ひろむしの知りたがり日記

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「燃えよ!カンフー」の敵を「キル・ビル」で討て!(3) ─ 「キル・ビル」編

2014年05月20日 | 日記
デイビッド・キャラダインに、別段悪意はなかったでしょう。そもそも「燃えよ!カンフー」の制作者側に、ブルース・リーを使う意思はまったくありませんでしたし、キャラダイン自身はブルースのことをほとんど知らなかっただろうと思います。彼は主役としてこの功夫西部劇を6シーズンも続くヒット・ドラマにした立役者であり、そのキャリアから見て、「サイレントフルート」への起用は至極妥当な選択だったでしょう。まして、彼は正真正銘の白人ですから、たとえスポンサーに人種的な偏見があったとしても、文句の出ることはありません。
このように、理屈から見ればキャラダインが責められるいわれはなにもないのですが、わかっていても収まりがつかないのが感情というものです。「デイビッド・キャラダインを殺せ」というフレーズは、ブルース・リーファンの間でさながら呪文のように唱えられ続けることになります。

「サイレントフルート」から25年あまり、キャラダインはクエンティン・タランティーノ監督作品「キル・ビル」(KILL BILL)に出演します。2003年公開のVol.1と、翌年に公開されたVol.2の2本から成るこの映画において、彼の役は「毒ヘビ暗殺団」の首領でユマ・サーマン演じる主人公ザ・ブライドが命を狙う標的のビルです。ザ・ブライドは、時に1978年公開の「死亡遊戯」でブルースが着た黄色に黒い線の入ったトラックスーツとよく似た衣装に身を包み、さまざまな武闘術に長けた敵と壮絶なバトルを繰り広げます。

  
  「キル・ビル」Vol.1。「死亡遊戯」を連想させる黄色に黒い線の入った衣装で闘うザ・ブライド

暗殺団最強と謳われた殺し屋ザ・ブライドは、テキサス州エル・パソの小さな教会で結婚式のリハーサルをしていました。突然、その場に現れたビルは、「サイレントフルート」に登場する盲目の武術家よろしく横笛を奏でます(ブルーレイの特典映像で、「燃えよ!カンフー」で使ったものだとキャラダインが語っています)。結婚を祝福するかのような素振りを見せていたビルですが、実は自分を裏切って組織を去ったザ・ブライドのことを許してはいませんでした。彼とその手下たちは教会を襲撃し、花婿をはじめ出席者を全員惨殺します。さらにお腹にビルの子を宿していたザ・ブライドも、拳銃で頭を撃ち抜かれて瀕死の状態に陥りました。4年間の昏睡から奇跡的に目覚めた彼女は、暗殺団のメンバー5人に復讐することを誓います。

彼女はまず沖縄へ飛び、ビルの師で、今は寿司屋に身をやつしている刀匠の服部半蔵(千葉真一。この役柄は、千葉が1980年に始まり、長くシリーズ化されたTV時代劇「服部半蔵 影の軍団」で演じた同名の主人公の子孫を想定しています)に、最高傑作と自認する名刀を作ってもらいました。それを手に、暴力団組織の頂点に君臨するオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)が宴会を開く東京の青葉屋に乗り込みます。
オーレン配下の武闘集団クレイジー88は、全員1966年から67年にかけて放映されたTVドラマ「グリーン・ホーネット」で、ブルース演じるカトーがしていたのと同じ仮面を装着していました。ナレーションでサーマンは、これを「ケイトー(カトー)・マスク」と呼んでいます。ちなみに、ザ・ブライドが那覇から飛行機に乗って東京の青葉屋へ向かう際のBGMには、「グリーン・ホーネット」のテーマ曲が使われています。
クレイジー88や鋸が仕込まれた鉄球のついた鎖を振り回す少女ゴーゴー夕張(栗山千明)を血祭りにあげ、雪の降り積もる日本庭園でオーレンと日本刀で斬り合い、激闘の末に頭頂部を切断して殺します。

次にナイフの使い手ヴァニータ・グリーン(ヴィヴィカ・A・フォックス)をカリフォルニア州パサデナの彼女の自宅に襲い、娘の眼前で殺害し、残る標的を求めてテキサスの荒野に向かいました。そこにはストリップ・クラブの用心棒に落ちぶれたビルの弟バド(マイケル・マドセン)が、薄汚いトレーラーで酒浸りの日々を送っていました。彼を殺そうとして返り討ちにあったザ・ブライドは、墓場の土中に生き埋めにされます。しかし中国の僧パイ・メイ(ゴードン・リュー)のもとでの厳しい武術修行を思い出し、拳で棺桶の蓋を突き破り、地上に出ることに成功しました。
一方バドは、ザ・ブライドの代わりにビルの愛人の座に収まっていた隻眼の女、エル・ドライバー(ダリル・ハンナ)にザ・ブライドの刀を高額で売りつけようとしますが、札束の詰まったトランクに彼女が潜ませておいた毒ヘビに噛まれて命を落とします。その直後にザ・ブライドは、バドが持っていたもう1本の半蔵の刀を取ってエルと死闘を演じ、彼女の残っていたもう片方の目をえぐり取りました。
ザ・ブライドは、いよいよビルの許へたどり着きます。そこで彼女は、死んだと思っていた子どもが生きていることを知りました。それでもなお彼女は全てに決着をつけるべく、ビルとの最後の闘いに臨むのです。

  
  「キル・ビル」Vol.2。ビルとザ・ブライドは、お互いに愛情を感じつつも、生死を賭けて闘います

「キル・ビル」には、映画大好き人間のタランティーノが、愛してやまないカンフー映画や任侠映画、マカロニウエスタンといった過去の作品へのオマージュが思いっきり詰め込まれています。ブルース・リー映画もそのうちの1要素に過ぎなかったかもしれません。そもそも当初の予定では、ウォーレン・ベイティがビルを演じるはずでした。しかし、ビル役を降りたベイティの推薦でキャラダインが起用されたことによって、この作品はにわかにブルースファンの恨みを買ったキャラダインへの復讐劇というテーストを帯びることになります。
ビル=キャラダインに止めを刺したのが刀でも銃でもなく、パイ・メイから教わった中国拳法の秘技だったというのも、あくまで素手での闘いにこだわったブルースの敵討ちという見方をすれば、なんとなく得心がいくような気もします(もっともスクリーンの中のブルースは、秘技などというものは一切使わず、単純にしてスピードとパワーで敵を制する攻撃に徹していましたが・・・)。

「キル・ビル」で、愛する女性に殺される男を演じるだけでは禊を果たすことができなかったのか、Vol.2の公開から5年後の2009年に、キャラダインを突然の不幸が襲います。6月4日、映画出演のために滞在していたタイ・バンコクのホテルで、彼が変死しているのが発見されました。自慰中の事故死だったそうです。
あまりといえばあまりな最期でした。これが祟りだったとは思いたくありませんが、ブルースの夢の跡を引き継いでスターになった男は、その悲運までも引き継いでしまったのかもしれません。


【参考文献】
STUDIO 28監修『アクション・ムービー究極大鑑』ぴあ、2004年
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
柴山幹郎著『アメリカ映画風雲録』朝日新聞出版、2008年

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