いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

毛沢東のバレエダンサー  リー・ツンシン著  井上実訳

2010年09月08日 | その他
今まで経験した中でいちばん暑かったかもしれない今年の夏は、夏バテだと悲鳴をあげている暇もないほどの忙しさの中で過ぎていきました。ようやく、ほっと一息の今日は台風の影響で久しぶりの雨です。

先日、ある雑誌の今年8月公開の映画「小さな村の小さなダンサー」の紹介記事を読んで、何となく原作「毛沢東のバレエダンサー」に興味を持ったので、(映画はまだ見ていないのですが、)先に読んでみました。

これは著者リー・ツンシン氏の自伝です。毛沢東の政権下1961年に中国山東省の貧しい村に生まれた彼は11歳の時、江青(毛沢東の妻)の文化政策によるバレエの英才教育に選抜されます。きびしい審査を経て全国から選抜された少年たちの中でさらに人一倍努力した彼はアメリカへ留学します。

しかし西側の生活を知った彼はアメリカへ亡命し、その後世界的なバレエ・ダンサーへの道を歩みます。

この本で興味深いのは一つは著者リー・ツンシン氏のBreakthrough(ブレイクスルー)の精神です。英語の意味は進歩、前進、また一般にそれまで障壁となっていた事象の突破のことですが、激動の中国で共産圏下の不合理な決定とも戦いながら這い上がった彼の底力に敬服です。

もう一つは、中国の社会的背景です。私が子供のころは中国とは国交が回復していませんでしたから、学校教育の過程では、東西の冷戦状態については学びましたが、中国について印象に残っているのはもっとずっと古い時代の歴史的なことばかりでその時(文化大革命の最中)一体どうなっているかを詳しく知ることはほとんどできませんでした。文革が中国全土を徹底的に混乱させたものだったということを知ったのは、ずいぶん後になってからです。

リー・ツンシン氏は江青の支配下にあった北京舞踏学院に入学するまでバレエとはどんなものかすらわからなかったそうです。突然11歳の子供が政府の政策によって運命を決められました。政府が個人の生き方を決めてしまう・・・(もちろん貧しさから這い上がりたいという彼の希望や家族や周りの人々の期待という重圧を担っていたわけですが・・・。)

現代の若い世代の人々についてはよくわかりませんが、文革を経験した人々の多くが多かれ少なかれ政府に運命を翻弄されたと感じているようです。現在はたくさんの中国の情報が入ってきますから、それを裏付けるような話を読んだり聞いたりするようになりましたが、小平の時代以後、私が直接出会った中国の人々からも聞いたことがあります。

今や経済的にも著しい成長を続ける中国ですが、この本では文革の時代の貧困や政府の圧力だけでなくで貧しい村に生まれた彼の目を通して描かれた人々の家族愛には心温まるものを感じます。

久しぶりにいい本だなという印象を受けました。


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