[高野公彦選]
○ 祖母と寝る今日が最後の夜なのにドライアイスが冷たく隔てる (奈良市)山添聖子
高野選の首席。
真夏の葬式は亡骸の日持ちがしないが故に、その予防措置としての「ドライアイス」は必需品なのである。
だが、本作の作者は、その「ドライアイス」の「冷たさ」が亡骸の孫に当たる自分と亡骸たる「祖母」との距離と体温の通い合いを「隔てる」のであるなどと、大凡理屈外れのことを言っているのである。
「ドライアイス」こそはまさしく死者と生者との心の交感を妨げる永遠なる障害物に他なりません。
(反歌) ドライアイスが冷たくて大阪のマダムシンコはガリガリ君だ 鳥羽省三
○ 上京せし吾子は調理師三十年「鯖の味噌煮」で母の味売る (三沢市)遠藤知夫
一句目の「上京せし」は、単なる音数合せに終っている感じであるが、東北の辺境・青森県三沢市にお住まいの作者からすれば、「吾子」は何年経っても「上京せし吾子」なのかも知れませんから、本作に於いての「上京せし」は必須条件なのかも知れません。
それにしても、「鯖の味噌煮」を「母の味」として「売る」程度の「調理師」では、ご尊父殿にとってもあまり自慢できる「吾子」とは言えませんな!
察するに、作中の「吾子」は、社会福祉施設か中小企業の社員食堂で働いている「調理師」なのかも知れません。
(反歌) 吾子いまだタニタ食堂歴未満鯖の味噌煮は塩辛すぎる 鳥羽省三
○ 相方の頭を叩く漫才に客が笑えば話芸というらし (神戸市)康 哲虎
健康の「康」さんの仰るとおり、昨今の寄席芸と言ったら、確かにそんなのばっかりですね!
(反歌) 相方の髪の毛吹いて飛ばしたら客席から湧く拍手喝采 鳥羽省三
○ コネあらず贈物せずひたすらに清く貧しく応募し候 (ホームレス)坪内政夫
「ホームレス」必ずしも「清く貧しく」暮らしているとは限りません。
それにしても、こんなにまで面白くもおかしくもない作品を入選作にするとは、さては、高野公彦先生は朝日歌壇の入選作を、「贈物」の多寡に拠って決めているのでありましょうか?
[永田和宏選]
○ 退却を転進と言った過去に似る増税延期は新しき判断 (羽島市)大野日出治
〈反歌〉 贈賄を寄進と看做して起訴猶予 検察審査会の判断 鳥羽省三
○ 日本の真ん中踏んで行ったんだ琵琶湖は巨人の右の足形 (大和郡山市)四方 護
「琵琶湖」は超超どでかい「だいだらぼっち」の「足形」なのかしらん?
○ 八十と七十六が生きてます一戦交えてきょうも元気 (京都市)若林香代子
それにしても「八十と七十六」が「一戦交えてきょうも元気」とは、京都市の若林香代子さんは、よくぞ言ったり!
当方は、未だ七十六歳と六十九歳の若輩夫婦であるにも関わらず、「一戦交えてきょうも元気」どころか、ここ三年間は同衾さえもしていませんよ!
○ 「目的地附近です」とのカーナビの音声やさし葬儀会場 (中野市)小野昭男
本作の作者の小野昭男市やかく申す私が逝かん時も「カーナビ」は「目的地附近です」と「音声やさし」く道案内をして下さるのでありましょうか?
○ コンビニのなかった頃を思い出しどうしていたのか思い出せない (守口市)小杉なんぎん
「頃」までは思い出すけれども、「どうしていたのか」になると「思い出せない」のは、よくある事ですから、あまりご心配なさらぬように。
○ 君ときた君のふるさと君のまちあの日の君はふたつとしうへ (倉敷市)高谷信一
「あの日の君は」という四句目の叙述が、それとなく「君」の死を示唆しているのでありましょうか?
〈反歌〉 生きて居れば僕より二つ年上の君だったけど死んでしまった 鳥羽省三
○ 山椒は柑橘類であると知る両親はかつて恋人同士 (神奈川県)九螺ささら
「山椒」に限らず、「柑橘類」の樹木は総じて鋭どい棘を持っている。
本作の作者は、その「山椒」が「柑橘類であると知る」に至ったとき恰も、昨今は鋭い棘を突っつき合わせて喧嘩ばっかりしている「両親はかつて恋人同士」であったことを思い出したのでありましょうが、それも故無しとは言えません。
〈反歌〉 山椒と夏蜜柑とが棘と棘突っつき合わせて生まれたささら 鳥羽省三
[馬場あき子選]
○ 粒太るぶだうの房に真つ白の袋を掛くる産着のごとく (埼玉県)酒井忠正
我が家の葡萄棚にもたつた五房だけに過ぎませんが「粒太るぶだうの房」が垂れ下がっていますが、我が家では「産着」の如き「真つ白の袋を掛」けるような野暮なことはしませんでした。
何故ならば、この葡萄は植えた当初から小鳥寄せの罠としての葡萄だったからです。
えっ、寄せた小鳥はどうするんですって?
