りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

家族の肖像。

2010-12-31 | Weblog
11月の上旬の日曜日。

僕は、近所の写真館で写真を撮った。
一緒に写真に収まったのは、僕の家族と弟家族と、そして両親。
総勢11名。
みんな正装して、少しこわばった顔にぎこちない微笑みを浮かべている。

時間はさらに遡って、今から約10年前。
僕の娘が1歳になり、弟夫婦に長男が生まれた直後のことだった。

「みんなで写真を撮りたい」

親父がそう言った。

「孫も生まれたことだし、みんなで撮りたい」

親父はその理由も口にした。
僕と弟は、笑って一蹴した。
たしかに子どもが生まれたことで、親父は祖父になり、僕と弟は人の親になった。
ここ数年で新しい家族が一気に増え、その“ポジション”も変わった。
写真を撮りたがった親父の気持ちは僕も弟も分からないわけではなかった。
しかし、まだ変わったばかりだ。

「まだ、俺も弟も子どもは1人だぞ。これからどうなるか分からん。もう少し待ってくれ」

当時30歳になったばかりだった僕は、極力優しい口調で頑固親父をそう説き伏せた。
僕の考えは、正解だった。
その翌年、弟夫婦に次男が生まれ、4年後に僕にも息子が出来きた。
もうそろそろいいかな・・・と思いはじめた2年前、弟夫婦に、もう一人男の子が
生まれた。

今年。

親父は70歳になった。
晩年、実家で一緒に暮らしていた母方の祖母が、9月に90歳で天国に召された。
僕は40代になり、厄年ど真ん中。弟も年男になり、一番末っ子の弟の子も
2歳になってカタコトの言葉を話しはじめた。

今年だ。
今年しか、ない。

僕は弟夫婦の了承を得て、親父とお袋に提案した。
2人とも、是非もなかった。

当日。

なぜ写真を撮るのか今ひとつ飲み込めない子どもたちを連れて、写真館に向かった。
撮影は、予想以上に順調に進んだ。
子どもたちが愚図ったりして、1時間は費やすと思っていたのに、30分もかからなかった。

今月の上旬、写真が出来あがった。
僕は写真館で写真を受け取ると、出来たてホヤホヤの写真を持ってその足で実家に向かった。

親父に渡すと、嬉しいくせにそれを顔に出さず、写真を袋から出し、静かに見つめ続けた。
その後ろで、お袋が嬉しそうに眼を細くして親父と同じように静かに写真をみつめていた。

「お前らのは、ないんか?」

僕は頷いた。

「じゃあ、ワシらが金を出すけぇ、焼き増ししてもらってこい」

親父は気を遣ってそう言ったが、僕は即座に断った。
別に心になく遠慮したわけでも、焼き増しの予算がなかったわけでもない。

要らない、と思ったのだ。

この写真は、親父の写真だ。
そこに映っているのは、親父とお袋が60年、70年という年月を必死で生きてきて作りあげた、
世界でたったひとつの、家族だ。
この写真は、そのささやかな証しなのだ。

今の僕と弟には、必要ない。

僕も弟も、今、その真っ最中なのだ。
自分の家族を必死に作っている、そのど真ん中にいるのだ。
だから僕と弟が家族で写真を撮る時は、まだまだ先の話だ。
僕らが60歳や70歳になった時、その時には自分の子どもたちにお金を出させて、
そして可愛い孫たちを膝に抱いて、遠慮なく写真を撮らせてもらう。

僕と弟は、自分が作った家族で、写真を撮る。

・・・僕は親父にそう言って、丁重に断った。
頑固な親父は、少し納得のいかない表情を浮かべながら僕の話を聞いていたが、それでも
最後には渋々ながら同意し、そして噛み締めるような小さな声で「ありがとう」という言葉を、
口からこぼした。

今年もいろんなことがあった。
社会的にも。個人的にも。
良いこともあれば、悪いこともあった。

来年も、いろんなことがあるだろう。
社会的にも。個人的にも。
良いことも。悪いことも。
それでも、僕は、今までどおり家族を作ってゆくだろう。
そしてその家族を母港に、僕は自分の道を自分の足で、来年も歩いてゆきたい。
そう、思う。

