臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の「朝日歌壇」から(11月13日掲載分・其のⅠ)北方四島以南、本日大公開!乞う、ご一読賛嘆!

2016年11月20日 | 今週の朝日俳壇から
[高野公彦選]
○ 千万を超える孤食の輪の中で今朝も元気に納豆食らう (宇都宮市)鈴木孝男

 宇都宮市にお住まいの鈴木孝男さんは、「千万を超える孤食の輪の中で今朝も元気に納豆食らう」などと能天気なことをおっしゃいますが、「千万を超える孤食」は、決して、決して「輪」を為すこと無く「てんでんこ」なるが故の「孤食」ではありませんか?


○ 山登り競争がないスポーツと言った彼女の言葉が愛しい (本宮市)加藤美紀

 お名前が「美紀」ですから、私はてっきり、本作の作者を女性であるばかりに思っていたのでありましたが、作中の「彼女」に着目すると、福島県本宮市にお住まいの加藤美紀さんはどうやら男性らしい?
 否、誤解の無いように申し上げますが、仮に、女性である加藤美紀さんが同性の「彼女の言葉が愛しい」と仰ったとしても、格別に不思議な事ではありませんけど!


○ 蟷螂を愛玩動物代わりに飼っている餌やる度に身構える奴を (アメリカ)郷 隼人

 作中の「蟷螂」に「マンテイス」と、「愛玩動物」「ペット」とのルビ在り。
 「郷隼人作の短歌の極意は、漢字書きの名詞にカタカナの振り仮名を施す点に在り」と私は得心して居りますが、たまには極意離れをなさったら如何でありましょうか!
 飼われて居ながらも「餌やる度に身構える」のは、斯く申す私・鳥羽省三や郷隼人さんを含めた動物の常でありましょう。


○ 死は必然生は偶然と夫説く胃の全摘で変わる人生 (飯塚市)春 春代

 「胃の全摘で変わる人生」とありますが、「変わる」のは人生観でありまして、決して、決して「人生」そのものではありません。
 何故ならば、飯塚市にお住まいの作者・春春代さんのご夫君殿が、この時点で「胃の全摘」手術を受ける事は、既に彼の「人生」の中に織り込まれていたのでありますから!
 それにしても「死は必然生は偶然」などと、奥様にお説きになられるとは、春春代さんのご夫君殿の何と達観なさって居られますことよ!


○ 期限切れの仲間がうろつく期限切れの弁当狙って深夜二時です (ホームレス)坪内政夫

 「期限切れの仲間がうろつく」とありますから、ホームレスの坪内政夫さんは、自らをも「期限切れ」の人間であると達観なさって居られるのでありましょうが、それはあまりにも手前勝手な達観でありましょう。
 何故ならば、私たち人間というものは、生まれたら最期「期限切れ」無しに働いて、生きて行かなければならない存在でありますから!
 それなのにも関わらず、「深夜二時」に「期限切れの弁当」を「狙って」、コンビニのゴミ箱漁りをするとは、何たる心掛けでありましょう! 


○ 悴みし指でひたすら葉書かく坪内さんの街に冬来る (男鹿市)天野美奈子

 入選狙い見え見えの作品ではありますが、私たち朝日歌壇の読者にとってのホームレスの坪内政夫さんは、あくまでも所在地不明、消息不明の人物である事を忘れてはいけません。
 それなのにも関わらず、そのホームレスの坪内政夫さんが「悴みし指でひたすら葉書かく」とか、「坪内さんの街に冬来る」とかと仰るとは、是、即ち、憶測もいいところではありませんか!


○ チベットからヒマラヤを越えてインドまで群飛のアネハヅル時に落つ (川越市)小野長辰

 「群飛のアネハヅル時に落つ」とありますが、それにしても思い出されるのは、耐震強度偽装事件の被疑者・姉歯秀次なる人物のその後の消息である。
 私の耳にしたところに拠ると、「件の一件が発覚した当時、震度5か6でパターンと倒れると報道された姉歯元1級建築士が設計したマンションは、今のところただの一棟として地震の被害に遭っていないとか?そもそも、国土交通省の定める耐震強度があまりにも強すぎる設定になっているだけで、姉歯氏の計算通り、1000年に1度の地震が来ても、彼らの物件やマンションはビクともしなかったのだ」とか?


○ 涼しげなガラス細工は灼熱の工房で作る。苦こそ美を生む (東京都)上田結香

 「苦こそ美を生む」とは、必ずしも限りません。
 疑う者は、斯く申す私・鳥羽省三の手になるブログ「臆病なビーズ刺繍」を一見せよ!
 艱難辛苦に耐えながら記しているこのブログの何処に「美」が在りや!



○ 重たげな稲穂を風に預けつつ金波の中にかくれる案山子 (大阪市)波々伯部宮三子

 私たち本作の読者は、作中の「稲穂」が、作中の「金波」と同一である点に留意しなければなりません。
 即ち、本作は「本来は稲穂を押し寄せる雀どもの被害から守らなければ役目を帯びた案山子が、折からの風に煽られて明滅する稲穂の黄金の波に、我が身を隠して与えられた役目を怠っている」という趣旨の作品なのである。


○ わが脳の海馬海を恋ひ呆とあるらし人の名を忘る (三鷹市)柴田典子

 作中の「海馬」に「タツノオトシゴ」というルビ在り。
 一首の意は、「『わが脳の海馬』が生まれ故郷の『海を恋ひ』呆然としているらしいが、その為に、私は親しい『人の名』さえも忘れてしまった」といったところでありましょうか?
    
