2010年度作品。日本映画。
冬の海炭市。造船所が縮小され大規模なリストラで颯太は職を失ってしまう。彼は妹と初日の出を見るために山に登る。幹線道路沿いの古い家に住んでいるトキは、立ち退きを拒んでいる。プラネタリウムで働く隆三は、ある日仕事から帰ると妻が姿を消していた。父親からガス店を継いだ晴夫は、新しく始めた事業がうまくいかず苛立ち、再婚した妻には不倫がばれてしまう。路面電車の運転士の達一郎は、仕事中、疎遠になっている息子の博を見かける…。(海炭市叙景 - goo 映画より)
監督は「アンテナ」の熊切和嘉。
出演は谷村美月、竹原ピストル ら。
本作は連作短編集とも言うべき作品である。そのエピソード内容はおおよそ以下の5つに分かれるだろう。
1つ目は、造船ドックを整理解雇となり生きがいを失った男とその妹の話。
2つ目は、区画整理対象地域に住むにもかかわらず、立ち退き要求を突っぱねる老女の話。
3つ目は、夜の店に勤める妻の浮気を疑い、一人息子とも折り合いが悪い、中年男性の話。
4つ目は、仕事と浮気で家庭を顧みず、そのため再婚相手が息子を虐待していることになかなか気づかないでいる男の話。
5つ目は、母の墓参りで帰省したものの、父との仲が悪いため実家に立ち寄ろうとしない男の話、である。
基本的に、どのエピソードも何かが壊れ、失われようとしている(失われてしまった)人たちの姿が描かれている。
その内、前半3つのエピソードの人物たちは、失われようとしているものに対し、それを失うまいと必死になってしがみつこうとしている。
彼らが職や家や家庭といった、失われゆくものにしがみつくのは、それを愛しているからであり、それがある世界の中でしか生きられないからだろう。
だが言葉を変えるならば、彼らは失われていこうとしている現実を見ようとしていない、とも言える。
そして中には、現実的な生き方を選ぶことができず、悲惨な選択をする人物だっている。
彼らの生き方は総じて言えば、不器用だ。
それゆえ、見ていてとても悲しく、痛ましい気分になってしまう。
それに対し、後半2つのエピソードは前半とは少しトーンがちがっている。
たとえば4つ目のエピソードは、主人公自身が何か(ここでは家庭だ)を壊す側に回っている。
彼は、息子を愛しているけれど、再婚相手である妻の方は大切にしておらず、平気で暴力をふるうこともある。妻のその怒りは彼の息子に向けられるという悪循環に陥っている。
自業自得ではあるが、彼の家庭生活はまったく破綻している。
また5つ目のエピソードだと、壊れてしまった状況(ここでは親子関係)から、距離を置いて、無関係を装うだけでしかない。
主人公は父と決して和解せずに、状況を改善しないまま故郷を後にしている。
その二人の生き方は前半の人物たちのように、壊れゆくものにしがみつこうとはしていない。
そういう点、見ようによっては賢い生き方なのかもしれない。
しかし彼らが現実から目を背けている点では変わりないのだ。
彼らは現実と真正面から向き合っていない。
そういう風に考えると、この映画に出てくる人物は、すべて弱い人間しか出てきていないのだ。
だがそれが当たり前なのだ、という気もしなくはないのである。
いやなことやつらいことがあれば、できればそれを直視したくない。そう心のどこかで考えてしまうのが人間なのだからだ。
人は結局のところ弱い生き物でしかない。
そんなシンプルなことを、本作は切々と淡々としたトーンで積み重ねているように思う。それが何とも味わい深い。
必ずしも好きなタイプの作品ではなかったし、少し長いけれど、人間の生き方を描く雰囲気はよく、文学的な味わいも悪くない。
見終わった後には、胸にしーんと沁みこんで来る何かがある。
「海炭市叙景」はそんな一品である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
出演者の関連作品感想
・谷村美月出演作
「サマーウォーズ」
「十三人の刺客」(2010)
「時をかける少女」(2006)
「魍魎の匣」
・加瀬亮出演作
「アウトレイジ」
「硫黄島からの手紙」
「ぐるりのこと。」
「叫」
「重力ピエロ」
「スカイ・クロラ」
「好きだ、」
「ストロベリーショートケイクス」
「それでもボクはやってない」
「パコと魔法の絵本」
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