[佐佐木幸綱選]
(東大和市・板坂壽一)
〇 橋の下に逃込みてなほ釣りながら電話するなり「行くぞ夕立」
「橋の下に逃込みてなほ釣りながら」の「電話」の相手はご自宅に居られる奥様。
そして、電話の内容の「行くぞ夕立」とは、詳しく言えば、「私は現在、奥多摩渓谷の橋の下にて夕立を避けながらも、巨大な鮎を釣り上げようとして奮闘中。夕立は間も無く其方にも行くはずであるから、洗濯物を取り込みなさい!」といったところでありましょうか?
〔返〕 韓ドラに痺れながらも君を待つ今夜のおかずは鮎の塩焼き
(東久留米市・関沢由紀子)
〇 カミナリが鳴ってもやめない特上のロースでトンカツ揚げてる最中
高野公彦選の六席として既出。
(浜松市・松井恵)
〇 戦争の本質として常にありガザの市井の無法なる死は
浜松市にお住いの松井恵さんという方が、いきなし「戦争の本質として常にあり」なんて堅い事を言い出したものですから、「彼はかなりの知識人だな!」と思って私はびっくりしたのであるが、続いて「ガザの市井の」などと、凡そミスマッチとも言うべき連文節が来たものだから、今度は「彼はそれほどの知識人ではないな!」と思ったりもしました。
「市井」とは、辞書的には、単に「まち・ちまち」といった意味の語であるから、「ガザの市井の無法なる死は」という言い方も成り立ちましょうが、しかしながら、「市井」という語に纏わる諸条件を考慮すると、こうした使い方は「市井」という語の使い方としては相応しいものではありません。
〔返〕 市井とふ語に伴へる本質は「庶民の暮し・食ふ寝る所」
(名護市・石川愛音)
〇 戦争で多くの人がなくなったことを私が伝える番だ
そう、そうなんですよ!
そういう自覚を持った十一歳が名護市に百人も居たら、辺野古基地問題なんかたちまち解決してしまいますよ!
〔返〕 「仲井真は根っから権力べったりだ」とパパに伝えて名護市の愛音さん
(竹田市・飯田博和)
〇 碁会所の席主の逝きて場を閉じる釘抜く音に目頭あつく
「場を閉じる」に続けて「釘抜く音に」としたのは、あまりにも省略に過ぎましょう?。
〔返〕 碁会所の席主の逝きて閉鎖さる釘打つ音に目頭の濡る
(富山市・松田梨子)
〇 白い塁こげ茶色の土総立ちで歌うスタンド六回の裏
松田梨子さんも、夏の甲子園の富山県予選の応援に出掛けるとは、極めて平凡な高校生生活を送っているものである。
「スタンド」に詰め掛けた校友が「総立ちで歌う」「六回の裏」には、梨子さんの在籍校がチャンスらしきものを掴み掛けたのではありましょうが、しかしながら、スタンド総立ちの応援も虚しく、三塁にランナーを残して無得点のまま終わったのでありましょう。
〔返〕 白き塁泥に汚れた雨中戦「18対0」のコールドゲーム
(本庄市・福島光良)
〇 夜間瀬川過ぎて長電夜間瀬駅湯田中まではあと五分程
上の句に「夜間瀬川過ぎて長電夜間瀬駅」と、極めて珍しい川の名と駅の名を配しながらも、下の句が「湯田中まではあと五分程」と、極めて月並みな納まり方をした点が惜しまれる。 作者の福島光良さんの気持ちからすれば、「湯田中」という地名に期待するところが在ったのでありましょうが、「湯田中」という地名は格別珍しい地名では無く、「湯田中まではあと五分程」という収束の仕方も極めて月並みなものである。
〔返〕 夜間瀬川過ぎて長電夜間瀬駅其の先崩落危険地帯なり
(名古屋市・松尾利男)
〇 ゴキブリをちゃんづけで呼ぶヘルパーさんはじける笑顔で火曜日に来る
鰥夫暮らしの身の上であれば、さぞかし火曜日が来るのが待ち遠しいことでありましょう。
〔返〕 ヘルパーをさん付けで呼ぶ松尾さんただひたすらに火曜日を待つ
ヘルパーをさん付けで呼ぶ松尾さんただひたすらに怒張堪える
(土岐市・澤田安子)
〇 一面に睡蓮の咲く沼に来てニホンカモシカ水浴びをせり
作者の澤田安子さんの気持ちとしては、都会人たちがびっくりするような幻想的な光景を詠んだので、必ずや入選するに違いないとの確信に基づいての投稿でありましょうが、日本中の山村の方々が、鹿や猪や猿や日本羚羊などの、いわゆる「獣害」に苦しんでいる今日に於いては、「ニホンカモシカ」が「一面に睡蓮の咲く沼に来て」「水浴び」をしたからと言っても、格別に珍しい光景とは言えません。
しかも、岐阜県土岐市と言えば、農林水産省より「鳥獣被害防止総合対策交付金」を交付されている地域ではありませんか!
〔返〕 一帯に腐臭漂う釜ヶ崎スーパー玉出の新今宮店
(近江八幡市・寺下吉則)
〇 義父の子を産めば夫の弟のつまりわたしは義姉という母
いきなし「義父の子を産めば」などと来たもんだから、私はびっくりしてしまったのであるが、何のことは無い、ただの言葉遊びではありませんか!
〔返〕 義父の子を産めば神をも恐れない不倫と言うべし義父の子産むな!