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今週の朝日俳壇から(10月27日掲載・其のⅠ)

2014年10月27日 | 今週の朝日俳壇から
[長谷川櫂選]

(金沢市・今村征一)
〇  蘆を刈るここも宇宙の一部分

(東京都・吉竹純)
〇  飼猫の眠るところが秋の昼

(霧島市・久野茂樹)
〇  くすぐりの刑に処せられねこじやらし

 「ねこじやらし」で以ってする「くすぐりの刑」は、少年時代の作者が村の悪餓鬼仲間からよく遣られた悪戯であるが、あれから二十年余り経った今、霧島市のモテモテ男の久野茂樹さんは、それを敢えて近頃付き合い始めたばかりの新しい彼女に対して為しているのである。
 「判決、眩井彩也香さん。貴女をデイトの時間に三分も遅刻した罪に因って、くすぐりの刑に処す。」


(加古川市・西岡旅)
〇  栗めしや丹波一円真昼時

 兵庫県と言えども、瀬戸内海に面した加古川市にお住いの作者が、同じ兵庫県と言えども、旧丹波国に属する山間部の篠山市辺りに日帰りの小旅行に出掛けた折の「真昼時」にたまたま目にした(と言うよりも匂いとして感じ取った)珍しい光景に取材した一句であり、自分の生活半径から離れた地方に旅行した折の感激が見事に表現されているのである。
 今の兵庫県は、旧摂津国と丹波国の各西半分および但馬国と播磨国と淡路国の各全域に当たるが、僅かながらも美作国及び備前国の一部も含んでおり、藩政時代の七ヵ国に跨って成り立っているので、播磨地方の住民である西岡旅さんが、たまたま出掛けた「丹波」地方「一円」の民家の「真昼時」に目にした、台所から「栗めし」の匂いのこもった湯気が立ち上っている光景は驚嘆の叫びを挙げるに値するものであったに違いない。


(京都市・山口秋野)
〇  花入れを作る利休や竹の春

 手慰み仕事の竹細工としての「花入れ」を作っている自分自身を、千利休に見立てているのである。


(船橋市・藤井元基)
〇  月山といふも一切霧の中

 辺り一面「霧の中」であり、「(信仰の山)月山」に来ているという実感が湧かないで、戸惑っているのでありましょうか?


(稲沢市・杉山一三)
〇  稲妻や落ちれば割れるガラス瓶


(松戸市・長谷川隆)
〇  サフランの一球置きし違ひ棚


(越谷市・シーザー夏海)
〇  黒猫にも白いもの増え秋の風


(横浜市・日下野禎一)
〇  九条に光一条げんげ蒔く

[大串章選]

(大阪市・加藤英二)
〇  青色の光を祝い月赤く

(藤沢市・小田島美紀子)
〇  運動会涙腺ゆるむ日なりけり

(鹿児島市・野田成三樹)
〇  末枯るるものこころにもありにけり

(東京都・竹内宗一郎)
〇  月蝕や南瓜の歩く気配あり

(福岡県大木町・徳永スキ子)
〇  開拓の島穏やかに稲熟るる

(青梅市・市川賢)
〇  熟柿落つ夕日の雫落つるごと

(横浜市・込宮正一)
〇  秋の夜死ぬなと言はれ嬉しくて

(今治市・横田青天子)
〇  古戦場とは鳥の声虫の声

(丸亀市・松井千代子)
〇  月蝕や卵黄のごと空に浮く

(八王子市・石川みえ子)
〇  鈴虫の送り迎へやひとり住み

[稲畑汀子選]

(柏原市・早川水鳥)
〇  秋天や放り出されてロープウエイ

 下界から「秋天」へと「放り出されてロープウエイ(に在り)」という図柄。

(長岡市・桑原たかよし)
〇  檸檬食む平気な顔の妻なりし

(奈良市・田村英一)
〇  新米にまだ日の匂ひ残りをり

 今年は新米の値段が安くて私たち都会の消費者は大助かりである。
 と言っても、二人暮らしの我が家の米の消費量は、一箇月当たり僅かに十キログラム程度のものではあるが・・・・・・・。

(徳島市・先山咲)
〇  鷹渡る昨夜月蝕を見たる空

(横浜市・橋本青草)
〇  啄木鳥のほかは静かな山の牧

 『馬酔木』主宰の水原秋桜子に「啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々」という名句が在ったのは、近代俳句ファンなら何方でもご存じの事でありましょう。


(岡山市・岩崎ゆきひろ)
〇  秋雨に色を極めて苔の磴

 句中の「苔の磴」とは、「苔が一面に生えている石の階段」を指して言うのであるから、本句の題材となっている光景は、「山寺の参道の石の階段に生えた苔の上に堆積していた塵が、季節柄の秋雨に降られて綺麗に洗われて新鮮な色を取り戻して輝いている風景」でありましょうか?


(東大阪市・東野太美子)
〇  後の月明日訣れゆく人ありて

 他ならぬ選者の稲畑汀子氏に「更けてなほ仰ぐ空あり後の月」、「晴れてゆく夜空ととのふ後の月」、「出会ひあり別れのありて後の月」、「旅心いづこに仰ぐ後の月」、「取戻す夜空今宵の後の月」、「旅空に仰がん後の月とこそ」、「よるべなき闇を統べたる後の月」、「欠けるなきとは光得し後の月」、「一切の音を消したる後の月」、「旅仕度など要らぬ旅後の月」、「虚子の世を偲ぶよすがよ後の月」、「快晴を夜につなぎたし後の月」など、「後の月」を季題とした佳作が在ることを東大阪市の東野太美子さんは御存じでありましょうか?


(東京都・長谷川弥生)
〇  小鳥来てにはかに活気付きし庭

(米子市・中村襄介)
〇  雁渡る出雲に吉事ふたつあり

(熊本市・西美愛子)
〇  白障子座せばつくづく日本人

[金子兜太選]

(養父市・足立威宏)
〇  夜長妻突如寝言の恨み節

(清瀬市・峠谷清広)
〇  蚯蚓鳴く悩むことさえ不器用で

(さいたま市・川辺了)
〇  銀漢の水は棚田に走り落つ

(八王子市・額田浩文)
〇  蛇穴に入らぬ温暖化怖し

(東京都・宮野隆一郎)
〇  朝光の蜻蛉よ三たび復職す

(山形市・松浦敬次郎)
〇  そばの花真白に染めて月の山

(和歌山県上富田町・森京子)
〇  福島に花野はあるか青空は

(東京都・十亀弘史)
〇  戦争がすぐそこにある鵙の声

(甲斐市・堀内彦太郎)
〇  秋の蚊やパソコン閉ぢて妻の顔

(千葉市・山崎真優)
〇  赤とんぼ自分のめがねをじまんする
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今週の朝日俳壇から(10月20日掲載・其のⅠ)

2014年10月24日 | 今週の朝日俳壇から
[金子兜太選]

(さぬき市・野崎憲子)
〇  釣瓶落し盛り上がりゆくいのちかな

 寂滅寸前の命の輝き。


(東京都・たなべきよし)
〇  流木の一霧ごとの白さかな

 「一霧」は「ひときり」とよむのか?


