その日は最高気温が18度まで上がった。とても3月とは思えない暑さだ。
私は日傘を差して、西新宿のビル街を歩いていた。昼すぎの日差しは強い。
目指すはカジュアルなイタリアンレストラン。今日は久々に、大学時代の友人たちに会うことになっている。店の入り口が見えてきた。ウインドウの前には、人待ち顔で立っている男が一人。
「おーい、大熊くーん! ひっさしぶりぃ~」
「あっ、砂希ちゃん。ご無沙汰」
やはり、今回の企画を立ててくれた大熊であった。サークルの同期は10人以上いる。とりあえず、連絡先のわかる8人に声をかけてくれたのだが、仕事があるだの返事がこないだので、4人で小ぢんまりと集まることになった。まずは幹事をねぎらう。
「お店の予約、ありがとね」
「いやいや」
大熊はまめな男で、8年前にも同窓会を開いてくれた。待っている間、その話を振ってみる。
「んー、俺は途中でサークルやめたから、本当はそういう立場じゃないんだけどね」
「えっ、そうだっけ? 全然おぼえてないよ」
大熊の告白は衝撃的だった。卒業して27年も経つと、自分のこと以外は忘れるものらしい。
「おーい」
声のする方を振り返る。今度は、四宮が手を振りながら登場した。四宮とも、8年前の同窓会で会っている。そのあとも、別件で顔を合わせているから、全然久しぶりという気がしない。相変わらず背が高い。
「お待たせ~」
最後に、美怜がやってきた。今回、集まるきっかけを作ったのは彼女である。岡山に住んでいることは知っていたが、息子くんが東京の大学に通うことになり、引っ越しを手伝うために上京してきた。大熊がそれを見逃すはずはなく、「美怜ちゃんが来るから集まろう」となったのだ。
「卒業以来だね」
「うんうん」
27年経っても、見た目は変わっていなかった。ごく自然な様子で歳をとっている。
美怜が言葉を続けた。
「アタシは途中でサークルやめてるから、悪いかなって気もしたんだけど」
「えっ、そうだったっけ?」
打ち合わせたわけでもないのに、3人揃って同じリアクションをする。やはり、人のことは忘れるものなのだ。いや、もしかして、自分のことも忘れているかもしれない。
心配になり、四宮に聞いてみた。
「ねえ、アタシも途中でやめてる?」
「ううん。最後までいたと思う」
「よかった」
逆にいえば、途中でやめてもやめていなくても、分け隔てなくつき合える間柄なのはすごい。一緒にいる時間が長かったせいか、私たちの結びつきは強いようだ。
「じゃあ、中に入ろう」
飲み放題と料理を注文し、しばし歓談する。仕事、家族、先輩、後輩、子ども、来られなかった仲間の近況報告などなど、話のネタはつきない。
「最初は林も来るはずだったんだよ。でも仕事が入ったからダメだって」
「林くんは、ひとり社長だって言ってたけど」
「そう。全国各地に飛んでいって、イベントで商品売ってるよ」
「自由人だなぁ」
「あいつは自由だよ」
そこで、隣に座っていた大熊が、ニヤリと笑って話しかけてきた。
「砂希ちゃんだって、気に入らないことがあれば、好き勝手言って自由でしょ」
「え?」
そこで思い出した。20代の私は、文句たれでケンカばかりしていた。カチンときたら、ガーッと噛みつき、あとさき考えずに言いたい放題。心をえぐるような暴言も、平気で口にした。見かねた先輩から、「怒りたくなったら、まず深呼吸しなさい」とたしなめられたこともある。
「あの頃は、力で押し切るやり方しか知らなかったんだよね。痛い眼も見たし、言われる方の気持ちもわかったから、今は大人になったよ」
「本当に? 信じられないな」
強行突破するより、協力しながら進んだ方が、よい結果が得られる。そのことに気づいてからは、言葉に気をつけるようになったし、腹も立たなくなった。怒りの感情は、気質からではなく、習慣から生まれるものらしい。今では、怒り方を忘れてしまったくらいだ。
「俺はね、怒りたくなることがあっても、笑いに変えちゃえばいいと思う。怒りと笑いは、結構近いところにあるから」
大熊は、哲学を好むだけあって、実にいいことを言う。私も、信じられないことが起きたときは、ブログに書いてネタにする。そうすれば、「なぜ私がこんな目にあうのか」などと、マイナス思考に陥らずにすむのだ。この点は一致した。
美怜は、息子くんの一人暮らしを心配しつつも、成長の機会ととらえている。中には、「淋しくなるから遠くに行かないでほしい」と子どもを手放さない親もいるけれど、美怜は強い。頼もしい。
