ブロヤ(P)ヴィト指揮ワルシャワ・フィル(ica)2009/11/19live・DVD
同曲としては大変に珍しい正規の映像記録となる。やや弱いオケ、折り目正しい棒で、熱狂し突進する迫力はないが、細かな部分に独特の書法が施されとても「やりにくそう」なところを含めて楽しめる。ピアニストとしても作曲家としても「若きポーランド」の中で突出した音楽家だが、生涯における作風の変節と長命に恵まれなかったことから世界的には数曲を除いて殆ど知られていない。ただ、プロコフィエフに始まる新古典主義協奏曲の系譜に連なるこの曲は民族主義を露骨に掲げるとともに、中欧からの影響より始まったシマノフスキのキャリアを想起させる安定した壮麗な響きと、印象派やスクリアビンの影響に始まった奇矯な個性の発露があいまって、初耳で捉えられるわかりやすさほどには簡単ではない、だから浅薄に思えたとしても映像を目を凝らし耳をすませば聴こえてこないようなところに面白い要素が散在しており、その意味でDVDで見る価値はある。ソリストは上手いが実直さがあらわれ、三楽章では恣意的に横に揺らしてくるが、わりと縦にリズムを取り正確さを重視するスタイル。ヴィトはNAXOSにも録音がありこの演奏はそれに近いものを感じさせた。一楽章は音域が高く管楽に無理をさせているような感じがある。ソリストもまだ硬くさほど惹かれなかった。しかし二楽章はラヴェルの両手の二楽章が演奏されるさまを想起させる、じっくりと聴かせてくる。一楽章でもそうだったがフルートがとても旨い。黄金に輝く楽器から美しい音を誘い出し、一楽章の印象的なモチーフを立ち上らせる。ここではヴァイオリンソロも美しい。シマノフスキはピアノに非常に力を入れた曲作りをしていてどこが協奏的交響曲なんだというピアノ協奏曲ぶりだが、弦楽器の使い方がもともと上手く、この曲では部品化させられる場面が多いものの、二楽章のコンミスソロは感傷的で訴えかけるものがある。録音があまりバランス良くなく三楽章への雪崩込みが今ひとつ音としては際立ってこないが、この三楽章は映像としては今見ることのできる最もよくできたものだと思う。曲もひときわ単純にリズムをあおり短いフレーズを対位的に絡ませるような王道ぶりだから、クライマックスでドイツ的な大きな音響を繰り広げるまで何にも考えなくても楽しめるが、スピードがもっと欲しい他はあまり悪口が思いつかない。あ。カメラワークが凝りすぎてすごく見づらい。ピアニストの足元から鍵盤越しの天井を見上げるアングルは何が見せたいんだ。
圧倒的なものはないが、ルービンシュタインのような音を犠牲にして音楽を作るようなのは今は通用しないのだろう。拍手は通り一遍。