いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

流星 お市の方 永井路子 著

2010年08月05日 | 小説
本当に久しぶりの更新となってしまいました。いつのまにか盛夏、連日の猛暑でバテ気味ではありますが慌しさに追いまくられる日々を送っております。

さて、今回は織田信長の妹であり、浅井長政、のちに柴田勝家の妻となり、三人の娘たち茶々(豊臣秀吉側室)、初(京極高次正室)、江(徳川秀忠継室)の母でもあるお市の方の話です。前回の更新からずいぶんたくさんの本を読んだのですが、やはり永井路子さんの小説を記事にすることにしました。

政略結婚によって人生を翻弄された武家の女性たちの苦悩と逞しさが共感を誘います。血縁か夫婦愛か・・・お市は夫浅井長政と兄織田信長の間で苦悩します。

お市は中高の歴史の教科書にまでは登場しないものの歴史上でもなかなかの重要人物です。戦国時代の女性のまさにkey personのひとりと言えるでしょう。

夫長政が信長に敗れ自害した後、お市は織田家へ引き取られますが信長の死後、柴田勝家と再婚します。
翌年(1583年)勝家が秀吉と対立して敗れた時は、勝家と共に自害し、37年の生涯を閉じます。

「さらぬだに うちぬるほども 夏の夜の 夢路をさそふ ほととぎすかな」

お市の辞世の句です。

当時の戦場の作法に従えば敗者の子女は勝者によって引き取られ保護されることになっていました。しかし、お市は三人の娘たちだけを秀吉に託しました。



もうひとつこの小説で印象的だったのはお市の方の兄である織田信長の人間像です。ここでは偉大な武将信長ではなく、鬼っ子信長が登場します。今まで多くの作家によって書かれた信長を読みましたが、永井さんの信長像もなかなか興味深かったです。


さて、この小説には全く関係のない最近聞いた話なのですが・・。本能寺の変で敗れた明智光秀の甥の光春は坂本城で自害しますが、このとき一部の者たちを土佐へ逃がします。何故土佐かというと光秀の家老の斉藤利三の妹は土佐の長曽我部に嫁いでいたそうです。実はこの6月2日は織田艦隊の四国征伐への出発日だったそうで、四国征伐で妹と甥が殺される前に利三が光秀をたきつけたという説があるとのこと・・・。

そしてこの坂本城から逃げて土佐の才谷というところに土着したのが今年大河ドラマなどで一段と注目を浴びているいる坂本龍馬の家系とか・・。近江の坂本をしのんで坂本というのだそうです。

光秀と利三のいきさつについてはよくわかりませんが、いずれにしても肉親を思う人間の情について考えてみると時代性からなんとなくお市の話を思い出しました。


最近、都内の最高齢の男性の白骨化した死体が発見された事件や都内最高齢の女性の所在不明の事件をきっかけに百歳以上の高齢者(役所が対応できないだけで80代90代だって疑ってしまいますけど・・・)が何人も所在不明なことがわかって問題になっています。この事件は各国で報道され「長寿国日本はにせもの」といわれているとのこと・・。

何十年も家族と音信不通と聞くとなんだか空恐ろしいような気もしますが・・・物やお金、都市型の個人主義社会が人間の心を変化させたのでしょうか。



平均寿命が50年にも満たなかった時代に太く短く37年を生き抜いたお市、400年の時を経て永井さんによって描かれたお市の愛と苦悩に人間として生きようとする大きなメッセージを感じました。