臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(100:先・公孫樹よ君は散るを急ぐな!)

2013年01月10日 | 題詠blog短歌
(北大路京介)
○  先発で胴上げ投手になるためにゃ完投勝利するしかねえな

 必ずしもそうと決まったものではありません。
 一例を示せば、私の従弟・泉谷滋さんのご次男の泉谷亮介君は、小学五年時の南関東団地連盟少年野球大会横浜予選大会決勝戦に於いて、遊撃手(四番打者)としてスタメン出場したのであるが、自チームが「2対3」で負けていた7回表に急遽交代してリリーフ投手となってマウンドに立ち、その回を無失点で抑えた後の七回裏、2アウト走者2塁3塁の場面で、自らの決勝スリーラン本塁打で試合を決め、「胴上げ投手」となったことがありました。
 今から30年以上も昔のことですが、その場面での父親・泉谷滋さんとそのご子息・亮介君の晴れがましくも羨ましい顔は、今年73歳になる私の記憶の中にも、今でも鮮明に残っております。
 〔返〕  リリーフし胴上げ投手になった児も一男三女の父親といふ   鳥羽省三


(夏実麦太朗)
○  先をゆくひとを追い越すこともなく歩き続ける駅までの道

 本作の作者・夏実麦太朗さんが、関西から埼玉県の桶川市にご転居なさったのは、確か今から4年ほど前の事でありましょうか。
 その彼の、今では、あの桶川市の優しき住民の一人として、あの田園都市でのゆとりある生活を楽しんで居られる様子がうかがわれる佳作である。
 〔返〕  先を行く軽羅の肌の淡き香の風に寄せ來る川沿ひの道   鳥羽省三


(蓮野 唯)
○  今生の生が終わったその先も永久に我が身は貴方の僕(しもべ)

 漢字の「僕」の意が「しもべ」であることを、改めて認識させて下さった作品である。
 それにしても、本作の作者・蓮野唯さんの執念深さが恐ろしくなる。
 生きて居てこその「今生」であり、「根性」であるのにも関わらず、「今生の生が終わったその先も永久に我が身は貴方の僕」とまで仰って、何方かは存じ上げませんが、作中の「貴方」にしがみ付こうとなさって居られるのである。
 いくら「コミックねた」とは申せ、これではあまりにも酷くありませんか?
 明けて2013年、即ち本年の干支は巳年。
 蛇にも勝る彼女の執念深さが、本年は益々発揮されるのでありましょうか?
 〔返〕  今生の命の果つる後の世に残れる如き一首を残せ   鳥羽省三

 
(秋月あまね)
○  ひたぶるに自分の歌をうたうだけ 行く先なんかわかるはずない

 とは仰りながらも、秋月あまねさん「題詠2012」へのご投稿作品の中には、「011:揃」の「相対に統べられている神廟のなか不揃いの獅子に狛犬」を初めとして、なかなかの傑作佳作が見受けられました。
 来たるべき「題詠2013」での、益々のご活躍のほどを期待申し上げております。
 〔返〕  ひたぶるに自分の足で走るだけ凸凹道を苦にしちゃならぬ   鳥羽省三


(猫丘ひこ乃)
○  この先はスキップ程度の速さにて歩む人生かもしれません

 数多くの参加者の中には、自らを「七十路ばば」と称して憚らない高齢者の方も居られますから、才女・猫丘ひこ乃さんが「この先はスキップ程度の速さにて歩む人生かもしれません」などと気弱なことを仰るのは、まだまだ早いと思われます。
 〔返〕  この先もギャロップ程度の速さにて歩めひこ乃はまだまだ若い   鳥羽省三


(アンタレス)
○  先ずゴール辿り着きしを安堵する百の難関超えて来たれば

 詠い出しに「先ずゴール」とあるのは、「出来栄えはともかくとして、先ずは百首完走しなければならない」という、作者・アンタレスさんのお気持ちをそのままをお述べになったのでありましょうか?
 ならば、それを続いての、「辿り着きしを安堵する」「百の難関超えて来たれば」との倒置法表現も亦、お気持ちそのままの四句でありましょう。
 とは申せ、題詠マラソンは「速ければ良い」というものではありませんから、来たるべき「題詠2013」に於いてこそは、お時間をたっぷりと掛けられてご推敲なさり、より素晴らしい作品をご投稿なさって下さい。
 末筆ながら、呉れ呉れもお身体大切に。
 〔返〕  末尾句の「超えて」は「越えて」とあるべきか?超と越とは類義語なれど   鳥羽省三  

(原田 町)
○  堂々と優先席に座わればいい白髪と禿げのわれと連れ合い

 作者の原田町さんは、本作を通じて、自らが「白髪」であり、ご夫君が「禿げ」であることを告白なさって居られるのでありましょうか?
 〔返〕  堂々と車内キスなどしなさいよ白髪と禿のツーショット佳し   鳥羽省三


(七十路ばば)
○  先生と呼ばれた日々が脳底に潜むか夢に教案立ており

 教壇を去ってから十数年経ちますが、私も亦、教案を立てて居たり、試験監督をしていたりする夢を見ることがあります。
 〔返〕  先生と呼ばれし日々も遠くなり訪ひ来る客も稀になりたり   鳥羽省三  
 

(白亜)
○  たやすくは先を語らぬひととゐて海に入りゆく落日を見る

 「たやすくは先を語らぬ」の「先」とは、ただ単なる進路のことでありましょうか?
 その「ひととゐて」「海に入りゆく落日を見る」とあるのを考慮すれば、それはただ単なる進路や旅程のことでは無いような気もします。
 〔返〕  容易くは弱みを見せぬ人と行き奥の細道歩みも果てぬ   鳥羽省三  


