(村田馨)
○ 新しき生命に感謝する人で水天宮は今日もにぎわう
子授けや安産祈願の神様として知られ、首都・東京の庶民諸氏に親しみ愛されているのが作中の「水天宮」である。
作者・村田馨さんが、“東京名所百首歌”中の一首としてお詠みになった本作に登場する「水天宮」は、東京都中央区日本橋蠣殻町に鎮座する“東京水天宮”かと思われる。
今から十五年くらい前に、私は、連れ合いと一緒に浜町の明治座で行われた歌舞伎を観た後に、蠣殻町の「水天宮」様に立ち寄ったことがありましたが、明日は平成二十四年・辰年の元日、あの「水天宮」様は、初詣客でごった返しの賑いを見せることでありましょう。
あの日、私の連れ合いは、社前で密かに掌を合わせるような仕草をしておりましたが、既に息子を二人も授かっている上に、日頃から無神論者を装っている私は、彼女の密かな仕草を見ていないようなふりをして、がっちりと見てしまいました。
彼女のささやかな宿願は、未だに果たされたようには思われません。
息子たちは二人とも三十歳を過ぎておりますが、彼らを立派に育て上げなければならない、という私たちの責任は、未だ果たし終えたとは言えません。
何はともあれ、今日は平成二十三年の大晦日である。
我が連れ合いは、先刻から、パナソニックのホームベーカリーを使ってお餅を搗いている。
お餅を搗くのは、私の連れ合いでは無く、あくまでも“パナソニックのホームベーカリー”なのである。
〔返〕 パナソニックのホームベーカリーが餅を搗く餅を搗くのは人間ではない 鳥羽省三
パナソニックのホームベーカリーが餅を搗くいとも容易く正月餅搗く
(牧童)
○ いつだって感謝してるさ今はただアジアンタムが気になるだけさ
「『感謝』の気持ちは、お金か品物か、何か具体的な物で示さなければ、相手に伝わるはずがない」というのが、我が連れ合い・翔子の口癖である。
本作の作者の牧童さんも、「アジアンタム」の枯れ具合なんか気にしていないで、ダイヤモンドの指輪か何か、具体的な品物で「感謝」の気持ちを奥様に伝えなければ、正月早々、離婚騒ぎになりますよ。
〔返〕 水遣りが過ぎても枯れるアジアンタム羊歯と女は取扱い注意 鳥羽省三
(南葦太)
○ うなされて謝罪しながら射精した どこか遠くでカルキのにおい
下の句に「どこか遠くでカルキのにおい」とあるが、「カルキのにおい}」と「うなされて謝罪しながら射精した」こととは、何か関係が在るのでございましょうか?
〔返〕 道端の観世音菩薩を写生した風の囁きを耳にしながら 鳥羽省三
思いっ切り下がかった作品に対しては、思いっ切り神がかった返歌をするのが、鳥羽省三の流儀である。
(伊倉ほたる)
○ 謝りのメールは封印されたままスクロールばかり繰り返す指
もしかしたら相手側の男性から仲直りの「メール」が届いているかも知れない、と思って、パソコンの操作画面を何度も何度も「スクロール」してみたのでありましょうが、届いているはずもありません。
〔返〕 謝って済むものならば世話要らずスクロールする必要はない 鳥羽省三
(紗都子)
○ 謝罪する言葉が胸にしずむときわだかまりの角すこしとろける
テレビの画面に、政治家や官僚や大手企業の経営者などの「謝罪」会見と称する光景が映っているのは、昨今では格別に珍しいことではありません。
しかも、彼らの口から飛び出る「謝罪」の「言葉」は、実の無い通り一遍のものである為、それを聴いている私たちの「胸」に「しずむ」ようなことは、ほとんどありません。
本作の作者・紗都子さんが、この一首を通じて仰りたいことは、「どうせ『謝罪』の『言葉』を述べるならば、聴いている者の『胸にしずむ』ような『言葉』を述べなさい。彼らの口からそのような実のある『言葉』を聴くことが出来たとしたら、それを聴いている私たちの『胸』の中に在る『わだかまりの角』も『すこし』ぐらいは『とろける』かも知れませんから」といったことでありましょう。
ところで、私はかつて、「抹香鯨が南氷洋の水中に『しずむとき』には、抹香の香りが海水に溶けるので海水一面が抹香臭くなる」という話を、捕鯨船の砲手をやっていた人から聞いたことがありますが、それと同じように、「謝罪する言葉が胸にしずむとき」には、「わだかまりの角」が「すこしとろける」のでありましょうか?