履きつぶしてボロボロになった今年の靴は、靴箱の中にそっと仕舞った。
そして、今、僕は新しい靴をおろして、その靴に新しい紐を通している。
新しい年のために。
新しい道を歩くために。

今年もみなさん、ありがとうございました。
来年も宜しくお願い致します。

よいお年を。
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宴。

2010-12-30 | Weblog
昨夜はバカども・・・もとい(笑)、旧友達やその知人たちと飲み会

メンバーは旧知の仲だし、新しく知り合った人は、見事に旧友たちと
同じ波長の人だったので(笑)、もう徹底的に今年の憂さを晴らすかの
ようなバカ騒ぎ

理屈抜きで、楽しい。
もう、それだけ。
そうとしか言えない(笑)

今回のメンバーで最大の出色は、友人の娘の“彼氏”が参加したこと。
友人の彼氏、じゃないよ。友人の“娘”の彼氏。
その娘の父親とは保育所からの仲だし、娘も生後3ヶ月の赤ん坊の頃から
知っている。
だから僕としては、今日の飲み会は、勝手に親戚のおじさんのような
感覚で臨んだ(笑)
“どんなヤローなんだ、オウ”って感じで(^_^;)

でも、予想に反して(失礼)、メッチャ、ナイスガイでした

今や、ほとんど絶滅危惧種のようなものすごい好青年
順調にいけば、近い将来結婚するかもしれないとも。
うん、いいんじゃないか。彼なら。
勝手に親戚のおじさんの感覚になって、勝手にそう安心している自分がいた(笑)
しかし、俺らはまだ41歳だぜ。
なのに、もうそんな事が周囲で起こりはじめてるなんて・・・

楽しい話の連続で、大笑いで腸が裂けそうになりながらも、ちょっと感慨にふけった、
今年最後(たぶん)の宴でした
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百ヶ日。

2010-12-29 | Weblog
今日は、9月に亡くなった祖母の百ヶ日法要。


早いような、遅いような・・・。


寒風の中、花を供え線香に火を点す。


もう、遠い空の上で、祖父や早逝した叔父達と再会しただろうか。


おばあちゃん、色々あった今年ももうすぐ終わるよ。
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怠惰日和。

2010-12-28 | Weblog
なんちゅ~、ネガティブなタイトル(爆)

でもホントだから、仕方がない(^_^;)
今日は年末年始休暇の一日目。

8時30分・起床。
テレビのワイドショーでは大桃美代子と麻木久仁子の
痴話喧嘩を大々的に放送してた・・・・
・・・先日の海老蔵の事件といい、今回の一件といい、
それがどれだけの価値がある情報なのか?
いったい、この国はどうなっとるんだ

9:30・整体へ。
ここ数日の気温の低さが堪えたのか、腰痛が酷くなった
ような気がする。
そこで、週に1~2回通っている整体へ。
“うわぁ、腰がカチカチですねぇ”と先生にも呆れられる(笑)
どうやら気温が暖かくなるまでは、この腰痛と上手く付き
合ってゆくしか手立てはなさそう
早く春になれ~

11:00・帰宅
それと交代するように、妻と息子が外出。
2日前から義理の妹の家に泊まりに行っている娘を
迎えに行くとのこと。
「昼ごはんは?」と僕が尋ねると、食卓にレトルトのカレーと
焼きそばUFOが・・・
「好きな方を食べていいよ」と妻が言ったので、両方食べてやった(爆)

12:30・部屋
今、新しい小説を書いている。
短編小説。
プロットはほぼ8割方できあがっているので数日前から、パソコンで
書きはじめた・・・が、思ったよりあまり筆が進まない。
こういう時は、焦らない方がいい。
ということで、このブログを書いている(笑)

13:00・クルマ屋さんに電話
今日、愛車Twinの修理が終わる予定。
具体的な受け取り時間を尋ねる。
すると「もうすぐ出来ますよ~」と社長が軽快な口調で
答えてくれた。
その返事を受けて、午後3時に受け取りに行くことに。
いいですね、朗報は。少し腰痛が軽くなった気がするもん
心と体は、やっぱり二律背反なんだな。痛感。

