これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

2014 最後の事件

2014年12月28日 20時51分25秒 | エッセイ
 仕事納めを迎え、あとは自宅の大掃除を残すのみとなった。
「ええっと、明日はプリクラ撮りに行って、帰ったら、ガス台と換気扇の掃除だな」
 手帳に書いた年末年始の予定を確認し、目覚ましのアラームを6時に設定してから布団に入る。
 ところが、寝入ったところに、高3の娘が来た。
「お母さん、歯が痛くて眠れないよ」
「んが?」
「イブ飲んだのに効かない。横になると我慢できないから、起きてないと」
「んぐ~」
「ダメだ、こりゃ」
 腹立ちまぎれに、ドアを閉めた音が聞こえた。
 そこまではおぼえているが、目覚めたときはすべてが夢だったような気がした。
 家の中がやけに静かだ。寝ない宣言をした娘も、途中で寝たのだろう。そっと、子ども部屋のドアを開けて様子をうかがうと、布団の中から猫のような二つの目が、こちらをにらんでいた。
「……寝なかったの?」
「寝られなかったの! 歯が痛い~!!」
 今日は日曜日だ。どの歯医者も閉まっている。
「じゃあさ、休日急患診療所を検索してごらん。何時から開いているかな」
「えーと……」
 娘はスマホにキーワードを入力し、調べ始めた。
「10時からだって。電話してから来てくださいって書いてあるよ」
「じゃあ、そうしよう」
 簡単な食事をすませ、身支度して診療所に向かう。10時きっかりに電話したのに、診療所は70~80人の患者であふれていた。幼児の泣き声が響き、大人も子どももぐったりと座り込んでいる。一体、何時間待つことかとビビったが、ほとんどが内科と小児科の患者だったようだ。歯科受付には2人しかおらず、空いていてラッキーだった。
「虫歯かな? 寝られないくらい痛いって言ってみる」
「でもさ、先週、矯正を替えたんでしょ。虫歯があれば、先生が気づくよ」
 歯列矯正中の娘は、定期的に歯科大の医師に診てもらっているので、虫歯ではないと思うのだが。
「だって痛いんだよ。先生が気づかなかったとしたら、医療ミスだね」
「…………」
 高校生が、医療ミスを心配する世の中になったのかと、時代の移り変わりを感じた。
「まだ時間がかかるよ。本でも読んで待っていよう」
 私が取り出したのは、『仕事帰りの寄り道美術館』という本である。



「東京駅構内にも美術館があるって。東京ステーションギャラリーって書いてあるよ」
「……ふーん」
 イライラがピークに達した娘も、興味を惹かれたのか、ページを覗きこんでいる。
「ほら、ドームの内側が写ってる」
「キレイだね」
 アートの力は偉大だ。それまで、キイキイ騒いでいたのに、娘は落ち着きを取り戻した。
「次は、三菱一号館美術館。行ったことあるでしょ」
「何見たっけ」
「クラークコレクションだよ」
「ああ、クラコレ。帰りにオムライス食べたね。美味しかった」
「ブリヂストン美術館も出てるよ」
「ここは、カイユボット展だったよね」
「そうそう」
「Bunkamuraだ」
「ここは1階で食事したね」
「でも、渋谷は人が多くて嫌い」
 そんなやり取りをしているうちに、美術館に行った気分になってくる。心にゆとりが出てくるから不思議だ。
「東京国立博物館も載ってるよ」
「ああ、白菜のところ?」
「そうそう」
「あっ、睡蓮の美術館だ!」
 娘はモネの睡蓮シリーズが好きなので、国立西洋美術館のページを熱心に見ていた。
「睡蓮タオル 大 6480円だって。欲しい?」
「あはは、いらないよ~」
 そうこうしているうちに、順番が来て、診察室に呼ばれる。歯を削る「ウィーン」という音は聞こえない。まもなくドアが開き、娘が戻ってきた。
「早かったじゃない」
「虫歯じゃないって。矯正で特定の歯に負荷がかかって、そこが痛くなったって言われた。痛み止め出してくれるけど、治らなかったら矯正を取りなさいってさ」
「ふーん」
「矯正に無理があったんじゃない? やっぱり医療ミスだよ、キイイ~」
「…………」
 ひとまず、原因がわかって安心だ。歯科医は、担当医へ「〇月〇日こういう治療をしました」という連絡票まで書いてくれたから、丁寧でよかった。
「グー」
 痛み止めを飲み、娘は死んだように眠っている。
 去りゆく2014年に思いを馳せる。映画館にも美術館にも、ほとんど行かれないほど忙しい年だった。
 でも、時間がないことを理由に、家と職場の往復だけでは味気ない。2015年は、月に一度くらい、アートな時間を楽しみたいものだ。
 まずは、東京国立博物館の「博物館で初もうで」に行ってみたい。



 ご一緒にいかが?