小鳥は、焼き鳥にして食べるに決まっ鳥ましょう!
○ 愛犬を丸洗いして木につなぐ二人ぼつちの夏の夕暮れ (笠間市)北沢 錨
〈反歌〉 海に入る錨でさえも棘四つなのに二人ぼつちの夕暮れ
○ 朝にまたテロの記事あり夕べにはガリレオ衛星瞬くを見る (横浜市)須藤徹郎
ローマ教皇庁を中心とした十七世紀のヨーロッパ社会に於いては、ガリレオ・カリレイの科学的思考とその主張こそは、一種のテロ行為にも似た暴虐無類の暴挙であったのかも知れません。
とまで心を致せば、「朝にまたテロの記事あり夕べにはガリレオ衛星瞬くを見る」という、この一首に託した作者の意図や叙情の謎もすらすらと解明されて行くような気がします。
○ 最近は先生よりも親よりも胸に響く先輩のことば (芦屋市)室 文子
中学の悪「先輩」どもは、室文子さんに何するが判りませんから、ゆめゆめ油断なさいませんように!
それに比べると、室文子さんの前住地・宝塚市の小母ちゃんは親切なものです。
何しろ、斯く申す私・鳥羽省三が室文子さんの作品に少しばかり茶々を入れたら、彼女は血相変えて怒鳴り込んで来ましたからね!
○ 母親に添ひし十二の赤ちゃんガモ今日は十一羽誰が数えても (郡山市)渡辺良子
竜安寺の枯山水の十五個の庭石は、見る角度に拠っては、必ずしも十五個には見えないということでありますから、念には念を入れてもう一度数えましょう。
○ 白珠の卵曝して大き蛾は朝の舗石に果ててゐたりき (名古屋市)木村久子
「白珠の→卵曝して→大き蛾は→朝の舗石に→果ててゐたりき」と、一句目から五句目まで、ぐいっぐいっと迫って来るようなリズミカルな一首であるだけに、「朝の舗石に」という四句目の字余りがあまりにも惜しまれます。
四句目の「舗石」を「舗道」として、「白珠の卵曝して大き蛾は朝の舗道に果ててゐたりき」となさったら如何でありましょうか?
[佐佐木幸綱選]
○ テスト中部活は休み眠ってる音楽室を起こさず帰る (富山市)松田わこ
いつもなら、ショパンのエチュードでも弾いてから帰宅するのでありましょうが、「テスト中」で「部活は休み」であるから、「眠ってる音楽室を起こ」す訳には行かず、そのまま弾かずに帰るのでありましょう。
「眠ってる音楽室を起こさず帰る」という優しい気遣いと表現が抜群に宜しい。
○ 伊豆行きの普通電車がゆっくりと窓いっぱいの海と空見す (東京都)豊 万里
伊豆観光は「リゾート21・アドちゃんトレイン」も宜しいが、何と行っても「普通電車」が空いていて安価なので宜しい。
○ 那智黒の飴と梛の葉お土産に熊野十二里古道を歩く (東京都)平原洋子
「那智黒の飴」も「梛の葉」も簡単には買えませんから、「熊野十二里古道」散策のお土産としては最適なのかも知れません。
○ おつきさまみたいにママがやせたのはおばあちゃんがもういないから (奈良市)山ぞえあおい
「山ぞえあおい」さんが目にした「おつきさま」は、月齢二十六日頃の「有明月」であったのでありましょうか?
