[永田和宏選]
(たつの市・藤原明朗)
〇 胸熱く発布記念のポスターを幼なら描きし憲法破るか
かつて「障子破り」として名を馳せた老耄が、昨日は大阪の若い悪友と袂を分かつべく「分党の為の記者会見」など遣らかして、またぞろ、「憲法破り」「原発再稼働」与党の補完勢力下に馳せ参じるとか?
それはそれとして、「憲法破るか」という五句目の表現の何と言うお粗末さよ!
〔返〕 胸熱く発布記念のポスターを描きし君を無視する安倍か?
(香南市・中山昇喜)
〇 貧乏に慣れてゐますと言ひくれし君に決めた日憲法記念日
安倍内閣の国会審議を経ない憲法解釈変更策にちゃっかり便乗して、過ぎし日の自らの求婚の次第を披歴しようとするとは、あまりにも身勝手過ぎましょう。
〔返〕 戦争の稽古はするが本物の戦争反対自衛隊員
誰よりも憲法九条大好きな自衛隊員参戦反対
(ホームレス・坪内政夫)
〇 遠くには班雪かがよう飯場にて庭に干されし地下タビ凍る
そもそも住所を記すべきスペースに「ホームレス」という住所とも職業ともつかないカタカナ語を記すとは不届き千万、全く宜しくありませんが、詠い出しの五音を「遠くには」としているのは益々宜しくありません。
このままでは、本作の意が「ホームレスを居住地とした作者が、寒さとは遠く隔絶した安全圏の『飯場』暮らしをしていて、ご酔狂にも『庭』に『地下タビ』を干したところ、何の因果かその『地下タビ』が凍みてしまった」ということにもなりかねません。
朝日歌壇の「ホームレス贔屓」も、こと此処に至れば問題無しとせず。
〔返〕 朝なさな氷柱輝く飯場にて地下タビ干せど凍ったままだ
(東京都・大村森美)
〇 陽炎の中から遍路あらはれてまた陽炎に白衣溶けゆく
本作を仮に「陽炎の中からひょっこり現れてまた陽炎に溶け行く妻が」としたら、朝日歌壇の入選作というレベルの短歌作品と言い得ましょうか?
ことほど然様に、作中の「遍路」という語の持つ働きは重大なのである。
「短歌表見に於いては一語の使用も忽せに出来ず」なんちゃったりしたら、選者の永田和宏氏に笑われましょうか?
〔返〕 夕焼けの最中ポストと出会ひしもまた夕焼けに染まりし昭和
(大和郡山市・四方護)
〇 夢の中に傘を忘れて来たけれど傘はやっぱり玄関にある
浄土宗鎮西派の総本山「知恩院(正式名称は華頂山知恩教院大谷寺)」の御影堂正面の軒裏には、骨ばかりとなった傘が見えます。
この傘の由来に就いては、「当時の名工、左甚五郎が魔除けのために置いていった」という説と「知恩院第三十二世の雄誉霊巌上人が御影堂を建立するとき、この辺りに住んでいた白狐が、自分の棲居がなくなるので霊巌上人に新しい棲居をつくってほしいと依頼し、それが出来たお礼にこの傘を置いて知恩院を守ることを約束したという説」とが並立して伝えられていますが、いずれにしても、雨天の際に用いられるはずの傘が、雨漏りの心配の無い豪壮な建物の天井裏に見え隠れしていることは真に不可思議なことであり、恐らくは国宝級の木造建築物が不慮の火災に因って焼失することを危惧しての御まじないのようにも思われるのである。
大和郡山市ご在住の四方護さんの御作を鑑賞せんと欲して、突如として私の胸中にこのような話が去来したのは、他でもなく、京都東山の知恩院の御影堂の軒裏に見え隠れしているこの傘の名称が「忘れ傘」とされていることに由来するのでありましょうか?
そこで、本作の作者・四方護さんに私から申し上げますが、「傘というものは、飲んだくれた挙句にブラック企業との噂の高い飲み屋のカウンターの下に忘れて来たり、夢の中に忘れて来たりするものではなく、雨天の際に用いる為にご自宅の玄関に置くものだ」ということである。
ということになりますと、この度の四方護さんの見た忘れ傘の夢は吉祥疑い無しであり、四方さんの御作は、来週も亦、朝日歌壇の入選作とは相成ること必定でありましょうか。
〔返〕 床中にふんどし忘れて来た夢を見たのもはつか僧正遁世
(南相馬市・池田実)
〇 はらはらと浪江の土手に舞う桜しばし忘れる胸の線量計
「はらはらと浪江の土手に舞う桜」という上の句の表現は近代短歌以前の月並み調である。
その月並み調に少しぐらいは変化を与え、気弱で優しい性格の朝日歌壇の選者諸氏を騙くらかそうとして持ち出したのが「しばし忘れる胸の線量計」という、大幅な字余り句を伴った下の句であるが、果たしてその出来栄えや如何に?
