気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ…遅れてきた私
著作権は近藤に帰属します
白日傘さして私を捨てにゆく とつぴんぱらりと雲ケ畑まで

短歌人5月号 同人のうた その3

2016-05-23 14:20:27 | 短歌人同人のうた
ギプスの中で冬眠中の右下肢を春の光にふふふと差し出す
(古川アヤ子)

平凡に生くるが佳しと雪片を手に受けしかばあはあはと消ゆ
(小川潤治)

上弦の月かかりいる真夜中のピアノにのこる小さき指紋
(梶田ひな子)

草色の陶器のように変わりたりクリスマスローズの固き花びら
(齊藤和美)

一族の唾液がまじり合いながら食器洗浄機内は嵐
(八木博信)

話しおれば冬のこころに小(ち)さき風の生まれて鈴のごとき音せり
(平林文枝)

暗がりへかへらむ風の尾の白さ冬まひるまの三熊野をゆく
(大谷雅彦)

冷蔵庫に卵ならびゐる平安をくずして朝のだし巻きたまご
(藤本喜久恵)

おるがんの辺りにうたひしことありや正岡律の歌ごゑおもふ
(紺野裕子)

カーペットの蔓草模様にまぎれたるグリンピースのみどりやいずこ
(今井千草)

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短歌人5月号、同人1欄より。

小雨ふる夕べ机辺に身を置きて静かなり二月余滴のひと日
(近藤かすみ)

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短歌人6月号 同人のうた その2

2016-05-16 18:38:27 | 短歌人同人のうた
三月の雨の眼をもて眺めゐる街木の株にひこばえあるを
(斎藤典子)

さきがけて春をうたふと上気せるやうに紅濃し河津ざくらは
(蒔田さくら子)

畑中に重機ひとつがはたらいて地球のうへに穴を掘りゆく
(小池光)

空晴れて葉書10枚買いにけり誰に届けん春の便りを
(小林登美子)

本閉ぢてみやる車窓に「鳩レース協会」のビル過ぎてゆきたり
(佐々木通代)

厨事なしつつ唄ふ早春譜ことば違(たが)はず幾度もうたふ
(山下柚里子)

使はれずなりしあまたの旅客機がモハビ砂漠に翼よこたふ
(秋田與一郎)

花びらのごときみどりごの服干して小ぶねに暮らす家族を見たり
(金沢早苗)

ぶるるんと左右に小さく振りしあと今日の私の顔出来上がる
(山本栄子)

ありありと戦後の記憶みなの靴みがいてくれき失意の父は
(加藤満智子)

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短歌人6月号、同人1欄より。


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短歌人6月号 同人のうた

2016-05-08 11:37:53 | 短歌人同人のうた
これの世の何におどろく嬰児はちいさき両手ぱっとひらきて
(関谷啓子)

いつだって祭の後にやって来てひとつふたつのごみ拾うのみ
(猪幸絵)

青銅の色うつくしき春の夜に蝋型鋳銅の香炉を置けり
(青輝翼)

春風に吹き寄せられて教へ子の娘二人が枕辺に笑む
(有沢螢)

筆圧と自信は比例するらしき 強き漢字に花まるをする
(鶴田伊津)

けふも又もの言はぬまま夜に入り家の何処か音立つる聴く
(八木明子)

震災の夜にあふぎし星たちに五歳老けたる顔をさらしつ
(洞口千恵)

鳴き龍とよばれて幾度も鳴かされる龍をば見たり遠く旅して
(西橋美保)

春立つやおほかた違ひはあらざらむわれの在る世とわれのなき世と
(原田千万)

キャベツ畑の小屋にもたれてゆっくりと年老いてゆく赤い自転車
(木曽陽子)

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短歌人5月号、同人1欄より。


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短歌人5月号 5月の扉

2016-05-02 23:03:40 | 短歌人同人のうた
両の目と口に見えたる窓のあり美(は)しきおとこの顔ぞあの家

触診に緊張あらず笑顔よき美しすぎぬ医師こそよけれ

(北村望 東京・ブルーマウンテン)

顔あげて「あしたのことはあした考へる」ビビアン・リーの意志つよき眉

美しきアンドロイドのゐるホテル最先端の技術の笑顔

(田中愛 美しき演技者たち)

青年が日暮れの歩道橋に立つ飛びたちそうな傘をひろげて

雪となる夜に女は忘れられ釦のごとく眠っておりぬ

(守谷茂泰)

春の女神そぞろいでたるあたたかさボッティチェリ展ひとり観にゆく

「欲望という名の電車」の終点に降り立つ老嬢めきし美貌は

(池田裕美子 美のカノン・十字架)

