これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

他人の答案

2010年05月27日 20時25分04秒 | エッセイ
 2学期制の学校でなければ、5月は中間考査が行われる時期だ。
 勤務先の高校でも、つい先日試験が終わり、採点後の答案を返している。
 私が高校生のときは、テストの点数を友達にも教えないのが普通だった。88点とか92点であっても、「あー、悪~い♪」などと言ってぼかし、あからさまに喜んだりしない。しかし、64点とか70点のときは仰天し、息が止まりながらも無理矢理ポーカーフェイスを装った。
「じゃあ、答案に間違いがあったら持ってきなさい」
 答え合わせが終わると、必ず先生はこう言う。○なのに×がついていたら、何が何でも持っていく。でも、×なのに○になっていたら申し出ない。間違えた先生が悪いのだ。ときどき、正直に申告する友達がいたが、偉すぎて、欲のない仙人のように見えた。

 教員になりたてのときも、当時の私と大差ない生徒が多かった。
 でも、10年前あたりから、まったく違う文化を持った生徒が見られるようになったのだ。彼らは点数を隠そうとせず、堂々と公開してはばからない。
「ヤマダ、何点だった?」
「36点。お前は?」
「38点。やった、2点勝った!」
「なによ、あんたたちバカじゃない!? アタシ、45点だもーん」
「すげー! 負けた!!」
 もちろん、100点満点である……。
 やがて、答案を見せ合うようになり、友達同士で合計点を競う「得点レース」などという遊びも楽しんでいる。最初は一部の生徒だけだと思っていたが、今では半数程度が「点数を知られてもいい」と考えているようだ。とても昔からは考えられない。
 さらに、驚く光景が続く。
「先生、ここ間違ってんのに、○ついてますよ~!」
 タカダという生徒が、点数の下がる採点ミスを申し出てきた。しかし、本人の答案ではない。友達のアマノの答案である。
 おもに男子に多いのだが、友達と見せっこしたとき採点ミスを見つけると、点数が上がるときは黙っていて、点数が下がるときだけ楽しそうに駆け込んでくる。「いじめ」という感じではなく、場を盛り上げるためのレクリエーションのようだ。
 申告された以上、点数を修正しなければならない。「じゃあ、73点から72点だね」と確認するとどっと笑いが起こり、当のアマノさえも「何だよ~、言うなよ~」などとおどけている。
 先日は、「め」というひらがなの右上に、鉛筆の汚れのついた答案があった。答えは合っていたので○をつけたが、もしやと気にした通り、友達からのツッコミが入った。
「めに点々がついている! ×ですよ、これは!!」
 やはり、本人ではなく、いつも一緒に行動している友達3人が、1枚の答案を持って教卓に押し寄せてきた。
「いいよ、これぐらい」と訴えを却下すると、3人はガックリ肩を落とした。後ろで、当該生徒が両腕を上げ、「イエーイ」とガッツポーズする。
 楽しければ何でもいいらしい……。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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