磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

鱧男の小説などをUP。環境問題に戦争・原発を!環境問題解決に民主主義は不可欠!

落語・月世界旅行

2006年01月02日 | 短編など
落語・月世界旅行 

 えー。みなさん。未来落語なんて聞いたことありませんやろ。それに、落語で月世界旅行というタイトルがついてるなんて、めずらしいことでっしゃろな。

ほんでも、いずれ、人類は月旅行に行くことになりまっせ。

新しい年をむかえたことでっさかい。

新しい話をしまっさ。

まあ、そのころでも関西人は関西人でおまっしゃろ。


[お囃子]

 お囃子は、今と変わらんのですか。まあ、ええわ。未来のある日、わての家です。

「ルルー・ルルー。未来の電話でんがな」

「ルルー・ルルー。風邪をひいたら……。今の風邪薬でんがな。それもいうなら、ルル○○○○」

「はい、笑福亭鶴瓶絵です」

「ああ、おじいちゃん」

「はい、おじいちゃんは私でおます」

 わての娘も嫁いでおますがな。それに、孫までできて、中学生でんがな。その孫から、電話がかかって来ましたんや。

「おじいちゃん」

「なんや」

「商店街の福引きで、大当たりやったんや」

「ほほうー。それはよかったね」

「特等賞よ」

 未来にも商店街の福引きはあるんでしょうか。きっと、みんなの楽しみにしていることやから、続くんでっしゃろな。落語が続いてきたのも、小説が続いてきたのも、みなさまあってことでっさかいね。(^^)

「何が、当たったと思う。おじいちゃん」

「何って、そりゃ、3Dテレビか、それとも、世界旅行かいな」

「月世界旅行よ」

「えっ! 夢の月世界旅行かいな」

「何、言うてんのん、もう、月世界旅行は、夢の話じゃないでしょう」

「そうやったな。そやけど、わての、子供時代には夢のハワイ旅行と言われていたのになあ。今じゃ、月世界旅行にかわってしまったんやな」

「何、感心してんのん、おじいちゃん」

「うん、いやー、ええの、当たったなー。それで、誰と行くのんや」

「おじいちゃんとや」

「おじいちゃん、わしとかいな」

「ええ、おじいちゃん、行きたい言うてたやんか」

「言うてたけど、わしゃ、もう八十八歳やろうがー」

「でも、健康やろー」

「ああ」

「おじいちゃん、いっしょに行こうよ」

 先日も、テレビや新聞で九十九歳のおばあさんが、スカイダイヴィングしたニュースをやってましたな。未来の老人は今の老人よりチャレンジ精神がありまんがな。わても、きっとそうだ。

「ありがとうさん」

 こうして、笑福亭鶴瓶絵八十八歳は、月世界旅行へと旅立つのであった。関西国際空港の近くに、もっと大きな宇宙船発着場ができてまんにゃ。

「京阪の特急やから、テレビがついてんのやで、おじいちゃん」

「なんや、京阪が宇宙船もってるんかいな。すごいんやなあ。ほんまや、電車と同じ色して、まあ、派手でんな~。テレビカーって書いてあるがな」

「おじいちゃん、電車と違うて、宇宙船やからね。シャトルって書いてあるやん」

 プリーズ・レディス&ジェントルマン。大阪発の月世界行きでんがな。みなはん、シートベルと締めて下さい。

「シートベルトを占めてと」

「おじいちゃん、胸ドキドキせえへんか」

「ごっつ、するで」

 京阪宇宙船株式会社、月世界旅行、天が茶屋経由、北斗特急にご乗車いただき、誠にありがとうございます。

「天が茶屋経由?」

「そうや、天が茶屋いうたら大阪府の宇宙ステシーョンやないの。天にあるんやもの」

「なんや、そうかいな。無重力でのお茶は飲めないのと違うか」

「袋に入ってるわよー。おじいちゃん、何も知らんのやねー」

「そんなふうに、いいなやー。おじいちゃん、すごー、惨めな気持ちになるがな。せっかくの夢の宇宙旅行するのに」

「まあ、ええわ。わたし、おじいちゃん孝行やろ」

「ああ」

 発射秒読みに入りました。テン・ナイン・エイト・セブン・シックス……。

[ドーンと発射音とともに、鶴瓶絵、着物を脱ぐと、宇宙服になっている。そして、鶴瓶絵、宙吊りになる]