(東大和市・板坂壽一)
〇 橋の下に逃込みてなほ釣りながら電話するなり「行くぞ夕立」
「橋の下に逃込みてなほ釣りながら」の「電話」の相手はご自宅に居られる奥様。
そして、電話の内容の「行くぞ夕立」とは、詳しく言えば、「私は現在、奥多摩渓谷の橋の下にて夕立を避けながらも、巨大な鮎を釣り上げようとして奮闘中。夕立は間も無く其方にも行くはずであるから、洗濯物を取り込みなさい!」といったところでありましょうか?
〔返〕 韓ドラに痺れながらも君を待つ今夜のおかずは鮎の塩焼き
(東久留米市・関沢由紀子)
〇 カミナリが鳴ってもやめない特上のロースでトンカツ揚げてる最中
高野公彦選の六席として既出。
(浜松市・松井恵)
〇 戦争の本質として常にありガザの市井の無法なる死は
浜松市にお住いの松井恵さんという方が、いきなし「戦争の本質として常にあり」なんて堅い事を言い出したものですから、「彼はかなりの知識人だな!」と思って私はびっくりしたのであるが、続いて「ガザの市井の」などと、凡そミスマッチとも言うべき連文節が来たものだから、今度は「彼はそれほどの知識人ではないな!」と思ったりもしました。
「市井」とは、辞書的には、単に「まち・ちまち」といった意味の語であるから、「ガザの市井の無法なる死は」という言い方も成り立ちましょうが、しかしながら、「市井」という語に纏わる諸条件を考慮すると、こうした使い方は「市井」という語の使い方としては相応しいものではありません。
〔返〕 市井とふ語に伴へる本質は「庶民の暮し・食ふ寝る所」
(名護市・石川愛音)
〇 戦争で多くの人がなくなったことを私が伝える番だ
そう、そうなんですよ!
そういう自覚を持った十一歳が名護市に百人も居たら、辺野古基地問題なんかたちまち解決してしまいますよ!
〔返〕 「仲井真は根っから権力べったりだ」とパパに伝えて名護市の愛音さん
(竹田市・飯田博和)
〇 碁会所の席主の逝きて場を閉じる釘抜く音に目頭あつく
「場を閉じる」に続けて「釘抜く音に」としたのは、あまりにも省略に過ぎましょう?。
〔返〕 碁会所の席主の逝きて閉鎖さる釘打つ音に目頭の濡る
(富山市・松田梨子)
〇 白い塁こげ茶色の土総立ちで歌うスタンド六回の裏
松田梨子さんも、夏の甲子園の富山県予選の応援に出掛けるとは、極めて平凡な高校生生活を送っているものである。
「スタンド」に詰め掛けた校友が「総立ちで歌う」「六回の裏」には、梨子さんの在籍校がチャンスらしきものを掴み掛けたのではありましょうが、しかしながら、スタンド総立ちの応援も虚しく、三塁にランナーを残して無得点のまま終わったのでありましょう。
〔返〕 白き塁泥に汚れた雨中戦「18対0」のコールドゲーム
(本庄市・福島光良)
〇 夜間瀬川過ぎて長電夜間瀬駅湯田中まではあと五分程
上の句に「夜間瀬川過ぎて長電夜間瀬駅」と、極めて珍しい川の名と駅の名を配しながらも、下の句が「湯田中まではあと五分程」と、極めて月並みな納まり方をした点が惜しまれる。 作者の福島光良さんの気持ちからすれば、「湯田中」という地名に期待するところが在ったのでありましょうが、「湯田中」という地名は格別珍しい地名では無く、「湯田中まではあと五分程」という収束の仕方も極めて月並みなものである。
〔返〕 夜間瀬川過ぎて長電夜間瀬駅其の先崩落危険地帯なり
(名古屋市・松尾利男)
〇 ゴキブリをちゃんづけで呼ぶヘルパーさんはじける笑顔で火曜日に来る
鰥夫暮らしの身の上であれば、さぞかし火曜日が来るのが待ち遠しいことでありましょう。
〔返〕 ヘルパーをさん付けで呼ぶ松尾さんただひたすらに火曜日を待つ
ヘルパーをさん付けで呼ぶ松尾さんただひたすらに怒張堪える
(土岐市・澤田安子)
〇 一面に睡蓮の咲く沼に来てニホンカモシカ水浴びをせり
作者の澤田安子さんの気持ちとしては、都会人たちがびっくりするような幻想的な光景を詠んだので、必ずや入選するに違いないとの確信に基づいての投稿でありましょうが、日本中の山村の方々が、鹿や猪や猿や日本羚羊などの、いわゆる「獣害」に苦しんでいる今日に於いては、「ニホンカモシカ」が「一面に睡蓮の咲く沼に来て」「水浴び」をしたからと言っても、格別に珍しい光景とは言えません。
しかも、岐阜県土岐市と言えば、農林水産省より「鳥獣被害防止総合対策交付金」を交付されている地域ではありませんか!
〔返〕 一帯に腐臭漂う釜ヶ崎スーパー玉出の新今宮店
(近江八幡市・寺下吉則)
〇 義父の子を産めば夫の弟のつまりわたしは義姉という母
いきなし「義父の子を産めば」などと来たもんだから、私はびっくりしてしまったのであるが、何のことは無い、ただの言葉遊びではありませんか!
〔返〕 義父の子を産めば神をも恐れない不倫と言うべし義父の子産むな!