(養父市・足立威宏)
〇  秋耕や八十一歳八ヶ月

 「秋耕」を無事に終えたら養老の瀧から流れ出る<有機蛇紋岩米純米吟醸酒・仙櫻>で乾杯しましょう。



(神戸市・豊原清明)
〇  太陽に家出の母や蟷螂や

(倉敷市・森川忠信)
〇  秋思故の愚行の果ての愚行なり

(福津市・松崎佐)
〇  稚(やや)のごと指咬む姉の十三夜

(京都市・山口秋野)
〇  蚯蚓鳴くところへ核の廃棄物

(筑紫野市・二宮正博)
〇  存在は吾と同じに昼の月

(大津市・西岡信夫)
〇  淡海は地球の雫花野かな

(小平市・久保奈緒世)
〇  水澄めり胎児赤子になる日待つ
[長谷川櫂選]

(岐阜市・阿部恭久)
〇  爽やかに天文学的ひとりかな

(上野原市・天野昭正)
〇  それぞれの仕事の匂ふ夜学生

(八王子市・徳永松雄)
〇  逃げ回る羊数ふる夜長かな

(徳島市・清水君平)
〇  落鷹を数へて一日岬の暮

(豊橋市・河合清)
〇  白桃や水よりビーナス生るるごと

(富士宮市・渡邉春生)
〇  桐一葉真直ぐに落ちて動かざる

(茂原市・鈴木ことぶき)
〇  鹿角を切られ鏡を見てをりし

(北九州市・真島暢子)
〇  生きがひは弁当作り鰯雲

(岡山市・三好泥子)
〇  蓑虫の大中小とぶら下がる

(川崎市・田中唯喜)
〇  粧ひの山一瞬に死に化粧
[大串章選]

(東京都・たなべきよし)
〇  曼珠沙華死者は生者とともに在り

(上尾市・宮本幸子)
〇  天の川流れ異国の海に落つ

(松戸市・青木静子)
〇  天高しノーベル平和賞を待つ

(大阪市・森田幸夫)
〇  万葉の小川に洗ふ障子かな

(向日市・松重幹雄)
〇  新米を拝むがごと掬ひ上ぐ

(松戸市・大谷昌弘)
〇  星月夜地球に風と炎かな

(金沢市・今村征一)
〇  鮎落ちて清流荒び行く如し

(東村山市・高橋喜和)
〇  棗熟れ届かぬ高さ仰ぎし日

(茂原市・鈴木ことぶき)
〇  夜学教師眠る生徒をそのままに

(松山市・福山みどり)
〇  人の手の入らぬ山々葛の花
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今週の朝日俳壇から(10月20日掲載・其のⅡ)

2014年10月23日 | 今週の朝日俳壇から
[長谷川櫂選]

(岐阜市・阿部恭久)
〇  爽やかに天文学的ひとりかな

 右を見ても左を見てもほだしになるような者は一人として居ない。
 金輪際の一人、天地神明にかけての一人、天文学的な一人暮らしなのである。 
 ところで、昨今の我が国に於いては、「天文学的ひとり暮らし」を決め込んでいる男女ばかりで、国の将来を危うくしているのである。
 その事を思うと「爽やかに」などと言って、澄まして居てはいけません。
 〔返〕  国潰す若き男女のてんでんこ


(上野原市・天野昭正)
〇  それぞれの仕事の匂ふ夜学生

 今から半世紀以上も昔の事であるが、ある年の「歌会始の儀」の入選歌として、「夜学ぶ生徒らはみな鉄の匂ひ土の匂ひをつけて集ひ来」といった内容の作品(語句の詳細に就いては不正確かも知れません)が朝日新聞に掲載されていたのであるが、その作品の作者は、定年退職を迎えようとしている定時制高校の教師であったのであり、私が朝日歌壇の入選作や歌会始の儀の詠進歌に興味を持つようになったのは、その事が発端であったようにも記憶しているのである。
 ところで、昨今の後期高校教育施設には、通常の「全日制高校」や「定時制高校」に加えて「就学時間選択制高校・単位制高校・通信制高校・大学入学資格検定試験・専修学校」などの多種多様の就学形態が在り、同じ「定時制高校」と言っても、その実態は従来のそれとは、その内容が大きく異なっていて、「定時制高校生=勤労青少年」とは言えなくなっているのである。
 ということは、本句に詠まれている「夜学生」を「定時制高校生」と決め込んで解釈する事には、かなりの無理が在るようにも思われ、仮に本句に詠まれている「夜学生」を「定時制高校生」であるとしたならば、その内容は、従来の「定時制高校」のイメージに寄り掛かっての、想像上の出来事とも思われるのである。
 その点に就いての作者及び読者の方々のご意見を賜りたく存じます。
 〔返〕  それなりの選択あっての夜学生

 
(八王子市・徳永松雄)
〇  逃げ回る羊数ふる夜長かな

  かく申す私も、毎晩、眠れないままに「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が・・・・・・・」と就眠儀式としての「羊」の員数を数え上げて行くのであるが、その「羊」の数が三桁台になってしまうと、数え上げられるのを嫌って逃げ回る者ばかりが多くなって、毎晩のように眠るのを断念してしまう始末なのである。
 〔返〕  眠れずに南無阿弥陀仏を五万遍


