(夏実麦太朗)
聞こえないはずなんだけどふと何か聞こえたようなそれが空耳
「空耳」を<お題>として詠んだ短歌の中で、「空耳」という語の意味を解説するところに、本作の作者・夏実麦太朗さんの真面目さとユーモアセンスが感じられる。
しかしながら、「空耳」には、夏実麦太朗さんがこの作品の中で解説した意味の他に、「聞いても聞かないふりをすること」という意味もあるから、彼のせっかくのご努力も水泡に帰してしまった訳である。
夏実麦太朗さんは、本作を通じて、「ことほど然様に短歌創作ということは難しいものだ」ということを、「題詠2010」の全参加者にご教授下さったのでありましょう。
〔返〕 「聞いてても聞かないふりをすること」も「空耳」という言葉の意味だ 鳥羽省三
(西中眞二郎)
目覚ましは空耳なるに起こされてぬるき布団に惰眠続ける
深夜まで役所で働き、帰宅して、ほんの数時間眠ったかと思うと亦、昨日と同じ役所に出勤して働かなければならないのがお役人の宿命である。
本作の作者・西中眞二郎さんは<元・高級官僚>、と言えば、聞こえはいいが、本作によると彼は、<目覚まし>の音を<空耳>に聴くのだと言う。
可哀想な<元・高級官僚>ではある。
〔返〕 空耳に<ゲゲゲの女房>の主題歌を聴いて飛び起きテレビをつける 鳥羽省三
NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」も宜しいが、私は、あの連ドラの主題歌の歌い出しの「『ありがとう』って伝えたくて」の部分が苦手である。
「ありがとう」の後の部分が何をどう言ってるのか、さっぱり分からないからである。
あれは、<国営テレビ・NHK>による、意図的な日本語破壊策である。
即刻、放映禁止。
でも、歌い手の「いきものがかり」そのものは、かなりいい線行ってるぞ。
何よりも、あの歌い手の、三流高校の合唱部員のような糞真面目な歌い方が宜しい。
(藻上旅人)
窓の外川べりに立つ子供たち空耳友にひとり旅する
「ああ 日本のどこかに/私を待ってる 人がいる/いい日旅立ち 夕焼を探しに/母の背中で聞いた 歌を道連れに」
「ああ 日本のどこかに/私を待ってる 人がいる/いい日旅立ち ひつじ雲を探しに/父が教えてくれた 歌を道連れに」
「ああ 日本のどこかに/私を待ってる 人がいる/いい日旅立ち 幸せを探しに/子供の頃に歌った 歌を道連れに」 (谷村新司作詞『いい日旅立ち』より)
〔返〕 二匹目の泥鰌狙って旅立ちぬ汝が空耳の<ipod>淋し 鳥羽省三
(蝉マル)
最低でも県外移設?五月末必ず決着?空耳でしょう
古い、古い。
この作品も、「空耳」で聴いたことにしましょう。
先般の参院選で、選挙民は<ねじれ国会>による国家財政の損失を考えないで自民党に投票したのである。
〔返〕 谷垣かダニ餓鬼野郎か知らねども天に唾するばら撒き批判 鳥羽省三
(穂ノ木芽央)
君なほも空耳と云ひ拒むのか白き日傘のひらく音して
穂ノ木芽央さんは、<彼>の立場に立ってこの作品をお詠みになったのであろう。
「ねえ、君、いま何か言った。僕と結婚したいって、言ったんでしょう。えー、何も言っていないって。僕と結婚したいって、言っていないって。うそ。うそ。そんなことうそ。君はまた、『空耳』のせいにして、僕のたった一つの希望を拒むんでしょう。白い『日傘』なんか『ひらく音』を、殊更に大きく立ててさ」と彼は言う。
〔返〕 今日もまた空耳と言い拒むのか私は君の手ごろな玩具 鳥羽省三
(中村梨々)
空耳をなくしてからは雨ばかり聞いてました 記憶の底で
