私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

2014-12-05 20:44:04 | 小説(海外ミステリ等)

華氏451度──この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく……本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
伊藤典夫 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)




暗喩に満ち満ちたディストピア小説である。

文章は詩的と言えば聞こえは良いが、修飾語の多い文章が目立ち、ちょっともったりしていて読みづらい。
だから作品世界に入りこむまで少し時間がかかる。

しかし気がつけば、小説世界に没入していた。
それもこれも、その文章が、小説世界の暗さに拍車をかけているからだろう。
それこそブラッドベリの上手さかもしれない。



舞台は近未来で、本を読むことが禁じられている世界である。
この世界では知識を得て、自分で考えることが否定されており、政府から与えられる広告などを大量に受け取って、暗いことを考えない人間ばかりが育つように管理されている。

極端な設定だが、読んでいると、その設定のおぞましさが如実に立ちあがってくるのだ。

自分が前に何をやっていたのか、思い出せず、夫婦であっても、会話をするわけでもなく、理解し合うわけでもない。
そんな状況に陥ってしまう。

それもこれも、管理され尽くした画一化の世界であることが大きいのだろう。
平等と言えば聞こえはいいが、そこにあるのは個性の否定でしかない。


そんな中で本を燃やす昇火士のモンターグは画一化される世界に違和感を持ち、自分の頭で考えるためのツールである本に興味を持つようになる。
そこからの流れがストーリー的にスリリングであった。

特にベイティーがモンターグを追いつめていく過程がおもしろい。

ベイティー自身、積極的に焚書行為を行なっているにも関わらず、怖ろしいほど本に詳しい。
その分裂した態度が個人的には大きなインパクトを持った。

ベイティーはたぶん本当のところ、本が好きなのだろう。
だけどこの世界で生きていくために、ベイティーは徹底的に本を否定する。
そんなベイティーの姿に、少しせつない気分にさせられた。



ともあれ、独特の余韻を感じる一冊である。
物語としてもおもしろく、小説世界もすばらしい。楽しい読書の時間を堪能した次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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