それにしても不思議なのは、通常、「おばあちゃん」が亡くなると「ママ」は太つてしまうのであるが、本作の場合はその真逆なのである。
思うに、「山ぞえあおい」さんの家では、「ママ」が「おばあちゃん」の実の娘で、パパが入婿であったのかも知れません。
○ 知らぬ間に誰か消え去る日常に慣らされて行く老人ホーム (築紫野市)二宮正博
「知らぬ間に誰か消え去る日常に慣らされて行く」のは、「老人ホーム」に限らず、この現代社会の実態なのでありましょう。
(反歌) 短か世を釈迦力に生き過ぎちょびれ大橋巨泉の生き様凄し 鳥羽省三
○ 祖母と寝る今日が最後の夜なのにドライアイスが冷たく隔てる (奈良市)山添聖子
高野選の首席。
真夏の葬式は亡骸の日持ちがしないが故に、その予防措置としての「ドライアイス」は必需品なのである。
だが、本作の作者は、その「ドライアイス」の「冷たさ」が亡骸の孫に当たる自分と亡骸たる「祖母」との距離と体温の通い合いを「隔てる」のであるなどと、大凡理屈外れのことを言っているのである。
「ドライアイス」こそはまさしく死者と生者との心の交感を妨げる永遠なる障害物に他なりません。
(反歌) ドライアイスが冷たくて大阪のマダムシンコはガリガリ君だ 鳥羽省三
○ 上京せし吾子は調理師三十年「鯖の味噌煮」で母の味売る (三沢市)遠藤知夫
一句目の「上京せし」は、単なる音数合せに終っている感じであるが、東北の辺境・青森県三沢市にお住まいの作者からすれば、「吾子」は何年経っても「上京せし吾子」なのかも知れませんから、本作に於いての「上京せし」は必須条件なのかも知れません。
それにしても、「鯖の味噌煮」を「母の味」として「売る」程度の「調理師」では、ご尊父殿にとってもあまり自慢できる「吾子」とは言えませんな!
察するに、作中の「吾子」は、社会福祉施設か中小企業の社員食堂で働いている「調理師」なのかも知れません。
(反歌) 吾子いまだタニタ食堂歴未満鯖の味噌煮は塩辛すぎる 鳥羽省三
○ 相方の頭を叩く漫才に客が笑えば話芸というらし (神戸市)康 哲虎
健康の「康」さんの仰るとおり、昨今の寄席芸と言ったら、確かにそんなのばっかりですね!
(反歌) 相方の髪の毛吹いて飛ばしたら客席から湧く拍手喝采 鳥羽省三
○ コネあらず贈物せずひたすらに清く貧しく応募し候 (ホームレス)坪内政夫
「ホームレス」必ずしも「清く貧しく」暮らしているとは限りません。
それにしても、こんなにまで面白くもおかしくもない作品を入選作にするとは、さては、高野公彦先生は朝日歌壇の入選作を、「贈物」の多寡に拠って決めているのでありましょうか?
[永田和宏選]
○ 退却を転進と言った過去に似る増税延期は新しき判断 (羽島市)大野日出治
〈反歌〉 贈賄を寄進と看做して起訴猶予 検察審査会の判断 鳥羽省三
○ 日本の真ん中踏んで行ったんだ琵琶湖は巨人の右の足形 (大和郡山市)四方 護
「琵琶湖」は超超どでかい「だいだらぼっち」の「足形」なのかしらん?
○ 八十と七十六が生きてます一戦交えてきょうも元気 (京都市)若林香代子
それにしても「八十と七十六」が「一戦交えてきょうも元気」とは、京都市の若林香代子さんは、よくぞ言ったり!
当方は、未だ七十六歳と六十九歳の若輩夫婦であるにも関わらず、「一戦交えてきょうも元気」どころか、ここ三年間は同衾さえもしていませんよ!
○ 「目的地附近です」とのカーナビの音声やさし葬儀会場 (中野市)小野昭男
本作の作者の小野昭男市やかく申す私が逝かん時も「カーナビ」は「目的地附近です」と「音声やさし」く道案内をして下さるのでありましょうか?
○ コンビニのなかった頃を思い出しどうしていたのか思い出せない (守口市)小杉なんぎん
「頃」までは思い出すけれども、「どうしていたのか」になると「思い出せない」のは、よくある事ですから、あまりご心配なさらぬように。
○ 君ときた君のふるさと君のまちあの日の君はふたつとしうへ (倉敷市)高谷信一
「あの日の君は」という四句目の叙述が、それとなく「君」の死を示唆しているのでありましょうか?
〈反歌〉 生きて居れば僕より二つ年上の君だったけど死んでしまった 鳥羽省三
○ 山椒は柑橘類であると知る両親はかつて恋人同士 (神奈川県)九螺ささら
「山椒」に限らず、「柑橘類」の樹木は総じて鋭どい棘を持っている。
本作の作者は、その「山椒」が「柑橘類であると知る」に至ったとき恰も、昨今は鋭い棘を突っつき合わせて喧嘩ばっかりしている「両親はかつて恋人同士」であったことを思い出したのでありましょうが、それも故無しとは言えません。
〈反歌〉 山椒と夏蜜柑とが棘と棘突っつき合わせて生まれたささら 鳥羽省三
[馬場あき子選]
○ 粒太るぶだうの房に真つ白の袋を掛くる産着のごとく (埼玉県)酒井忠正
我が家の葡萄棚にもたつた五房だけに過ぎませんが「粒太るぶだうの房」が垂れ下がっていますが、我が家では「産着」の如き「真つ白の袋を掛」けるような野暮なことはしませんでした。
何故ならば、この葡萄は植えた当初から小鳥寄せの罠としての葡萄だったからです。
えっ、寄せた小鳥はどうするんですって?