で、その場合は、「わだかまりの角」が「すこしとろける」場所が、本作の作者の胸中に限定されますから、そうした場合の紗都子さんは、「わだかまり」臭い女性になるのでありましょうか?
〔返〕 わだかまりの匂ひ消せずに詠む歌は抹香臭くて読むに耐へずも 鳥羽省三
(久哲)
○ ゴムの木の鉢植えだけが責任者謝罪会見中に寝てたよ
どんな事件でも、「責任者謝罪会見」といった類の記者会見は、事件発生地のホテルを会場として行われるようである。
これから「責任者謝罪会見」が行われようとしているロビーに、「ゴムの木の鉢植えだけ」が置かれているようなホテルは碌なホテルではありませんな?
「ゴムの木の鉢植え」を「責任者」に仕立て上げて「寝て」いる本当の「責任者」は、賠償責任を果たすつもりが無いのでありましょう?
ところで、本作の題材となった一件は、久哲さんが広げた大風呂敷、即ち「適当緑化計画」の破綻に伴って行われた「責任者謝罪会見」でありましょうか?
だとしたら、適当にしろ不適当にしろ、“緑化計画”の破綻の「責任者」を「ゴムの木」に押し付けるとは、本当の「責任者」の久哲さんもなかなか味なことをやるものである。
〔返〕 責任はゴムの木だけでは負えません緑化計画根っこから枯れた 鳥羽省三
(空音)
○ 供給と代謝と背筋を整えて正しく生きよと整体師言う
自分は必ずしも正しい治療をしていないくせに、「正しい姿勢で歩きなさい!」「正しいサプリを服用しなさい!」「正しい生活をしなさい!」などと言うのが、彼らの正しくない遣り口でである。
〔返〕 料金と治療効果が見合うよう正しい仕事をして下さいよ 鳥羽省三
(ミウラウミ)
○ この花の名前はわからないけれど謝っているみたいにみえるね
「謝っているみたいにみえる」「花」というものは確かに在るものである。
その代表選手は、いつも下向きに咲いている鈴蘭である。
向日葵も昼間だけは下向きに咲いていますが、夜になると踏ん反り返って威張って咲いています。
彼らは、除染効果が無かったという責任感を少しも感じていないみたいです。
〔返〕 この花の代金は二万円なり今年は二つも花輪を上げた 鳥羽省三
(桑原憂太郎)
○ これからの相手の出方を見定めて校長室で謝罪をいれる
題材となっているのは、当世流行りの“モンペ”への対処方法でありましょう。
とは言え、「これからの相手の出方を見定めて校長室で謝罪をいれる」といった、安易な対処法をいつまでも続けていたら、教育者としての良識や主体性が疑われることになりましょう。
〔返〕 相手側がどんな出方をしたとしても謝る場面では謝りましょう 鳥羽省三
(今泉洋子)
○ 駅伝の中継カメラが映しをり拝観謝絶の古都の寺院を
「駅伝」と言っても、本作の題材となっている「駅伝」は、明後日に行われる箱根駅伝ではなく、“全国高等学校駅伝競走大会”である。
会場が京都市内の目抜き通りでありますから、沿道には「拝観謝絶」ということで、本作の作者・今泉洋子さんにとっては垂涎の的とも申すべき「寺院」が幾つもありましょう。
その中の一つが、我が家の液晶画面に映ったからと言って、佐賀県ご在住の作者は、我が家が檀家総代になっている「寺院」が日本中に公開されたかのように喜悦乱舞なさっているのであるが、その有様は、まさしく平成二十四年の“笑い納め”とも言うべき大慶事でありましょう。
明後日に行われる“箱根駅伝”の沿道にも、池上本門寺や藤沢の遊行寺や小田原の早雲寺などの名刹が映りますよ。
〔返〕 駅伝の中継カメラも映せない柏原選手の熱き血潮は 鳥羽省三
日テレの中継カメラが大写し柏原選手の歪んだ顔を
○ 新しき生命に感謝する人で水天宮は今日もにぎわう
子授けや安産祈願の神様として知られ、首都・東京の庶民諸氏に親しみ愛されているのが作中の「水天宮」である。
作者・村田馨さんが、“東京名所百首歌”中の一首としてお詠みになった本作に登場する「水天宮」は、東京都中央区日本橋蠣殻町に鎮座する“東京水天宮”かと思われる。