 本年もご愛読くださり、ありがとうございました。
 次回は1/1に初更新します。
 来年も、よろしくお願いいたします。


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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)

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10 コメント

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私も以前、深夜に歯痛にあい苦労したことがありましたよ! (鹿島田の純)
2014-12-28 21:35:46
お疲れ様でした!原因がわかって良かったですね~!
私の場合は親不知で余りの痛さにバッファリンを1粒飲みましたが全然おさまらずm冷たい水を口に含んでる間だけ痛みが無いのですが段々体温でぬるくなるとまたまた痛みが・・・。
更にバッファリンを1粒、更に1粒、更に1粒!結局全部で8錠飲みましたが痛みが引かなかったんですが段々頭がボ~っとしだして立ち上がれずそのままいつの間にか寝てしまい、24時間後に目が覚めたら痛みが全くなくなってました!疲労がピークになると歯痛が始まるらしく後日親不知は抜いてもらいました!その後は歯痛は全くなくなりましたが本当に歯痛はイライラしますね。(笑)本当に治ってよかったよかった。
来年も宜しくお願いします!
良いお年を~!
返信する
Unknown (YUMI)
2014-12-29 07:53:47
大変でしたね。
矯正でもそんなに痛くなるんだ。
しかし、病院のその混み方、お正月休みのあいだ、具合悪くなりたくないですね。
東博の博物館に初詣、行ってみたいですよね。
毎年、いいものが見れるからね…

よいお年を。
返信する
バファリン (砂希)
2014-12-29 08:58:10
>鹿島田の純さん

すごい、8錠も飲んだんですか?
飲み過ぎでしょうね(笑)
でも、目が覚めて痛みがなくなっていたならよかったです。
24時間爆睡というのも驚きました。
痛みと戦うとき、相当体力を消耗するようですね。
うちの娘は16時間寝ましたよ。
そんなに寝られるものなのかと、新たな発見をしました。
今年もお世話になりありがとうございました。
よいお年を。
返信する
大混雑 (砂希)
2014-12-29 09:03:21
>YUMIさん

いやあ、メチャ混みで驚きました。
座席には収まりきれず、階段や通路に、うつろな目をした患者が座り込んでいるんです。
きっと、2時間くらい待つのではないでしょうか。
鎮痛剤をもらうとき、受付の女性に言われました。
「インフルエンザがうつるといけないから、ここではなく、近くのドラッグストアに処方箋を出したほうがいいですよ」と。
年末年始は病気になりたくないですね。
東博のイベントは今年で12回目だそうです。
和太鼓や獅子舞なども登場するようで楽しそうです。
YUMIさんも、よいお年を。
今年もお世話になりました。
返信する
治療難民 (片割れ月)
2014-12-29 10:37:38
年末の急な歯痛は大変でしたね。
今日は病院まだやっていそうですが、巷は9連休ですから病院も急患窓口から行かないと診てもらえないのかな。御大事になさってください。

そういえば去年はルノワールとか美術館ネタが多かったけど今年は少なかったような…
女房とは一緒に出歩かないので、おっさんが一人で美術館に行く機会はないです。
東京博物館へ一緒に初詣に行きたいけど遠くて(_ _;)…パタリ

今年も砂希さんのブログには楽しませて頂きました。
こちらは拙いブログですが来年もよろしくお願いします~(*^^*)ポッ
返信する
難民(笑) (砂希)
2014-12-29 10:46:33
>片割れ月さん

総合病院だったら急患で行かれそうですが、受診科の医師がいるとは限りませんし。
急患診療所は便利だけど、基本的に応急処置みたいです。
今日は歯が痛くないらしく、朝からだらけてスマホいじっています。
今年は本当にお出かけネタが少なかった…。
出費は抑えらえましたが(笑)
おじさんが単独で美術館にいる図も見受けられます。
結構いいと思うけどなぁ…。
こちらこそ、お世話になりました。
来年も、また笑わせてくださいね。
ありがとうございました。
返信する
断捨離&大掃除で年越し (Hikari)
2014-12-31 16:38:32
歯痛は待っていても治りませんものね。
それに、お書きの通り、イライラするんですよ。
いや~、治療に時間がかかる虫歯でなくてよかったですね。
丁寧な急患診療所だったようです。
私がかかったときは、インフルというのに十把一絡げで、こっちが影響を心配しました。

砂希さんの影響で、今年は私の割には博物館にまめに足を運びました。
白菜の時も2度、国宝も2度東博へ。
bunkamuraはだまし絵を逃して、印象派を見に行きました。
どれも楽しかったなぁ。
残念なのは、見物記事を書く時間がなかったことです。
ステキな波動を発信してくださり、ありがとうございます。

今年も、うれしいつながりをありがとうございました。
あと数時間で新年。
よき年をお迎えくださいね!
返信する
チェック (砂希)
2014-12-31 20:04:00
>Hikariさん

丁寧な医師でラッキーでした。
一人あたり20分くらいかけて、じっくり治療していました。
思わず、お名前をチェックしましたよ。
開業医であれば、もしものときにはお世話になれますもの。
今年はずいぶん展示を見に行かれたようですね。
こちらは週末ごとに持ち帰り仕事を消化するのが精いっぱいで、外出どころではありませんでした。
でも、言い訳ですね。
時間は捻出するものです。
来年は絶対楽しむぞ~(笑)
私の影響があったとは驚きです。
少しはどなたかのお役に立てれば嬉しいですね。
今年もブログで楽しませていただき、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
返信する
それは辛かったでしょうね (白玉)
2015-01-01 15:57:08
目も歯も悪い私、他人事じゃないです。
寝られないほどの痛みを掬ってくれたドクター、名医ですね。
美術館とランチがセットになっていると、憶えやすくていいですね。
読ませてもらう方も、両方楽しめますし。
1年間お付き合い、ありがとうございました。
返信する
セット (砂希)
2015-01-02 01:16:49
>白玉さん

本当に痛くて痛くてツラかったようです。
今でも、鎮痛剤は手放せません。
冷たいものや熱いものを口にすると、急にズキーンとなるんだとか。
お医者様様ですね。
ヤブ医者だったら、こうはいきません。
ランチつき美術館があれば最高なんですが(笑)
少なくとも、私は行きますよ。
こちらこそ、1年間楽しませていただき、ありがとうございました。
今年もよろしくお願いいたします。
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