臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日歌壇から(7月28日掲載・其のⅡ・金曜夕刊)

2014年08月01日 | 今週の朝日歌壇から
[佐佐木幸綱選]

(久留米市・塩山雅之)
〇  水路沿いジャンボタニシの殖えゆきて早苗の水田にビンクあいなし

 「ジャンボタニシ」の皮膚はかなりエロティックなピンクで、しかも、胎内には毒々しいばかりに鮮明なピンクの卵を孕んでいるのである。
 その点に着目した本作の作者は、私が想像している以上に好色なのかも知れません。
 〔返〕  あいなしと仰いますがなかなかの艶福家かも塩山雅之氏


(三原市・岡田独甫)
〇  恣意的に憲法解釈する者の言う歯止めなど当てにはならぬ

 主題は言わずと知れた「解釈改憲反対」。
 憲法九条の改悪に反対するならば、ただ単に「閣議に拠る解釈変更」に反対するのみならず、現行憲法の改正を企てる輩に身体ごと突撃して行くぐらいの覚悟をしなければなりません。
 それにも関わらず、本作の作者がお住いの広島県選挙区から選出されている衆議院議員は、七名中の六名までが自民党所属議員ではありませんか。
 しかも残り一人は、元々からコチコチの改憲派議員である無所属の亀井静香議員(第六区選出)ではありませんか。
 彼ら改憲派議員を選出したのは、檀家制度に守られたお寺さんなどの地元の有力者とその取り巻きどもではありませんか。
 第二次世界大戦以前の日本人の大半は、人権思想などは爪の垢ほども持っていなかったので、一銭五厘の赤紙一枚で泣く泣く妻子と別れて出征して死んだのであったが、人権思想が世界中に行き亘った現在に於いては、「戦場に駆り出されてミサイルの的となって死んでも宜しい」などと気前のいい事を口にする国民は誰一人としていないと思われます。
 したがって、私たち日本人は、東アジアの防衛環境に如何なる変化があろうとも、憲法九条の抑止力に頼るしか手がありません。
 それが解っているならば、岡田独甫さんも力の及ぶ限りに於いて、布教活動と共に「憲法改悪反対運動」を檀家の方々と共に展開するべきではありませんか?
 〔返〕  改憲派の陰謀に絶対屈するな亀井小島は何する者ぞ!


(沼津市・石川義倫)
〇  入口に近きは上等兵ばかり村の軍人墓地に又夏

 「入口に近きは上等兵ばかり」という上の句が、それとなく作中の「村」の貧しさを物語っていて、忽せには出来ない作品ではあるが、又もや、朝日新聞社の「解釈改憲反対キャンペン」に迎合している如き作品である。
 事の是非はともかくとして、「解釈改憲反対キャンペン」に迎合するかの如き態度では、真の意味の歌詠みとは言えません。
 それにしても興味深いのは、「入口に近きは上等兵ばかり」という詠い出しである。
 作中の「村の軍人墓地」には、下士官や将校クラスの英霊は埋葬されていないのでありましょうか。
 それとも、件の「村」の出征兵士の全ては、いわゆる「兵卒」ばかりであったのでありましょうか?
 〔返〕  入口に近き墓地なら安価です清心苑墓地只今特売


(西海市・前田一揆)
〇  武器これを防衛装備と言い換えて儲け企む言霊の国

 本作も亦、朝日新聞社の「解釈改憲反対キャンペン」に迎合するが如き作品である。
 これ程までに並べ立てられますと「言霊の国」の住民の一人としては、文句の一つや二つぐらいは言いたくもなりますよ!
 〔返〕  屑肉を新鮮ですよと言い立てて儲け企む経済大国