四宮は転勤で単身赴任中。家事も仕事も背負って忙しそうだが、決して弱音を吐かないし、いつも前向きに生きている。ちゃっかり趣味の時間も確保する要領のよさは、私も見習いたい。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「本当に楽しかった。ありがとう」
「また集まろう。連絡する」
「元気でね」
また会えるという前提なら、さらりとお別れできる。仲間に挨拶し、私は都庁前駅に向かった。
27年は長い。私も仲間も、みんな成長した。
でも、昔の自分も嫌いじゃないな。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
私は日傘を差して、西新宿のビル街を歩いていた。昼すぎの日差しは強い。
目指すはカジュアルなイタリアンレストラン。今日は久々に、大学時代の友人たちに会うことになっている。店の入り口が見えてきた。ウインドウの前には、人待ち顔で立っている男が一人。
「おーい、大熊くーん! ひっさしぶりぃ~」
「あっ、砂希ちゃん。ご無沙汰」
やはり、今回の企画を立ててくれた大熊であった。サークルの同期は10人以上いる。とりあえず、連絡先のわかる8人に声をかけてくれたのだが、仕事があるだの返事がこないだので、4人で小ぢんまりと集まることになった。まずは幹事をねぎらう。
「お店の予約、ありがとね」
「いやいや」
大熊はまめな男で、8年前にも同窓会を開いてくれた。待っている間、その話を振ってみる。
「んー、俺は途中でサークルやめたから、本当はそういう立場じゃないんだけどね」
「えっ、そうだっけ? 全然おぼえてないよ」
大熊の告白は衝撃的だった。卒業して27年も経つと、自分のこと以外は忘れるものらしい。
「おーい」
声のする方を振り返る。今度は、四宮が手を振りながら登場した。四宮とも、8年前の同窓会で会っている。そのあとも、別件で顔を合わせているから、全然久しぶりという気がしない。相変わらず背が高い。
「お待たせ~」
最後に、美怜がやってきた。今回、集まるきっかけを作ったのは彼女である。岡山に住んでいることは知っていたが、息子くんが東京の大学に通うことになり、引っ越しを手伝うために上京してきた。大熊がそれを見逃すはずはなく、「美怜ちゃんが来るから集まろう」となったのだ。
「卒業以来だね」
「うんうん」
27年経っても、見た目は変わっていなかった。ごく自然な様子で歳をとっている。
美怜が言葉を続けた。
「アタシは途中でサークルやめてるから、悪いかなって気もしたんだけど」
「えっ、そうだったっけ?」
打ち合わせたわけでもないのに、3人揃って同じリアクションをする。やはり、人のことは忘れるものなのだ。いや、もしかして、自分のことも忘れているかもしれない。
心配になり、四宮に聞いてみた。
「ねえ、アタシも途中でやめてる?」
「ううん。最後までいたと思う」
「よかった」
逆にいえば、途中でやめてもやめていなくても、分け隔てなくつき合える間柄なのはすごい。一緒にいる時間が長かったせいか、私たちの結びつきは強いようだ。
「じゃあ、中に入ろう」
飲み放題と料理を注文し、しばし歓談する。仕事、家族、先輩、後輩、子ども、来られなかった仲間の近況報告などなど、話のネタはつきない。
「最初は林も来るはずだったんだよ。でも仕事が入ったからダメだって」
「林くんは、ひとり社長だって言ってたけど」
「そう。全国各地に飛んでいって、イベントで商品売ってるよ」
「自由人だなぁ」
「あいつは自由だよ」
そこで、隣に座っていた大熊が、ニヤリと笑って話しかけてきた。
「砂希ちゃんだって、気に入らないことがあれば、好き勝手言って自由でしょ」
「え?」
そこで思い出した。20代の私は、文句たれでケンカばかりしていた。カチンときたら、ガーッと噛みつき、あとさき考えずに言いたい放題。心をえぐるような暴言も、平気で口にした。見かねた先輩から、「怒りたくなったら、まず深呼吸しなさい」とたしなめられたこともある。
「あの頃は、力で押し切るやり方しか知らなかったんだよね。痛い眼も見たし、言われる方の気持ちもわかったから、今は大人になったよ」
「本当に? 信じられないな」
強行突破するより、協力しながら進んだ方が、よい結果が得られる。そのことに気づいてからは、言葉に気をつけるようになったし、腹も立たなくなった。怒りの感情は、気質からではなく、習慣から生まれるものらしい。今では、怒り方を忘れてしまったくらいだ。
