いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

利休にたずねよ  山本兼一 著

2011年02月28日 | 小説
 去年から自宅にいる時間が少なくなってしまい、本当に久しぶりの更新となってしまいました。

 今回は 山本兼一氏の「利休にたずねよ」です。戦国時代、安土桃山時代の茶人として知られる「千利休」は、最初は堺の商人でした。織田信長、豊臣秀吉に茶頭として仕え、無駄なものをすべて省いた究極の美を求めながら、緊張感を作り出すわび茶の世界を完成させ、茶人として名声をあげます。また、堺の商人たちや宣教師たち、信長や秀吉の側近など多くの武士たちとも交流し、政治的にも影響を与えたともいわれています。

 やがて、秀吉との美意識の違いだけでなく、老いて暴走する天下人「秀吉」との対立は決定的なものとなります。
しかし、秀吉は天下人、利休は彼に雇われた茶人に過ぎません。でも、利休は・・・。

 戦国時代の武士たちにとって、茶道は大切なたしなみ、及び出世を左右する大切な場でもありました。中には利休を快く思わない秀吉の側近「石田三成」のような武士もいました。三成は京都大徳寺の山門に飾られた利休像を見つけて、いちゃもんをつけ、秀吉に報告します。これが秀吉の怒りを買い、利休への処罰が決定的なものになったといわれています。それでも尚、利休が秀吉に謝罪さえすれば命は助けてもらえたかもしれません。利休は頑なにそれを拒み、天下人秀吉に死をもって抗議をします。
 

 偶然にも今日は千利休の命日の2月28日、(但し正確にはこれは旧暦なので新暦では4月21日だそうですが、)今から420年前の今日、千利休は京都聚楽第の利休屋敷で切腹したと伝えられています。七十年の生涯でした。
 利休の死の抗議はその後ずっと人々の想像力を掻き立て、茶道の大家としてだけでなく、戦国時代のキーパーソンとして、歴史書にも多く登場することとなりました。

 さてこの山本氏の作品は第140回直木賞の受賞作だそうです。他の作家によって書かれた利休の本は今までに何冊か読んだことがありましたがこの本読むまで、私にとって、一番印象に残っていた利休は童門冬二氏の「千利休」でした。童門氏の千利休は史実に基づいてとても几帳面に書かれた作品だと思いました。今回、初めて山本氏の作品を読んで、脚色の面白さに感心しました。
「これはちょっと技巧的かな?!でも秀作!」っていいたくなるような・・・。そんな印象でもありますが・・・。

 この小説では千宗易(利休)の若き日の恋は生涯彼の心の中で生き続けます。それが茶人として大成する利休の原動力の一部になっています。彼は生涯で何人かの女性に子を産ませていますが、女たちは皆それぞれに利休の幻の女性の存在に気づきます。小説の展開は、実際には利休を取り巻く人々それぞれの視点で語られているのですが、次第に「千利休」の人間像が鮮やかに浮かび上がってくるように仕向けられているところに小説の形態としての新鮮さを感じました。



利休めはとかく果報のものぞかし 管丞相(かんしょうじょう→菅原道真)になると思へば

利休が残した狂歌だそうです。