小鳥は、焼き鳥にして食べるに決まっ鳥ましょう!
○ 愛犬を丸洗いして木につなぐ二人ぼつちの夏の夕暮れ (笠間市)北沢 錨
〈反歌〉 海に入る錨でさえも棘四つなのに二人ぼつちの夕暮れ
○ 朝にまたテロの記事あり夕べにはガリレオ衛星瞬くを見る (横浜市)須藤徹郎
ローマ教皇庁を中心とした十七世紀のヨーロッパ社会に於いては、ガリレオ・カリレイの科学的思考とその主張こそは、一種のテロ行為にも似た暴虐無類の暴挙であったのかも知れません。
とまで心を致せば、「朝にまたテロの記事あり夕べにはガリレオ衛星瞬くを見る」という、この一首に託した作者の意図や叙情の謎もすらすらと解明されて行くような気がします。
○ 最近は先生よりも親よりも胸に響く先輩のことば (芦屋市)室 文子
中学の悪「先輩」どもは、室文子さんに何するが判りませんから、ゆめゆめ油断なさいませんように!
それに比べると、室文子さんの前住地・宝塚市の小母ちゃんは親切なものです。
何しろ、斯く申す私・鳥羽省三が室文子さんの作品に少しばかり茶々を入れたら、彼女は血相変えて怒鳴り込んで来ましたからね!
○ 母親に添ひし十二の赤ちゃんガモ今日は十一羽誰が数えても (郡山市)渡辺良子
竜安寺の枯山水の十五個の庭石は、見る角度に拠っては、必ずしも十五個には見えないということでありますから、念には念を入れてもう一度数えましょう。
○ 白珠の卵曝して大き蛾は朝の舗石に果ててゐたりき (名古屋市)木村久子
「白珠の→卵曝して→大き蛾は→朝の舗石に→果ててゐたりき」と、一句目から五句目まで、ぐいっぐいっと迫って来るようなリズミカルな一首であるだけに、「朝の舗石に」という四句目の字余りがあまりにも惜しまれます。
四句目の「舗石」を「舗道」として、「白珠の卵曝して大き蛾は朝の舗道に果ててゐたりき」となさったら如何でありましょうか?
[佐佐木幸綱選]
○ テスト中部活は休み眠ってる音楽室を起こさず帰る (富山市)松田わこ
いつもなら、ショパンのエチュードでも弾いてから帰宅するのでありましょうが、「テスト中」で「部活は休み」であるから、「眠ってる音楽室を起こ」す訳には行かず、そのまま弾かずに帰るのでありましょう。
「眠ってる音楽室を起こさず帰る」という優しい気遣いと表現が抜群に宜しい。
○ 伊豆行きの普通電車がゆっくりと窓いっぱいの海と空見す (東京都)豊 万里
伊豆観光は「リゾート21・アドちゃんトレイン」も宜しいが、何と行っても「普通電車」が空いていて安価なので宜しい。
○ 那智黒の飴と梛の葉お土産に熊野十二里古道を歩く (東京都)平原洋子
「那智黒の飴」も「梛の葉」も簡単には買えませんから、「熊野十二里古道」散策のお土産としては最適なのかも知れません。
○ おつきさまみたいにママがやせたのはおばあちゃんがもういないから (奈良市)山ぞえあおい
「山ぞえあおい」さんが目にした「おつきさま」は、月齢二十六日頃の「有明月」であったのでありましょうか?
それにしても不思議なのは、通常、「おばあちゃん」が亡くなると「ママ」は太つてしまうのであるが、本作の場合はその真逆なのである。
思うに、「山ぞえあおい」さんの家では、「ママ」が「おばあちゃん」の実の娘で、パパが入婿であったのかも知れません。
○ 知らぬ間に誰か消え去る日常に慣らされて行く老人ホーム (築紫野市)二宮正博
「知らぬ間に誰か消え去る日常に慣らされて行く」のは、「老人ホーム」に限らず、この現代社会の実態なのでありましょう。
(反歌) 短か世を釈迦力に生き過ぎちょびれ大橋巨泉の生き様凄し 鳥羽省三