〔返〕 はらはらと浪江の土手で舞ふ奴と同じ桜か的屋の桜
(八王子市・坂本ひろ子)
〇 窓際の差額ベッドで見えたのは汚れたビルの裏窓ばかり
わざわざ高額の「差額ベッド」代を支払ったのにも関わらず、「見えた」景色は「汚れたビルの裏窓ばかり」とは、全く以ってお気の毒様でした。
でも、往年の名画「裏窓」みたいな素敵な出会いがこれからの貴女様の前に待ち構えているかも知れませんから、どうか失望なさらずに気楽に生き続けて下さいませ。
〔返〕 望遠のレンズの奥に映るのはやーさん紛いの中年男
(坂戸市・山崎波浪)
〇 噴水の穂先が空に弾かれて弾かれて落ち街ははや夏
「噴水の穂先」と言い、その「穂先が空に弾かれて弾かれて落ち」と言う。
こうした新鮮な観察眼をお持ちであるが故に、掲歌の作者・山崎波浪さんは朝日歌壇入選者の常連中の常連としての、現在の輝かしき位置を勝ち得ることが出来たのでありましょうと、評者の私・鳥羽省三は、密かに埼玉県坂戸市の方角に憧れの眼差しを向けようとするのである。
ところで、作者の山崎波浪さんは埼玉県の坂戸市内にお住いの方であるが、本作の題材となったのは、東京都内の噴水のある公園でご自身が実見なさった光景とした方が宜しいのかも知れません。
つきましては、真に以って手前勝手ながら、作中の「街」を、埼玉県の坂戸市とは遠く隔たった東京のど真ん中、日比谷公園界隈とさせていただきます。
色淡き銀杏並木と色濃き葉桜の中に藤の花と躑躅の花とが僅かに彩りを添えている晩春の午後の日比谷公園。
公園内の「かもめの広場」の噴水の水は、日頃から射し貫こうとしても射し貫き得ない天空を、今日こそは是が非でも射し貫こうと意志して一斉に噴出するのであるが、敵は其の僻陬に幾片かの入道雲を浮かべたさすがの天空である。
彼ら、「噴水の穂先」たちは、背伸びして背伸びして、一斉に天空を射し貫こうとするのであるが、その度ごとに「空に弾かれて弾かれて」脆くも地上に落下してしまうのである。
そうした風景、即ち、噴水の水と上空の青空とが織り成す都会情緒たっぷりの風景を見上げるのは、今朝の始発の東武東上線で手弁当を引っ提げて上京し、池袋駅から幾本かの地下鉄電車を乗り継ぎ、名にし負う「東京スカイツリー」の展望台に昇った後、事の序でにと、都心まで足を延ばして皇居界隈及び日比谷公園を見ようと欲張った、本作の作者・山崎波浪さんである。
日比谷公園の「かもめの広場」の噴水の水は、埼玉県民が東京を志すが如く、日頃から果てし無き天空を志していて、今日こそはあの憧れの天空を刺そうと意志して、何度も何度も噴出するのであるが、その度ごとに、神の意思に阻まれるのでありましょうか、脆くも地上に落下して、水蒸気となって初めて初志を貫徹するのである。
かくして、天空を志す噴水の水の意志と、それを阻もうとする天空との爽やかな格闘劇が展開される中で、日比谷の街にも夏という季節が訪れるのである。
〔返〕 あな不思議?坂戸市内に千代田在り!千枚田でも在ったのかしら?
(横浜市・森秀人)
〇 「方丈記」「徒然草」を読み直したやっぱり著者には会いたくないな
まこと然り。
かつて「徒然草」の注釈書を上梓した経験を持つ私でさえも、あの鹿爪らしい顔をして講釈を垂れるような輩とは金輪際「会いたく」はありません。
〔返〕 佳き歌は少しく鈍き者の詠む少しく鈍き変な歌なり
(東京都・上田結香)
〇 菖蒲園に行ったのですが「亀!亀!]と連れは大はしゃぎ風情どころでは
「連れは」としたところが最大のウリの俗っ気たっぷりの作品として鑑賞させていただきました。
でも、一見すると、大幅な字余り作品のように思われるのですが、音読してみると、それなりのリズム感(内在律)が感じられ、さすがに上田結香さんの御作と思われます。
〔返〕 競馬場に行ったのですが連れ合いが「当てる!当てる!」と言ってたわりには当てれなかった
何方か、御奇特な方が居られましたら、上掲返歌中の「当てれなかった」というところを誉めてやって下さい。
(たつの市・藤原明朗)
〇 胸熱く発布記念のポスターを幼なら描きし憲法破るか
かつて「障子破り」として名を馳せた老耄が、昨日は大阪の若い悪友と袂を分かつべく「分党の為の記者会見」など遣らかして、またぞろ、「憲法破り」「原発再稼働」与党の補完勢力下に馳せ参じるとか?