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短歌人5月号、5月の扉。題詠*美男美女を詠む。

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短歌人4月号 同人のうた その3

2016-04-24 14:39:23 | 短歌人同人のうた
早朝のひかり差し込む部屋内に晩年といふゆたかさにゐる
(山中重子)

暖房の部屋に籠りてはてさてとこれより地図の旅愉しまむ
(小川潤治)

名をつけしゆゑに死なせし兎かとわがかなしめり歳月すぎて
(金沢早苗)

満州に梅は咲きしか牧師館の庭に白梅けふは開きぬ
(吉浦玲子)

太郎雲次郎雲うかぶ休日の午後の海辺の道を歩めり
(大橋弘志)

立春に味噌を仕込んで眠りたり我よりふかく味噌は眠らむ
(岩下静香)

那智瀧の真上の空の芯くろく風があつまる冬のはじめに
(大谷雅彦)

ささやかな内臓ならむに精緻さのきはまりとしてむささびが飛ぶ
(三井ゆき)

あらたしと読むに驚き牛飼ひの左千夫の歌をあたらしく読む
(中地俊夫)

挽歌など見たくあらずとざらつきて籠るこころに死者は明るむ
(西勝洋一)

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短歌人4月号、同人1欄より。

飴色に切干大根たきあがる祖母のふところ日なたの匂ひ
(近藤かすみ)

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バスを待つ 牛尾誠三 

2016-04-17 14:56:24 | つれづれ
バスを待つ見知らぬ人にも辞儀をする少年のゐて春のゆふぐれ

飛行船が浮かんでゐればいいのにな目覚めて狭き部屋の窓開く

十時発町なか行きの京都バスは敬老パスで満席となる

冬の夜の仕事帰りの坂道は立ち止まつては星を見る場所

少しづつ荷の減つてゆくホームレスと荷の増えてゆくホームレスがゐる

バス停に着くまで立つなといふ声が聞こえぬように老い人ら立つ

このごろはお寺の前の掲示板に書いてあるやうな歌作りをり

何気なく首をさはるとセロテープ貼られてをりて故のわからず

デパ地下で上司を見かけ目を逸らし上目づかいに人ごみに入る

俯いてゐては短歌が生まれぬと見上げた空に虹の架かれり

(牛尾誠三 バスを待つ 六花書林)

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短歌人所属、牛尾誠三の第一歌集『バスを待つ』を読む。

牛尾さんは私と同じ地域に住んでいる。バスの路線が一緒なので、何度かバスや近所でお会いした。
この歌集は集題を『バスを待つ』としたように、バスに纏わる歌が多い。もっと言えば、左京区岩倉から町なかへ行こうとすると、京都バスを利用するのが便利。叡電もあるが、駅がこの地域の南部にあり、やっぱり京都バス、という選択になる。

一首目。少年はたまたま見かけただけだろうが、律儀さが牛尾さんの性格を表していているように思えた。昔の自分のすがたと重ねて見たのかもしれない。
三首目、六首目は私も実感していること。三〜四十年ほど前宅地化が進んだ岩倉は、いまや高齢者の町となっている。「町なか」という言葉に親しみを覚える。やはり岩倉は、町でありながら町とは言いにくい部分もあり、出町や河原町は町なかと思えてしまう。町なかの表記は、町中とすると漢字が続くので、それを避けた配慮だろう。
五首目は、ホームレスと呼ばれる人にも性格の違いがあることを、荷に注目することで出来た発見の歌。なるほどと思わせる。
九首目の何となく知り合いを避ける気持ち、とてもよくわかる。挨拶をしないと失礼だろうな、と思いつつ、人ごみに紛れる方が楽なのだ。少し罪悪感も持ちながら。
四首目、十首目のような歌を読むと読者としてほっとする。真面目な人間は、そうでない人間にとって、鬱陶しい存在らしい。かく言う私も某俳人氏には鬱陶しがられているようだ。
細かいことが気になり、気を病む人は歌人に多い。短歌に向いているとも言える。定型に嵌まっていることで安心できるのだ。俳句は、短すぎて却ってものが言いにくい。

歌集全体に老いを意識した歌が多く、その点で損をしている気もする。黙ってたら年なんかわからない、短歌は虚構だ、と近ごろの私は思うのだが、どうだろう。しかし、牛尾さんは正直で誠実なお人柄だから、老いの感慨を詠っていて、それでいいのだ。共感する人も多いはずだと思う。
ますますのご健詠をお祈りします。
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短歌人4月号 同人のうた その2

2016-04-11 00:38:43 | 短歌人同人のうた
悲しくて読めずなりたる『思川の岸辺』を閉じて窓辺に呆たり
(宮田長洋)

