臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日俳壇から(8月4日掲載・其のⅢ・暑中手抜き版)

2014年08月05日 | 今週の朝日俳壇から
[稲畑汀子選]

(枚方市・石橋玲子)
〇  町衆のさらに湧き立つ後祭

 〔返〕  町衆の祭の後に乱れたり


(鹿児島市・青野迦葉)
〇  夏痩の友哀れとも羨しとも

 〔返〕  夏痩せの友を羨むメタボかな


(横浜市・込宮正一)
〇  生きてゐる実感として涼しくて

 〔返〕  生きてゐる実感として傷痛し


(枚方市・中嶋陽太)
〇  一声のありて全山蝉しぐれ

 〔返〕  一声のあと一斉の蝉時雨


(福知山市・松山ひとし)
〇  どこに置こ朝顔市の花の色

 〔返〕  土間に置け水を遣らねばならぬから


(尼崎市・橋本絹子)
〇  病む母へ菊水鉾の粽吊る

 〔返〕  病む母は祇園祭の鉾嫌ひ


(西宮市・近藤六健)
〇  スコールの去り訪れる黙のあり

 〔返〕  スコールの轟き亘り降りにけり 


(神戸市・池田雅一)
〇  夕凪や点滅遅き信号機

 〔返〕  朝凪や始動の遅きライトバン

(金沢市・今村征一)
〇  この虹の果てが故郷とも思ふ

 〔返〕  この虹に果て無く脚無く故郷無し


(平戸市・辻美禰子)
〇  竹林へ開け広げある夏座敷

 〔返〕  竹林ゆ藪蚊群れ来る夏座敷 

今週の朝日歌壇から(7月28日掲載・其のⅣ・猛暑御見舞い版)

2014年08月05日 | 今週の朝日歌壇から
[永田和宏選]

(北広島市・樋口幸子)
〇  体験せずという体験も誇らしい体験である「戦争体験」

 自公連立内閣が「解釈改憲」をせざるを得ない要件の一つとして「東アジアの防衛環境の著しい変化」を挙げていたが、それとは逆に、私は「我が国の国土防衛及び国民生活の安全は、現行憲法の抑止力に頼る以外の良策は無い」と言いたい。
 何故ならば、東アジアの防衛環境が如何に変化しようとも、我が日本国民の体質や感情、特に若者のそれが、既に戦争など出来ないそれに変質しているからである。
 事の良し悪しは別として、本作の作者の樋口幸子さんは、さも誇らしげに「体験せずという体験も誇らしい体験である『戦争体験』」などと詠んでいらっしゃるが、斯かる主張こそは正しく「我が日本国民の体質や感情が既に戦争など出来ないそれに変化している」事の証明であり、敢えて言うならば、我が国の国民の大半は「反戦思想」を通り越した「厭戦思想」乃至は「非戦思想」状態に陥っているのである。
 こうした事態を称して「国民精神の堕落」という言い方をする者もいるのであるが、自衛隊員の殆どが自己の入隊動機として「自衛隊員として災害救助の為に働きたい事」を挙げている現実に着目しても、「国民精神の堕落」が現実のものとなっている事が証明されるのである。
 かくなる上は、我が国は如何なる場合でも武器を持って戦わない事を謳った現行憲法を以って、国際社会に確たる位置を占めて行かなけれはならないのである。
 私たち日本国民は、私たちが「厭戦思想(非戦思想)」の持ち主であることを、決して恥じてはいけません。
 それを以って、「国民精神の堕落」と言う者が居たとしたら、彼らには黙って言わせておこうではありませんか、と本作の作者か本作を通じて述べているのであったとするならば、本作は確たる主張を持った作品として評価されましょうが、私が思うに、本作の作者にはそうした意図が無いと思われる。
 〔返〕  体験せずという体験はありません<ことセックスに関して言うならば>


(ひたちなか市・篠原克彦)
〇  たえまなく湧きて圧しくる海霧に生あるものは声をつつしむ

 「生あるものは声をつつしむ」とあるが、例えばそれは「我が日本国民の体質や感情が既に戦争など出来ないそれに変質している」などと厭戦思想に通じるような言葉を口にしない、ということでありましょうか?
 ヤマセ(山背=北東の風)が吹き荒ぶ東北地方太平洋岸の荒涼とした風景に取材したように見せ掛けながら、実のところは、「原発再稼働問題」や「解釈改憲問題」などの解決不可能な諸問題に直面していて、ただ只管に唖然としているしか無い我が国の現状を闕腋した作品なのかも知れません?
 〔返〕  絶え間なく湧きて浮き來る発想をただ只管に歌に詠むのみ


