りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

杏露酒。

2014-11-11 | Weblog
先日、冷蔵庫を開いたら、このお酒が入っていた。

杏露酒。

妻が近所のスーパーで買って来たらしい。
このお酒が我が家に来たのは、本当に久しぶりのことだ。
15年ぶりくらいだろうか。
その頃、ワタシはこのお酒を愛飲していた。
結婚して2年目くらいで、娘が生まれて間もない頃だった。

乳飲み子の頃の娘は、夜泣きがひどくて、妻は毎晩泣き叫ぶ娘を朝まで抱いて過ごした。
親になった人なら誰でもそうだと思うが、最初の子供はとにかく育て方が分からない。
今ならば、夜泣きが続くことは赤ちゃんの頃なら当たり前だと分かっている。
しかし当時は、自分たちの育て方はどこか間違っているのではないか?と疑心暗鬼にかられる毎日だった。
次第にワタシは仕事が終わっても家に帰るのが億劫になり、妻は夕方になると言葉にできないような不安に襲われるようになった。
たぶん当時のワタシ達は、ちょっとだけ育児ノイローゼになっていたのかもしれない。

娘が生まれて以来、そんな毎日が続いていたのだけど、それでもごくたまに、娘がまったく夜泣きをせずに、すんなりと眠ってくれる夜が訪れることがあった。
そんな夜は、娘が眠る居間の隣のキッチンの食卓に座って、妻と他愛もない話をしていた。
明かりを灯けると娘が起きてしまうかもしれないので、シンクの上の小さな照明だけを灯し、声もギリギリ聴き取れるほどのボソボソ声。
端から見れば、まるで夜逃げの計画をしている夫婦のように見えたかもしれない(笑)

そんな状況の中で、ワタシと妻は、娘のことやその日にあった出来事をお互い話していたのだけど、その時、決まってワタシと妻が飲んでいたのが、この杏露酒だった。

夕食の後、コップに氷を入れて、水で割って、ひと口含んだ。
アルコールとは思えない、甘くて柔らかな味が口の中に広がった。
あの薄暗い食卓で、誰にも聴き取れないような小声で、いったいどんな話をワタシと妻がしていたのか、今ではもうまったく思い出せないけど、当時のワタシは自身が
“父親”になったことを戸惑いながも懸命に受け入れようとしていた。
だからといって、15年後の今のワタシが、“父親”というものをしっかりと受け入れているのかと尋ねられたら、頭を掻きながら首を傾げてしまいそうになるが・・・。

考えてみれば、娘はあと5年で成人する。

いつかワタシも、娘と一緒にお酒を酌み交わす時が来るのだろうか。
もしそういう日が訪れたら、ワタシと娘はどんなお酒を飲むのだろう。
娘が生まれた年のワインなんかを買って飲むとか、そんな似合わねことを考えないこともない。
でも、たぶんワタシ達親子には、そんな洒落たワインよりも、娘の人生がはじまり、ワタシの人生が大きく変わったあの頃に愛飲していたこの杏露酒の方が、より似合っているのかもしれない。
コメント (2)
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