「空耳」まで「なくして」しまったら、もはや何も聞こえません。
目の前で降っている「雨」の音だって、「記憶の底」で聞いているしか無いのである。
〔返〕 「リリ、リリ」と呼ばれたような気がしたが空耳だったことさえ昔 鳥羽省三
(南葦太)
もういいかい? まぁだだよ って空耳に人でいられた時間をおもう
南葦太さんは、大阪から<人で無しの国>に引っ越して行って、その昔、大阪で、「もういいかい? まぁだだよ」って言いながら、人間の友だちと<かくれんぼ遊び>をした時の声を「空耳」に聞いているのである。
「人でいられた時間」の、何と懐かしく、何と素晴らしかったことよ。
思うに、南葦太さんに限らず、私たち人間は、もはや「人」でなくなっているのである。
あの「もういいかい? まぁだだよ」が、この頃、しきりに懐かしく思われるのは、私たちが、人でなくなっていることの何よりの証拠であろう。
〔返〕 人で無く女であるか風俗嬢 我が子二人を飢え死にさせて 鳥羽省三
(珠弾)
いきなさいそのまままっすぐすすむのよこずえ見上げる空耳の丘
あの中国東北部になら、「こずえ見上げる」「空耳の丘」が、きっと在ったに違いない。
我が歌友の珠弾さんは、敗戦の引き揚げのどさくさの中で、ご両親から、その「空耳の丘」を「いきなさいそのまままっすぐすすむのよ」と言われた、哀しい記憶を持っているに違いない。
それこそ、体裁のいい<口減らし>、亦の名は<児童遺棄手段>である。
〔返〕 「生きなさい。そのまま真っ直ぐ生きなさい。」我が子に残す我の遺言 鳥羽省三
なんちゃって。
(生田亜々子)
マンションの上に広がる青空が今日の空耳発信元です
マンションの上空が真っ青だったりすると、何と無く、その青い空から「ピー、ピー、ピー」と宇宙人からの伝言が響いて来るような気がします。
でも、それは、「空耳」というやつですから悪しからず。
〔返〕 「ピー、ピー、ピー、アアコサン、アアコサン、テス、テス」と宇宙人から君への空耳 鳥羽省三
(黒崎聡美)
鯵を焼き大根を煮る振りむけばまた空耳の台所にいる
「台所」に居て、「鯵を焼き大根を煮る」とは、何と安直な家庭サービスであることよ。
それでは、振り向いても誰も居ません。
猫一匹すら居ません。
聞こえるのは、「空耳」のせいでしょう。
〔返〕 パンを焼きカフェオレ入れて振り向けば妻がにっこり我が家の朝餉 鳥羽省三
(希屋の浦)
青い空耳に聞こえる潮の音待ちくたびれた夏が始まる
本当に「待ちくたびれた」としても、作品上では「待ちくたびれた」と言ってはいけません。
作風が作風だけに、これでは、せっかくの「夏」がだいなしになりますよ。
題材も発想もありふれたものであるだけに、確りと抜かり無く詠まなければなりません。
〔返〕 青い空耳に聞こえる潮鳴りが待ちに待ってた夏を知らせる 鳥羽省三
(こゆり)
教室の窓開け放つ 空耳がえいえんみたいに響いて泣いた
「えいえんみたいに」が効いている。
「教室の窓」を「開け放つ」と、何処からか音が聞こえて来て、「空耳」に「えいえんみたい」に響くのである。
その響きを聞いていると、何故か泣けて来るのである。
〔返〕 教室の窓から見えたブルマーは純情われを永久に泣かせる 鳥羽省三
(冥亭)
かはたれの土手を駆け逝く空耳よオグリキャップは白きたてがみ
あのハイセーコーも死んだ。
あのオグリキャップも死んだ。
生きて、縄目の辱めを受けているのは、あの駄馬のハルウララだけだ。
〔返〕 たそがれは誰(たれ)も空耳あの西空にまなこ濡らして 鳥羽省三
