いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

海峡を越えて 太田孝子著

2008年12月01日 | その他
「日帝時代」・・ずっと以前のことですが朝鮮半島出身の年配の方が日本の植民地だった時のことをそう言っているのを聞いて複雑な思いをしたことがあります。

この本はその時代に朝鮮半島で教師をしていた日本女性吉田(旧姓奥村)先生と朝鮮人の教え子たちのインタビュー集です。あの時代を生きた人々の記録を残しておきたいと思う著者の強い想いも伝わってきます。

 戦後63年、太平洋戦争を知る人々が少なくなってきました。私が子供のころは両親や祖父母、伯父伯母や学校の先生方からも戦争中の話をいろいろ聞かされたものでした。
戦争の悲惨さや歴史的背景、国策やイデオロギーについて書かれた本は数多くあります。でも当時その時代を生きた人々にはそれぞれの人生があり、人間として人間を愛する気持ちは政治的な背景とは別の次元のことです。でも時代の荒波は時として一生懸命生きている一市民の人生にもたいへんな困難をもたらすこともありました。この本ではあの時代を一生懸命生きてきた人々の話がとても感動的です。

今から十数年前私は初めて韓国ソウルへ行きました。いろいろなところが本当に日本とよく似ているので驚くやらほっとするやら・・。「ああなるほど、言葉は違うけど響きは似ている。中国より近い海峡をひとつ越えただけのお隣の国なんだ」と思ったものでした。

確かに過去の歴史的な背景に言及しようとするとたいへん複雑です。日本人として申し訳なく感じることもあります。親から日本人の悪行を沢山聞かされて育った私たちと同世代の朝鮮半島の人々は日本を良く思っていない人が多いことも聞いていますが・・・。我が子たちの世代は少し違うようですね。日本でもサッカーや「冬のソナタ」などで韓流ブームになりました。

この本の中の吉田先生も素晴らしいと思いますがその教え子たちも戦中戦後をしっかり生き抜いてきた立派な方々です。

以前、このブログでも書いた「国家の品格」の著者藤原正彦氏も講演会で、日本は台湾や朝鮮を植民地にしていた時代も現地の教育環境を整え、かつて欧米諸国が行っていたような植民地の愚民化政策はとらなかったことを強調されていました。日本が現地の教育にも力を入れていたことは多くの歴史関係の文献でも知ることができます。

確かにそうかもしれません。でも、朝鮮人の生徒同士女学校で朝鮮語は禁止だったなんて聞くと「ああ植民地ってこうだったんだ」ということを感じます。京畿高等女学校時代、吉田(奥村)先生は朝鮮人の教え子たちの食料調達の為に奔走します。教え子の一人は源氏物語や万葉集を通して知識というより人間を学んだと語っています。

戦後半世紀以上を経ての師弟の再会の感動的な記録です。厳しい時代を生き抜いた人間としての力強さを感じました。