それはそれとして、「憲法破るか」という五句目の表現の何と言うお粗末さよ!
〔返〕 胸熱く発布記念のポスターを描きし君を無視する安倍か?
(香南市・中山昇喜)
〇 貧乏に慣れてゐますと言ひくれし君に決めた日憲法記念日
安倍内閣の国会審議を経ない憲法解釈変更策にちゃっかり便乗して、過ぎし日の自らの求婚の次第を披歴しようとするとは、あまりにも身勝手過ぎましょう。
〔返〕 戦争の稽古はするが本物の戦争反対自衛隊員
誰よりも憲法九条大好きな自衛隊員参戦反対
(ホームレス・坪内政夫)
〇 遠くには班雪かがよう飯場にて庭に干されし地下タビ凍る
そもそも住所を記すべきスペースに「ホームレス」という住所とも職業ともつかないカタカナ語を記すとは不届き千万、全く宜しくありませんが、詠い出しの五音を「遠くには」としているのは益々宜しくありません。
このままでは、本作の意が「ホームレスを居住地とした作者が、寒さとは遠く隔絶した安全圏の『飯場』暮らしをしていて、ご酔狂にも『庭』に『地下タビ』を干したところ、何の因果かその『地下タビ』が凍みてしまった」ということにもなりかねません。
朝日歌壇の「ホームレス贔屓」も、こと此処に至れば問題無しとせず。
〔返〕 朝なさな氷柱輝く飯場にて地下タビ干せど凍ったままだ
(東京都・大村森美)
〇 陽炎の中から遍路あらはれてまた陽炎に白衣溶けゆく
本作を仮に「陽炎の中からひょっこり現れてまた陽炎に溶け行く妻が」としたら、朝日歌壇の入選作というレベルの短歌作品と言い得ましょうか?
ことほど然様に、作中の「遍路」という語の持つ働きは重大なのである。
「短歌表見に於いては一語の使用も忽せに出来ず」なんちゃったりしたら、選者の永田和宏氏に笑われましょうか?
〔返〕 夕焼けの最中ポストと出会ひしもまた夕焼けに染まりし昭和
(大和郡山市・四方護)
〇 夢の中に傘を忘れて来たけれど傘はやっぱり玄関にある
浄土宗鎮西派の総本山「知恩院(正式名称は華頂山知恩教院大谷寺)」の御影堂正面の軒裏には、骨ばかりとなった傘が見えます。
この傘の由来に就いては、「当時の名工、左甚五郎が魔除けのために置いていった」という説と「知恩院第三十二世の雄誉霊巌上人が御影堂を建立するとき、この辺りに住んでいた白狐が、自分の棲居がなくなるので霊巌上人に新しい棲居をつくってほしいと依頼し、それが出来たお礼にこの傘を置いて知恩院を守ることを約束したという説」とが並立して伝えられていますが、いずれにしても、雨天の際に用いられるはずの傘が、雨漏りの心配の無い豪壮な建物の天井裏に見え隠れしていることは真に不可思議なことであり、恐らくは国宝級の木造建築物が不慮の火災に因って焼失することを危惧しての御まじないのようにも思われるのである。
大和郡山市ご在住の四方護さんの御作を鑑賞せんと欲して、突如として私の胸中にこのような話が去来したのは、他でもなく、京都東山の知恩院の御影堂の軒裏に見え隠れしているこの傘の名称が「忘れ傘」とされていることに由来するのでありましょうか?
そこで、本作の作者・四方護さんに私から申し上げますが、「傘というものは、飲んだくれた挙句にブラック企業との噂の高い飲み屋のカウンターの下に忘れて来たり、夢の中に忘れて来たりするものではなく、雨天の際に用いる為にご自宅の玄関に置くものだ」ということである。
ということになりますと、この度の四方護さんの見た忘れ傘の夢は吉祥疑い無しであり、四方さんの御作は、来週も亦、朝日歌壇の入選作とは相成ること必定でありましょうか。
〔返〕 床中にふんどし忘れて来た夢を見たのもはつか僧正遁世
(南相馬市・池田実)
〇 はらはらと浪江の土手に舞う桜しばし忘れる胸の線量計
「はらはらと浪江の土手に舞う桜」という上の句の表現は近代短歌以前の月並み調である。
その月並み調に少しぐらいは変化を与え、気弱で優しい性格の朝日歌壇の選者諸氏を騙くらかそうとして持ち出したのが「しばし忘れる胸の線量計」という、大幅な字余り句を伴った下の句であるが、果たしてその出来栄えや如何に?
