気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ…遅れてきた私
著作権は近藤に帰属します
白日傘さして私を捨てにゆく とつぴんぱらりと雲ケ畑まで

ピース降る 田丸まひる 

2017-05-22 00:32:25 | つれづれ
次に目が覚めたら言うよそれまでは一葉の舟に満たすあかるさ

図書館の出窓に重ねられたまま眠る楽譜のよう春の日は

祈りとは家族映画に怯むときゆびのすき間に挟まれるゆび

菜の花を食めばふかぶか疼くのは春を紡いでいる舌の先

見なかったことはなかったことですかシャンパングラスの花の彫刻

書きかけの手紙に伏せて眠るときだれかを待っている雨後の森

夏帽子いつか呼ばれて振り返る向こう側には来世があるの

半年は死ねないように生き延びるために予定を書く細いペン

生活の中に輪ゴムを拾うとき憎しみのほんとうにかすかな息吹

若いひとと軽くくくられクロッカスわたしはわたしのために笑った

(田丸まひる ピース降る 書肆侃侃房)

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未来短歌会の田丸まひるの第三歌集『ピース降る』を読む。

書肆侃侃房のユニヴェールというシリーズの一冊。
感覚的で繊細なことばに込められた詩情を愉しむことのできる歌集、とでも言おうか。歌そのものを読んで楽しむ歌集である。お洒落で切ない。作者の経歴や実人生などを歌から想像するのは、野暮というものだろう。ざっと読んで、十首を選んだが、もう一度読むとまた新たな発見がありそうだ。

http://www.shintanka.com/univers


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晩夏の海 岩崎堯子 

2017-05-09 18:35:44 | つれづれ
精妙な縄縒るごとき足さばき「競歩」とはそも何のためなる

「<不苦労>のふくろうです」と貼り紙ありつまらなくなり土産店出づ

孤独死でない死がこの世にあるやうな言ひかた 月下美人が咲きぬ

順序よく頭痛、悪寒に発熱来 おもひのほかに素朴なからだ

念のためと言はれ膠原病の検査受く 少しづつ病気にしてゆく病院

足の甲に七つのわれをひよいと載せワルツ踊りし父をおもへり

ダンボールの箱の底にて蜜柑ひとつ黴に覆はる たふとからずや

玉子もて洗ひきたりしわが髪はいまだに黒したまごは偉し

このヤモリはこぞのヤモリか確実に一年老いしわれが見てゐる

救急車待ちつつ意識なき母を抱きをりしことわれを支ふる

(岩崎堯子 晩夏の海 六花書林)

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短歌人会員、岩崎堯子の第一歌集『晩夏の海』を読む。

岩崎さんとは何度か全国集会でお会いした気がする。わたしと同年代かと思っていたが、どうもお姉さんらしい。
ご両親、お兄様、娘さんの歌があり、家族の繋がりの中で生きてきた人と感じる。しかし、ここでの一首目、四首目、五首目にあるような冷めた視点の歌にこころを惹かれる。三首目も、人間の死はすべて孤独死という冷めた目が芯にあり、月下美人という結句の飛び方がよい。二首目は、激しく共感した歌。こういう土産物屋、いかにもありそうだ。七首目は、ダンボール箱の底の黴だらけの蜜柑への注目。八首目は、本当だろうかと思う。髪は玉子で洗うと白髪が防げるのだろうか。わたしは手遅れになってしまったが、すこし前なら、試してみたかもしれない。
装丁の青い水面の様子が美しく、楽しく読ませていただいた。ますますのご健栄を祈ります。

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短歌人5月号 5月の扉

2017-05-02 19:30:11 | 短歌人同人のうた
理髪業のサインポールと定休日つつうらうらに遍し昭和
定まらぬ客に向ひて定むる日ほかに休めば客去る定め
(針谷哲純)

通り過ぐるヘアーサロンにひとはなく鏡はならび鏡をうつす
春のきて公設市場の定休日ひだまりひろく鳩らあゆめり
(村山千栄子)

シャッターに「定休日」の紙貼られ盛り塩あれば食べ物屋と知る
大企業に若き命を捧げたるあなたに定休日をあげたかった
(謝花秀子)

火曜日の朝の鏡に映りたる女の顔に軽くウインク
火曜日の夜の鏡に映りたる女の顔に「好きだよ」と言ふ
(高田流子)

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短歌人5月号、5月の扉。題詠*定休日を詠む

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短歌人4月号 同人のうた 3

2017-04-24 23:36:18 | 短歌人同人のうた
俳人の楽天蔑し歌人(うたびと)の厭世嗤ふこの短詩形
(西台恵)

忘れるたびにキオスクで買ふボールペンがもう一生分 窓ぎはにたつ
(和田沙都子)

何ごとも起こさず二月の一日は翳りゆくかな翳りゆくのみ
(高野裕子)

