戦争を戦い、緒戦に敗れたが、それを機に軍備を整え、バルト海沿岸に面して新都のペテルブルクを建設して長期戦に備え1709年に勝利し1721年講和約を締結してバルト海の制海権を得た。1712年にはサンプト・ペテルブルクを建設して遷都し、西欧への窓口とした。これによって、バルトの覇者としての地歩を確保した。軍備では特に海軍の育成に努め、バルト海沿岸に要塞・基地を建設、これを拠点とするバルチック艦隊を創設した。
日露戦争の際東郷(平八郎)が打ち破ったロシア艦隊は、はるばるこの基地から派遣され、途中物資補給の為の寄港をフランス、英国等が拒否した為、強力艦隊が疲弊し敗戦に繋がったと言われている。
東方進出に付いては、シベリア進出を推し進め、1689年清国の康煕帝との間で国境を画定する条約を締結した。また1697~99年、コサックの隊長にカムチャツカ探検を命じ、日本との通商路を探っている。
プーチンが崇拝するエカテリーナ2世も領土拡大に大きな力を発揮した。オスマン帝国との2度にわたる露土戦争(1768年-1774年、1787年-1791年)に勝利してウクライナの大部分やクリミア・ハン国を併合しバルカン半島進出の基礎(ヤッシーの講和)を築くこととなった。
6月9日、ピョートル大帝の生誕350年記念イベントに出席したプーチンは若手起業家たちとの会合で、こう述べた。  「ピョートル大帝が、新しい首都サンクトペテルブルクを建設した時、ヨーロッパのどの国もロシアの領土と認めなかった。誰もがスウェーデンだと認識していた。しかし、スラブ系の人々がずっと住んでいて、その領土はロシアの支配下にあった。ピョートル大帝は何をしたのか。スエーデンを打ち破り領土を取り返し、国を強化したのだ。それが、彼の行ったことだ。そして、我々も領土を取り返し、国を強化する番だ」。ピョートル大帝は領土を奪ったのではなく「取り戻した」のだと主張し、「自分自身を守るために、戦わなければならないのは明らかだ。350年前とほとんど何も変わっていない」とピョートル大帝と自らを重ね合わせ、ウクライナ侵攻を暗に正当化したのである。プーチンの行動原理は此処に全て集約されて居り、周辺諸国がロシアを恐れる理由もここにある。


スターリン信奉者プーチンの登場(2)…プーチンの目指すもの
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あな!おそロシア

2022年05月22日 | 国際政治
あな!おそロシア

プーチン大統領が国連の本部ビル最上階で、バイデン大統領と会談した際、コーヒーブレイクの余興としてそれぞれの側近の忠誠心を試してみようと言うことになった。
初めにバイデンが自身の側近の1人に言った。「おい、そこの窓から飛び降りろ」、すると部下は泣きながら「勘弁してください。私には妻も子供もいるのです」。バイデンは笑って答えた。「冗談だよ。すまなかったな」。続いてプーチンが自身の側近の1人に言った。「おい、そこの窓から飛び降りろ」。 するとその側近は、泣きながら窓に向かって近づいていった。バイデンが驚いて彼を止めて言った。「本気にする奴がいるか! こんな所から飛び降りたら死ぬぞ」。 それを聞いた彼は叫んだ。「止めないでください!」彼は続けた。「私には妻も子供もいるのです!」。あな恐ろしあ!!!、これこそプーチン、ロシアの本質を見事に表すジョークである。
意外な事にロシアは「アネクドート」と言う政治風刺のジョーク大国である。暗く永いソ連時代、共産党による弾圧が激しく、自由を奪われた民衆は陰に隠れて指導者批判、恐怖政治批判を標的にしたジョークで溜飲を下げストレス解消を図ったのである。従ってイングリッシュ・ジョーク等に比べて、内容が暗く、笑い飛ばすと言う様な雰囲気に乏しく、どちらかと言えば顔を引きつらせて笑う、「ブラックジョーク」に近い。
ソ連がロシアに替わったこともあって、我々が抱いていたロシアに対するイメージは精々「寒い、広大、暗い、=不気味」程度であったが、ウクライナ侵攻によってロシアに対する印象ががらりと変わってしまった。周りの人の印象を総括すると上記に加えて「独裁、唯我独尊、残忍、スパイ、秘密警察(KGB)、嘘つき、脅迫、不正(ドーピング)、領土拡大、孤立・孤独、愚か、恥知らず、ハッカー大国」数え上げたらきりが無い。ロシア人程外国人に向って「ロシアをどう思っているか?」を聞く人はいないと、よく耳にするところだが、プーチンの浅慮によってロシアは大国としての名声と評判を一挙に喪失してしまった。失ったものは余りにも大きい。かって強国でありながら後に衰退し最終的に復活した国は存在しない。この法則を打破して呉れる人物こそ「プーチン」だと一部の情報リテラシーの乏しいロシア国民は思い描いたが、この夢想は霧散してしまった。自由・民主主義・平和主義等、ヨーロッパの価値観を拒否し、文化的にも地政学的にも、ヨーロッパ・アジアの何れの信頼も失い、双方から受け入れられず、多くを敵に廻してしまって、ロシアは確実に衰退に向かうことになるだろう。

ロシアのウクライナ侵攻…へと続く
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