落語・月世界旅行 えー。みなさん。未来落語なんて聞いたことありませんやろ。それに、落語で月世界旅行というタイトルがついてるなんて、めずらしいことでっしゃろな。 ほんでも、いずれ、人類は月旅行に行くことになりまっせ。 新しい年をむかえたことでっさかい。 新しい話をしまっさ。 まあ、そのころでも関西人は関西人でおまっしゃろ。 [お囃子] お囃子は、今と変わらんのですか。まあ、ええわ。未来のある日、わての家です。 「ルルー・ルルー。未来の電話でんがな」 「ルルー・ルルー。風邪をひいたら……。今の風邪薬でんがな。それもいうなら、ルル○○○○」 「はい、笑福亭鶴瓶絵です」 「ああ、おじいちゃん」 「はい、おじいちゃんは私でおます」 わての娘も嫁いでおますがな。それに、孫までできて、中学生でんがな。その孫から、電話がかかって来ましたんや。 「おじいちゃん」 「なんや」 「商店街の福引きで、大当たりやったんや」 「ほほうー。それはよかったね」 「特等賞よ」 未来にも商店街の福引きはあるんでしょうか。きっと、みんなの楽しみにしていることやから、続くんでっしゃろな。落語が続いてきたのも、小説が続いてきたのも、みなさまあってことでっさかいね。(^^) 「何が、当たったと思う。おじいちゃん」 「何って、そりゃ、3Dテレビか、それとも、世界旅行かいな」 「月世界旅行よ」 「えっ! 夢の月世界旅行かいな」 「何、言うてんのん、もう、月世界旅行は、夢の話じゃないでしょう」 「そうやったな。そやけど、わての、子供時代には夢のハワイ旅行と言われていたのになあ。今じゃ、月世界旅行にかわってしまったんやな」 「何、感心してんのん、おじいちゃん」 「うん、いやー、ええの、当たったなー。それで、誰と行くのんや」 「おじいちゃんとや」 「おじいちゃん、わしとかいな」 「ええ、おじいちゃん、行きたい言うてたやんか」 「言うてたけど、わしゃ、もう八十八歳やろうがー」 「でも、健康やろー」 「ああ」 「おじいちゃん、いっしょに行こうよ」 先日も、テレビや新聞で九十九歳のおばあさんが、スカイダイヴィングしたニュースをやってましたな。未来の老人は今の老人よりチャレンジ精神がありまんがな。わても、きっとそうだ。 「ありがとうさん」 こうして、笑福亭鶴瓶絵八十八歳は、月世界旅行へと旅立つのであった。関西国際空港の近くに、もっと大きな宇宙船発着場ができてまんにゃ。 「京阪の特急やから、テレビがついてんのやで、おじいちゃん」 「なんや、京阪が宇宙船もってるんかいな。すごいんやなあ。ほんまや、電車と同じ色して、まあ、派手でんな~。テレビカーって書いてあるがな」 「おじいちゃん、電車と違うて、宇宙船やからね。シャトルって書いてあるやん」 プリーズ・レディス&ジェントルマン。大阪発の月世界行きでんがな。みなはん、シートベルと締めて下さい。 「シートベルトを占めてと」 「おじいちゃん、胸ドキドキせえへんか」 「ごっつ、するで」 京阪宇宙船株式会社、月世界旅行、天が茶屋経由、北斗特急にご乗車いただき、誠にありがとうございます。 「天が茶屋経由?」 「そうや、天が茶屋いうたら大阪府の宇宙ステシーョンやないの。天にあるんやもの」 「なんや、そうかいな。無重力でのお茶は飲めないのと違うか」 「袋に入ってるわよー。おじいちゃん、何も知らんのやねー」 「そんなふうに、いいなやー。おじいちゃん、すごー、惨めな気持ちになるがな。せっかくの夢の宇宙旅行するのに」 「まあ、ええわ。わたし、おじいちゃん孝行やろ」 「ああ」 発射秒読みに入りました。テン・ナイン・エイト・セブン・シックス……。 [ドーンと発射音とともに、鶴瓶絵、着物を脱ぐと、宇宙服になっている。