文化祭シーズンである。
昨年度、私の勤務校では中止となってしまったが、今年度は、換気の悪いお化け屋敷や、飛沫が心配される演劇、マスクを外す食堂・喫茶などを避け、感染対策をしながら実施することとなった。残念ながら、外部の方や保護者は招待できない。
感染リスクの低い出し物といえば、自分たちで撮影した動画を上映したり、調べもの学習の成果を貼り出したり、スライムやアクセサリー作りなどのワークショップがある。どのクラスも大道具や小道具を工夫し、華やかな装飾を施して、ものづくりの過程を楽しんでいた。
「あら~、いいじゃない。校内一周してみようっと」
普段は地味で無機質な廊下や教室が、何種類もの明るい色で彩られ、めかしこんでいる。生徒たちも制服ではなく、緑、青、黄のクラスTシャツを着込んで、弾むように動き回っていた。
1階だけ人がいない。赤を基調にしたポスターのある部屋は照明がついていた。ダルマの絵が描かれており、遠目にもかなり目立つ。何をやっているのかしらと中をのぞいたとき、係の男子生徒と目が合った。
「あ、こんにちは。ダルマ落としやりませんか?」
「ダルマ落とし?」
ああ、子どものときにやったきりの、あのゲームのことか。
勧められるがままにチャレンジしてみる。このダルマは段ボールを組み合わせて作ったもので、かなり軽かった。
「えい」
渡されたハンマーで叩いたが、すぐに崩れてしまい、なかなか上手にできない。なんとか1回は成功し、「30ポイントゲットです」と拍手をもらった。
よしよし。
さて、次はこの30ポイントを元に、お菓子釣りをするらしい。小さな針金のフックがついた釣り竿を渡され、ルールの説明を受けた。
「ポイントの時間だけ釣りができます。お菓子に輪ゴムがついていますから、よく狙ってくださいね」
「ふむふむ」
釣りというだけあって、ビニールプールにお菓子が並べてある。難易度を上げ、量感アップを図るためか、小さくカットした色紙や淡い色のビニールも入っていた。
「じゃあ、30秒測ります。準備はいいですか?」
「はーい」
「よーい、ドン」
彼はスマホのタイマーを操作し始めた。うまい棒が目に入ったが、駄菓子ではないものがいい。隣のアルフォートに竿を伸ばした。しかし、輪ゴムはどこにあるのだろう。「この辺かな?」と竿を下ろしたら、かかったのはピンクのスズランテープだった。
「それはお菓子じゃありません。頑張ってください」
「くうう~」
スズランテープを外してもらい、再チャレンジをする。邪魔なものがなくなったおかげで、輪ゴムの場所が見えた。また竿を近づけたが、空振りだった。
「あとちょっとです。頑張ってください!」
「きいい~」
今度こそとアルフォートを狙う。やっと輪ゴムに引っ掛かり、釣り上げることができた。
「おめでとうございます! お持ち帰りください」
「やった~」
よく考えてみると、30秒どころか1分以上経っていた。時間はあってないようなものらしい。トロい私が成功するまで、待っていてくれたようだ。
ふっふっふ、アルフォート、アルフォート。
振り返ると、年配男性のサトシ先生もダルマ落としで遊んでいた。
「90ポイントです。お菓子釣りは90秒できますので、たくさん取ってくださいね」
ほう。ということは、3回成功したわけか。
しかし、サトシ先生はお菓子への執念が足りなかった。うまい棒にも麩菓子にも掛からず、どんどん時間が過ぎていく。計測中の男子生徒が温かく励ました。
「ひとつぐらいは取りましょう、ひとつぐらいは」
別の男子生徒も駆けつけ、ブールの中の飴を拾い上げると、輪ゴムが見えるように竿の近くに投げた。なんというファインプレー。サトシ先生は、ようやく飴を釣り上げることができた。
「おめでとうございます!」
会場の生徒たちが、一斉に拍手を送る。サトシ先生は声を出して笑っていた。私も一緒に笑った。オジサン、オバサンの面倒をよくみてくれる、よい生徒たちであった。
来週は敬老の日があるけれど、まだ早いよね~。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
昨年度、私の勤務校では中止となってしまったが、今年度は、換気の悪いお化け屋敷や、飛沫が心配される演劇、マスクを外す食堂・喫茶などを避け、感染対策をしながら実施することとなった。残念ながら、外部の方や保護者は招待できない。
感染リスクの低い出し物といえば、自分たちで撮影した動画を上映したり、調べもの学習の成果を貼り出したり、スライムやアクセサリー作りなどのワークショップがある。どのクラスも大道具や小道具を工夫し、華やかな装飾を施して、ものづくりの過程を楽しんでいた。
