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家喜美子チェンバロ・リサイタル

2009-03-22 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  レコード芸術の3月号に「オリジナル楽器」の至福の音響を求めて―「チェンバロ録音の現場」という記事が出ていました。

  チェンバロ奏者の家喜美子が演奏する歴史的名器を録音した峰尾昌男さんのリポートで、マイク・セッティングの図まで紹介されている興味深いものです。

  同じレコ芸誌上に件のCDの宣伝が出ており、その誌面の小さなスペースに、家喜さんのリサイタルが3月22日東京文化会館の小ホールで催される旨の告知がありました。

  何だか面白そうなので主催者に電話して当日券を予約すると、春の嵐が吹き荒れる日曜日、上野へ向かいました。

  これぞまさしく嵐!駅まで歩く15分の間に哀れな傘は強風に煽られ、ついに全身骨折となり果てました。あちこちで風のために電車がストップしているという情報が車内に流れています。よりによってこんな日にチェンバロのリサイタルは…。

  やっとの思いでたどりついた東京文化会館小ホール、外の嵐とは対照的に美しい佇まいのチェンバロが舞台に置かれ、そこに淡い明りが差していました。

  演奏曲目はバッハより100年も遡る作曲家の作品から始まります

  ヤン・ピータースゾーン・スウェーリンク:
   詩篇23番
   イングリッシュ・フォーチューン
   半音階的幻想曲
  J.S.バッハ:
   半音階的幻想曲 ニ短調 BWV903
   シンフォニア第5番 変ホ長調 BWV791
   シンフォニア第6番 ホ長調 BWV792
   前奏曲とフーガ イ短調 BWV894
   パルティータ第6番 ホ短調 BWV830

  それにしても、何と音の小さいこと!これがチェンバロの生の音です。自由席なので、私は開演1時間前から並び、最前列から5列目を確保しました。おそらく音が小さくて聞こえないと想像したからです。ところが、5列目ですらあまりに小さくしか聞こえない音響に驚きました。

  チェンバロという楽器には、東京文化会館の小ホールですら広すぎるのだ。この楽器には十分すぎる残響をもった小さなサロンが適している。ある意味、ハープのソロを聞くときと同じ音場設定が必要なのだと思いました。

  そういう耳で聞いていると、やはりチェンバロの時代に書かれた曲には過剰な装飾音が多いことに気づきます。音の減衰が早く、楽器の残響が極端に少ないため、楽曲そのもののフレーズを饒舌にしないと持たないという配慮でしょう。

  バッハの時代にはピアノは完成していなかったものの、私たちはバッハの鍵盤楽曲をピアノの演奏で聞きなれています。それらをチェンバロで聞くと、音楽を表現するためのダイナミックレンジの幅が狭く、特にパルティータなどでは物足りなさを感じました。世界的なチェンバリスト、グスタフ・レオンハルトなどの演奏はCDで聞いていますが、オーディオ装置のボリュームはかなり上げています。

  しかし、今日の演奏の本質はアンコールの「ゴルトベルク変奏曲」第1曲のアリアを聞いてすべて納得できました。ひとつひとつの音符が、ゆっくりと丁寧に演奏されるゴルトベルク、チェンバロ独特の響きが音と音の合間で微妙なバイブレーションを形作りながら静かに天上へ向けて昇っていく。繊細な弦にそっと触れたときに紡ぎだされるかすかな音こそが、この楽器の本領なのだと理解しました。

  一歩外へ出れば刺激的な喧噪に包まれる都会の中で、この静寂は人間に必要なものです。とりわけ日曜日の午後ともなれば…。

  ゴルトベルクは全曲が家喜美子さんの演奏によってCD化されているので、ぜひ聞いてみたいと思いました。

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1 コメント

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チェンバロの響き (清水沼住人)
2010-07-08 11:04:25
クラシック倶楽部(7月8日BS2)で家喜美子とピエール・アンタイのチェンバロ・リサイタルが
放映されました。曲目は前者がバッハ、後者はクープランでしたが、この2人でチェンバロの
音が随分違いました。男女の差でしょうか?後者の音は力強いもので低音の響きは随分違いました。チェンバロの違いなのでしょうか?なお、御両人共グスタフ・レオンハルトに師事されたとのこと。
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