(徳島市・清水君平)
〇  落鷹を数へて一日岬の暮

 「鷹一つ見つけてうれし伊良湖崎」とは、俳聖・松尾芭蕉が、保美の里(現在の愛知県田原市保美町)に隠棲していた愛弟子の杜国を訪ね、伊良湖岬を清遊した、貞享四年(1687年)十一月に詠んだ句である。
 ところで、近頃の私は、「鷹」どころか「鳶」や「燕」さえも目にしたことが絶えてありません。
 「落鷹」などという、今どきとしては極めて珍しい現象、絶滅危惧的な現象は、この日本の何処の地に足を運んだら目にすることが出来るのでありましょうか?
 〔返〕  霜月や数えて拾ふ枯れ落葉


(豊橋市・河合清)
〇  白桃や水よりビーナス生るるごと

 「中年や遠くみのれる夜の桃」とは、昭和の俳聖・西東三鬼の遺作としてあまりにも著名な存在であり、本句はその亜流とも思われる。
 だが、本作は、イタリア、初期ルネサンスの名画「ヴィーナスの誕生」(ボッティチェリ描)に見られる、地中海の潮の中から誕生したしたばかりの美女・ヴィーナスの肌に見られる微細にして麗しい産毛と噴き井の「水より」掬い上げたばかりの「白桃」のそれとが重ね合せられていて、形容も出来ない程にも美しく敬虔なエロの世界を現出させることに成功しているのであり、その点に於いては、彼の西東三鬼の遺作とは、別種の趣きを醸し出しているのである。
 〔返〕  神無月老いたる妻に産毛あり


(富士宮市・渡邉春生)
〇  桐一葉真直ぐに落ちて動かざる

 「桐一葉」と聞けば、よほどの横着者で無い限り直ぐに思い起こすのは、あの「桐一葉落ちて天下の秋を知る」という諺であり、また、「桐一葉日当たりながら落ちにけり」という、高浜虚子の名句である。
 朝日歌壇の選者の一人、稲畑汀子氏の御祖父・高浜虚子が「日当たりながら落ちにけり」と詠み、桐の葉一枚が、折からの初秋の「日」を浴びながら落下して行く様を詠んだのに対して、本句の作者は、その同じ桐の葉一枚が、地上に軟着陸し、その後、微動だにしない有り様を詠んだのである。
 〔返〕  桐一葉西日を浴びて揺れもせず


(茂原市・鈴木ことぶき)
〇  鹿角を切られ鏡を見てをりし

 鹿は鹿でも、本句に詠まれている「鹿」は、野生の鹿では無くて、千葉県内の何処かの動物園か神社の境内に飼われている鹿のように思われる。
 〔返〕  遠藤はちょんまげ結って連敗だ


(北九州市・真島暢子)
〇  生きがひは弁当作り鰯雲

 本句の作者の真島暢子さんは、「生きがひは弁当作り」などと、悟り澄ましたような、或いは威張り腐ったようなことを平気な顔して仰るが、私が子供の頃には、何処の村の母親も、何処の家の母親も「弁当を作る」などとは言わなかったのであり、まかり間違ってそんなことを口にしようものなら、忽ち、姑さんから「弁当は<作るもの>では無くて<詰めるもの>だ!弁当を作る者はお前では無くて、弁当箱製造工場の職工さんだ!、この罰当たりのバカ嫁が!碌に口のきき方も知らないくせして、よく餓鬼ばかり産むものだ!」とどやされたものである。
 〔返〕  チンすれば直ぐ食べられるおかずだぜ


(岡山市・三好泥子)
〇  蓑虫の大中小とぶら下がる

 出来過ぎのようにも思われるが、ごくたまにはそんな事も在り得ましょうか?
 〔返〕  蓑虫の中小企業にぶら下がり


(川崎市・田中唯喜)
〇  粧ひの山一瞬に死に化粧

 作中の「粧ひ」とは錦秋、また、「死に化粧」とは火山灰の堆積。
 という事になると、本句の題材は、木曽の御嶽山の噴火騒動という事になる。
 〔返〕  下ネタの葱に躓くブタ娘
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今週の朝日俳壇から(10月20日掲載・其のⅣ)

2014年10月23日 | 今週の朝日俳壇から
[稲畑汀子選]


(芦屋市・安部律)
〇  窓あけて夢の残り香金木犀

 十月のとある早朝、起き抜けに寝室の「窓」を「あけて」みたら何処からか「金木犀」の甘い香りが漂って来た。其処で作者は、つい先刻まで見ていた「夢」の「残り香」を嗅いでいるような思いがした、という内容である。
 藤原定家作の「春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空」(新古今和歌集・所収)を意識化に置いての一句でありましょう。
 〔返〕  門を閉じ疑惑大臣立て籠もり


(熊本市・内藤悦子)
〇  なほざりな葡萄昔の味のする

 栽培の過程で、<ジベレリン処理>や<袋掛け>や<消毒>などの、美味しくて見栄えのする「葡萄」を栽培するに必要な手間を省き、「なおざり」にしていた「葡萄」は、形が歪であったり、皮が厚かったり、種があったりしていて、「昔」の「葡萄」の「味」がするのである。
 〔返〕  なおざりな任命責任頬っ被り


(京都市・奥田まゆみ)
〇  理科系の兄割箸で菜虫とる

 「理科系」大学出の「兄」と言えども、得体の知れない者に嚙み付かれるのが怖いから、素手では無くて、在り合せの「割箸」を手にして、おっかなびっくり「菜虫」を捕まえようとしているである。
 「理科系の兄」が泣かせる!
 〔返〕  文系の長子いまだに脛齧り


(札幌市・青木秀夫)
〇  寄進帳下げてありけり秋祭

 「秋祭」が行われている鎮守様の境内に、「一、金一万円也、青木秀夫様」との寄進札が掲示されているのである。
 余計なことではありますが、事の序でに解説しますと、鎮守様の祭典の際に掲示される<寄進札>に書かれる金額は、実際の寄進額の十倍の金額を書くのが昔からの仕来りであるから、札幌市にお住いの青木秀夫さんの実際の寄進額は「一、金壱千円」であったのである。
 と、言っても、評者の私には、本句の作者の青木秀夫のことを格別な吝嗇男として難じるつもりはありません。
 そう言えば、東京都下の何処かの町内の盆踊り会場で、自民党政治の善政に就いての討議資料という名目で、名入の団扇(原価・八十円とか?)を配り、法務大臣の椅子を退かなければならなかった、大口の馬鹿女が居た事を私たち有権者は決して忘れてはいけません。
 〔返〕  明治座の収支合わずの観劇会