13:15・妻よりメール着信。
義妹宅に到着。雨風が強いのでベランダの洗濯物を入れて欲しいとの指示(命令)。
ベランダに出ると、季節外れの雨風。ほとんど暴風雨。
刺すような寒風と限りなく雪に近い雨の中、洗濯物を屋内へ撤収。
気がつくと、さっき軽くなったはずの腰痛が・・・
心と体、やっぱり二律背反なんだよ。絶対。痛感。
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仕事納め。

2010-12-27 | Weblog
僕が勤める会社は、今日が仕事納め。

諸事情で休みが1日前倒しになったおかげで、
年末年始休暇が、例年より1日増えた

たった1日でも、自由になる時間が増えるのは、素直に嬉しい。
それは、やっぱり20年“大人”として生きてきて、
時間の大切さが身に染みて分かったからだろう。

しかし、休みが増えたからといって、結局例年どおり、
家の用事や親戚つきあいや、地区の行事に忙殺されて
あっという間に過ぎてしまう事は、休む前から、
もうだいたい察しているけど(笑)

さ、今日は今年中に片付けなきゃいけない仕事を終わらせて、
来年にまたぐ仕事の事前準備と整理をして、午後から大掃除。

来年は3月まで大きな仕事が目白押しだから、忙しくなる。

がんばれよ、りきる
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代車。

2010-12-26 | Weblog
昨日、また、事故った。

前回は、追突事故だったが、今回は一人相撲。
買い物に出かけ、駐車した車を出そうとした時、
車の横に設置してあった鉄柱に前方部をぶつけてしまった・・・。

外に出て見ると、先日直したばかりのフロントバンパーが外れ、
その下のリップスポイラー、バンパーに見事な文様の傷が
彫られていた・・・・onz

はぁ~~~~~~~。

なんちゅー、クリスマスプレゼントや

すぐにクルマ屋に飛び込んだ。
みんな「お身体は大丈夫でした?」とか「お気の毒に」と口にしながら
笑って迎えてくれたが、僕としては申し訳ない気持ちでいっぱい
せっかく、先日の事故で廃車寸前に陥った状態から見事に蘇らせてくださった
ばかりなのに・・・

「本当に申し訳ありません」と僕が詫びると、
「謝ることないですよ~、長いこと仕事やってると分かるんです」
「何がですか?」
「続くんですよ、こういうことって」
「え?」
「一回事故るとね、なぜか続けざまに事故ってしまう人が意外と多い・・・そう
いうお客さん、いっぱいうちにもいらっしゃる」

それが本当なのか、それとも僕を慰めるための方便なのか分からないが、
10数年のつき合いになるクルマ屋の社長は、僕にそう言った。

愛車は明後日までには直してくれるという。
クルマ屋さんだって、もう仕事量も気持ちも、半分正月休みだったはずだ。

「イヤなことは今年中に片づけちゃいましょう

社長は、軽い口調でそう言った。
口調が軽くなればなるほど、僕の心の中には申し訳ない気持ちが重積していった。

でも、本当にありがたいとも思った。

今回の一件で、妻をはじめ、いろんな方に僕はまた迷惑と心配をかけた。
そしてその度に、いろんな周囲の方々が心配し、助けてくださる。
普段は気にしていないそのことが、こんな事態になって初めてハッキリと露呈し、
そして痛感する。本当に皮肉だと思う。

車が直る明後日までは、代車だ。
今年ほど代車に乗った回数が多い年もない。
来年は、車検の時以外は、代車に乗らない年にしたい。
心の底からそう思う。
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HEART IS GUN ~ピストルを手に入れた夜~

