湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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皮肉っぽく嵐のように豪快なロシアの名匠たち

2006年02月14日 | Weblog
今日はスヴェトラーノフ最晩年のマーラー9番スウェーデンライヴ(意外と軽くて速いのだ)を書こうと思ったのだが、「ソヴィエト・エコーズ」の余りの衝撃にとりあえずソレだけ書いておこう。1,2巻しか買ってないのだが(3巻はピアノ編なので静観・・・ソフロニツキーの映像は興味あるけど、ギンズブルグとかロシアンピアニズム好きには信じられないアルヒーフの蔵出しですな)、1巻はロストロポーヴィチ、2巻はショスタコーヴィチが主題になっていて、そこを彩る「実在がとうてい信じられないような伝説的映像の数々」・・・

(ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番終楽章「自作自演」・・・指が10本以上あるマンガにカリカチュアライズされたのも頷けるすさまじい速さだ・・・、ベートーヴェン四重奏団のショスタコ2,15番(シリンスキー!)、座るなり謝肉祭をバリバリ弾きだす壮年期のリヒテル、オイストラフとコーガンという信じられない両親子によるヴィヴァルディの4重協奏曲、プロコが窓辺のピアノに座って弾く自作自演(戦争と平和のワルツだと思うが本編では6番シンフォニーの抜粋のような字幕になってる、字幕にやや難があるので英語聞いたほうがいい)、ストラヴィンスキー凱旋帰国公演の抜粋(これは音はさんざん復刻されているし、映像的に面白い動きもないいつものストラヴィンスキーだけど、やっぱヴォルガの舟歌は感慨深い)、ロストロ先生最盛期映像の物凄い記録・・・特にショスタコ2番をスヴェトラーノフとやった初演映像はまるで自作自演のような殆どロックのノリのすさまじさ、ロジェスト先生とやったドヴォコン最後も圧巻、でもなぜ当人のインタビューが無いのか?)

・・・が売りではあるけれど、やはりソヴィエト時代のロシア音楽の状況を、傍証的インタビューを交えて英国という芸術に中立な国にて描き出した番組なだけに、ドキュメンタリーとしても見ごたえがある。民衆に芸術を、という国家理念自体には一種感動する部分もある(1巻冒頭労働者の間で歌う信じられない歌手群の姿・・・アメリカの黒人問題やロシアのユダヤ人差別という横絡みも確認できる)。結局権力者(特にあのオバサン)たちが理念を捻じ曲げてしまったのだ、ということが頭でなくカラダでわかる。ロシア好きは必見でしょうね。ロシア往年の楽団の素晴らしさにも驚嘆するところがあります。ソリストの個性は言うに及ばず、弦のボリューム感、特にチェロの表現力とノリには驚嘆しました。それにしても西側で過剰に演出されて伝えられる感のある「ソヴィエト圧政下の芸術家の悲劇」、当の本人たちはほんとにギリギリの現実感の中で生活していたからそんなに感傷的な雰囲気も無く、寧ろ皮肉とともに豪快に笑い飛ばすみたいなところもあったみたいですな。繊細な人として扱われることの多いショスタコの機関銃のようなしゃべくりとかヘビースモーカーぶりとか、こう描かれると確かにそういう強烈な人だったんだろう、という感じもしますし、フレンニコフさん(健在だったのか)も苦労してたんだな、シェバーリンはあれだけ民族的な楽曲を作りながら芸術活動より追放されたのか(婦人健在でインタビュー)、とか、あの国家的雰囲気の中で際立ってやはりロストロ先生というのは強靭で男気あふれる人だったんだなー、と思いました。民衆に芸術を、という意味では一番体言できる人なんだから(首都高が渋滞してたらチェロ降ろして弾きだしたとかいうエピソードとか、ベルリンの壁が壊されているニュース映像の中で紛れも無く先生が壁の前でチェロを弾きまくっていて「嬉しくて楽器を弾いている人もいますね」とかなんとかアナウンサーにコメントされてたこととか、小澤氏と田舎の学校を回って演奏会をやっていたり、ショスタコーヴィチ・フェスティバルを「彼との約束だ」と殆ど自費開催的に東京でやってのけたり、もうスケールが大きいとかそういう問題じゃなく民衆のための芸術というものを率先して実践しているのだ)、この人を国外に追いやったのは失敗だったし、でも必然だったんだろう。第一回チャイコフスキーコンクールのアシュケナージ・オグドン対決の背景(もちろん映像付)も出てきます。ストラヴィンスキーが終演後語った「このホールで6歳のときチャイコの悲愴自作自演を見て感動し、楽屋に連れて行かれたらやさしく頭を撫でられた」という話を、その場で聞いた人の生々しいインタビューで見れたのも嬉しかったなあ。

あの膨大なアルヒーフは、折角死ぬ思いで残してきたものなのだから、なんとか日の目を見させるべきだ。コンドラシンやムラビンスキーといった有名な人こそ出てこないけど、この映像はまずその入り口として十分に機能して次への扉をひらくものとなってほしい。文句なしにおすすめです。
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