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お仕事どんぶり

正社員、契約社員、派遣社員、嘱託社員、アルバイト・・・
経験してきた「仕事」と日々の生活についての記録です。

ガラポン狂想曲 その19

2005年10月16日 11時27分19秒 | 仕事あれこれ
アイコさんはSCでの打ち合わせが終わった後、クイズの問題を
作ったり、ガラポン抽選会の景品を手配する一方で、お役所の
ロビーで「クールビズ」の展示をする現場の最終準備にもかかって
いた。もう、やることが目一杯でアイコさんは残業し通しだった。

展示パネルは、何枚かは完成品を現場で受け取る手はずになって
いる。ただし、予定よりかなり入稿が遅れたことで、大きな展示
パネルは製作が間に合わず、現場で展示装飾業者さんが直接
ハレパネに貼る作業をすることになった。

ハレパネは糊付きのスチレンボードで、ポスターなどを貼り込むと
格好良く展示できる。

いよいよ、お役所のロビーで設営の日になって、私とアイコさんは
退庁時間後の蒸し暑いロビーで、展示装飾業者さんができたばかりの
展示パネルをユニバーサルスタンドで飾ったり、パンフレット等を
展示台に並べるように指示をしていた。
アイコさんの苦労の賜物が、やっと形になったのだ。

作業が始まってしばらくしてから、「お役人様」が様子を見に来た。
展示パネルの内容について、アイコさんともめたことはもうなかった
かのように、現場の様子を見ている。

責任者である「お役人様」は、この作業が終わるまでは退庁できない。
現場でB1サイズのハレパネに貼込み作業をしていた、若手の展示
装飾業者さんの作業ペースが遅く、「お役人様」は少しイライラ
し始めていた。

時計を見ながら、アイコさんに終了時間の目処を何度も聞いている。
少しでも早く作業を終わらせるため、私はアイコさんに手伝って
もらいながら、ハレパネに出力紙を貼り始めた。

靴を脱ぎ、床に這いつくばって、冷房の止まったロビーでパネル
貼りをする私を見て、アイコさんは「私もできるようにならないと
いけませんか?」と小声で不安げに聞いてきた。
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ガラポン狂想曲 その18

2005年10月15日 10時45分50秒 | 仕事あれこれ
工場の跡地に建設されたというそのSCには、さびれた感じの
最寄り駅からシャトルバスで向かう。いざ、会場となるSCが
見えてくると、その規模の大きさに驚いた。敷地内には、SCの
他に、ホームセンター、シネマコンプレックス、家具の量販店等が
あり、駐車場は4000台以上収容可能だ。そのエリアだけが
再開発でぴかぴかした感じになっていた。

関係者用の通用口から事務所棟へ入り、受付を済ませて薄暗い
廊下を案内される。ショッピングエリアの明るさとは対照的な、
経費節約モード全開の事務所だ。

打ち合わせには、アイコさんがあらかじめ連絡を取っていた
施設使用を管理する担当者の他に、SCの販売促進の担当者と、
その上長が参加した。

相手は「業者は使いたおしてなんぼ」の世界を生きる男性たちだ。
こちらは「お役人様」という虎の威を借る女狐軍団のつもりだったが、
3人の男性の視線に射すくめられて、アイコさんは説明しようにも、
緊張のためかうまく言葉が出てこない。

 会社で冗談を言っている時のように、普通にお話するんだ、
 アイコさん。小柄で清楚な雰囲気のあなたには、私にはない
 「可愛げ」がある。にっこり笑って目の前の男性を籠絡するんだ!

私の願いは空しく、しらっとした空気が流れ、「本題を聞かせて
もらいましょうか」というSC担当者の言葉にせっつかれて、アイコ
さんは資料を各人に配り、私の方をちらっと見た。
無音の時間の重苦しさに耐えられなくなった私は、アイコさんと
掛け合いで説明を始めた。

ちゃんとした役職のついたポカリ課長が説明をすれば、話はもっと
早いかもしれないと思いつつ、「この素敵なSCで、クイズラリー+
ガラポン抽選会をやらせて欲しい。出来れば会場費はタダで」という
虫の良いお願いをしたところ、あっさりOKになった。
こういう場合の「お役所」のネームバリューと「地球温暖化防止」と
いうお題目のパワーは効果てきめんだ。

具体的な搬入スケジュールなどは後日アイコさんがSC担当者と
やり取りをすることとなり、SCにおけるクールビズ効果などについて
世間話をして、私たちは事務所を後にした。

帰り際、こちらが用意した資料を「ゴミになるから持ち帰って」と
言われ、ちょっとしょんぼりした。
「ゴミ」と呼ばれた資料を作成したアイコさんは、なおさら傷ついた
ことだろうと思う。
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ガラポン狂想曲 その17

2005年10月14日 09時35分03秒 | 仕事あれこれ
以前、私が派遣社員で「秘書もどき」をやっていた大手電機
メーカーでは、派遣社員のメールアドレスには名前の前に
アルファベット小文字の「x」が付いていて、プロパー社員
とはすぐに見分けが付くようになっていた。

