[長谷川櫂選]
(東京都・無京水彦)
〇 みちのくの青田を風の勇者かな
選者の寸評に曰く「青田を風がわたっていく。そこに幻の巨人をみている」と。
和して評者曰く「青田に一陣の風の起こるや、未だ穂孕みもせざる稲株、一斉に頭を垂れて、幻の将軍の閲兵を受けんとすなり」と。
今年、古希に達したシンガーソングライターの小椋佳作曲、塚原将並びに小椋佳作詞の『渡良瀬を行けば』の歌詞は次の通りである。
野を分けて風が行くと
ひとすじの河に似た跡
風を追い白々と続いている
ああ、それは思い出たどる心の中の路に似て
なんと密やかなものか
野を分けて風が行くと
かくれ咲く花に気付いた
その色のいつまでも揺れて残る
ああ、それは白いまま散った憧れ抱いたひとに似て
なんと哀しいものか
渡りもあえぬ 渡良瀬の
河のほとりを 一人来て
心細道 すべも無く
心を告げる 人も無く
野を分けた風が去ると
ぼうぼうとあおい草原
日盛りに静まって遠く拡がる
ああ、それは思い出たどる心の中の路に似て
なんと儚いものか
〔返〕 青田分け将軍去るや一斉に稲株の列兵頭擡げんとす
(福島市・菅野仁)
〇 睡蓮のもう睡むたげな夕かな
選者の寸評に曰く「スイレンは昼すぎにひらく花。まだ数時間しかたっていないのに眠そうな花の顔」と。
〔返〕 向日葵のまだ焼けそうな顔で佇つ
(東京都・木村史子)
〇 退屈を愛する才や心太
選者の寸評に曰く「退屈こそ東洋の心の神髄。勤勉な精神からすれば、とんでもないが」と。
選者氏もまた東洋の人。
いささか神髄を極め過ぎたような寸評ではあるが?
〔返〕 退屈をさせない程の寸評を
(那須烏山市・川俣水雪)
〇 雲の峰国のかたちも崩れけり
「三国山脈の山際に、しばしの間、ウクライナ共和国の形をした『雲の峰』が見えていたのであるが、やがてその『かたちも崩れ』、ウクライナ共和国の面影を失ってしまった」という意でありましょうか?
〔返〕 クリミアをロシアに盗られ泣きっ面ウクライナ共和国哀れ極めて
(我孫子市・川上素舟)
〇 蚊に好かれ人にも好かれ早や傘寿
不肖・鳥羽省三も、「蚊に好かれ」るという点に於いては、人後に落ちません。
この七月初めに買った「金鳥渦巻かとりせんこう」三十巻入りがそろそろ無くなりそうですから、今日は溝の口駅下のドラッグストアで買って来るつもりです。
〔返〕 世の中にかほど煩きものは無し熱中症に注意せよとふ
(長岡市・内藤孝)
〇 昼寝して三百年や富士の山
富士山 様
何卒、永久の眠りにお就き下さいませ。
〔返〕 昼寝した後に出掛ける溝の口
(明石市・小田和子)
〇 扇ぐほど近づいてくる夏の月
それを言うならば、
〔返〕 仰ぐほど薄くなり行く祖師の恩
(市川市・井上三七)
〇 ちいさくてブリキの羽よ夏の蝶
確かに「ブリキの羽」みたいな翅を持った「夏の蝶」も居ますよね!
〔返〕 実生なる檸檬の双葉けさも亦ムラサキシジミに食せられつも
(玉野市・勝村博)
〇 陽炎の中に居ること誰も知らず
私たち日本人の全ては、「陽炎の中」に居て、常にゆらゆらと揺れている存在なのかも知れません。
〔返〕 吾はいま栄光に包まれているかも知れず彼らとは少し異なり
(東京都府中市・滝光雄)
〇 サングラス外して口をききなさい
かなり前に人づてに聞いた話であるが、「某全国紙の選者を務める大家が主宰として君臨する短歌の某結社に於いては、歌会の出席者に対して、歌会での席順は勿論の事、その他、当日の服装、一例上げて説明すれば、着物の柄や羽織の紐の結び方まで懇切丁寧に説明して聞かせる為に新人が居つかない」との事であった。
ところで、朝日俳壇の選者である長谷川櫂師がかつて主宰をお努めになって居られた「古志」に於いても、句会出席者に対して「サングラス外して口をききなさい」といったような懇切丁寧な生活指導をなさるのでありましょうか?
