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夏祭りの喧騒が去り、いつの間にか朝夕には虫の声が聞こえるようになった。少し早いが、今日は秋の話。
秋をテーマにした歌には名曲が多い。特に「オータム・イン・ニューヨーク」や「セプテンバー・イン・ザ・レイン」はジャズの名曲中の名曲である。後者は、「九月の雨」と日本語で呼んだほうが、詩的な奥行きが出て、私は好きだ。
ジャズの名演奏で知られる秋の名曲の中では、なんといっても「枯葉」が一番だろう。ビル・エバンスの歴史的アルバム「ポートレート・イン・ジャズ」の中での「枯葉」は、夭折したベーシスト、スコット・ラファロとのインタープレイが出色で、ジャズの名盤選には必ず登場する逸品である。
「枯葉」は、もとはといえばシャンソンの名曲。ジョゼフ・コスマ作曲、ジャック・プレヴェール作詩という豪華な布陣だが、私は、この二人の名をスクリーンの上に見つけて驚いたことがある。
今から30年くらい前のこと、アテネ・フランセで映画会があった。上映された作品は、フランスを代表する名画「天井桟敷の人々」である。マルセル・カルネが1945年ドイツ占領下のフランスで撮影を敢行した大作。この映画の脚本がプレヴェール、音楽がコスマという「枯葉」コンビだった。
コスマの音楽もさることながら、プレヴェールの脚本は全編にわたって彼の詩人魂が横溢している素晴らしいもの。ジャン・ルイ・バローやアルレッティ、ピエール・ブラッスールら、フランスを代表する俳優の口をついてほとばしる台詞は、名優による詩の朗読を聞くようで、まさに娯楽性と芸術性が完璧に共存している稀有の映像作品といえる。
「枯葉」といえばイブ・モンタンやコラ・ボケールの名唱が有名だが、同じシャンソンの中に、「枯葉によせて」という作品がある。今でいうチョイ悪オヤジの元祖のような男、セルジュ・ゲンズブールが詩と曲を書いたもので、原題は「Chanson de Prevert」。枯葉の作詩者、ジャック・プレヴェールへの哀惜を切々と歌う名曲である。自作自演も素晴らしいが、ジュリエット・グレコ、コラ・ボケールの名唱も忘れがたい。やはり、美しく発音されるフランス語の響きは、何よりも詩と歌に向いているのだろう。特に愛を歌う言葉に…。
(写真はセルジュ・ゲンズブール)