一見同じように見える「秘書」の仕事でも、プロパー社員と
派遣社員では役割が違うことが暗黙の了解としてあり、メール
アドレスを見て、他部署の人は仕事の依頼内容を微妙に変えて
いた。事情がわかっている出入りの業者さんも、プロパー社員の
秘書と派遣社員の秘書とは明らかに接する態度を違えていた。

今の職場では、派遣社員だろうがプロパーだろうが関係ない。
各人ができる仕事をやるだけだ。

もし、アイコさんが入社したばかりの20代新人だったなら、
私は先輩面をして、自分がSC担当者に説明し、その様子を
アイコさんに見せただろうと思う。でも、アイコさんは37才。
その年齢から、人から期待される役割は、ぽやぽやの新人とは
違うのだ。

私はアイコさんがSC担当者の前であたふたしないように願う
ばかりだ。少し年下の私が、相手役を勤めるのはご不満かも
しれないし、質問攻めにされるのは、決して気持ちの良いもの
ではなかろうが、私は自分がどんなに「意地悪」「生意気」に
思われても構わないから、アイコさんがびしっとSC担当者に
説明できるようになって欲しかった。

この機会を逃しては、アイコさん自身が担当者として説明する
チャンスが巡って来るには、また少し時間がかかる。

結局やることは「クイズラリー+ガラポン抽選会」なのだが、
どんな仕事でも「自分がやりました」と言える実績を少しでも
増やして欲しい、私はそう思っていた。

それは、酒席で大泣きして仕事を求めたアイコさんへの、私の
正直な気持ちだった。
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ガラポン狂想曲 その16

2005年10月13日 09時40分30秒 | 仕事あれこれ
打ち合わせに出かける前に、私はアイコさんと打ち合わせの
リハーサル(予行演習)をした。

「お役人様」から受けた仕事ではあるが、「クイズラリー+
ガラポン抽選会」の会場を借りるにあたっては、見ず知らずの
SC担当者に「自分たちは何者であるか」を説明するところから
始めなくてはならない。誰もが知っている大手広告代理店なら
いざ知らず、私たちが怪しい者ではないことをお知らせしなくては、
話が進まないだろう。

私は、今まで自分が飛び込みで出かけた客先から、浴びせられた
「よくある質問」をアイコさんにしてみた。

アイコさんは、我々の勤め先のトップの名前・設立年・資本金・
従業員数・組織・今までの実績・売上等についてほぼ「知識ゼロ」
の状態だった。それでは、アイコさんが派遣先を決めるにあたって
何を判断基準に「考える仕事が勉強できそう」と思ったのだろう。

この職場で、派遣社員としてサポート業務をしていたアイコさん
には、それまで外部の人に「自分のいる会社(自分の派遣先)が
どんなものか」ということを説明する機会は皆無だった。

自分が会社本体のことを知らなくても、あるいは会社の一員である
という帰属意識を持たなくても、「言われたこと」をやっていれば、
それで済んでいたのだ。アイコさんは、「言われたこと=仕事」が
最終的にどういう形になるかのさえ、知らされずに、また知ること
もなく日々の業務をこなしていた。

とある会社の、とある部署の、とあるプロジェクトの仕事を
円滑に進めるために雇われた人が、今度は外部に向けて、さも
自分はその会社のプロパー社員であるかのごとく振る舞うことに
なったわけだ。もちろん、仕事を引っ張っていくアイコさんが、
派遣社員であることなど、外部の人は知るよしもない。
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ガラポン狂想曲 その15

2005年10月12日 09時36分00秒 | 仕事あれこれ
電話をかけ始めたアイコさんは、相当弱っており、百戦錬磨の
「お役人様」に何度も言葉のパンチをくらっていた。

必殺「上司を出せ!ギャラクティカマグナム」パンチが決まって、
アイコさんは崩れ落ち、ポカリ課長が電話口に出た。
それは、アイコさんにタオルが投げられた瞬間だった。
時間は23:00を回っていただろう。

上司は、「お役人様」の指示をほとんど受け入れつつ、アイコ
さんの企画のエッセンスは残すように、「お役人様」を誘導した。

電話が終わって呆然としているアイコさんには、戦い終わった
疲労感と、何かを諦めたようなスッキリした感じが見てとれた。

「展示パネルを作る」という2次元の作業はそこから本格的に進み、
それらを立体的に展示する3次元の世界に入っていく。
アイコさんの望んだ「考える」仕事がどのあたりにあるのか、
私にはまだわからなかったが、日毎に、アイコさんの打ち合わせを
する甲高い声がオフィスにこだまするようになった。

同時に進んでいた「クイズラリー+ガラポン抽選会」は、いよいよ
会場となるショッピングセンターの担当者と打ち合わせすることに
なり、私とアイコさんは電車に乗って出かけた。

アイコさんの持つ小振りのハンドバックからは、打ち合わせ資料が
はみ出しており、それは小柄なアイコさんに、仕事がぎゅうぎゅうに
詰め込まれている今の姿を象徴しているようだった。

仕事を詰め込んでいるのは私だな、と少し気の毒な気もしたが、
始まってしまったものは仕方がない。
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