「ごっつ、すごーいな」

「おじいちゃん、何感激してんのん」

「すごーいやんか。足が、体が、宙に浮いてんねんでー」

「ほんまやなー」

「ちょっと、こわいでー」

「そんな、おじいちゃん」

 未来落語は体はらなあかんのかいな。ヒェー。

[ミラーボールが輝く]

「おじいちゃん、ほら、宇宙やで、ほんまやな」

「きれいやね」

「ミラーボールみたいやね」

 ミラーボールやがな。

「ええ。景色やね」

「見てみ、地球があんなに小さくなって行くやないか」

「地球はきれいな星や」

「ものすごー派手な服を来た人もおるで」

「そんな、これは月世界旅行の宇宙船やで、おじいちゃん。窓の外の人なんか見えないわよ」

「そうかいなー。ごっつ怖いな。未来落語は?」

「おじいちゃん、ほら、地球はきれいね」

「ほんま、きれいやね。地球は青かった。私の顔も青なった」

「それにしても、人間なんてちっぽけなものやね」

「そうやね。宇宙飛行をしやはった人たちは、神を感じたそうやで」

「そうやね。宇宙は広い」

「そうやし、宇宙には上も下もあらへんのんや。ほら、地球を見たら、北半球、南半球って分けられて、北半球が上みたいやけど」

「本当は、上なんてないのよね」

「そうや。南半球に住んでいる人の上は空。北半球の人も同じやねんで。天は人の上に人を作らずやねー」

「神様は、差別しやへんと言いたいんか。おじいちゃん」

「そうや」

「おじいちゃん、だんだん、もう神様に近づいているもんな」

「そんなこと言うもんやあらへんで」

「すんまへん」

「でも、神様がおるとしたら、どこにおるんやろな。空の上はこうして宇宙があることやしな」

「昔の人は、空の上に天国があったと思っていたんやてな」

「ああ、そうや」

「月にも、うさぎがいて、お餅をついていると思っていたんやろ」

「そうや、けど、生物は一匹もいなかったんやな」

「そうやけど、今はいるで、猿もおるやんか」

「猿、猿なんておるんか」

「そうや、おじいちゃん、惚けたんかいな。月世界の大統領は間寛瓶ちゃんやんか」

「……、寛瓶ちゃん。もしかして、間寛瓶ちゃんかいな?」

「ええ? 他に寛瓶ちゃんなんか、おるんか、おじいちゃん。加藤寛瓶ちゃんとか、井上寛瓶ちゃんとか、そんな人おらんと思うけどなー」

「そうやな、そんな変わった名前、間寛瓶ちゃんくらいなもんやな。月世界の知事になっとるんか。ほら、すごいわ」

「そうよ、杖をふりまわして、宇宙服で宇宙遊泳で爆笑をとってはります」

「それは楽しいなあ。見てみたいでえー」

「おじいちゃん、月花劇場に行きましょうよね」

「ほんまかいな。月にまで劇場をつくったんかいな。出演者は月亭八方なんて、しゃれになるな」

「そのとおりやんか」

「ほんまか」

「月は老人の保養所がいっぱいあるんやからね」

「ほんまかいな。月なんかにどうして」

「そりゃ、重力が地球より少ないから、それだけ力が必要じゃないからよ」

「地球で歩けなくても、月じゃ、歩けるというわけか」

「そうや」

 未来はすごいですな。落語家がこんな天井から吊るされることもありまへんがな。ちゃんと、宇宙ステーションで、こういうこともできましゃろな。

「おじいちゃん、何、ひとりごと言っているの」

「惚けたわけや、あらへんで。ひとりごとくらい言わせてや」

「そんなことより、おじいちゃんも、月花劇場に出てくれて、ほら、出演依頼があったわ」

「そうか、見せてみい。どれどれ……。ほんまやな。良かった、良かった。まだ、落語ができるやないか」

「天下の笑福亭鶴瓶絵やないの! ほんでも、宇宙に来たらんやから宇宙の笑福亭鶴瓶絵かもね」

「ありがとうさん。おじいちゃん孝行やなあー。みんな、笑うてくれるかいな」

「月世界やから、なかなか落ちないかもしれないけど」

「話のオチのことかいな」

「そうや」

「こう浮いていたら、もう疲れるわ。降ろして、降ろして」

「なんや。……、あかん。話、ちゃんとせなあかんのかいな。そらそうやな」

「おじいちゃん、ほら、月に着陸するがな」

「ほんまやな。ちゃちゃと、降ろして……」

[笑福亭鶴瓶絵下りる、照明戻る。着物を着る]