(西条市・亀井克礼)
〇  萍をガードに泛ぶ蝌蚪の頬の菩薩のようなふくらみを見つ

 角川『短歌』6月号に於ける、穂村弘氏との連載対談の中で、馬場あき子氏がなかなか興味深い話をして呉れているので、其処の辺りの部分を同誌から抜粋してみましょう。

馬場 「私、虫が好きなのよ。チョウはこのごろ面白くなりました。」
穂村 「そうなんですか。」
馬場 「山本東次郎さんという人間国宝の狂言師からアポロウスバシロチョウを、ほしくて ほしくて、ついにもらいうけたことがあります。・・・・・」
穂村 「ゴキブリにさえ、心を寄せてますよね。・・・・・」
馬場 「だって、ゴキブリって可哀想じゃないの。」
穂村 「<半打ちのままに逃がししごきぶりのそののちを眠れぬ夜に思ひをり>という歌もあります。」
馬場 「この間も逃がしてやった。テレビの裏に入ったいったから、ま、いいや、来年まで生きておいでって。この辺からですね。変なものに魅力を感じ出す。一つは植物。一つは虫なんです。虫はもうちょっと前からかな。イナゴを歌った<もろ抱きに稲の葉茎に居るからに愚直の心みゆるぞいなご>がありますね。虫って虫眼鏡で見ると真面目な顔をしてるのよ。バッタなんて、見てごらんなさい。すごい真面目な顔をして生きているから。」
穂村 「真面目って、どういうんですか。」
馬場 「いやーあ、あれがいちばん真面目な顔をしてるのよね。イナゴもね。それを見ると痛々しいわけよ。一生懸命生きているんだって思うから。そりゃ、猫だって犬だって真面目な顔をするけど、虫くらい真面目な顔をしているのはいないんじゃないの。」

 「イナゴやバッタやゴキブリなどの虫がいちばん真面目な顔をして生きている」という意見こそは正しくノーベル生物学賞級の卓見である。
 言われてみればその通りであるが、なかなか其処までは見通せないものなのである。
 虫の顔を虫眼鏡で見るという遣り方もなかなか面白い遣り方である。
 私は、虫眼鏡というものは細かい辞書の字を見る為に発明されたものとばかり思っていたのであるが、言われてみれば、虫の観察に遣うからこその虫眼鏡であった訳である。
 それにしても、あの「蝌蚪」が「萍をガードに泛ぶ」とは驚きだ!
 「蝌蚪」という水棲生物の雛は産れながらにして防衛本能が備わっているものと思われ、私たち日本人も蝌蚪を見習わなくてはなりません。
 〔返〕  アメリカをガードと頼みものを言う総理大臣安倍晋三氏
 彼、安倍晋三氏の防衛本能は、父祖伝来のものであるとか?
 

(大和郡山市・四方護)
〇  ただ生きんと金魚犇きあぎといぬ生餌と書かれし袋の中で

 「生餌と書かれし袋の中で」が宜しい。
 私たち日本人が国際世論の水際で「あぎとふ」有り様も亦、「生餌と書かれし袋の中で」の狂態でありましょうか?
 〔返〕  ただ単に生きんともがくのみなれど虫の息なる半叩きのゴキブリ
 

(横浜市・大建雄志郎)
〇  失いて困るは妻が一番で二番はおそらくこの手帳だろう

 本作の作者にとって、「失いて困る」ものの筆頭に上げるべきは、交際中の女性の誕生日や携帯番号や銀行預金の暗証番号など、ありとあらゆる事を記録した「能率手帳」であろうと思われるが、それをそう言わずに「失いて困るは妻が一番で二番はおそらくこの手帳だろう」と言ってしまったのは、言わず知らずのうちに、件の「能率手帳」の大切さを曝露してしまった事になるのである。 
 ところで、今週の「永田和宏選」は、第三席から第七席まで身辺事情に取材した佳作揃いなのである。
 短歌とは所詮「短歌」なのであるから、「解釈改憲反対」などという大段平を振り回したりせずに、この程度の小テーマを詠むべきでありましょう。
 〔返〕  失いて困るは頭脳で顔で無しおぼちゃん生きてて笹井は自殺


