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何度も警察のお世話になっている風来坊フランク。そんな彼がふらりと飛び込んだ道路脇の安食堂は、ギリシャ人のオヤジと豊満な人妻が経営していた。ひょんなことから、そこで働くことになった彼は、人妻といい仲になる。やがて二人は結託して亭主を殺害する完全犯罪を計画。一度は失敗するものの、二度目には見事に成功するが…。映画化7回、邦訳6回のベストセラーが新訳で。
田口俊樹 訳
出版社:新潮社(新潮文庫)
展開の速さがともかく目を引く作品だった。
不倫関係にある男女が殺人に手を出すという話だが、夫のニックの目を盗んでフランクとコーラが関係を結ぶのもスピーディだし、ニックを殺害しようと計画する流れもスムースだ。
その後も、物語はサクサクと進んで行くのが良い。
しかも読み味も、不倫劇があり、殺害計画があり、法廷劇があり、男女の感情的なもつれあいがあり、で非常にバリエーションに富んでいる。
200ページ程度の短い作品だが、よくもこれだけのエピソードを盛り込んだものだと感心させられるばかりだった。
そんな物語を牽引する上で、キャラクターが立っていることも明らかだ。
根なし草のように、常にふらふらしていたいフランク、今いる場所から逃れたいと思っていながら、実のところ堅実な生き方を欲しているコーラ。
それぞれ現実にいそうな感じが出ていて、生々しさがある。
人として、彼ら二人は誉められたものじゃないのだけど、訳者も指摘しているように憎めないところが心に残る。
そうして二人に訪れるのは、予想通りの破局だ。
しかも、コーラはひょっとしたら、フランクが自分を殺したかもしれないと思いながら死んでいったのだ。
それを考えると、少しせつない気分になってしまう。
こんな凡庸な三面記事のような作品なのに、そこからせつなさを感じるとは思いもしなかった。これは本当に見事なことだ。
ともあれ設定はありきたりながら、心を持ってかれる作品である。
さすがは長きにわたり読まれているだけはある一冊だろう。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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