そして、鶴瓶絵、宙吊りになる] 「ごっつ、すごーいな」 「おじいちゃん、何感激してんのん」 「すごーいやんか。足が、体が、宙に浮いてんねんでー」 「ほんまやなー」 「ちょっと、こわいでー」 「そんな、おじいちゃん」 未来落語は体はらなあかんのかいな。ヒェー。 [ミラーボールが輝く] 「おじいちゃん、ほら、宇宙やで、ほんまやな」 「きれいやね」 「ミラーボールみたいやね」 ミラーボールやがな。 「ええ。景色やね」 「見てみ、地球があんなに小さくなって行くやないか」 「地球はきれいな星や」 「ものすごー派手な服を来た人もおるで」 「そんな、これは月世界旅行の宇宙船やで、おじいちゃん。窓の外の人なんか見えないわよ」 「そうかいなー。ごっつ怖いな。未来落語は?」 「おじいちゃん、ほら、地球はきれいね」 「ほんま、きれいやね。地球は青かった。私の顔も青なった」 「それにしても、人間なんてちっぽけなものやね」 「そうやね。宇宙飛行をしやはった人たちは、神を感じたそうやで」 「そうやね。宇宙は広い」 「そうやし、宇宙には上も下もあらへんのんや。ほら、地球を見たら、北半球、南半球って分けられて、北半球が上みたいやけど」 「本当は、上なんてないのよね」 「そうや。南半球に住んでいる人の上は空。北半球の人も同じやねんで。天は人の上に人を作らずやねー」 「神様は、差別しやへんと言いたいんか。おじいちゃん」 「そうや」 「おじいちゃん、だんだん、もう神様に近づいているもんな」 「そんなこと言うもんやあらへんで」 「すんまへん」 「でも、神様がおるとしたら、どこにおるんやろな。空の上はこうして宇宙があることやしな」 「昔の人は、空の上に天国があったと思っていたんやてな」 「ああ、そうや」 「月にも、うさぎがいて、お餅をついていると思っていたんやろ」 「そうや、けど、生物は一匹もいなかったんやな」 「そうやけど、今はいるで、猿もおるやんか」 「猿、猿なんておるんか」 「そうや、おじいちゃん、惚けたんかいな。月世界の大統領は間寛瓶ちゃんやんか」 「……、寛瓶ちゃん。もしかして、間寛瓶ちゃんかいな?」 「ええ? 他に寛瓶ちゃんなんか、おるんか、おじいちゃん。加藤寛瓶ちゃんとか、井上寛瓶ちゃんとか、そんな人おらんと思うけどなー」 「そうやな、そんな変わった名前、間寛瓶ちゃんくらいなもんやな。月世界の知事になっとるんか。ほら、すごいわ」 「そうよ、杖をふりまわして、宇宙服で宇宙遊泳で爆笑をとってはります」 「それは楽しいなあ。見てみたいでえー」 「おじいちゃん、月花劇場に行きましょうよね」 「ほんまかいな。月にまで劇場をつくったんかいな。出演者は月亭八方なんて、しゃれになるな」 「そのとおりやんか」 「ほんまか」 「月は老人の保養所がいっぱいあるんやからね」 「ほんまかいな。月なんかにどうして」 「そりゃ、重力が地球より少ないから、それだけ力が必要じゃないからよ」 「地球で歩けなくても、月じゃ、歩けるというわけか」 「そうや」 未来はすごいですな。落語家がこんな天井から吊るされることもありまへんがな。ちゃんと、宇宙ステーションで、こういうこともできましゃろな。 「おじいちゃん、何、ひとりごと言っているの」 「惚けたわけや、あらへんで。ひとりごとくらい言わせてや」 「そんなことより、おじいちゃんも、月花劇場に出てくれて、ほら、出演依頼があったわ」 「そうか、見せてみい。どれどれ……。ほんまやな。良かった、良かった。まだ、落語ができるやないか」 「天下の笑福亭鶴瓶絵やないの! ほんでも、宇宙に来たらんやから宇宙の笑福亭鶴瓶絵かもね」 「ありがとうさん。