聞こえないはずなんだけどふと何か聞こえたようなそれが空耳
「空耳」を<お題>として詠んだ短歌の中で、「空耳」という語の意味を解説するところに、本作の作者・夏実麦太朗さんの真面目さとユーモアセンスが感じられる。
しかしながら、「空耳」には、夏実麦太朗さんがこの作品の中で解説した意味の他に、「聞いても聞かないふりをすること」という意味もあるから、彼のせっかくのご努力も水泡に帰してしまった訳である。
夏実麦太朗さんは、本作を通じて、「ことほど然様に短歌創作ということは難しいものだ」ということを、「題詠2010」の全参加者にご教授下さったのでありましょう。
〔返〕 「聞いてても聞かないふりをすること」も「空耳」という言葉の意味だ 鳥羽省三
(西中眞二郎)
目覚ましは空耳なるに起こされてぬるき布団に惰眠続ける
深夜まで役所で働き、帰宅して、ほんの数時間眠ったかと思うと亦、昨日と同じ役所に出勤して働かなければならないのがお役人の宿命である。
本作の作者・西中眞二郎さんは<元・高級官僚>、と言えば、聞こえはいいが、本作によると彼は、<目覚まし>の音を<空耳>に聴くのだと言う。
可哀想な<元・高級官僚>ではある。
〔返〕 空耳に<ゲゲゲの女房>の主題歌を聴いて飛び起きテレビをつける 鳥羽省三
NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」も宜しいが、私は、あの連ドラの主題歌の歌い出しの「『ありがとう』って伝えたくて」の部分が苦手である。
「ありがとう」の後の部分が何をどう言ってるのか、さっぱり分からないからである。
あれは、<国営テレビ・NHK>による、意図的な日本語破壊策である。
即刻、放映禁止。
でも、歌い手の「いきものがかり」そのものは、かなりいい線行ってるぞ。
何よりも、あの歌い手の、三流高校の合唱部員のような糞真面目な歌い方が宜しい。
(藻上旅人)
窓の外川べりに立つ子供たち空耳友にひとり旅する
「ああ 日本のどこかに/私を待ってる 人がいる/いい日旅立ち 夕焼を探しに/母の背中で聞いた 歌を道連れに」
「ああ 日本のどこかに/私を待ってる 人がいる/いい日旅立ち ひつじ雲を探しに/父が教えてくれた 歌を道連れに」
「ああ 日本のどこかに/私を待ってる 人がいる/いい日旅立ち 幸せを探しに/子供の頃に歌った 歌を道連れに」 (谷村新司作詞『いい日旅立ち』より)
〔返〕 二匹目の泥鰌狙って旅立ちぬ汝が空耳の<ipod>淋し 鳥羽省三
(蝉マル)
最低でも県外移設?五月末必ず決着?空耳でしょう
古い、古い。
この作品も、「空耳」で聴いたことにしましょう。
先般の参院選で、選挙民は<ねじれ国会>による国家財政の損失を考えないで自民党に投票したのである。
〔返〕 谷垣かダニ餓鬼野郎か知らねども天に唾するばら撒き批判 鳥羽省三
(穂ノ木芽央)
君なほも空耳と云ひ拒むのか白き日傘のひらく音して
穂ノ木芽央さんは、<彼>の立場に立ってこの作品をお詠みになったのであろう。
「ねえ、君、いま何か言った。僕と結婚したいって、言ったんでしょう。えー、何も言っていないって。僕と結婚したいって、言っていないって。うそ。うそ。そんなことうそ。君はまた、『空耳』のせいにして、僕のたった一つの希望を拒むんでしょう。白い『日傘』なんか『ひらく音』を、殊更に大きく立ててさ」と彼は言う。
〔返〕 今日もまた空耳と言い拒むのか私は君の手ごろな玩具 鳥羽省三
(中村梨々)
空耳をなくしてからは雨ばかり聞いてました 記憶の底で