今から十五年くらい前に、私は、連れ合いと一緒に浜町の明治座で行われた歌舞伎を観た後に、蠣殻町の「水天宮」様に立ち寄ったことがありましたが、明日は平成二十四年・辰年の元日、あの「水天宮」様は、初詣客でごった返しの賑いを見せることでありましょう。
あの日、私の連れ合いは、社前で密かに掌を合わせるような仕草をしておりましたが、既に息子を二人も授かっている上に、日頃から無神論者を装っている私は、彼女の密かな仕草を見ていないようなふりをして、がっちりと見てしまいました。
彼女のささやかな宿願は、未だに果たされたようには思われません。
息子たちは二人とも三十歳を過ぎておりますが、彼らを立派に育て上げなければならない、という私たちの責任は、未だ果たし終えたとは言えません。
何はともあれ、今日は平成二十三年の大晦日である。
我が連れ合いは、先刻から、パナソニックのホームベーカリーを使ってお餅を搗いている。
お餅を搗くのは、私の連れ合いでは無く、あくまでも“パナソニックのホームベーカリー”なのである。
〔返〕 パナソニックのホームベーカリーが餅を搗く餅を搗くのは人間ではない 鳥羽省三
パナソニックのホームベーカリーが餅を搗くいとも容易く正月餅搗く
(牧童)
○ いつだって感謝してるさ今はただアジアンタムが気になるだけさ
「『感謝』の気持ちは、お金か品物か、何か具体的な物で示さなければ、相手に伝わるはずがない」というのが、我が連れ合い・翔子の口癖である。
本作の作者の牧童さんも、「アジアンタム」の枯れ具合なんか気にしていないで、ダイヤモンドの指輪か何か、具体的な品物で「感謝」の気持ちを奥様に伝えなければ、正月早々、離婚騒ぎになりますよ。
〔返〕 水遣りが過ぎても枯れるアジアンタム羊歯と女は取扱い注意 鳥羽省三
(南葦太)
○ うなされて謝罪しながら射精した どこか遠くでカルキのにおい
下の句に「どこか遠くでカルキのにおい」とあるが、「カルキのにおい}」と「うなされて謝罪しながら射精した」こととは、何か関係が在るのでございましょうか?
〔返〕 道端の観世音菩薩を写生した風の囁きを耳にしながら 鳥羽省三
思いっ切り下がかった作品に対しては、思いっ切り神がかった返歌をするのが、鳥羽省三の流儀である。
(伊倉ほたる)
○ 謝りのメールは封印されたままスクロールばかり繰り返す指
もしかしたら相手側の男性から仲直りの「メール」が届いているかも知れない、と思って、パソコンの操作画面を何度も何度も「スクロール」してみたのでありましょうが、届いているはずもありません。
〔返〕 謝って済むものならば世話要らずスクロールする必要はない 鳥羽省三
(紗都子)
○ 謝罪する言葉が胸にしずむときわだかまりの角すこしとろける
テレビの画面に、政治家や官僚や大手企業の経営者などの「謝罪」会見と称する光景が映っているのは、昨今では格別に珍しいことではありません。
しかも、彼らの口から飛び出る「謝罪」の「言葉」は、実の無い通り一遍のものである為、それを聴いている私たちの「胸」に「しずむ」ようなことは、ほとんどありません。
本作の作者・紗都子さんが、この一首を通じて仰りたいことは、「どうせ『謝罪』の『言葉』を述べるならば、聴いている者の『胸にしずむ』ような『言葉』を述べなさい。彼らの口からそのような実のある『言葉』を聴くことが出来たとしたら、それを聴いている私たちの『胸』の中に在る『わだかまりの角』も『すこし』ぐらいは『とろける』かも知れませんから」といったことでありましょう。
ところで、私はかつて、「抹香鯨が南氷洋の水中に『しずむとき』には、抹香の香りが海水に溶けるので海水一面が抹香臭くなる」という話を、捕鯨船の砲手をやっていた人から聞いたことがありますが、それと同じように、「謝罪する言葉が胸にしずむとき」には、「わだかまりの角」が「すこしとろける」のでありましょうか?