(大阪市・真城藺郷)
〇  ふる里に別るる菊に水差して

 何かの事情で離郷するに際して、在郷中の作者の心を慰めていた庭植えの「菊」に「水」を「差して」いる図柄、と思われるのであるが、中七が「別るる菊に」とあるところから判断すると、作者の真城藺郷さんは、「菊」の栽培を事としている人物であり、これから出荷しようとする「菊」に「水」を「差して」いる場面のようにも解釈される。
 〔返〕  束の間の輝き見せて自爆せり


(西宮市・近藤六健)
〇  蟷螂や雄は守勢を保ちつつ

 「蟷螂」の雌雄の交尾の図柄。
 「雄は守勢を保ちつつ」というよりも、一瞬の快楽の果てには雄は雌に喰われてしまうのである。
 〔返〕 我が家では守勢保てぬ吾は雄  


(島原市・中川萩坊子)
〇  玄関に入るまでは旅いわし雲

 留守宅の玄関先に立って「いわし雲」を眺めながら、過ぎ去りし旅程を振り返っているのでありましょうか?
 〔返〕  草鞋履く前に兆すや旅心


(姫路市・中西あい)
〇  赴任地へ夫送り出て鰯雲

 「送り出て」は、「送り出し」「送り出で」「送り来て」とするべきでありましょうか?
 〔返〕  風送る団扇みたいなパンフかな
 

(松山市・岡本久夫)
〇  口ばかり出して手の出ぬ松手入れ

 齢が齢だけに「ああだ、こうだ」と、ご立派な能書きだけは並べ立てるが、肝心要の植え木の手入れをしないのが当世流の親方の遣り口なのである。
 〔返〕  枝ばかり伸びて葉の無い松伐採

(宝塚市・大石勲)
〇  震災忌永遠に語らん高野山

 「高野山」という下五は、それらしく見せるための付け足しに過ぎません。
 〔返〕  震災忌永久に語らむ浜千鳥
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今週の朝日俳壇から(10月13日掲載・其のⅠ・)

2014年10月13日 | 今週の朝日俳壇から
[選]

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今週の朝日俳壇から(10月6日掲載・其のⅠ)

2014年10月06日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

(久慈市・和城弘志)
〇  ふるさとの炭で秋刀魚を焼きにけり

(柏市・物江里人)
〇  立ち読みの店に芒の挿されある

(群馬県東吾妻町・酒井大岳)
〇  昨日見し雲の来てゐる花野かな

(倉敷市・米元ひとみ)
〇  ねこじやらし風も一緒に刈られけり

(東京都・小出功)
〇  流木を組みし恐竜小鳥来る

(柏市・藤嶋務)
〇  九十九里より鰯雲遥かへと

(鹿児島市・青野迦葉)
〇  落葉踏み故郷の音踏んでをり

(いわき市・坂本玄々)
〇  セザンヌの色になりたる林檎かな

(札幌市・加藤龍子)
〇  長き夜は線路の響き枕にす

(東京都・菊地一彦)
〇  気立て良き女医の薬や秋の水
[稲畑汀子選]

(富津市・三枝かずを)
〇  まだ水に映らぬ岸の薄紅葉

(洲本市・高田菲路)
〇  老妻と残る手花火焚く夜かな

(神戸市・岸田健)
〇  存へて人生その二天高し

(芦屋市・酒井湧水)
〇  新しき公園小さき百日紅

(豊中市・堀江信彦)
〇  つき抜ける空の青さや竹の春

(茨木市・日野たつお)
〇  気が遠くなりさうな程天高し

(西予市・上甲澄子)
〇  好きなことしてゐて極暑乗り切りし

(柏市・物江里人)
〇  褒めすぎて冬瓜二つもらひけり

(福岡市・赤坂邦子)
〇  亡き母の志継ぐホ句の秋

(熊本県菊陽町・井芹眞一郎)
〇  こほろぎの庭の先まで鳴いてをり
[金子兜太選]

(松戸市・大谷昌弘)
〇  岩山の予言者なるや流れ星

(埼玉県岩代町・酒井忠正)
〇  友に師に夜学の老女慕はるる

(清瀬市・峠谷清広)
〇  歩きつつ本音つぶやく秋の暮

(前橋市・荻原葉月)
〇  共白髪秋思それぞれ関らず

(船橋市・斉木直哉)
〇  朝露といふ結界や猫に我

(福島市・池田義弘)
〇  ふくしまの棄民に真つ赤な月のぼる

(名古屋市・後藤素子)
〇  盆の寺九条を説く若き僧

(横浜市・李培張)
〇  秋水に妻の唇甦る

(東京都・芳村翡翠)
〇  生身魂白秋の酒たしなめり

(栗原市・小野寺實)
〇  裸富士われも行けそう目を凝らす
[長谷川櫂選]

(津市・中山いつき)
〇  宇陀口の乙女の武者の案山子かな

(福岡市・井上正和)
〇  狂ほしく鳴く虫のをる良夜かな

(東京都・重田春子)
〇  秋刀魚焼くただ一匹をぼうぼうと

(京都市・水船つねあき)
〇  秋澄むや塔また塔の東山

(松山市・高階斐)
〇  水澄んで己の見えぬ目が二つ

(藤沢市・細井華人)
〇  東北の一湯の秋恋ひ止まず

(熊本市・坂崎善門)
〇  万の鰯の一匹を焼きにけり

(三郷市・岡崎正宏)
〇  秋暑しアメリカといふ大砂漠

(千葉県酒々井町・市村孝子)
〇  鶏頭の炎の拳に打たれたし

(群馬県板倉町・岡部いずみ)
〇  何の日でもないが夕食栗お強  
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今週の朝日俳壇から(9月29日掲載・其のⅠ)

2014年09月29日 | 今週の朝日俳壇から
[長谷川櫂選]