「俺はね、怒りたくなることがあっても、笑いに変えちゃえばいいと思う。怒りと笑いは、結構近いところにあるから」
大熊は、哲学を好むだけあって、実にいいことを言う。私も、信じられないことが起きたときは、ブログに書いてネタにする。そうすれば、「なぜ私がこんな目にあうのか」などと、マイナス思考に陥らずにすむのだ。この点は一致した。
美怜は、息子くんの一人暮らしを心配しつつも、成長の機会ととらえている。中には、「淋しくなるから遠くに行かないでほしい」と子どもを手放さない親もいるけれど、美怜は強い。頼もしい。
四宮は転勤で単身赴任中。家事も仕事も背負って忙しそうだが、決して弱音を吐かないし、いつも前向きに生きている。ちゃっかり趣味の時間も確保する要領のよさは、私も見習いたい。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「本当に楽しかった。ありがとう」
「また集まろう。連絡する」
「元気でね」
また会えるという前提なら、さらりとお別れできる。仲間に挨拶し、私は都庁前駅に向かった。
27年は長い。私も仲間も、みんな成長した。
でも、昔の自分も嫌いじゃないな。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
子供が大学生になるっていうんだからホントに久しぶりですね。
それでも会う機会を作って会って、話が交わされるっていうんだから凄い!
僕も最近、仕事以外の関わりを持ちたいってスゴく思います。2年前に大学時代の集まりに参加した時も新鮮な気持ちで会話出来たりして楽しかった記憶があります。
この写真の都庁も、今回のメンバーがかつて別れた時には無かった建造物ですよね。
きっと大学も、その周辺も変わってると思いますよ。次回は大学近くに集まってみてはいかがですか?
SNSでつながっているからこそできた芸当です。
ネットの仲間は簡単につながったり、切れたりするけれど、リアルな仲間は結びつきが強いんですね。
そういうメンツに恵まれて幸せだと思いました。
仕事の関わりは、職場が変わったら切れるものですが、前の同僚とは今でもつながっています。
同年代のレディース(笑)だからかも。
西日を受けた都庁が輝いていました。
大学にも行ってみようかな……。
4年に一度とはかなりの頻度ですね!
すごい、すご過ぎる。
47年経っているなら、今までに11回は開かれたということでしょうか。
幹事さんがマメだからこそできるのだと思います。
でも兵庫かぁ……。
幹事さんに根回しして、初恋のご相手がいらっしゃる情報をゲットしなきゃですね。
奥様がいらっしゃるので、未練という言葉は使わないでおきましょう。
最大のメリットかもしれませんね。
FBでも、中学の同窓生グループで盛り上がっている友人たちがいます。
年を経て立場も変わって?
それでも通じ合える仲間がいるのは幸せです。
やっぱり、OFはONに勝る。
そうですね、SNSの力は偉大です。
使い方を間違えないようにしたいです。
さすがに中学の同窓会はないなぁ~。
小学校はなおさら。
薄情な世代なんでしょうか。
ちなみに、姉は小学校の同窓会で再会した男性と結婚しました。
赤い糸もあるのかも。
卒業式かしら。
自分も着たなあと懐かしくなりました。
昔の友達って何年ぶりに会っても時空を越えて話せますね。まめな人かいるとありがたいですね。
それにしても、いつの間にか、遠い遠い昔になりました
久々の再会はどうでしたか、話していると学生の頃に戻るんでしょうね…
砂希さんの若いころはジャックナイフだったようで…(*^^*)ポッ
やはり職場環境によってマイルドになるのでしょうか、まして公務員ということであれば分かります。
林くん、自由に生きるのも楽しいでしょうけど、寄りかかる人がいない辛さもあろうかと。
まして孤高を貫くのはもっと大変です(_ _;)…パタリ
町内の会計監査が終わってひとまずホッとしているところです~♪
それだけ年月が経つとみんな変わるんですね。色々な意味で成長したでしょう。丸くなる人もいたでしょうね。
そうそう、時空を超えます(笑)
サークル以外にも、学部の友人でマメな女子がいました。
何年かぶりに集まろうと誘われたのですが、その日はすでに予定ありで残念なことに。
でも、きっとまた企画してくれると思います。
私が企画する手もありますね。
おばあさんになったら、それこそ「昔、昔のその昔」になっちゃいますね(笑)