おじいちゃん孝行やなあー。みんな、笑うてくれるかいな」 「月世界やから、なかなか落ちないかもしれないけど」 「話のオチのことかいな」 「そうや」 「こう浮いていたら、もう疲れるわ。降ろして、降ろして」 「なんや。……、あかん。話、ちゃんとせなあかんのかいな。そらそうやな」 「おじいちゃん、ほら、月に着陸するがな」 「ほんまやな。ちゃちゃと、降ろして……」 [笑福亭鶴瓶絵下りる、照明戻る。着物を着る] 「偉い、落語でんな」 「ほんま、夢をかなえようと思ったら、体力がいるもんやで」 「未来もわて、落語してまんにゃろうな。元気に落語できて、みんなに笑うてもろうて、幸せな爺になりまんやったら、うれしおますがなね……」 「寛瓶です。鶴瓶絵さん、よろしゅう来はったね。みんな、待ってましたがな」 「月花劇場でっしゃろ」 「そうでんがな。未来は明るいで。そこの犬どけ、キャイン、キャイン。そこのけ、わんわん、今年は戌年、おめでとうさん!」 「おお、なつかしいギャグやなあ~。そうや、みんなきちんと、やって、明るい未来をつくりましょうね」 「見て、ここからやっと、また、地球が小さく見えてるわ」 「ほんまやね」 「鶴瓶絵くん、風呂にでも入らんか。ここまで来るのに、疲れたやろうさかいにな……」 「はい、寛瓶ちゃん」 [鶴瓶絵、頭に手ぬぐいをのせる] 「いやー、いい湯ですな」 「本当ですな。ほら、ごらんなさい。ここでも、地球が見えるんですわ。高座にも出てもらえるそうで、ありがと~さん」 「お客さんがいはるから、何回も何百回も、いいや、何千何万回も、高座に登れまんにゃ、ないか」 しばらく2人は湯につかりました。なかなか月の温泉はええもんです。 「そうでっか。長いこと、風呂につかってますから、師匠、顔、真っ赤かですわ。そろそろ上がりましょうか」 「猿ににているから、顔が赤いっていいたいんやろー」 「そんなこと誰もいうてまへんがなあー。そんな文句なんていうてまへんがな」 「何! 誰がモンキーやて」 「あー、なつかしいギャグでんなあー」 「誰がじゃー」 「何がじゃー」 「これ、続けてたら、きりがないんで、このへんで……」 下、1日1回クリックお願いいたします。 ありがとうございます。 もくじ[創作その他] |
【本人談】ぼくの中学生のときの友達も、
お笑いの台本をかくのが好きな人がいました。
彼は、巨人・阪神がDJやっていたラジオ番組で採用されて、
彼の台本で巨人・阪神が漫才をやってくれたことがありました。
おもしろかったね~~♪
庶民の芸術は素晴らしいものですね。
現代の日本語に絶大な影響を与えたという
夏目漱石も落語から影響を受けていたといいます。
上方落語ではないですけど……。
古典落語も見直してほしいものの一つですね。
普段見てないから、どうしても見たくなっちゃう!
お正月気分になれるし。
特に古典的な漫才なんて、どうしてもはずせない!
やっぱりアタシも古い人間かな~ 笑
今日は10時間時代劇、見てしまいました(-_-。)
鱧男宗匠やなかったら、プロの落語台本を持ってきたと思うところでおましたわ。
ポンポンとテンポもええし、おもろいギャグもいっぱいやし、たいした才能でんな。感心しましたわ。
正月から愉しませてもろて、おおきにさんでした。
同じ関東人でも、埼玉の人はお笑いを
わかってくださっていたので、
若き日に、埼玉の人は熱い血が通っていると
思いました。
そして、浦和レッズになって、
熱い血やなあ~~。
と、さらに確認する毎日です。
釣瓶絵とか寛瓶とか、
パロディーで書かせていただきました。
>無断で、無料で友情出演して、貰いました。
いつもありがとうございます。m(_ _)m