(みよし市・稲垣長)
〇  丸谷頑亭逝きこの方の大長夜

 〔返〕 丸谷頑亭来てこの夜の長談義  


(城陽市・山仲勉)
〇  名刀の錆びたるごとく秋刀魚焼く

 〔返〕  名刀の錆びたる如く生きにけり


(いわき市・星野みつ子)
〇  律といふ菩薩ありけり獺祭忌

 〔返〕  冬越しの妹ひとり名は律女


(山梨県市川三郷町・笠井彰)
〇  月の客みな銀の鞍に乗り

 〔返〕  娘みな銀の鞍置き嫁ぎたし  


(ドイツ・ハルツォーク洋子)
〇  登高や墨絵にしたきライン河

 〔返〕  登高は杜甫の律詩の題なりき  

 
(玉野市・勝村博)
〇  空蝉や一枚の葉を羽交絞め

 〔返〕  空蝉の一夜眠らん膝を抱き


(横浜市・多海本日出子)
〇  昔ほど数まとまらず稲雀

(横浜市・津田壽)
〇  ここまでは上司は来ぬや大花野

(三鷹市・村井田貞子)
〇  台風の外れたる闇の深さかな

(飯塚市・釋蜩硯)
〇  八木山の名水吸ひて梨実る
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今週の朝日俳壇から(9月29日掲載・其のⅡ)

2014年09月29日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

(さいたま市・久保田恵子)
〇  露の世に激しく乳を求めけり

(新座市・渡辺真智子)
〇  晩秋やすべて許して眠らんと

(栃木県野木町・小林たけし)
〇  一斉に稲穂手に振り熱気球

(磐田市・谷公子)
〇  さわやかに育つ二齢の頭脳かな

(熊本市・西美愛子)
〇  誰よりも花野の風に長居して

(津市・中山いつき)
〇  猪は牙より眠る十三夜

(横須賀市・久留宮怜)
〇  星月夜獅子を描きし古代人

 〔返〕  星月夜四肢をもて吾抱きをり

(八王子市・斎賀勇)
〇  ヒーローになりきつてゐる木の実独楽

(東京都・望月喜久代)
〇  阿波踊はじけてくると云うて出る

(敦賀市・村中聖火)
〇  望の夜や山に逝きたる人のこと
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今週の朝日俳壇から(9月29日掲載・其のⅢ)

2014年09月29日 | 今週の朝日俳壇から
[稲畑汀子選]

(長野市・縣展子)
〇  だんだんと大秋晴となりし旅

(西宮市・竹田賢治)
〇  攻める蚊と防ぐ我あり一休寺

 〔返〕  攻める蚊と叩く我あり神宮前
(熊本市・山澄陽子)
〇  蝉時雨消えて耳鳴り残りけり

 〔返〕  父逝きて借財数億残りけり

(大阪市・山田天)
〇  どこまでも高き青空桐は実に

 〔返〕  何処までも高き人格山田天

(福山市・広川良子)
〇  雲一朶月の過客でありにけり

 〔返〕  後三日経てば過客も過ぎ往くに

(三鷹市・村井田貞子)
〇  台風の外れたる闇の深さかな

(土浦市・栗田幸一)
〇  旅人の浮いて沈んで芒原

(敦賀市・村中聖火)
〇  名月や地球を統べて天心に

(立川市・三好忠則)
〇  芋虫に明日蝶になるこころざし

(芦屋市・高杉靖子)
〇  金水引束ね秋草らしくなる
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今週の朝日俳壇から(9月29日掲載・其のⅣ)

2014年09月29日 | 今週の朝日俳壇から
[金子兜太選]

(熊谷市・時田幻椏)
〇  灯に蝉の闇に虫鳴く命かな

(長岡市・内山秀隆)
〇  蚊帳の果て最後は一人ただ一人

(養父市・足立威宏)
〇  満月に力瘤見せ老農夫

(福島県伊達市・佐藤茂)
〇  死蔵書の斯くながらへて夜長あり

(三郷市・岡崎正宏)
〇  九条は自己主張する天高し

(みよし市・稲垣長)
〇  秋の暮生き足りしとも足らずとも

(伊丹市・保理江順子)
〇  白粉の花に早起き鼻キッス

(長崎市・濱口星火)
〇  雲仙の蝉は美声と運転士

(船橋市・斉木直哉)
〇  午後の果日差しの果や虫の声

(福島市・渡辺恭彦)
〇  徴兵の時代来るかも曼珠沙華
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今週の朝日俳壇から(9月15日掲載・其のⅠ・)

2014年09月16日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

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[稲畑汀子選]

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[金子兜太選]

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[長谷川櫂選]

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今週の朝日俳壇から(9月8日掲載・其のⅠ・)

2014年09月16日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

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[稲畑汀子選]

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[金子兜太選]

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[長谷川櫂選]

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今週の朝日俳壇から(9月1日掲載・其のⅣ・木曜夕刊)

2014年09月04日 | 今週の朝日俳壇から
[金子兜太選]

(松江市・三方元)
〇  サーフィンやこの東に真珠湾

 昨今の日本人は、「円安弗高」をものともせずに海外に水遊びに出掛けようとする、とか?
 松江市にお住いの三方元さんは、もう立派な大人ですから、地元・宍道湖での水遊びに満足せずに、今年の夏は、海外、しかも熱海沖の初島や佐渡島や沖永良部島などの我が国内の島ではなく、畏れ多くもアメリカ領の太平洋中央海山群の中に浮かぶ孤島・ウェータ島まで「サーフィン」とやらを楽しむ為にお出掛けになられたのでありましょう。
 アメリカ領・ウェータ島と言えば、北緯二十度線から僅かに赤道側に外れた島であり、それを何処までも東側に泳いで行けば、溺れない限りに於いては、間も無く「真珠湾」の在るハワイ諸島に辿り着くはずである。
 そこで、三方元さんはサーフィンを楽しみながらも、「この海を東の方向に何処までもサーフィンボードに乗っかって進んで行ったとしたら、あの日米開戦の初っ端となった真珠湾に辿り着くはずである。それなのにも関わらず、僕はこの島でサーフィンなどに現を抜かしている始末である。自公連立政権の横暴に拠って、解釈改憲が為されたそうだから、これからは、地元の日本海でサーフィンを楽しまなければならないな!」などとお思いになったのでありましょう。
 でも、日本海にも近頃は得体の知れない船舶が出没しているという噂があり、日本海岸には注射針などが漂流して来るという噂もありますから、サーフィンを楽しむ事は不可能なのかも知れません。
 〔返〕  サーフィンもおちおち出来ぬ日本海
      小魚も根こそぎ攫ふ某国船  