2010-12-25 | Weblog
昔、チェッカーズのナンバーで、そういうタイトルの歌があった。

今日、生まれて初めて、ピストルを握った。
ずっしりと、今まで感じたことがない感覚の重みが手のひらに広がった。

握りしめていると、身体の中心軸に鈍い熱が生まれる。そんな重みだ。

銃創に弾をつめ、安全装置を外して、両手でグリップを握り、
部屋の鉄製の扉に貼った標的に向かって、手を伸ばす。

引き金を、引いた。

乾いた音と衝撃とともに、銃口から弾が飛び出した。
弾は扉の標的から大きく外れ、ノブの下の方に当たった。
グリップを握りしめていた手が痺れ、思わずピストルを床に落とした・・・・



ウソだよーーーーーん



写真のピストルは、昨日、とあるフリーランスのデザイナーさんの事務所へ
顔を出した時、見せてもらった“おもちゃ”のピストル。

しかし“おもちゃ”と言っても、鉄製で本当にずっしりと重い。
見た目も、本物と変わらない。
だから、絶対に外に持ち出せない
もしも、持ち出して見つかったら、確実に職務質問です(爆)

でも、昨日見せてもらった時は、「ウワ―――」という感嘆と歓喜が
混じった声をあげてしまった。
それからは、嬉々としながら仕組みをしげしげ眺めたり、いろんなピストルを
打つ格好をしたり・・・やっぱり、僕も男だね。

何歳になっても、こういうオモチャが好きなのだ
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Do They Know It's Christmas?

2010-12-24 | Weblog
あれはもう、今から26年も前の事だ。

僕は15歳。中学3年生。
翌年に、高校受験を控えていた。
生まれて初めての“人生の選択”を目前に控えて、それまでのヤンチャな
自分を封印して、周りの同級生たちと同じように僕は勉強机に向かっていた。

1984年12月24日。

その夜、僕は塾にいた。
英語や数学や古文や世界史の教科書や問題集と何時間もにらめっこ。
授業が終わった時、時計の針は午後9時をとっくに過ぎていた。
建物の外へ出ると、年末の乾いた寒さが全身に染み込んだ。

自転車置き場で自分の自転車に鍵を差し込み、両手に手袋をつける。
寒風と暗闇の中、これから片道2kmほどの距離を、自宅に向かって自転車で
帰らなければいけない。
僕は手袋をつけた両手をスタジャンのポケットに突っ込んだまま、真っ暗な
夜空を見上げた後、ため息をひとつ、落とした。
吐き出した白い息が、漆黒の闇に溶けてゆく。

「俺、何やってるんだろう・・・?」

クリスマスも冬休みもへったくれもなかった15歳の少年の僕は、その時初めて
“虚しさ”というものを感じたのかもしれない。

自転車のスタンドを蹴り上げて、最後の力を振り絞るようにハンドルを押し
出したその瞬間だった。

誰かが僕の名を、呼んだ。

しかし周りには誰もいなかった。僕だけだった。
一緒に塾で勉強していた同級生たちは、授業が終わると同時に、どこにそんな
余力が残っていたのか?と呆れてしまうほどの信じられないスピードで家路に
ついていた。
僕はもう一度、周囲を見回した。
空耳か?
15歳なりにクタクタに疲れながらそう思っていると、5mほど先、道を挟んで
反対側にある自動販売機の前で、僕の視線は止まった。

誰か、いた。

その誰かが、僕をみつめていた。
僕も、その誰かをみつめた。

不審そうに僕がしばらくその誰かを凝視していると、その誰かが胸の辺りで
小さく手を振った。
僕はまだ半信半疑のまま、それでも自転車のスタンドをもう一度戻し、自動
販売機の前にたたずむ誰かの元へ、吸い寄せられるようにゆっくりと近づいた。

顔は、見えない。
その誰かは、暗闇に光る自動販売機の逆光を背に受けて、その輪郭だけを夜の
とばりの中に、ぼんやりと浮かび上がらせていた。
しかしその輪郭だけで、あることが分かった。
華奢な身体つきと緩やかに膝下まで広がったスカート。
首の辺りが大きく膨らんでいるのは、たぶんマフラーを巻いているからだろう。