(青野ことり)
○  予定とは違ってもいい先回りしないで肩を並べて歩いて


(ひじり純子)
○  先勝と暦に書いてあったから結婚する日に決めたと思う


(湯山昌樹)
○  先生と呼ばれて早くも四半世紀 振り返らずにさらに進まん


(やや)
○  来世もタイタニックの先端で笑いあってるふたりでいたい


(鮎美)
○  敷かれたるレールあることの何が悪い先頭車両の窓には雨が


(莢豆)
○  バスケット、日傘、ストール、ピンヒール行き先はまだ決めていないの

 「行き先はまだ決めてないの」ということですが、「バスケット」に「日傘」に「ピンヒール」と言えば湘南海岸辺りに出掛けてサーフィンをするのでありましょうが、「ストール」は日除けに使うのでありましょうか?


(今泉洋子)
○  結論は先送りすることもよし今年の山茶花一気に咲けり

 何はともあれ、咲ける間だけは咲いておこうという訳でありましょうか?
 だとしても、「姥桜」という言葉は在りますが「姥山茶花」という言葉は在りませんから、あまりご無理をなさらないようにして下さい。
 


(五十嵐きよみ)
○  たどり着くだけで懸命だったのに早くも先を考えている

 本作の作者・五十嵐きよみさんは、早くも「題詠2013」の趣向について「考えている」のでありましょうか?

(鳥羽省三)
○  黄葉の先に在るのは寒い冬!公孫樹よ君は散るを急ぐな! 


一首を切り裂く(099:趣・趣のある庭ですねと言いながら)

2013年01月05日 | 題詠blog短歌
(紗都子)
○  趣のある庭ですねと言いながら果樹の実りをたしかめている


(シュンイチ)
○  アルマーニ・ジュニアを上手く着こなせてピアノが趣味の子どもがほしい...


(紫苑)
○  辛(から)き酒などふくみつつ歌詠めば身体(からだ)の芯に野趣よみがへる

(遥)
○  趣味を持つゆとりなかった女たち噂話で時を忘れる


(猫丘ひこ乃)
○  野趣溢るジビエ料理が気になってくる頃いつも大雪が降る


(はこべ)
○  野宮の火焚屋のけむりあわあわと嵯峨野の原の秋の趣き


(原田 町)
○  今日だけはすこしセレブな趣で演舞場の桟敷に座る


(tafots)
○  おのおのに趣向を凝らし露霜の秋山燃える遠野霜月


(佐藤紀子)
○  「趣」と言へる程度に掃き残す 木枯らしに散る銀杏落ち葉を


(五十嵐きよみ)
○  少女趣味だと言いたげな口ぶりで誰かが『赤毛のアン』を持ち出す


(今泉洋子)
○  趣のあるこころもて人生の濃淡歌に詠んでゆきたし


(鳥羽省三)
○  趣味は金!せっせせっせと金を貯め!馬鹿息子らに盗られてしまう!

一首を切り裂く(098:激・ベランダの鉢水湛えおり)

2013年01月04日 | 題詠blog短歌
(西中眞二郎)
○  知らぬ間に激しき雨の降りたるかベランダの鉢水湛えおり


(アンタレス)
○  肉じゃががテストに出たと孫の言う激論交わす牛肉と馬鈴薯


(コバライチ*キコ)
○  二百時間を悠に越えたる残業も激務でなかりし日々もありたり


(五十嵐きよみ)
○  激しさを秘めた瞳であっていいモディリアニの描く絵の女たち


(鳥羽省三)
○  激流をカヌーで下る子持つゆへ母の百恵は夜も眠れず

一首を切り裂く(097:尾・ざわざわと尾花がさやぐ霜月朔日)

2013年01月02日 | 題詠blog短歌
(今泉洋子)
○  神々が帰りきたるやざわざわと尾花がさやぐ霜月朔日


(ほたる)
○  嘘もなく駆け引きもなく単純でいとおしきもの子犬の尻尾


(西中眞二郎)
○  海岸に続く小道の静まりに犬つながれて尾を振りており


(流川透明)
○  尾びれにも海の中では役割があっただろうに食べ残されて


(原田 町)
○  行列の最後尾にて延々とフェルメール展の入場を待つ


(砂乃)
○  尾木ママの笑顔が崩れる出来事が増えすぎている今の学校


(ひじり純子)
○  飼われてる義理があるから吠えないがコロは尻尾を掴まれたくない


(小倉るい)
○  暗がりがどれ程長く続いても愛犬タロー尻尾を振るな


(裕希)
○  手をつなぎ遠足の列最後尾「今日だけだぞ」ってませガキ小1


(矢野理々座)
○  ナンバーがぎゅうぎゅう詰めの「尾張小牧」 一文字の「堺」は物足りないが...

一首を切り裂く(095:樹・丈低き街路樹のみが連なりて)

2013年01月01日 | 題詠blog短歌
(西中眞二郎)
○  丈低き街路樹のみが連なりて銀座通りは緑少なき


(たつかわ梨凰)
○  樹のしたに佇めば年相応の傷跡を持つわれに気付けり


(槐)
○  椋の樹の木漏れ日優し頬寄せて絡めし指や何を語らふ


(穂ノ木芽央)
○  白き影樹氷の森に消えてゆき墓守のごと鴉降りたつ


(村田馨)
○  樹々のこえ渓の底まで谺する照葉大吊橋にゆられて


(五十嵐きよみ)
○  静寂をしだいに深めてゆく夜の樹海を見おろす白き満月


(鳥羽省三)
○  樹木医になりたいなどと孫は云う!人間を診る医者にお成りよ!