「あら~、いいじゃない。校内一周してみようっと」
普段は地味で無機質な廊下や教室が、何種類もの明るい色で彩られ、めかしこんでいる。生徒たちも制服ではなく、緑、青、黄のクラスTシャツを着込んで、弾むように動き回っていた。
1階だけ人がいない。赤を基調にしたポスターのある部屋は照明がついていた。ダルマの絵が描かれており、遠目にもかなり目立つ。何をやっているのかしらと中をのぞいたとき、係の男子生徒と目が合った。
「あ、こんにちは。ダルマ落としやりませんか?」
「ダルマ落とし?」
ああ、子どものときにやったきりの、あのゲームのことか。
勧められるがままにチャレンジしてみる。このダルマは段ボールを組み合わせて作ったもので、かなり軽かった。
「えい」
渡されたハンマーで叩いたが、すぐに崩れてしまい、なかなか上手にできない。なんとか1回は成功し、「30ポイントゲットです」と拍手をもらった。
よしよし。
さて、次はこの30ポイントを元に、お菓子釣りをするらしい。小さな針金のフックがついた釣り竿を渡され、ルールの説明を受けた。
「ポイントの時間だけ釣りができます。お菓子に輪ゴムがついていますから、よく狙ってくださいね」
「ふむふむ」
釣りというだけあって、ビニールプールにお菓子が並べてある。難易度を上げ、量感アップを図るためか、小さくカットした色紙や淡い色のビニールも入っていた。
「じゃあ、30秒測ります。準備はいいですか?」
「はーい」
「よーい、ドン」
彼はスマホのタイマーを操作し始めた。うまい棒が目に入ったが、駄菓子ではないものがいい。隣のアルフォートに竿を伸ばした。しかし、輪ゴムはどこにあるのだろう。「この辺かな?」と竿を下ろしたら、かかったのはピンクのスズランテープだった。
「それはお菓子じゃありません。頑張ってください」
「くうう~」
スズランテープを外してもらい、再チャレンジをする。邪魔なものがなくなったおかげで、輪ゴムの場所が見えた。また竿を近づけたが、空振りだった。
「あとちょっとです。頑張ってください!」
「きいい~」
今度こそとアルフォートを狙う。やっと輪ゴムに引っ掛かり、釣り上げることができた。
「おめでとうございます! お持ち帰りください」
「やった~」
よく考えてみると、30秒どころか1分以上経っていた。時間はあってないようなものらしい。トロい私が成功するまで、待っていてくれたようだ。
ふっふっふ、アルフォート、アルフォート。
振り返ると、年配男性のサトシ先生もダルマ落としで遊んでいた。
「90ポイントです。お菓子釣りは90秒できますので、たくさん取ってくださいね」
ほう。ということは、3回成功したわけか。
しかし、サトシ先生はお菓子への執念が足りなかった。うまい棒にも麩菓子にも掛からず、どんどん時間が過ぎていく。計測中の男子生徒が温かく励ました。
「ひとつぐらいは取りましょう、ひとつぐらいは」
別の男子生徒も駆けつけ、ブールの中の飴を拾い上げると、輪ゴムが見えるように竿の近くに投げた。なんというファインプレー。サトシ先生は、ようやく飴を釣り上げることができた。
「おめでとうございます!」
会場の生徒たちが、一斉に拍手を送る。サトシ先生は声を出して笑っていた。私も一緒に笑った。オジサン、オバサンの面倒をよくみてくれる、よい生徒たちであった。
来週は敬老の日があるけれど、まだ早いよね~。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
ダルマ落としのゲームでお菓子をゲット。楽しそうです。
私が行ったときはガラガラだったのですが、30分後には行列ができていました。
面白いから、人が集まるんでしょうね。
お菓子ももらえるし(笑)
友達の学校の文化祭にはよく行きました。
それが普通だったのは2年前まで。
いつまで感染防止策をするかは不明ですが、しばらく続くかもですね。
アルフォートはしばらく食べていないので、普通サイズかどうかわかりませんでした。
年寄りには「1つぐらいあげよう」という敬老精神が働いたようです(笑)
介護?!
お菓子釣り、ナイスです♪
しかも経費節減までとは、お見事。
不得意な先生へのフォローもすばらしい。
文化祭のいい思い出になりましたね。
ゲームのネタはネットで仕入れることが多いみたいです。
ポイントがそのまま制限時間になるところがわかりやすいと感じました。
彼らのホスピタリティにも感心します。
きっと、素敵な大人になることでしょう。