演題:「日朝ストックホルム合意と拉致問題」 その⑩
5.北朝鮮人権人道ネットワークの活動
・平成27年9月に活動を開始した当NWの活動方針は、「ストックホルム合意に基づく日本人の公平な救済」と「国際連携に基づく北朝鮮内の過酷な人権状況の改善」である。また、当NWは、国連に意見を述べることのできる人権団体として登録されて
いる。
・「ストックホルム合意に基づく日本人の公平な救済」と「国際連携に基づく北朝鮮内の過酷な人権状況の改善」は、密接に結びついている。一例を挙げると、北朝鮮内の遺骨・墓地について、墓参を繰り返している「平壌龍山会」会長の佐藤知也氏に昨年
8月に直接お会いして聞いた話では、「ストックホルム合意に基づく解決には大賛成する。しかし、墓参の仲介をしている朝鮮総連からは、共和国内の人権状況を批判する者は敵対勢力とみなすと言われており、そうした批判をする団体とはともに活動できない」とのことだ。
・現実的な選択として、ストックホルム合意に基づく解決が一番近道であり、その中でも日本人妻問題や遺骨・墓地問題により突破口を開くべきだと考える。我々は、年に1~2回、政府関係省庁の実務担当者との意見交換会の場を合計7回ほど設けてお
り、その席ではメンバーから様々な提言を、この方針に沿って繰り返してきた。まずは北朝鮮を交渉のテーブルにつかすことの方策が先決だと思う。
・現在、日朝間の政府間協議は水面下においても実現しないと聞いている。安倍前政権による圧力先行の強硬路線拒絶が最大要因と思うが、北朝鮮内における「人道に対する罪」として国連から断罪されている様々な人権侵害問題への非難決議の先頭に我が国が立っていることも一因かもしれない。
・だからといって、中国のウイグル族への弾圧や北朝鮮内の「人道に対する罪」と国連が断罪している人権侵害問題に対し、我が国には拉致問題があるからと知らぬふりして見過ごすことができないし、相手が嫌がるからと忖度することは許されない。これが、いまの国際社会が示す人権問題に対する認識ではないだろうか。
・国連調査委員会(COI)が指摘する「人道に対する罪」の主なものは、政治収容所、公開処刑、拷問、飢餓、強制失踪(拉致40~100以上)などである。こうした人権状況現状の改善を求めず、現体制の存続を認めて国交正常化というレールの上を走っていくことが我が国の将来にとって果たして良いことなのか。具体的に議論すべき時期が来ていると思う。
・北朝鮮との国交正常化を考えるうえで見落としてはならないのが、1965年に締結された「日韓基本条約」と韓国への対応をどうするのかだと思う。この条約第3条には、「大韓民国政府は、国際連合総会決議第195号Ⅲに明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される。」とあり、日本は朝鮮半島に韓国政府以外の存在を認めていない。
・日米同盟の中で拉致問題の解決を目指すという意見があるが、問題はアメリカの本音だと思う。北朝鮮は、現在、アメリカ本土まで届くICBMと核弾頭を保有している。これを抑え込むことが最優先課題であって、拉致問題は日朝で解決してよというのが本音ではないだろうか。
・しかしながら、日朝平壌宣言及び日朝ストックホルム合意と、二度にわたり政府間の合意文書に明記した「国交正常化」という言葉は重い。「拉致は、北朝鮮による我が国の主権侵害と国家犯罪である」、その主張に間違いはないが声を荒げて相手を批判することや、全拉致被害者即時一括帰国との高いハードルを掲げてそれ以外の選択肢を受け付けないというのでは、外交交渉として成り立たないと思う。