ジュウロウの方は
チビっと舐めるように飲んだ後、
「なんかぞっとするような旨味があるなあ」
と言い、
コワコワクエーは、
グイと一気に飲み干すと、
「うーん、
これはヒヤッとする味だけど、
まろやかで飲んだことのない酒だな」
とそれぞれ感想を言いました。
「お二人の先生はさすがだ。
ぞっとに、
ヒヤッとか、
そう言ってくれたのは、
お二人だけですよ。
私の酒作りの方向に間違いはなかったですよ。
ありがとうございます。
今日は、
すべて私の奢りですから、
他にも好きなだけ飲んでください」
マスターは嬉しそうに、
似たようだが、
微妙に違う酒を少しづつ二人にふるまったのでした。
「これは深い。
なんというか、
人生をまっとうしたような味だ」
「そうです。 これは終い酒」
「これはなんか悲しい酒だなあ」
「そうなんです。
こっちは悲恋酒」
結局、
その日は3人だけで盛り上がったのでした。
「今日は本当に楽しく酒が飲めた。
で、いくらだい」
コワコワクエーはマスターに値段を訊いたのでした。
「だから、お代はいらないって」
マスターはかたくなに拒否したのでした。
「プロは金もらわなきゃな」
と
コワコワクエーが言うと、
「でも、
そちらの先生はタダであんなに怖い小説を公開したんですから」
と
マスターは、
実は、
ジュウロウが
偽名でネットに一度だけ投稿した作品
を読んだことがあることを告白したのでした。
「偽名なのに、
よくわかってくれたなあ。
ありがとうよ!
マスター。
コワコワクエー先生よー。
ここは一緒にごちそうになろう。
うん。
そうか!
そうだ!
わからん奴だけから金を取る。
そういうプロがいてもいいじゃないかあ」
と、
ジュウロウは、
そのとき何かを決断したように、
あたかも、
自分に言いきかせるような感じで、
真っ赤な顔で、
そう大声を張り上げたのでした。
(続く)