きさらぎは春くる前のひと休み遠き山なみ夕日によろふ
(高田流子)

深い雪わたしを何処に連れてゆく永い間のわが想ひびと
(大和類子)

木蓮の銀の蕾は光り合い一刻者の烏を去らしむ
(川田由布子)

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短歌人4月号、同人1欄より。

寒暖の差の激しい4月は、一番苦手な月かもしれません。桜が苦手。

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ひろすぎる海 足立尚彦 

2017-04-16 12:49:17 | つれづれ
数百億の乳酸菌を摂るために百円出しておつりをもらう

使い古しの輪ゴムのように役立つか役立たぬかの際を生きおり

漢方薬の漢字が我をそれとなく安心させる とりあえず飲む

とりあえず今夜は生きているだろう野菜売り場の野菜のように

燃えるごみの中には文字が多くあり言葉を連れてごみ出しにゆく

亡き妻の最期の息を思い出すたびに鳴り出すこのフルートは

食間の漢方薬のおいしさはどこかモームの短編に似る

世の中に歌人が多くいるけれど何のためだかよくわからない

カレンダーめくり忘れて数日をこの世から取り残されている

貧困に少し距離あり飯を買う所属結社の会費を払う

(足立尚彦 ひろすぎる海 ミューズ・コーポレーション)

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八雁短歌会の足立尚彦の第五歌集『ひろすぎる海』を読む。

宮崎県在住の足立さんは、奥さんを亡くしてひとり暮らしのようだ。何のストレスもなく読める歌集。
歌を作ることで救われている人の歌を、素直に読んでわたしは救われている。ありがとうございます。



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短歌人4月号 同人のうた 2

2017-04-12 12:17:35 | 短歌人同人のうた
3Bの鉛筆を用ゐ草色の手帳に記すうたのかけらを
(小池光)

よべばすぐもどつて来さうな田村さんの写真によばれまたみる歌集
(蒔田さくら子)

雨水まであと幾日か夕やみに暦の二月しろく泛びぬ
(斎藤典子)

納豆巻き囓りながらに読む外信トランプの馬鹿トランプの馬鹿
(森澤真理)

金借りて姿消したる老人のハンカチは椅子に忘れられをり
(吉浦玲子)

みどりの葉すらりと立ちてすずしかる水仙の花は少年のかほ
(加藤満智子)

そしてまた死は石のようか上向きに揃えられたる母の足に触る
(小野澤繁雄)

濡れている冬の星空祈るごと歩けば遠くなる帰り道
(八木博信)

いつも飴持ち歩く人ととなりあひ会話とぎれて食むハッカ飴
(寺島弘子)

靴ひもを結び直して出てゆきしあの日の吾子はさらに遠のく
(岩下静香)

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短歌人4月号 同人1欄より。

さまざまに指の触れたる上掛けのパッチワークに身は覆はれて
(近藤かすみ)

一月に有沢螢さんのお見舞いに行ったことを一連にして、4月号詠草として十首を送った。載るのは七首。事情を知らずに読んでもわからない歌である。
ほかの方の作品を読んでいて、家族や友人の挽歌があるが、どこかが欠けていてうまく読み取れない。歌そのものとして良くないとダメだから仕方がない。


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短歌人4月号 同人のうた

2017-04-02 23:55:30 | 短歌人同人のうた
動かざる足裏(あうら)に踏絵のキリストが「吾(あ)を踏みて立て」と夢に囁く
(有沢螢)

迷うため一駅手前で降りてみる二月の風を涼しく受けて
(猪幸絵)

衣料品売り場平常営業の静けさグンゼ八分袖あり
(柏木進二)

塩町の夜の空地に消残れる半畳ほどの雪の明るさ
(倉益敬)

消耗戦となりゆくばかりの介護なりさあれ『兵たりき』読む嘔吐こらへて
(武下奈々子)

福豆をひとつぶひとつぶ選りてゐるうちに百年経つ心地せり
(洞口千恵)

薄氷がジグソーパズルのやうに割れだれにでも死はたつた一回
(小島熱子)

山墓に水仙の花たむければやさしかりけり冬の陽射しは
(杉山春代)

降る雨に市電の青き火花散る記憶ありたりこの雨の午後
(藤原龍一郎)

はたらいてお金にかえて原付を少しうるさくする使い道
(斉藤斎藤)

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短歌人4月号、同人1欄より。

今日は、短歌人関西歌会のため奈良へ。毎年四月は奈良で行われている。行きは最寄り駅から地下鉄で近鉄奈良駅まで直通で快適に行くことができたが、帰りは京都駅で乗り換え、最寄り駅でまたバスに乗り換え。とにかく観光客が多い。日本語でない言葉を話す人もかなりいて、人の多さに感心する。乗り物では、スマホで音楽を聴いてさまざまなことをやり過ごす。
今日の詠草にアーモンドの花を詠んだ歌があった。こんな花です。

