ワンダリーと名乗る女が、サム・スペードの事務所を訪ねてきた。妹の駆け落ち相手サーズビーを尾行して、妹の居所をつきとめてほしいという。だが、依頼人の謎めいた美しさと法外の報酬につられてその仕事をかってでたスペードの相棒は何者かに撃たれ、その直後サーズビーも射殺された。サーズビー殺しの嫌疑をかけられたスペードに、ミス・ワンダリーは、わけも言わずただ助けてほしいと哀願するのだが…。黄金の鷹像をめぐる金と欲の争いに巻き込まれたスペードの非情な行動を描く、ハードボイルド探偵小説の始祖の不朽の名作、新訳決定版。
小鷹信光 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
エンタテイメントとして単純に楽しい一品である。
事務所にやって来た女の依頼を受けた相棒が殺され、事件の真相を探るうち、古代の鷹の彫刻をめぐる争いに巻き込まれていくというストーリーだ。
その過程でいくつかの謎が巧妙に提示されていく。加えて、なぞの事件や人物もバンバン登場する。
読んでいて、まったく飽きさせないつくりで、この先どうなるのだろう、と読んでいて何度もワクワクさせられた。
本作はミステリの古典ではあるけれど、いま読んでも充分楽しい作品だ。
主人公のサム・スペードは、裏表紙のあらすじの言葉を使うなら、非情な男である。
実際、目的のためなら手段を選ばないような側面はあると思う。
だがその非情さゆえに、駆け引きの場面で見せる貫禄にはすごみがある。
土壇場の場面では冷徹な判断を下し、相手よりも優位に立つため、平気でえぐい提案もする。
個人的にはガットマンとカイロを相手に、いけにえとして、仲間であるウィルマーを売れと迫るところにしびれてしまった。
相手に選択を迫る、スペードの行動ははっきり言って、なかなかあくどい。
だが、そのシーンが冷血である分、四人の間にはヒリヒリするような空気が流れている。
その雰囲気が一読忘れがたい。
ラストのブリジッドを警察につき出すシーンも、スペードの、理性的だが冷酷な側面が出ていたと思う。
そんなスペードの冷たいキャラクターが心に残り、読み終わった後、苦みというか、せつなさというのか、ふしぎな余韻を覚える。
ともあれ、充分におもしろい一品だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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