いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

福島原発の真実   佐藤栄佐久 著

2011年09月21日 | その他
 先日、京都市内のスーパーで買い物をしていた時のことです。偶然、数年ぶりに、以前近所で親しくしていた同世代の知人と再会しました。
 あれこれ近況など報告しながら、その知人がスーパーの一角に並べられていた福島産のトマトを買い物カゴに入れました。
「福島産でも気にならへん?」私は思わず彼女に尋ねてしまいました。何故なら首都圏に住む友人たちの多くが福島の原発事故の近くの産地の野菜果物に対して異常なほど神経質になっていたからです。彼女の答えは簡単でした。「政府の放射能値の安全基準を上回っていたら、出荷停止になるんとちゃうの? 安全でないものを売ったらこのスーパーだってつぶれるやろしなあ~」

 現在は首都圏で過ごす時間が長い私にとってその答えはあまりにノーテンキに思えました。でも、これは原発事故からどのくらい離れているかの違いからでしょうか。確かに京都市内のスーパーには福島産のトマトや桃もあるにはありますが、スーパーに出回っている野菜果物の産地のほとんどが西日本だったからです。ちょっとくらいどうってことないっていう雰囲気でもあります。もちろん京都にも意識の高い友人もいますが・・ もしこれが福井県の原発事故だったら事態はまた違っていたことでしょう。

 3月11日の東日本大震災の津波による福島の原発事故の後、数多くの原発関連の記事や書物を読んできました。ところが、一つ読むとまた新たに二つ以上の疑問が浮かび上がってくるのが現実です。大学その他の偉い先生方の本であっても一体どこまでが真実でどこまでが空想なのかわけがわからなくなることもしばしばです。

 唯、今、私がはっきりと感じていることは 「政府が言う安全は少しも信用できない」 ということです。何かよほどしっかり学ぼうとしないと、人々はだんだん誤魔化されて国益ばかり追求する国のベールの中に包まれてしまうのではないかという不安感が広がってきます。

 前置きが長くなりましたが今回の佐藤栄佐久氏の「福島原発の真実」は政府という巨大組織の横暴さ、その根幹に迫る本のひとつであると思います。とても印象に残る本でした。

 佐藤栄佐久氏は福島県知事でしたが、5期18年目の2006年9月県発注のダム工事をめぐる汚職事件で辞職、その後収賄額ゼロという前代未聞の有罪判決で現在最高裁に上告中です。この辺のいきさつは同じく佐藤氏の著書「知事抹殺」に詳しく書かれていますが、佐藤氏が如何に原発とその安全性を追求してきた知事であったかがよくわかります。言葉を変えていえば東電や国とっては都合の悪いうるさい知事であったということでしょうか。

 今回の事故は決して天災ではなく、数々の小さな事故の対策を怠っていたために発生したことが明らかになりました。
特に福島第一原発2号機で2010年6月に今年3月の津波の時と全く同様の電源喪失事故を経験しているという話はショックでした。この時、これからいつか起きるかもしれない地震や津波による事態を考えられなかったのでしょうか?

 原子力が危険であることは誰も否定することができません。放射性廃棄物だって溜まる一方です。

「原子力は絶対必要だから絶対安全だということにしないといけない」日本人はこういう本末転倒の論理を突き崩して原発のあり方を考え直すことができるでしょうか?