○ かぜがおもい、風が重いと言いながら青い傘さす子ども歩めり
○ ひらがなを初めて習う子に見せる「つくし」三つの釣り針のよう
○ ときどきは白き狐の貌をするむすめが千円くださいと言う
○ 空条承太郎を共通の友として息子と暮らす冬深きころ
○ さむざむと風は比叡を吹き越すも酢の華やかに匂える夕べ
○ 磔刑の縦長の絵を覆いたるガラスに顔はしろく映りぬ
○ 陽と月の交合のあと目くらみてどくだみの咲く路をあゆめり
○ ヘッドライトに照らし出されて赤黒く立ち上がりたり曼珠沙華の花
○ 読み終えし本は水面のしずけさのもうすこしだけ机に置かむ
○ 石段の深きところは濡らさずに雨は過ぎたり夕山の雨
○ 春雨は広場のなかに吹き入りて吹奏楽の金銀ぬらす
○ よく見てほしいと言う人がそばにいて泥の覆える家跡を見る
○ 破られてまたつながれて展示さるる手紙に淡き恋は残りぬ
○ 雨ののち冬星ひとつ見えており何の星座の断片かあれは
○ うちがわを向きて燃えいる火とおもう ろうそくの火は闇に立ちおり
○ 錆ついた窓から見える風景だ どうしたらいいどうしたら雨
○ 若者は抵抗しないということば我もいくたびも言われし言葉
○ やわらかな仏のころも波打ちてそこには風が彫られていたり
○ 砂肝にかすかな砂を溜めながら鳥渡りゆくゆうぐれの空
○ 学校は直角の場所 ゆうぐれにテストひとたば持ちてあゆみく
○ ぶどう食べ終えて小さな枝残る鳥が咥えてきたような枝
○ ビニールに包まれ白き櫛があり使わずに去る朝のホテルを
○ 支社の人叱りていたり電話から小きざみの息感じながらに
○ 白菊の咲く路地をゆく傘ふたつ高低変えてすれちがいたり
○ 手に置けば手を濡らしたり貝殻のなかに巻かれていた海の水
○ 立ち読みをしているあいだ自転車にほそく積もりぬ二月の雪は
○ ゆらゆらと雪の入りゆく足もとの闇をまたぎて電車に乗りぬ
○ 雨のあと光の沈む路をゆくムラサキシノブの枝は斜めに
○ 向かいのビル壊されてゆく窓だったところに冬の雲がはいりぬ
○ 基地の柵に押しつけらるる人影をネット画像に見たり 見るのみ
○ ほほえみが顔となりつつ原発の案内をする若き女人は
○ 反対を続けている人のテントにて生ぬるき西瓜を食べて種吐く
○ 原発をなおも信じる人の目には我は砂男のごとく映らむ
○ 透明の傘にて顔を薄めつつ列に加わる秋雨のデモ
○ 叫べども言葉刺さらず夕闇の四条通りを歩みゆきたり
○ 権力はまざまざと酷くなりゆくを日なたの雀でしかない我は
○ 言葉にせねばついに怒りとならざらむ桜の花の鱗なす道
○ 耳、鼻に綿詰められて戦死者は帰りくるべしアメリカの綿花
○ 見るほかに何もできない 青海に再稼働を待つ大飯おおい原発
○ 何もできず、何もできねば座りたり黒き舗道にてのひらを置き
○ 明日はまた仕事があるので帰ります 電気に満ちた街に帰ります
○ 窓の下緑に輝るを拾いたりうちがわだけが死ぬコガネムシ
○ 夕立のまえぶれの風吹ききたりアメンボは横に流されてゆく
○ 半分に切られし虫がまだうごくように日常は続いておりぬ
○ お母さん、殺していいものをこの紙に書いてよ蟻とか団子虫とか
○ 死出の山越えゆく兵を西行は見き どこにでも現るる山
○ ひらがなを初めて習う子に見せる「つくし」三つの釣り針のよう
○ ときどきは白き狐の貌をするむすめが千円くださいと言う
○ 空条承太郎を共通の友として息子と暮らす冬深きころ
○ さむざむと風は比叡を吹き越すも酢の華やかに匂える夕べ
○ 磔刑の縦長の絵を覆いたるガラスに顔はしろく映りぬ
○ 陽と月の交合のあと目くらみてどくだみの咲く路をあゆめり
○ ヘッドライトに照らし出されて赤黒く立ち上がりたり曼珠沙華の花
○ 読み終えし本は水面のしずけさのもうすこしだけ机に置かむ
○ 石段の深きところは濡らさずに雨は過ぎたり夕山の雨
○ 春雨は広場のなかに吹き入りて吹奏楽の金銀ぬらす
○ よく見てほしいと言う人がそばにいて泥の覆える家跡を見る
○ 破られてまたつながれて展示さるる手紙に淡き恋は残りぬ
○ 雨ののち冬星ひとつ見えており何の星座の断片かあれは
○ うちがわを向きて燃えいる火とおもう ろうそくの火は闇に立ちおり
○ 錆ついた窓から見える風景だ どうしたらいいどうしたら雨
○ 若者は抵抗しないということば我もいくたびも言われし言葉
○ やわらかな仏のころも波打ちてそこには風が彫られていたり
○ 砂肝にかすかな砂を溜めながら鳥渡りゆくゆうぐれの空
○ 学校は直角の場所 ゆうぐれにテストひとたば持ちてあゆみく
○ ぶどう食べ終えて小さな枝残る鳥が咥えてきたような枝
○ ビニールに包まれ白き櫛があり使わずに去る朝のホテルを
○ 支社の人叱りていたり電話から小きざみの息感じながらに
○ 白菊の咲く路地をゆく傘ふたつ高低変えてすれちがいたり
○ 手に置けば手を濡らしたり貝殻のなかに巻かれていた海の水
○ 立ち読みをしているあいだ自転車にほそく積もりぬ二月の雪は
○ ゆらゆらと雪の入りゆく足もとの闇をまたぎて電車に乗りぬ
○ 雨のあと光の沈む路をゆくムラサキシノブの枝は斜めに
○ 向かいのビル壊されてゆく窓だったところに冬の雲がはいりぬ
○ 基地の柵に押しつけらるる人影をネット画像に見たり 見るのみ
○ ほほえみが顔となりつつ原発の案内をする若き女人は
○ 反対を続けている人のテントにて生ぬるき西瓜を食べて種吐く
○ 原発をなおも信じる人の目には我は砂男のごとく映らむ
○ 透明の傘にて顔を薄めつつ列に加わる秋雨のデモ
○ 叫べども言葉刺さらず夕闇の四条通りを歩みゆきたり
○ 権力はまざまざと酷くなりゆくを日なたの雀でしかない我は
○ 言葉にせねばついに怒りとならざらむ桜の花の鱗なす道
○ 耳、鼻に綿詰められて戦死者は帰りくるべしアメリカの綿花
○ 見るほかに何もできない 青海に再稼働を待つ大飯おおい原発
○ 何もできず、何もできねば座りたり黒き舗道にてのひらを置き
○ 明日はまた仕事があるので帰ります 電気に満ちた街に帰ります
○ 窓の下緑に輝るを拾いたりうちがわだけが死ぬコガネムシ
○ 夕立のまえぶれの風吹ききたりアメンボは横に流されてゆく
○ 半分に切られし虫がまだうごくように日常は続いておりぬ
○ お母さん、殺していいものをこの紙に書いてよ蟻とか団子虫とか
○ 死出の山越えゆく兵を西行は見き どこにでも現るる山