〔返〕 月曜は朝日俳壇読む日にて長谷川櫂師の選句恨めし
長谷川に小舟浮かべて銀の櫂もて漕ぎ出だし冥界に消ゆ
(東京都・無京水彦)
〇 みちのくの青田を風の勇者かな
選者の寸評に曰く「青田を風がわたっていく。そこに幻の巨人をみている」と。
和して評者曰く「青田に一陣の風の起こるや、未だ穂孕みもせざる稲株、一斉に頭を垂れて、幻の将軍の閲兵を受けんとすなり」と。
今年、古希に達したシンガーソングライターの小椋佳作曲、塚原将並びに小椋佳作詞の『渡良瀬を行けば』の歌詞は次の通りである。
野を分けて風が行くと
ひとすじの河に似た跡
風を追い白々と続いている
ああ、それは思い出たどる心の中の路に似て
なんと密やかなものか
野を分けて風が行くと
かくれ咲く花に気付いた
その色のいつまでも揺れて残る
ああ、それは白いまま散った憧れ抱いたひとに似て
なんと哀しいものか
渡りもあえぬ 渡良瀬の
河のほとりを 一人来て
心細道 すべも無く
心を告げる 人も無く
野を分けた風が去ると
ぼうぼうとあおい草原
日盛りに静まって遠く拡がる
ああ、それは思い出たどる心の中の路に似て
なんと儚いものか
〔返〕 青田分け将軍去るや一斉に稲株の列兵頭擡げんとす
(福島市・菅野仁)
〇 睡蓮のもう睡むたげな夕かな
選者の寸評に曰く「スイレンは昼すぎにひらく花。まだ数時間しかたっていないのに眠そうな花の顔」と。
〔返〕 向日葵のまだ焼けそうな顔で佇つ
(東京都・木村史子)
〇 退屈を愛する才や心太
選者の寸評に曰く「退屈こそ東洋の心の神髄。勤勉な精神からすれば、とんでもないが」と。
選者氏もまた東洋の人。
いささか神髄を極め過ぎたような寸評ではあるが?
〔返〕 退屈をさせない程の寸評を
(那須烏山市・川俣水雪)
〇 雲の峰国のかたちも崩れけり
「三国山脈の山際に、しばしの間、ウクライナ共和国の形をした『雲の峰』が見えていたのであるが、やがてその『かたちも崩れ』、ウクライナ共和国の面影を失ってしまった」という意でありましょうか?
〔返〕 クリミアをロシアに盗られ泣きっ面ウクライナ共和国哀れ極めて
(我孫子市・川上素舟)
〇 蚊に好かれ人にも好かれ早や傘寿
不肖・鳥羽省三も、「蚊に好かれ」るという点に於いては、人後に落ちません。
この七月初めに買った「金鳥渦巻かとりせんこう」三十巻入りがそろそろ無くなりそうですから、今日は溝の口駅下のドラッグストアで買って来るつもりです。
〔返〕 世の中にかほど煩きものは無し熱中症に注意せよとふ
(長岡市・内藤孝)
〇 昼寝して三百年や富士の山
富士山 様
何卒、永久の眠りにお就き下さいませ。
〔返〕 昼寝した後に出掛ける溝の口
(明石市・小田和子)
〇 扇ぐほど近づいてくる夏の月
それを言うならば、
〔返〕 仰ぐほど薄くなり行く祖師の恩
(市川市・井上三七)
〇 ちいさくてブリキの羽よ夏の蝶
確かに「ブリキの羽」みたいな翅を持った「夏の蝶」も居ますよね!
〔返〕 実生なる檸檬の双葉けさも亦ムラサキシジミに食せられつも
(玉野市・勝村博)
〇 陽炎の中に居ること誰も知らず
私たち日本人の全ては、「陽炎の中」に居て、常にゆらゆらと揺れている存在なのかも知れません。
〔返〕 吾はいま栄光に包まれているかも知れず彼らとは少し異なり
(東京都府中市・滝光雄)
〇 サングラス外して口をききなさい
かなり前に人づてに聞いた話であるが、「某全国紙の選者を務める大家が主宰として君臨する短歌の某結社に於いては、歌会の出席者に対して、歌会での席順は勿論の事、その他、当日の服装、一例上げて説明すれば、着物の柄や羽織の紐の結び方まで懇切丁寧に説明して聞かせる為に新人が居つかない」との事であった。
ところで、朝日俳壇の選者である長谷川櫂師がかつて主宰をお努めになって居られた「古志」に於いても、句会出席者に対して「サングラス外して口をききなさい」といったような懇切丁寧な生活指導をなさるのでありましょうか?
〔返〕 月曜は朝日俳壇読む日にて長谷川櫂師の選句恨めし
長谷川に小舟浮かべて銀の櫂もて漕ぎ出だし冥界に消ゆ