その誰かは、明らかに、女の子だった。

自動販売機から1mほど、指呼の距離まで近づいた。
その時、その女の子が誰なのか、やっと僕には分かった。

「K・・・か?」

僕は、女の子の前に立つと、おそるおそる彼女の名字を口にした。
女の子は、僕の言葉にコクリと頷いた。

Kは、同じ中学の同級生だった。
しかも、同じ塾に通っていた。
しかし僕や彼女が通っていたその塾は、男女が別々に勉強するという、ちょっと
変則的な塾だった。男子が月・水・金、女子は、火・木・土、というスケジュールで、
冬休みに入って受験シーズンが目前になると、女子は毎日午前から昼過ぎまで、男子は
毎日夕方から夜まで、という強行的なスケジュールになっていた。
だから同じ塾に通っていたといっても、自動販売機の前に立っている同級生の彼女は、
今日も昼間に塾で勉強していたはずで、男子が勉強するこの時間帯にはいるはずが
なかったし、実際に僕が勉強していた時、塾の教室にもいなかった。

「どうしたんな?・・・塾、もう終わったで」

僕も気が動転していたのだろう。
Kに向かって当たり前のことを口にすることしかできなかった。
それでもKは、僕のありきたりの言葉にまたコクリと頷いた。
僕を呼び止めた誰かが顔見知りの同級生だったことに、僕は少し安堵したのかも
しれない。そんなぎこちないやり取りをしている間にも、少しずつ、僕とKの間に
流れていた奇妙な緊張感をともなった空気が和らぎはじめていたことを、僕は感じ
ていた。
少し落ちつきを取り戻した僕は、あらためてKの顔に目を向けた。
暗闇に浮かぶKの顔は、戸惑いと照れと緊張が微妙に入り混じった何とも形容しが
たい表情をしていた。見ようによっては、今にも泣き出しそうにも見えた。
長い睫毛が並ぶ両目は細かい瞬きを繰り返し、口からは浅い呼吸をするたびに、
白い吐息がこぼれている。そして、小さな鼻の先は少し赤みを帯びていた。
・・・ずっと、ここに居たのだろうか。

「ごめんね」

突然、Kがそう言った。少し声がかすれていた。
僕は、何が「ごめんね」なのか、合点がいかなかった。

「何な?」

だから、そんな間抜けな返事しかできなかった。
再び、僕とKの間に奇妙な緊張感が戻ってきた。
何なんだ?どうすればいいんだ??何でなんだ・・・???
その場を上手く取り繕う言動なんて、15歳の僕の脳みそをどこまで掘り下げても
見つかりなんてしなかった。
短時間のうちに、奇妙な緊張感はどんどんその重力を増していった。
その時だった。

「あの・・・これ」

Kが独り言のように呟きながら、片手に持っていたバッグの中から何かを取り出し、
僕に向かって差し出した。
それは、手のひらに乗るほどの小さな箱だった。
自動販売機の灯りに照らされたその箱は、淡いクリーム色の包装紙に包まれていて、
その上に赤いリボンがチョコンと遠慮がちに付けられていた。
僕は、まるで催眠術にかかったように、何も躊躇することなく、無意識のうちに、
その小さな箱を受け取った。
それでも、何も言葉が出てこなかった。
相変わらず、頭の中では“何なんだ?どうすればいいんだ??何でなんだ???”
という疑問符だけが、誰も乗っていないメリー・ゴー・ラウンドのようにクルクル
クルクルと空周りするだけだったのだ。

「あ、それと・・・これも」

Kはバッグの中を焦ったようにゴソゴソと探ると、一枚の袋を取り出し、また僕に
差し出した。
目に焼きつくような赤と黒のコントラストが印象的なビニール製の袋。
それは、尾道に暮らす人なら誰でも知っているレコード屋の袋だった。
その中身がレコードだということは、さすがの僕にも察することができた。

「え、これ・・・?」

なんとか脳みそを振り絞って出した僕の言葉を、少し早口気味のKの言葉が遮った。

「もしかしたら、もう持ってるかも知れんけど・・・ごめんね」
「え?あ・・・うん」
「あ、あと、さっきの箱は、美味しくなかったら食べんでええけぇね」
「う、うん・・・」
「ごめんね・・・早く帰りたいのに・・・ごめんね」
「うん・・・いや・・・うん」