「偉い、落語でんな」

「ほんま、夢をかなえようと思ったら、体力がいるもんやで」

「未来もわて、落語してまんにゃろうな。元気に落語できて、みんなに笑うてもろうて、幸せな爺になりまんやったら、うれしおますがなね……」

「寛瓶です。鶴瓶絵さん、よろしゅう来はったね。みんな、待ってましたがな」

「月花劇場でっしゃろ」

「そうでんがな。未来は明るいで。そこの犬どけ、キャイン、キャイン。そこのけ、わんわん、今年は戌年、おめでとうさん!」

「おお、なつかしいギャグやなあ~。そうや、みんなきちんと、やって、明るい未来をつくりましょうね」

「見て、ここからやっと、また、地球が小さく見えてるわ」

「ほんまやね」

「鶴瓶絵くん、風呂にでも入らんか。ここまで来るのに、疲れたやろうさかいにな……」

「はい、寛瓶ちゃん」

[鶴瓶絵、頭に手ぬぐいをのせる]

「いやー、いい湯ですな」

「本当ですな。ほら、ごらんなさい。ここでも、地球が見えるんですわ。高座にも出てもらえるそうで、ありがと~さん」

「お客さんがいはるから、何回も何百回も、いいや、何千何万回も、高座に登れまんにゃ、ないか」

 しばらく2人は湯につかりました。なかなか月の温泉はええもんです。

「そうでっか。長いこと、風呂につかってますから、師匠、顔、真っ赤かですわ。そろそろ上がりましょうか」

「猿ににているから、顔が赤いっていいたいんやろー」

「そんなこと誰もいうてまへんがなあー。そんな文句なんていうてまへんがな」

「何! 誰がモンキーやて」

「あー、なつかしいギャグでんなあー」

「誰がじゃー」

「何がじゃー」

「これ、続けてたら、きりがないんで、このへんで……」






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ありがとうございます。






もくじ[創作その他]




【本人談】ぼくの中学生のときの友達も、
お笑いの台本をかくのが好きな人がいました。
彼は、巨人・阪神がDJやっていたラジオ番組で採用されて、
彼の台本で巨人・阪神が漫才をやってくれたことがありました。
おもしろかったね~~♪
庶民の芸術は素晴らしいものですね。

現代の日本語に絶大な影響を与えたという
夏目漱石も落語から影響を受けていたといいます。
上方落語ではないですけど……。
古典落語も見直してほしいものの一つですね。



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5 コメント

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お正月と言えば・・・ (みっちゃん)
2006-01-03 00:24:22
絶対、寄席や漫才ははずせないですね(^^)

普段見てないから、どうしても見たくなっちゃう!

お正月気分になれるし。



特に古典的な漫才なんて、どうしてもはずせない!

やっぱりアタシも古い人間かな~ 笑

今日は10時間時代劇、見てしまいました(-_-。)

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いやあ (雨漏り書斎)
2006-01-03 00:46:46
この上方宇宙落語、ごっつぅ面白おましたで。

鱧男宗匠やなかったら、プロの落語台本を持ってきたと思うところでおましたわ。

ポンポンとテンポもええし、おもろいギャグもいっぱいやし、たいした才能でんな。感心しましたわ。

正月から愉しませてもろて、おおきにさんでした。

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カレンダー (雨漏り書斎)
2006-01-03 12:01:54
の記事UPしましたが、無断で、無料で友情出演して、貰いました。
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みっちゃん (鱧男)
2006-01-03 20:01:32
昔、テレビ埼玉だけで吉本をやっていたころがありました。

同じ関東人でも、埼玉の人はお笑いを

わかってくださっていたので、

若き日に、埼玉の人は熱い血が通っていると

思いました。



そして、浦和レッズになって、

熱い血やなあ~~。

と、さらに確認する毎日です。
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雨漏り師匠 (鱧男)
2006-01-03 20:03:33
素人なもんで、

釣瓶絵とか寛瓶とか、

パロディーで書かせていただきました。



>無断で、無料で友情出演して、貰いました。

いつもありがとうございます。m(_ _)m

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