(さぬき市・野崎憲子)
〇  身の内の荒野青条揚羽かな

 私の連れ合いのS子が話すところに拠ると、「女性というものは、誰しも、身の内に必ず鬼を匿っている存在である」とか?
 本句の作者、即ち、香川県さぬき市にお住いの野崎憲子さんの場合は、「身の内」に茫漠たる「荒野」が広がっているのであり、句中に登場する「青条揚羽」は、野崎憲子さんの身の内の荒野から突如として湧き出でたものと判断されるのである。
 本句は、家庭内のいざこざに拠って生じたフラストレーションから解放されようとする、作者ご自身の言うに言われぬ衝動が詠ましめた名句でありましょうか?
 〔返〕  身の内の不満みーんみーん蝉時雨


(熊谷市・時田幻椏)
〇  泡盛は俳句の季語なり一壺あり

 「泡盛」と言えば、「主としてインディカ米を原料として黒麹菌を用いた米麹である黒麹によって発酵させ、もろみを蒸留した琉球諸島産の蒸留酒であり」、日本酒やビールに厭きた我が国の酒好きの輩どもの垂涎の的となっているアルコール飲料である。
 かく申す、私・鳥羽省三も酒好きの輩どもの中の一人であるが、先年、石垣島旅行から帰った知人から、同地方で幻の酒とされている泡盛「八重泉・黒真珠」の4合瓶を頂戴したのであったが、その頃の私は、通い付けの医師からドクターストップを食らっていたので、せっかくの賜物を口にしないままに何処かに棄ててしまったように記憶しているのである。
 本句の作者・即ち、我が国随一の猛暑の地として知られた、埼玉県熊谷市にお住いの時田幻椏さんは、日本各地に親友をお持ちの方と推察されますから、沖縄地方にも俳句友達をお持ちになられ、四季折々の名産品などをご贈答なさって居られる事と拝察される。
 ならば、本句中の「一壺」の「泡盛」とは、そうした折に沖縄地方の俳句友達からクロネコヤマトのクール宅急便で送られて来た品物と思われるのであるが、その銘柄に就いては、私は一切存じ上げません。
 本句の上五と中七に「泡盛は俳句の季語なり」とあるが、時田幻椏さんの仰る通り、「泡盛」は焼酎や冷酒やビールやサイダーなどの他の飲料と共に「俳句の季語」の一つとして数えられていて、これを季語として用いた俳句は、石塚友二作の「泡盛や汚れて老ゆる人の中」、後藤比奈夫作の「泡盛にちゆらさんといふ言葉よき」、岸はじめ作の「届きたる甕の泡盛先ず試飲」等など、数えきれない程に詠まれているのであるが、この度、私が朝日俳壇の入選句として接する機会を得た、時田幻椏さんの御作、「泡盛は俳句の季語なり一壺あり」は、その滋味溢れる内容もさる事ながら、「泡盛は⇒俳句の季語なり⇒一壺あり」という、一気呵成に詠み上げた格調高い詠風は、二十一世紀の「俳句歳時記」に登録され、我が日本人の残した精神遺産の一つとして永く記憶されるべき名句である。
 〔返〕  泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか三ツ矢サイダー
      泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか養命酒など


(茅ヶ崎市・清水呑舟)
〇  とめどなき佐渡の流星世阿弥の忌

 「陰暦八月八日」は、「観世流二世(観阿弥が一世)・世阿弥」の忌日とされていて、俳句では秋の季語である。
 「陰暦八月八日」は、現行暦の九月半ばであるから、澄み切った「佐渡」の夜空には「流星」が一晩じゅう流れる季節でありましょうか?
 〔返〕  佐渡島燈点し頃のお椀舟      


(秩父市・浅賀信太郎)
〇  人間の頭上に原爆落した日

 「金子兜太選」ならではの入選作であるが、こんなにストレートなもの言いをしても、俳句と言えるのでありましょうか?
 〔返〕  人間の頭上に原爆落すとは神を恐れぬ所業なりけむ   


(鹿児島市・青野迦葉)
〇  縄文人の身の丈四尺草の花

 「身の丈四尺」と言えば、僅かに120cm余りの身長である。
 我が国の先住民に「コロボックル」という小人が居た、との説が為されているのであるが、「縄文人」とは、そのコロボックルの異名なのかも知れません。 
 事の序でに記しますと、昭和の歌姫・美空ひばりさんの身長が150cmだったとか?
 〔返〕  ステージも狭しとばかりに歌い捲る昭和の歌姫・美空ひばりさん


(柳川市・木下万沙羅)
〇  終戦日居住ひ正す父をふと
(茅ヶ崎市・小泉由美子)
〇  昼寝覚兵役に泣く夢に泣く

 兵役に就いていた者にとって、軍隊生活の中で身に付いた習慣は、一生涯、死ぬまで付いて回るとの説も在ります。  
 木下万沙羅さん作に登場する「父」にとっての兵役経験と、小泉由美子さん作に登場する人物の兵役経験の差はかなり大きいようにも感じられますが、実のところは、それ程の差は無いのかも知れません。
 〔返〕  昼寝覚め一兵卒の我なりき 


(佐賀県有田町・森川清志)
〇  老いたれど太陽族の夏ありき

 佐賀県有田町に「太陽族」が居たとはビックリ仰天!
 あの怒張したイチモツでも以って、赤絵の花瓶でも割り捲っていたのでありましょうか?
 〔返〕  老いぬれどかつては暴走族なるぞキャブトン飛ばして鳴らしたもんだ!