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叙唱 レチタティーヴォ 阿部久美 

2017-03-26 13:38:55 | つれづれ
ここからとつま先を置きゆふぐれの影にも肖たる銀の線引く

脱ぎしシャツ椅子の背にかけそのままに昨日の上にふりそそぐ朝

バスタブの栓抜くときのうづのなか小さいわたしが溺れてゐます

ゆるやかに海へとむかふ川であるわたしはぢきにわたしを忘る

遠からぬ春と聞く日は鮮しきみづのキャップを開けるあかるさ

身の内に花の根ひろがる感じしてのどを伸ばしてする喇叭飲み

つきまとふこどもでありしむかしからひとつも減らずさびしさは粒

ゆつくりとほどけてこれでさやうなら紙屑みたいな雪とあたしと

中身知らぬかなしみひと日とどまれる ゆけよとみづに乗せてやる影

月かげを反してたかがアスファルト今夜死ぬほど 見よ、うつくしい

(阿部久美 叙唱 レチタティーヴォ 六花書林)

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短歌人同人、阿部久美の第三歌集『叙唱 レチタティーヴォ』を読む。
去年の夏に第二歌集『ゆき、泥の舟にふる』が上梓されたところだが、もう次の歌集が出た。準備はできていて、今回はすこし時期をずらしたらしい。

阿部久美さんの歌には、人が登場しない。固有名詞の歌もない。北海道留萌の地で、雪、海、川を見ている。思いでのように父、母、弟が出てくるが、遠くに背中を感じているような気配があるだけだ。
三首目、四首目、八首目のように、もうひとりのわたしを手放す歌が特徴的だ。九首目も、影とのわかれを詠みながら、自分との別れと読める。自分を客観視していればこそできる歌。抜書きしながら、これが私の好みなのかもしれないと思うけれど。さびしさ、かなしみ、と言った言葉もよく使われる。だからこそ、その合間にある明るさの歌が映える。
集の終りには、短歌人賞受賞の独奏<ソリティー>30首、前年の応募作、叙唱<レチタティーヴォ>30首がある。一連、導入から展開、収束への構成が巧みになされている。詩情が深い。

SNSで自分のことをよく語る人の多い今、阿部久美さんのような静かな人をわたしは好感を持って見つめていたい。歌人は、自分のやりかた、ルートを通って表現するべきだと思うとき、ネットで饒舌であることに疑問を持つ。歌人のするべきことは、歌を歌として読者に手渡すことだろう。そういう意味で阿部久美さんは、ほんものだと思うのだ。

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短歌人3月号 同人のうた その3

2017-03-22 15:22:03 | 短歌人同人のうた
雪どけの道に長靴汚しつつふるさとの空ある日うつくし
(木曽陽子)

曲がらない大根とまっすぐな人参さびしき世を渡りゆく
(長谷川富市)

雲梯のパイプとパイプにおさまっているなんて 冬の北斗七星
(𠮷岡生夫)

こんな所に歌の切れ端落ちてゐる拾ひ集めて今日の一首を
(高田流子)

ザンパノが砂をつかみて哭くところありありとして汀べの波
(三井ゆき)

内職をしてゐる母の傍らにおもちやの電車走らせをりき
(神代勝敏)

小柄なれど耳の大きな方にして悠仁さまは信号がすき
(今井千草)

閉店記念にもらひし椅子に腰掛けて振り返りみる杳き歳月
(中地俊夫)

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短歌人3月号、同人1欄より。

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短歌人3月号 同人のうた その2

2017-03-11 10:48:09 | 短歌人同人のうた
仏壇にクリスマスケーキ供えいる叔母とともあれ過ごす好日
(久保寛容)

一本の胡瓜にまぶす塩の量時のながれといくばくのしろ
(柘植周子)

海の中にゐる人は上つて下さい くり返しくり返し言ふ すぐに上つて下さい
(酒井佑子)

雪ははや声を失ひ雪としてここに降りつ積むひざ折るごとく
(阿部久美)

夕闇は馬のごとくに濃くなりぬ冬の京都をたちてたちまち
(小池光)

プレートが動きだすまで増幅す クリック・いいね・クリック・いいね
(本多稜)

ナショナリズムとヒューマニズムが手をつなぐオリンピックという物語
(生沼義朗)

トランプにどこか似てをり嚙みつき魔フレッド・ブラッシー現役の顔
(倉益敬)

るりふかき星座の切手あまた貼りこづつみおくる母となる子へ
(佐々木通代)

息子(こ)の葬儀を終へし夫婦の庭先に半月ぶりの干し物白し
(藤田初枝)

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短歌人3月号、同人1欄より。

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