「空耳」まで「なくして」しまったら、もはや何も聞こえません。
目の前で降っている「雨」の音だって、「記憶の底」で聞いているしか無いのである。
〔返〕 「リリ、リリ」と呼ばれたような気がしたが空耳だったことさえ昔 鳥羽省三
(南葦太)
もういいかい? まぁだだよ って空耳に人でいられた時間をおもう
南葦太さんは、大阪から<人で無しの国>に引っ越して行って、その昔、大阪で、「もういいかい? まぁだだよ」って言いながら、人間の友だちと<かくれんぼ遊び>をした時の声を「空耳」に聞いているのである。
「人でいられた時間」の、何と懐かしく、何と素晴らしかったことよ。
思うに、南葦太さんに限らず、私たち人間は、もはや「人」でなくなっているのである。
あの「もういいかい? まぁだだよ」が、この頃、しきりに懐かしく思われるのは、私たちが、人でなくなっていることの何よりの証拠であろう。
〔返〕 人で無く女であるか風俗嬢 我が子二人を飢え死にさせて 鳥羽省三
(珠弾)
いきなさいそのまままっすぐすすむのよこずえ見上げる空耳の丘
あの中国東北部になら、「こずえ見上げる」「空耳の丘」が、きっと在ったに違いない。
我が歌友の珠弾さんは、敗戦の引き揚げのどさくさの中で、ご両親から、その「空耳の丘」を「いきなさいそのまままっすぐすすむのよ」と言われた、哀しい記憶を持っているに違いない。
それこそ、体裁のいい<口減らし>、亦の名は<児童遺棄手段>である。
〔返〕 「生きなさい。そのまま真っ直ぐ生きなさい。」我が子に残す我の遺言 鳥羽省三
なんちゃって。
(生田亜々子)
マンションの上に広がる青空が今日の空耳発信元です
マンションの上空が真っ青だったりすると、何と無く、その青い空から「ピー、ピー、ピー」と宇宙人からの伝言が響いて来るような気がします。
でも、それは、「空耳」というやつですから悪しからず。
〔返〕 「ピー、ピー、ピー、アアコサン、アアコサン、テス、テス」と宇宙人から君への空耳 鳥羽省三
(黒崎聡美)
鯵を焼き大根を煮る振りむけばまた空耳の台所にいる
「台所」に居て、「鯵を焼き大根を煮る」とは、何と安直な家庭サービスであることよ。
それでは、振り向いても誰も居ません。
猫一匹すら居ません。
聞こえるのは、「空耳」のせいでしょう。
〔返〕 パンを焼きカフェオレ入れて振り向けば妻がにっこり我が家の朝餉 鳥羽省三
(希屋の浦)
青い空耳に聞こえる潮の音待ちくたびれた夏が始まる
本当に「待ちくたびれた」としても、作品上では「待ちくたびれた」と言ってはいけません。
作風が作風だけに、これでは、せっかくの「夏」がだいなしになりますよ。
題材も発想もありふれたものであるだけに、確りと抜かり無く詠まなければなりません。
〔返〕 青い空耳に聞こえる潮鳴りが待ちに待ってた夏を知らせる 鳥羽省三
(こゆり)
教室の窓開け放つ 空耳がえいえんみたいに響いて泣いた
「えいえんみたいに」が効いている。
「教室の窓」を「開け放つ」と、何処からか音が聞こえて来て、「空耳」に「えいえんみたい」に響くのである。
その響きを聞いていると、何故か泣けて来るのである。
〔返〕 教室の窓から見えたブルマーは純情われを永久に泣かせる 鳥羽省三
(冥亭)
かはたれの土手を駆け逝く空耳よオグリキャップは白きたてがみ
あのハイセーコーも死んだ。
あのオグリキャップも死んだ。
生きて、縄目の辱めを受けているのは、あの駄馬のハルウララだけだ。
〔返〕 たそがれは誰(たれ)も空耳あの西空にまなこ濡らして 鳥羽省三