まるでKの一方的な誘導尋問のような会話がひと通り終わると、僕はいそいそと、
再び自分の自転車に向かった。
スタンドを上げて、サドルに股がって、自宅の方向へ自転車を向けた。
そしてペダルを漕ぐ前に、僕は振り返って、もう一度自動販売機の方を見た。
すると、そこには、まだ、Kがいた。
Kは僕が振り返ったことに気づくと、最初の時のように、胸元で小さく手を振った。
僕はKに向かって、片手を上げた。
それがその時の僕にできた、精一杯の行動だった。

家に帰って、箱を開いた。

そこには、明らかに手作りのクッキーと、小さな手紙が入っていた。
そしてレコード屋の袋の中には、とあるシングルレコードが入っていた。

BAND AIDの「Do They Know It's Christmas?」

その年の晩秋、音楽好きの僕にビッグニュースが飛び込んできた。
当時アフリカで起こっていた未曾有の飢餓で苦しむ子どもたちを助けるために、
イギリスのミュージシャンたちがチャリティーの歌を作った、というニュースだった。
そのレコーディング風景を放送していたテレビ番組を、僕は偶然視た。
ポール・ヤング、ボーイ・ジョージ、スティング、U2、デュランデュラン・・・etc.
80年代を代表する錚々たるUKのミュージシャンたちが、レコーディングスタジオに
設置されたひとつのマイクの前で一緒に歌っていた。
僕は、テレビの前で発狂寸前になった。
翌日、学校に行った僕は、クラスのみんなに、まるで自分がその場にいたような
口調で自慢気に吹聴した。
当時はインターネットも携帯電話も、まだドラえもんの道具のような時代である。
情報の伝達速度は、今の数倍も遅かった。
だから、こんなとてつもない特ダネを握っている同級生は誰一人いなかった。
僕の話を聞いた同級生たちの反応は様々だった。
あるヤツは僕のウィルスが感染したように興奮し、あるヤツは、“そんな夢のような
ことが、実現するわけがない”と、ハナから疑ってかかった。
しかし、それは本当だった。
その年の12月、ラジオから繰り返し繰り返し“夢のような歌”は流れ続けた。

僕は、レコードプレーヤーにKからもらったレコードを置き、そしてKからもらった
手作りのクッキーを食べながら、何度も何度もターンテーブルを廻して、BAND AIDの
「Do They Know It's Christmas?」を聴き続けた。

レコードを聴きながら、思った。
たぶん、おそらく、きっと、僕が教室で「夢のような歌が出る!!」と大騒ぎしていた姿を、
Kは教室の片隅から静かに見ていたのだろう。
僕はKからの手紙を読み返した。
小さな手紙には、こんな一文が書かれていた。

「りきる君が言っていた“夢のような歌”、本当だったね。りきる君の夢も叶うといいね・・・」

翌年の春、僕は志望校に合格した。
尾道でもちょっとした進学校だった。僕の夢が叶ったわけだ。

ボブ・ゲルドフという、ほぼ無名に近かった一人のミュージシャンの発案がきっかけで誕生
したBAND AIDは、その後、一種の社会現象となり、その波はイギリスからアメリカに伝播し、
翌年の1985年にはあの「USA for AFRICA」を産むことになった。そして、同じ年の夏には、
アメリカとイギリスを舞台にした伝説的なライブ「LIVE AID」へとつながっていった。
たった一人の人間の妄想のような夢が、世界のロックシーンを動かしてしまったのだ。

あれから。

志望校に進学した僕は、3年間の高校生活を経て、大学生となり、実家を出て一人暮らしを
はじめた。そして高校時代に芽生え、僕の新しい“夢”としてずっと暖め続けた“広告業界への
就職”を、大学卒業と同時に実現させ、それから20年近い年月が過ぎた今も、日々悩み、迷い、
葛藤を繰り返しながらも、どうにか生き残って、その世界で生きている。