軍隊を持たぬ国などありませぬ 露西亜語教師薄くわらひき
(加藤満智子)

師をおもふこといつも夜半わたくしがわたくしに引きこもるゆたかさの
(菊池孝彦)

如月朔の空のかなたの北帰行始まりしといふ鶴おもひみつ
(蒔田さくら子)

一輛に乗客はわれひとりのみ下野(しもつけ)春の小金井すぎて
(小池光)

川風がうなじに触れて通り過ぐ木母寺に飲む「い・ろ・は・す」美味し
(斎藤典子)

みづの辺に紅梅の花ひらきそめ自転車止めてあふぐ数(す)分を
(渡英子)

高英男の「雪の降る街を」流れくるラジオの前の姉妹でありき
(高田流子)

川本さんの言葉を思い出している「リアルとリアリティは違うんですよ」
(猪幸絵)

さざなみのしがのみずうみ寒ざむの月照る景を独りに観るも
(おのでらゆきお)

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短歌人4月号、同人1欄より。



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短歌人4月号 同人のうた

2016-03-31 22:57:20 | 短歌人同人のうた
うつりきてなほ平積みにつむ本の山のうへにも春立ちにけり
(青輝翼)

古書の海、珈琲、煙草、老店主のこれがスタイル客をらずとも
(八木明子)

薄氷のあひに柄杓をさし入れてしづもる水の眠りをさます
(洞口千恵)

「神様に返されし命」何にでも挑みてみむと思ふ早春
(有沢螢)

だんだんとかばんが小さくなりてゆく なくてはならぬものなどなくて
(鶴田伊津)

猫の毛のまつわれる黒きスーツ着て一日この猫とともにはたらく
(内山晶太)

冬の陽はあまねく家具にふりそそぎ無疵のバターに刃を当つる朝
(木曽陽子)

いつぽんの素心蠟梅見むためにまはり道せりきさらぎ七日
(佐々木通代)

緘黙の少女が唯一声を出すインフルエンザ予防のうがい
(八木博信)

朝の手のゆるびたるまま時すぎてますぐならざる文字をかなしむ
(伊藤冨美代)

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短歌人4月号、同人1欄より。

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短歌人3月号 同人のうた その3

2016-03-20 23:17:27 | 短歌人同人のうた
そつと出す人差し指がふるへたり指紋認証の如月の冷え
(矍兄嵌繊

「いつかまた」言い切れないで左様なら濡れているのは左の翼
(倉益敬)

ひさびさに男の涙と出合ふなり「下町ロケット」テレビの話
(竹浦道子)

朝の陽が照らす家々いづれにも人棲みてをり何処ゆく電車
(大森浄子)

仁丹の匂いをさせて吊り革を持つ紳士あり昭和のおとこ
(川島眸)

大き柚子風呂に投げ込むそれだけで異郷のごとき夕暮れがくる
(藤本喜久恵)

枇杷の花ほのかに白し死ののちを漱石の脳の量られてあり
(渡英子)

屋根裏にもはや読まざる文庫本『マルテの手記』が置かれていたり
(藤原龍一郎)

五十音谷村田村となりあい会のひと日をすごした幾度
(谷村はるか)

ラッパ手の木口小平の享年は日清戦争のさなか二十二歳(にじふに)
(大森益雄)

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短歌人3月号、同人1欄より。

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短歌人3月号 同人のうた その2

2016-03-15 12:08:55 | 短歌人同人のうた
青空市に花柄パラソル置かれをり昭和の少女がすわつてをりぬ
(金沢早苗)

書き初めに「美しい空」書かせつつ子か孫なのか 墨の匂えり
(林悠子)

こんなにも空あをあをと晴れわたり田村よしてるさんがゐない
(佐々木通代)

しらしらとかほを灯(とも)して過ぎゆきぬスマートフォンを見ながらのひと
(菊池孝彦)

春近しウィンドウのなかのピンヒールもう履くことのなきピンヒール
(斎藤典子)

「生きるのは面倒なり」が口癖の男がふっと消え失せて冬
(おのでらゆきお)

ゆつくりと粥のあまさをふくらます土鍋の肌のしづかな呼吸
(人見邦子)

つつましくあらへんかつたな堪忍な 深く息をし腹に手を当つ
(原野久仁子)

大晦日にアマゾン律儀に働きて囲碁の読本とどく玄関
(椎木英輔)

この先も使わぬ鍋を仕舞いおく階段下の暗がりがある
(水谷澄子)

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短歌人3月号、同人1欄より。

磨りガラスごしに光のながれきてページ明るむ地下の図書室
(近藤かすみ)
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