(名古屋市・諏訪兼位)
〇  赤き鹿六頭描かれし弥生期の筒型土器が稲沢に出づ

 「稲沢市一色青海遺跡出土の絵画土器について」というタイトルの発掘報告書が愛知県埋蔵文化財センター発行の『研究紀要』(第11号)に掲載されている。
 その中から本作の記述に関連する箇所を抜粋して示すと次の通りである。
 即ち、「鹿の絵は体部外面に、縦方向に6頭、頭部を右にして描かれている。土器焼成前に、まず、浅く線刻で下書きをおこない、その上から、同じく焼成前に、ベンガラを用いて面的に塗っている。胴部より尻尾にかけては、器面の剥落が著しく、遺存状況は悪いが、上の 2 頭に関しては、線刻が比較的よく残っている。線刻は、通常の線刻土器よりもかなり浅いことから、当初からベンガラを塗ることを想定した、あくまでも下書きとして描かれていたようである。頭部は耳あるいは角をV字に描いたのち、鼻先を描いている。頸部は1本線、胴部は2本線で表現し、胴部を描いたのちに、足を描いている」と。
 本ブログの読者の皆様方よ、何卒、前掲の報告書の抜き書きをご参照のうえ、本作を鑑賞されたし。


(フランス・松浦のぶこ)
〇  ゆったりと往く男らの長衣(カフタン)の裾吹き上ぐるはつ夏の風

 「カフタン」とは、「トルコの民族衣装の一つであり、気温が高く砂地が多い地域に適応したもので、体を覆う部分は多いものの緩やかな仕立てで風通しを良くし強い日差しから皮膚を守るように作られている」とか。
 したがって、一句目の「ゆったりと」という五音は、直接的には「往く」に係って行くのであるが、それと共に「タフタン」なる民族衣装が、風通しを良くする為にゆったり目に作られているという事も示しているのでありましょう。
 ところで、本作の作者・松浦のぶこさんにお訊ね致しますが、本作は原作通りに掲載されているのでありましょうか?
 〔返〕  ゆったりとシャンゼリゼを往くTurksのカフタンの裾吹き上げる風よ 


(熱海市・山口智恵子)
〇  マニキュアも浴衣の布もシロップも色を選んで夏の始まり

 二句目の「浴衣の布も」の「の布」は、音数合わせみたいな感じである。
 〔返〕  グラサンも浴衣も肌もおビールも黒く染まって夏の真盛り


(館山市・中原千絵子)
〇  台風が明日は来るのに青葉木菟ホッホ、ホッホと上機嫌なり

 昨晩、我が家の裏庭で啼いていた「青葉木菟」の声は、私の気の所為か「ケイキノイイホウ、ケイキノイイホウ」と聴こえました。
 でも、今日は、この夏休みに北海道旅行に出掛ける二人の孫にお餞別を遣るなど、あまり景気が良くはありませんでした。
 〔返〕  先日は大きな花束今日は今日餞別二万遣るも遣ったり!


(八王子市・江藤幸代)
〇  雨後の森百合咲く小道穴だらけ百合根旨いか猪親子

 山百合の十株や二十株ぐらいは何のその!
 我が家ではカサブランカの球根を二百株も隣の米屋の倉庫から逃げて来た鼠どもに食べられましたよ!
 〔返〕  羽後秋田被災県でも無かろうに人口減少率我が国ナンバーワン


(船橋市・川上美栄子)
〇  梔子が香れば私十五歳白い色した初夏の恋

 十五歳とは「美栄子」さんというお名前に相応しからぬ御年でありますことよ!
 〔返〕  梔子が香らなくても十五歳結婚するのはまだまだ先だ

今週の朝日俳壇から(7月28日掲載・其のⅠ・金曜朝刊)

2014年08月01日 | 今週の朝日俳壇から
[金子兜太選]

(東京都・鈴木勇)
〇  弾痕の熱砂の島や糸満史

 金子氏の寸評に曰く「今次大戦末期の沖縄そして糸満の惨状を忘れる者はいない。二度とあるな」と。
 〔返〕  糸満の今次大戦末頃の惨状忘れて九条冒涜

 
(別府市・梅木兜士彌)
〇  蛇跨ぐことにも慣れし峡暮し

 金子氏の寸評に曰く「この峡暮しの実感は本物」と。
 「蛇跨ぐことにも慣れし」が金子兜太翁の好みに合ったのかしら?
 〔返〕  親跨ぐことにも慣れて嫁務めそれが嫌なら老人ホーム!