で、その場合は、「わだかまりの角」が「すこしとろける」場所が、本作の作者の胸中に限定されますから、そうした場合の紗都子さんは、「わだかまり」臭い女性になるのでありましょうか?
〔返〕 わだかまりの匂ひ消せずに詠む歌は抹香臭くて読むに耐へずも 鳥羽省三
(久哲)
○ ゴムの木の鉢植えだけが責任者謝罪会見中に寝てたよ
どんな事件でも、「責任者謝罪会見」といった類の記者会見は、事件発生地のホテルを会場として行われるようである。
これから「責任者謝罪会見」が行われようとしているロビーに、「ゴムの木の鉢植えだけ」が置かれているようなホテルは碌なホテルではありませんな?
「ゴムの木の鉢植え」を「責任者」に仕立て上げて「寝て」いる本当の「責任者」は、賠償責任を果たすつもりが無いのでありましょう?
ところで、本作の題材となった一件は、久哲さんが広げた大風呂敷、即ち「適当緑化計画」の破綻に伴って行われた「責任者謝罪会見」でありましょうか?
だとしたら、適当にしろ不適当にしろ、“緑化計画”の破綻の「責任者」を「ゴムの木」に押し付けるとは、本当の「責任者」の久哲さんもなかなか味なことをやるものである。
〔返〕 責任はゴムの木だけでは負えません緑化計画根っこから枯れた 鳥羽省三
(空音)
○ 供給と代謝と背筋を整えて正しく生きよと整体師言う
自分は必ずしも正しい治療をしていないくせに、「正しい姿勢で歩きなさい!」「正しいサプリを服用しなさい!」「正しい生活をしなさい!」などと言うのが、彼らの正しくない遣り口でである。
〔返〕 料金と治療効果が見合うよう正しい仕事をして下さいよ 鳥羽省三
(ミウラウミ)
○ この花の名前はわからないけれど謝っているみたいにみえるね
「謝っているみたいにみえる」「花」というものは確かに在るものである。
その代表選手は、いつも下向きに咲いている鈴蘭である。
向日葵も昼間だけは下向きに咲いていますが、夜になると踏ん反り返って威張って咲いています。
彼らは、除染効果が無かったという責任感を少しも感じていないみたいです。
〔返〕 この花の代金は二万円なり今年は二つも花輪を上げた 鳥羽省三
(桑原憂太郎)
○ これからの相手の出方を見定めて校長室で謝罪をいれる
題材となっているのは、当世流行りの“モンペ”への対処方法でありましょう。
とは言え、「これからの相手の出方を見定めて校長室で謝罪をいれる」といった、安易な対処法をいつまでも続けていたら、教育者としての良識や主体性が疑われることになりましょう。
〔返〕 相手側がどんな出方をしたとしても謝る場面では謝りましょう 鳥羽省三
(今泉洋子)
○ 駅伝の中継カメラが映しをり拝観謝絶の古都の寺院を
「駅伝」と言っても、本作の題材となっている「駅伝」は、明後日に行われる箱根駅伝ではなく、“全国高等学校駅伝競走大会”である。
会場が京都市内の目抜き通りでありますから、沿道には「拝観謝絶」ということで、本作の作者・今泉洋子さんにとっては垂涎の的とも申すべき「寺院」が幾つもありましょう。
その中の一つが、我が家の液晶画面に映ったからと言って、佐賀県ご在住の作者は、我が家が檀家総代になっている「寺院」が日本中に公開されたかのように喜悦乱舞なさっているのであるが、その有様は、まさしく平成二十四年の“笑い納め”とも言うべき大慶事でありましょう。
明後日に行われる“箱根駅伝”の沿道にも、池上本門寺や藤沢の遊行寺や小田原の早雲寺などの名刹が映りますよ。
〔返〕 駅伝の中継カメラも映せない柏原選手の熱き血潮は 鳥羽省三
日テレの中継カメラが大写し柏原選手の歪んだ顔を