(高槻市・河村由紀子)
〇  「ぬいぐるみみたい」と声をかけられて犬のかわりに笑顔を返す

 大阪府高槻市や埼玉県川口市などでは、プードル種などのいかにも愛玩犬然とした犬を散歩させている小母ちゃんの姿を目にすることが頗る多い。
 本作の作者・河村由紀子さんも亦、そうした人種の一人であり、その日、またまた愛玩犬のプードル君を散歩させていたところ、すれ違う小母ちゃん方の口から「まあ、可愛いこと!まるで縫いぐるみみたいね!」という声が掛かったのではあるが、褒められたプードル君が返事する訳はありませんから、プードル君に代わって、河村由紀子さんご自身が「笑顔を返す」という運びとなったのでありましょう。
 「犬のかわりに笑顔を返す」という下の句の表現が抜群に愉快であり、「短歌表現の極致は此処に在り」と云った感じの傑作である。
 〔返〕  縫いぐるみみたいな顔に眉を描き犬のお散歩高槻の小母ちゃん


(富士吉田市・田辺義樹)
〇  極小さい虫なら無下に擂り潰す「小さいこと」って何なんだろう

 私は昨夜ゴキブリを殺してしまいましたが、そのゴキブリは超巨大なゴキブリであったので、「擂り潰す」ことが出来ずに、手元に置かれていた角川「短歌」の六月号でひっ叩いて殺してしまったのでありました。
 でもね、私たち人間には、「極小さい虫なら無下に擂り潰す」という習性が生まれながらにして身に付いていますよね!
 私も思うのですが、「小さいこと」って、本当に何なんでしょうね?
 「一寸の虫にも五分の魂」という諺がありますから、彼ら「極小さき虫」どもが、本気になって逆襲して来たら、私たちだってそんなに大きくはありませんから、敵いっこありませんよね!
 〔返〕  ゴキブリは殺すけれどもカマキリは殺したりせず益虫だから?


(名古屋市・中村桃子)
〇  とりどりの力士ののぼりはためいて境内にぎわうもう名古屋場所

 その「名古屋場所」も、「もう」終わってしまいました。
 これから後の名古屋嬢たちは、あの「味も素っ気もない」外郎を食べてメタボになって行くばかりなのでありましょうか?
 〔返〕  とりどりの色した箱に納まって味も素っ気もない外郎よ
      とりどりの衣装で身をば包めども味も素っ気もない名古屋嬢


(東京都・十亀弘史)
〇  闘いはまだこれからと議事堂へ響く声あり七月一日

 「闘い」の場は、平成24(2012)年12月16日に投開票された衆議院議員総選挙であったはずである。
 何を血迷ったのか、その闘いの場に於いて、投票を棄権したり、自由民主党候補に投票したりした輩が、今年の7月1日になって「闘いはまだこれから!」などと「議事堂へ響く」奇声を上げたからとて、何の効果がありましょうか!
 私たち日本国民は、あの日、自らの手で我が国の平和と国民の命を悪魔の掌に売り渡してしまったのである!
 〔返〕  闘いはゲリラ戦に突入だ!地方選にて自民を落せ!
 今日付けの朝日新聞朝刊の第一面に「自民、仲井真氏支援へ・沖縄知事選、別候補の擁立断念」というタイトルの記事が掲載されていた。
 私たち日本国民にとっては、来たる11月16日に投開票される沖縄知事選こそは敗者復活戦の第一陣なのである。
 〔返〕  仲井真の三選阻止が命題だ!革新統一候補を立てよ!


(横浜市・飯島幹也)
〇  対馬丸沈みし子らの写真見て憲法九条いよよ思はる

 迎合精神もこれくらいになれば見上げたものである!
 あまりのことに選者の永田和宏先生も感激して、末席ながらもこの凡作を入選作としたではありませんか!
 〔返〕  「これからも大和魂貫く」と豪栄道は馬鹿曝け出す
 新大関・豪栄道の「これからも大和魂貫く」宣言なども自公連立政権の「解釈改憲」と密接な関わりがあるものと判断される。