(東京都・たなべきよみ)
〇  盆栽を借りて巨大な蟻となり

 金子氏の寸評に曰く「作りものの印象に、かえって味あり」と。
 〔返〕  巨大なる蟻となったは誰かしら?吾輩如きにとんと解らん?


(廿日市市・頼経素風)
〇  曝す書を妻読み止めず智恵子抄

 金子氏の寸評は無し。
 作中の「智恵子抄」が、開戦時(1941年)に龍星閣から刊行された初版ならば、一冊数十万円の稀覯本ですから、曝したりしてはいけません。
 でも、恐らくは新潮社から刊行された文庫本などかも知れません。


     『報告(智恵子に)』

  日本はすつかり変りました。
  あなたの身ぶるひする程いやがつてゐた
  あの傍若無人のがさつな階級が
  とにかく存在しないことになりました。
  すつかり変つたといつても、
  それは他力による変革で
  (日本の再教育と人はいひます。)
  内からの爆発であなたのやうに、
  あんないきいきした新しい世界を
  命にかけてしんから望んだ
  さういふ自力で得たのでないことが
  あなたの前では恥しい。
  あなたこそまことの自由を求めました。
  求められない鉄の囲かこひの中にゐて、
  あなたがあんなに求めたものは、
  結局あなたを此世の意識の外に逐おひ、
  あなたの頭をこはしました。
  あなたの苦しみを今こそ思ふ。
  日本の形は変りましたが、
  あの苦しみを持たないわれわれの変革を
  あなたに報告するのはつらいことです。  (昭和二二・六)
 
 〔返〕  ≪あの傍若無人のがさつな階級が≫またぞろ頭を擡げて来ました(開戦時の商工相の孫です!)  


(原博己)
〇  青葉風土に練り込み土鈴作る

 広島県庄原市の社会福祉施設「東寿園福祉作業所」では、「色々な福祉事業を行っており、土鈴づくり作業もその一つです。日常作業の土鈴の『型どり』や作業工程の見学も併せて、最後の仕上げ作業「絵付け」をお楽しみください。選んでいただく土鈴の素焼き型は約15種類!その中からお好きな型を選び、自分の好きな色やデザインで仕上げましょう♪決まりごとはありません。自由な色とデザインで世界で一つだけの『土鈴』を完成させて、みんなに自慢しちゃいましょう」とか。
 また、「体験料金/お一人様700円☆絵付けした土鈴は、その日にすぐに持って帰れます」とか。
 本句の作者・原博己さんは、同作業場に於いて土鈴製作の指導員をなさって居られる方なのかも知れません。
 〔返〕 ひばの里・さとやま屋敷に集合し葉っぱの土笛作りに参加  


(西宮市・東谷節子)
〇  百四歳の母母の日を泣き笑う

 「母」が「母の日」を「泣き笑う」とするならば、我が国の社会福祉政策の欠陥を闕腋し嘲笑したという事にもなりかねませんが、その「母の日」を「泣き笑う」「母」の年齢が「百四歳」であったとしたならば、自ずから別次元の問題としなければなりません。
 何はともあれ、西宮市にお住いの東谷節子さんのご母堂様、この度のご慶事、真におめでとうございます。
 今年もますますお健やかでお暮し下さい!
 ところで、本句の作者・東谷節子(76歳)の第一歌集『明日の神話』が、去る2006年に短歌研究社から刊行されているとのこと。
 東谷節子さんは第一歌集『明日の神話』に於いて、我が国の社会福祉政策の貧しさを余すところ無く歌うと共に、ご家族の方々と支え合いながら生きる喜びをも歌い上げているのである。