(野洲市・鈴木幸江)
〇  わたくしはひつくり返つた兜虫

 もう起き上がることが出来ません。
 他人の手、取り分け、お金持ちの殿方の手を借りなければ、私は永久に起き上がることが出来ません。
 〔返〕  私はひっくり返ったカブトムシ五体曝して干上がるばかり
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今週の朝日俳壇から(9月1日掲載・其のⅢ・木曜朝刊)

2014年09月04日 | 今週の朝日俳壇から
[稲畑汀子選]

(小平市・三浦正明)
〇  今までにないほど水を飲んで秋

 今年の夏の暑さは例年に無く厳しいものであったが、作者の三浦正明さんは、本句を以って、今年の夏の暑さ対処方の極意をずばりと披歴して見せたのである。
 〔返〕  この夏は例年に無く水飲んだ


(神戸市・玉手のり子)
〇  図書館に誰かの寝息夏深し

 公立の図書館を昼寝の場所としていると思われる人々が例年に無く多かったのも、今年の夏の目立った傾向でありました。
 〔返〕  新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたバアバも居たね
      新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたジイジも居たり
      新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたガングロ居たり
      新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたプータロも居たね


(柏市・藤嶋務)
〇  老いの秋転ばぬやうにして転ぶ

 どのように注意して歩いても転んでしまうのが「老い」というものの特質の一つである。
 という訳で、私などは出来るだけ外出しないようにしているのであるが、それはそれで筋肉退化の原因となり、ごくたまに外出した時に転んでしまう遠因を作ってしまうから、「老い」というものは真に世話の焼けるものである。
 〔返〕  手土産の御座候を食べたしと孫と目配せ交はせる老母


(奈良市・田村英一)
〇  ひぐらしや夜の匂ひの迫るとき

 「夜の匂ひ」と言えば、若い頃酒場遊びに現を抜かしていた私などは、つい、酒場女の肌の匂いを思い出してしまうのであるが、本句の作者は仏都・奈良市にお住いの方ですから、お線香か抹香の匂いを思い出すのでありましょう。
 冗談はこれくらいにして言えば、本句の作者・田村英一さんは、迫り来る老いの実感と共に、蜩の声に耳を傾け、一人暮らしの夜の辛さに耐えているのでありましょうか?
 でも、やはり、何処かから抹香の匂いが漂って来ました。
 本句は、真面目な態度で鑑賞しても、お線香や抹香の匂いと無縁では無いのかも知れません。
 〔返〕  蜩や燻り止まぬ毎日香  


(平戸市・辻美彌子)
〇  朝顔の思案してゐる蔓の先

 朝顔の蔓が自ら予想していた以上に早く伸びてしまったものだから、右に向かおうか左に向かおうかと迷っている図柄であるが、それ以上に迷っているのは、本句の作者の辻美彌子さんでありましょう。
 新カレは美男子ではあるが、何処と無く頼りなさそうであるし、かと言って、今更、元カレと復縁出来る訳ではないし、と、あれこれと思案をしているのでありますが・・・・・・・。
 〔返〕  苦瓜の悩みあり気な蔓の先
      苦瓜の思案あり気な蔓の先


(枚方市・上野鮎太)
〇  谷川へ降りてゆく道曼珠沙華

「谷川岳」の登山道に取材した一句と思ったのに、作者が枚方市にお住いの方だから、作中の「谷川」とは、大阪郊外のドブ臭いただの「谷川」なのかも知れません。
 でも、だからとて、私たち首都圏の住民もそんなに威張った口は利けません!
 何故なら、東京の世田谷区に「等々力渓谷」というご立派な名称で呼ばれている渓谷が在りますけど、あすこだって、生活排水の匂いが漂ってますからね!
 でも、でも、もう一言云わせて下さいよ!
 あの「曼珠沙華」って奴は何処にだって咲きますからね!
 私は去年の秋に、JR横浜線の十日市場駅裏のしょんべん臭い畦道にあの花が整然と列を成して咲いていたのを見ましたよ! 
 私が臭覚を失っている人間ならば、あれを目にしてた瞬間、感激の涙を流した場面であったのかも知れません!
 〔返〕  駅裏のどぶ板通りの曼珠沙華


(札幌市・菅原ツヤ子)
〇  唐黍の焼く香この街らしくなる

 新緑の頃の「よさこいソーランまつり」と言い、寒さ盛りの二月の「さっぽろ雪まつり」と言い、私は、札幌、特に札幌の大通公園には何一つとして楽しい思い出がありません!
 〔返〕  唐黍の焼く香ただよふ初夏になり俗の俗なる札幌の街

   『初夏』   作詞作曲・山木康世/歌唱・ふきのとう

 噴水の前で 記念写真を
 撮っているのは 新婚さんかな
 僕は座って それを見ている
 鳩はつついてる とうきびの殻を

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる

 時計台を見て たむろしている
 大きなリュックの黒いカニ族
 僕は通り過ぎ 見ない振りして
 道を聞かぬよう 声をかけぬよう

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる

 地下街はいつも都会の顔して
 狸小路を 田舎扱い
 僕は地下鉄の電車を待ってる
 センチメンタルに浸った振りして

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる


(芦屋市・田中節夫)
〇  暑さよりあのひもじさに耐へしこと

 本句の作者の御氏名は田中節夫さん。
 真に失礼なことを申し上げますが、「田中節夫」さんとは、本句の内容に相応しい御氏名かと存じ上げます。
 〔返〕  暑さよりあのひもじさに耐えたるは田中節夫に相応しき事 


(泉大津市・多田羅初美)
〇  夏痩を案じてくるる子なりけり

 「子なりけり」と詠嘆気味に述べているのは、「夏痩を案じてくるる子」が今は亡き子である所為なのかも知れません!
 〔返〕  メタボなど何にしやうぞ夏を喰ふ  


(北杜市・亀村慶子)
〇  台風に備へる心待つ心

 それと同時に「吹き荒れている間を耐えている心」も忘れてはいけません。
 〔返〕  台風の我が故郷に寄らぬらし寄ればいいのに憂ひは無きに
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