龍の声

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「過疎地からの田園回帰」

2018-03-17 06:14:14 | 日本

東京一極集中の大波の陰で広がり始めている、「田園回帰」という静かな“波紋”について掲載している。
以下、要約し記す。



都会からきた老若男女が稲刈りに精を出す。里山に子供が闊歩し、笑い声がこだまする。

いまだに東京圏への人口流入が進む一方、過疎地域への移住も盛んになっている。転勤で移住とか、左遷で移住とか、そういった話ではない。自主的に過疎地域に移住する人が、長期トレンドとして増えているのだ。

総務省の調査研究会は14日、三大都市圏や政令市からの移住者が増えている過疎地域が拡大しているとの調査結果を公表した。

「平成の大合併」が本格化する前の2000年当時の市町村区域で数えると、都市部からの移住者が増えた区域は00~10年の108から、10~15年は397と3倍超になった。特に離島や山間部などでの増加が顕著で、研究会は「田園回帰」傾向が高まっているとみている。

国勢調査のデータを基に分析した。都市部から過疎地域に移住した人の全体数を見ると、高齢化などの影響で、00年の約40万人から15年は約25万人に減ったことも分かった。

移住者全体が減る中で、転入者数を伸ばす過疎地が増えていることについて、研究会座長の小田切徳美明治大教授は「過疎地の間で格差が生じている」と指摘。移住者が増える地域と増えない地域の二極化が進んでいるとみられることから、「転入促進に向けた施策を広く展開することが必要だ」と訴えた。 


◎農山漁村への定住願望を持つ、20~40代の都市住民が急増中

総務省「田園回帰に関する調査研究会」の中間発表というものがある。2005~2010年のデータをもとにしているのだが、その5年間で約27万人が都市部から過疎地域へ移住していることがわかる。

しかも移住した層の多くは定年退職した60代以降ではない。20~30代が半分を占めているのだ。その後、2011年の東日本大震災と原発事故を経て、若い世代の過疎地域への自主的移住は確実に増えている。

内閣府による2014年の「農山漁村に関する世論調査」でもこのことが裏づけられる。都市住民の農山漁村への定住願望は20~40代が高く、20代では40%近い。2005年の調査では農山漁村の定住願望は20.6%だったが、2014年の調査では31.6%となり、9年で11%も上昇した。

田舎に移住といえば、お金を貯めて地方で悠々自適にのんびり過ごす、というイメージを持つ人も多いだろう。しかしそういう移住者が増えているわけではない。

彼らは、お米や野菜を一部でも自給したり、モノづくりや家づくりを手がけたり、地域ミュニティの活性化に奔走したりしている。決して悠々自適とはいかないが、消費依存から少しずつ抜け出して、人間らしい生き方に近づこうとしているのだ。


◎田んぼでの重労働は、疲れるどころか元気になる

私たちが千葉県匝瑳(そうさ)市で主催する NPO「SOSA PROJECT」では、田舎への移住を考える都市型住民が米作りをできるようになるためのサポートをしている。田んぼの中に小さな区画を区切り、それぞれが田植えをし、草取りや収穫をし、それを食す。

ちょうど今、稲刈りや脱穀など秋の収穫を終えようとしている。巷では美味しい新米が出回り始めた。今年初めて手作業でお米作りをした都市住民の方々に聞いた。

川崎市で学校教師をしているYさんは、生徒に正面から向き合いたくもそれができない社会状況にもどかしさを覚え、心が荒み休職していた。

「田んぼでの重労働は、不思議なことに疲れないんです。むしろ元気になって帰ります。お米作りなんて初めてなのに、なぜか懐かしい。DNAが覚えているのかもしれませんね」

「最近、職場に復帰したんですけど、追い詰められても『どうにかなる』と思えるようになったんです。何ごとにも感謝の気持ちが生まれるようになりました。子供たちと向き合うために何をしたらいいか、やるべきことがはっきり見えるようになりました」

弁護士をしているTさんは「食べるものがどう作られているのかを知りたいと思って、お米作りに来た」という。

「ふだん、机に座って仕事することが多いですよね。お米作りは、その逆の肉体労働。なのに気持ち良くて、ありがたささえ湧いてくる。田植えから稲刈りまでその成長を見てきて、今までは気にも留めなかったものが見えるようになったんです」

「例えば、田畑のある風景をクルマで走っていても『緑が広がっているなあ』という認識しかなかったのに『あ、先週より作物が大きくなったな。稲の穂が出たな、花が咲いているな』というように、田畑の変化に目が行くようになりました。お天気も気になるようになりましたね~」


◎米作りを通して、都市生活以外の“生き方の選択肢”を提供する

IT企業でデータベースの集積管理をしているHさんは、自分を変えるきっかけにしたいと思って米作りに挑戦した。

「日々の細々とした仕事が、誰のため何のためにやっているのか、わからなくなってきていました。お米作りに集まる多様な方々と出会って、会社に勤めるという選択以外にも、こういう居場所や生き方もあるんだな~、って思えてきました」

「お米はプロの農家さんが作るものと思い込んでいましたが、案外簡単に作れるもんなんだなって。だってちゃんと育つんだから! 穂が出て花が咲いて実になる。そんな当たり前のことを初めて見て感動したんです。自分が何をして生きて行きたいのか、これから見直してみます」

品川駅近くの会社でソフトウェア設計の仕事をしているMさんは、人工的なビルやコンクリートに囲まれて暮らす不自然さから、米作りをしてみようと思ったという。

「草取りって、結構楽しいんですよね。心を無にできます。成長を見られる喜びや、達成感も気持ちいい。将来、自給自足したいな~」

このように、米作りの田んぼは“大人の食育の場”であり“気づきと感動の場”となっている。そして、都市生活以外の“生き方の選択肢”を提供する場でもある。ここで1年の米作りをおぼろげながらも実践習得した自信を胸に、自主的移住に踏み出していく人が多い。

こうした移住は一時のトレンドではない。田園回帰は“人間回帰”でもある。地球の有限性に目を伏せて、無限の拡大を目指す経済システムの妄想が未だに続く中で、便利さと引き換えに人々は疲弊している。先にその矛盾に気づいた人々が、新しい人間サイズの暮らし方や働き方をクリエイトし始めているのだ。

日本中から一極集中していく大波は東京圏でぶつかり合い、しぶきを上げて、多くの人が溺れかけている。それに隠れて見えづらいが「東京圏からの田園回帰」という波紋も静かに広がっている。その波紋は遠くに進むほど小さくなり、最後は消えて平穏な水面になる。

これからは過疎地域ほど、田舎ほど、自己実現が果たせ、住みやすく、心穏やかな場所になっていくことは間違いない。潮流は静かに変わりつつある。