〔返〕 はらはらと浪江の土手で舞ふ奴と同じ桜か的屋の桜
(八王子市・坂本ひろ子)
〇 窓際の差額ベッドで見えたのは汚れたビルの裏窓ばかり
わざわざ高額の「差額ベッド」代を支払ったのにも関わらず、「見えた」景色は「汚れたビルの裏窓ばかり」とは、全く以ってお気の毒様でした。
でも、往年の名画「裏窓」みたいな素敵な出会いがこれからの貴女様の前に待ち構えているかも知れませんから、どうか失望なさらずに気楽に生き続けて下さいませ。
〔返〕 望遠のレンズの奥に映るのはやーさん紛いの中年男
(坂戸市・山崎波浪)
〇 噴水の穂先が空に弾かれて弾かれて落ち街ははや夏
「噴水の穂先」と言い、その「穂先が空に弾かれて弾かれて落ち」と言う。
こうした新鮮な観察眼をお持ちであるが故に、掲歌の作者・山崎波浪さんは朝日歌壇入選者の常連中の常連としての、現在の輝かしき位置を勝ち得ることが出来たのでありましょうと、評者の私・鳥羽省三は、密かに埼玉県坂戸市の方角に憧れの眼差しを向けようとするのである。
ところで、作者の山崎波浪さんは埼玉県の坂戸市内にお住いの方であるが、本作の題材となったのは、東京都内の噴水のある公園でご自身が実見なさった光景とした方が宜しいのかも知れません。
つきましては、真に以って手前勝手ながら、作中の「街」を、埼玉県の坂戸市とは遠く隔たった東京のど真ん中、日比谷公園界隈とさせていただきます。
色淡き銀杏並木と色濃き葉桜の中に藤の花と躑躅の花とが僅かに彩りを添えている晩春の午後の日比谷公園。
公園内の「かもめの広場」の噴水の水は、日頃から射し貫こうとしても射し貫き得ない天空を、今日こそは是が非でも射し貫こうと意志して一斉に噴出するのであるが、敵は其の僻陬に幾片かの入道雲を浮かべたさすがの天空である。
彼ら、「噴水の穂先」たちは、背伸びして背伸びして、一斉に天空を射し貫こうとするのであるが、その度ごとに「空に弾かれて弾かれて」脆くも地上に落下してしまうのである。
そうした風景、即ち、噴水の水と上空の青空とが織り成す都会情緒たっぷりの風景を見上げるのは、今朝の始発の東武東上線で手弁当を引っ提げて上京し、池袋駅から幾本かの地下鉄電車を乗り継ぎ、名にし負う「東京スカイツリー」の展望台に昇った後、事の序でにと、都心まで足を延ばして皇居界隈及び日比谷公園を見ようと欲張った、本作の作者・山崎波浪さんである。
日比谷公園の「かもめの広場」の噴水の水は、埼玉県民が東京を志すが如く、日頃から果てし無き天空を志していて、今日こそはあの憧れの天空を刺そうと意志して、何度も何度も噴出するのであるが、その度ごとに、神の意思に阻まれるのでありましょうか、脆くも地上に落下して、水蒸気となって初めて初志を貫徹するのである。
かくして、天空を志す噴水の水の意志と、それを阻もうとする天空との爽やかな格闘劇が展開される中で、日比谷の街にも夏という季節が訪れるのである。
〔返〕 あな不思議?坂戸市内に千代田在り!千枚田でも在ったのかしら?
(横浜市・森秀人)
〇 「方丈記」「徒然草」を読み直したやっぱり著者には会いたくないな
まこと然り。
かつて「徒然草」の注釈書を上梓した経験を持つ私でさえも、あの鹿爪らしい顔をして講釈を垂れるような輩とは金輪際「会いたく」はありません。
〔返〕 佳き歌は少しく鈍き者の詠む少しく鈍き変な歌なり
(東京都・上田結香)
〇 菖蒲園に行ったのですが「亀!亀!]と連れは大はしゃぎ風情どころでは
「連れは」としたところが最大のウリの俗っ気たっぷりの作品として鑑賞させていただきました。
でも、一見すると、大幅な字余り作品のように思われるのですが、音読してみると、それなりのリズム感(内在律)が感じられ、さすがに上田結香さんの御作と思われます。
〔返〕 競馬場に行ったのですが連れ合いが「当てる!当てる!」と言ってたわりには当てれなかった
何方か、御奇特な方が居られましたら、上掲返歌中の「当てれなかった」というところを誉めてやって下さい。