 〇  嫁ぐ日の迫りて寡黙になりし娘は微笑むこと多し吾に対いて
 〇  「嫁からの義理チョコですが」と差出せば舅ははつかに笑み給うなり
 〇  父母と共に老いゆく明け暮れの夫の寡黙は病にも似る
 〇  面伏せて胎児を庇う娘には母なる仕草のすでに身につく
 〇  ローソクの芯の如くに病み細り舅は風熱き七月に果つ
 〇  舅という支柱失くせし姑の蔓宙に揺れいる如き危うさ
 〇  「しんどい」と言いつつ夫は足軽く二度目の勤めの朝を出でゆく
 〇  全身の骨の疼きに喘ぎつつ「もう死なして」と姉は言いにき(
 〔返〕  節子さん御年既に七十六ご母堂様の齢には足らず  


(枚方市・菅野強)
〇  手で叩く西瓜の音色の母優し

 手で叩かないで足で叩いたとしたら、「西瓜の音色の母憎し」とは相成るのでありましょうか?
 〔返〕  手で叩き糖度確かめ西瓜購ふ


(八王子市・額田浩文)
〇  フラダンス発表会に夕立来る

 婆さんたちが、肥り過ぎだったり痩せ過ぎだったりする身体に不似合なフラドレスで身をかため、腰蓑みたいなレイという人工装飾花を首の周りにぶら下げての「フラダンス」は、誰だって目にしたくないものである。
 だが、糟糠の妻がその「フラダンス発表会」に出演するとあらば自ずから別問題である、とばかりに八王子市民会館まで出掛けたのは良かったが、生憎、発表会の終了間際に夕立に見舞われてしまったのである。
 そういう次第で、帰り道は一本百八円也のビニール傘での相合傘という運びになってしまったのでありましょうか?
 〔返〕  フラダンス雨に降られてふらふらだんす


(三豊市・磯崎敬三)
〇  いちじくを乳房のごとくつまみけり

 この助平ったらしい爺さんは、一体全体、何を言いたいのかしらん?
 詠むも詠んだり!選ぶも選んだり!金子兜太選ならではの入選作である!
 〔返〕  無花果も絞ってみれば乳が出る
 我が家の狭庭の無花果もそろそろ色付いて来ました。
 昨日の夕方に見たところ食べ頃になったのが三顆ほどあったのですが、今朝、私が水遣りしようとして見たところ、その中の二顆が小鳥どもの餌食となってしまい、今朝の食卓に載ったのはただの一顆、一顆の無花果をハンブンコして連れ合いと仲良く食べました。
 ところで、本作の作者の磯崎敬三さんは香川県三豊市にお住いの方である。
 香川県の三豊市と言えば、私の友人の「北さん」も三豊市詫間町粟島の別荘に滞在中である。
 その北さんの話に拠ると、粟島には連れ合いに先立たれて寡婦暮らしをしているご婦人がジャガスカいらっしゃるとのこと。
 磯崎敬三さんもたまには粟島にお出掛けになったら如何ですか。
 〔返〕  無花果を鳥に喰われてハンブンコ


(東京都・大網健治)
〇  白石も僕も貧乏冷奴

 「僕」即ち本句の作者の大網健治さんが「貧乏」で「冷奴」好きなのは宜しいが、何も幕政改革を成し遂げんとした新井白石まで持ち出して来なくても宜しいでしょうが?
 新井白石に限らず、昔の偉人たちは誰だって、夏は冷奴、冬は湯豆腐を好んで食べたものである。
 疑う者在らば、司馬遼太郎作の『花神(上・下)』を読んでみなさい!
 新井白石だけが、格別な冷奴好きという訳ではありません。
 〔返〕  新井君は白石僕は黒石を持たされての笊碁なりけり
      冷奴噛み締め歯軋りするか?周防吉敷の村田蔵六