Kからもらったレコードは、もう20年以上、目にしていない。
おそらく、実家のかつて僕の部屋だった押し入れの段ボールの中で、あの頃格闘していた
教科書や問題集たちと一緒に、今も静かに眠っているはずだ。
しかし「Do They Know It's Christmas?」を、僕は忘れてしまったわけではない。
あの頃、黒い塩化ビニールのレコード盤だった「Do They Know It's Christmas?」は、
今ではデジタル信号にその姿を変え、何百曲とインストールされた、昔と比べて100円
ライターのように小さくなったウォークマンの中の1曲として、いつも僕のそばにある。

Kは、僕とは別の高校へ進学した。
おとなしく静かで目立たない女の子だったKが、今、どこで何をしているのか、分からない。
旧友たちに消息を尋ねても、誰一人、彼女の近況を知っているヤツはいなかった。
でも・・・と、僕は思う。
でも、彼女のことだから、きっとどこかで素敵な男性と巡りあって、幸せな家庭を築いているに
違いない。
少なからず、僕はそう信じたい。

そして、いつか。

もしもKと再会できる日がくるならば、その時には、今度こそ、ちゃんと彼女の目をみつめて
「あの時はごめん。本当にありがとう」とお詫びとお礼を言い、そしてちょっとキザだけど、
自信を持って、僕はこう言うだろう。


「夢は、必ず叶う。そして、つながってゆく。 BAND AIDが、そうだったように」


Dreams come true & I wish you a merry christmas.



BAND AID 「Do They Know It's Christmas?」
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パワースポットねぇ・・・。

2010-12-22 | Weblog
今日は、冬至。
一年で最も日照時間が短い日。

今日、夕方に行きたい所がある。
おそらく、仕事で行けないだろうけど・・・。
それは、僕が暮らす町にあるとある山だ。
その山の山頂付近には、とてつもない巨石がある↓


この山の巨石に関することは、昨年のこの時期にもこのブログに書いた。
上記の写真の巨石は、真正面(という表現が適切かどうか分からないが)から見ると
写真のようなキレイな宝珠のような岩なのだが、横から見ると、真っ二つに割れていて
(しかも完全な垂直!つまり人工的な施工)、冬至の日は、その割れ目から日は昇り、
そして同じ割れ目に日は沈む↓


僕はずいぶん前にこのことを文献で知って、数年前から冬至前後の日には
それを確かめにこの山に登っていた。
初めてそれを肉眼で確認できた時は、太古の不思議と浪漫と自然の驚異に、
少なからず感動した。
その頃は、山は雑草と樹木が生い茂り、山頂に登るにはケモノ道のような山道を
歩かなくてはいけなかった。

しかし一昨年あたりに、地元の商工会が巨石の周囲の雑草や樹木を伐採し、
上記の写真のように、麓からも、また山頂からもその巨石が丸見えの状態になった。
おそらく、昨今のパワースポットブームの恩恵を受けようと思ったようだ。

パワースポットか・・・。

たしかにそういう場所はあるんだろうし、ここもいわゆるその類いかもしれないが、
正直言って、イヤな言葉だ。
何がイヤって、そこに行けば、自分が抱えるすべての問題が解決したり、うまく事が
運ぶような意味をその言葉に内包しているような気がする。

なんだか、他力本願の匂いがするのが、イヤなのだ。

それに、太古の遺跡や現代の科学では説明できない場所は、すべて一括りで「パワー
スポット」で片付けているような感じもする。

上記のこの巨石群を、太古の人々がそんなつもりで築いたとは到底思えない。
第一、そんな安易な気持ちでその場に行くのは、とんでもなく無礼な行為のように
僕は感じる。

時代が不況になると、こういう場所への興味や関心が高まる傾向があると聞いたことがある。
早く、“パワースポット”という言葉が死語になって、にわか歴史マニアがいなくなってくれる
事を望む。
にわか歴史マニア・・・僕も、その中にいたりして(爆)
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やっぱり、好き。

2010-12-21 | Weblog
ショート・ボブっていうのかな?
このヘアスタイル、昔っから大好きなんだよ

やっぱり・・・・キレイだよなぁ

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101220-00000309-oric-ent
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