私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』

2013-06-16 18:34:06 | 小説(海外ミステリ等)

残忍な手口で四人の女性を殺害したとして死刑判決を受けたダリアン・クレイから、しがない小説家のハリーに手紙が届く。死刑執行を目前にしたダリアンが事件の全貌を語る本の執筆を依頼してきたのだ。世間を震撼させた殺人鬼の告白本! ベストセラー間違いなし! だが刑務所に面会に赴いたハリーは思いもかけぬ条件を突きつけられ……アメリカで絶賛され日本でも年間ベストテンの第一位を独占した新時代のサスペンス!
青木千鶴 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)




なかなか楽しいエンタテイメントである。

二流小説家を、主人公兼語り手にしているためか、純粋におもしろさを追求しているのが伝わってくる。
随所に盛り上がるポイントはあるし、エロもあれば、スプラッタもあり、ラブロマンスもあれば、サスペンスもある。さらに小説内小説にはSFやヴァンパイアものまで登場する。
いろいろな要素を一冊で楽しめる。そういう点、贅沢な作品なのだろう。
それゆえの冗長さはあるけれど、物語自体は楽しんで読むことができた。


ジャンルとしてのくくりは、一応ミステリということになる。
そしてそのミステリの部分も、単純におもしろかった。
ベタだな、と思うポイントもあるけれど(特に共犯者)、危機が迫りくる場面なんかは、ハラハラしながら読めるし、先の展開が気になり、ワクワクさせられた。


またこの小説は、キャラ小説としても魅力的なのである。
それは主人公の二流小説家、ハリーの生活の描写に依るところが大きい。

ハリーは生活のために、ポルノやSF、ヴァンパイアものなどのジャンル小説を、粗製濫造している。
売れないために、あらゆるジャンルを手掛けているし、生活に困って女子高校生の家庭教師をしなければいけないときもある。
見るからにしがない生活だ。
加えて女にもふられて、少し引きずっているように見えなくもない。

だがそんな冴えない作家でも、少数ながらファンがいて、彼の作品を愛していてくれる。
それを感じさせる場面が、どこか微笑ましくあった。

それにビジネスパートナーのクレアとのやり取りなんかも、読んでいるとおもしろい。
子供に使われるいい大人の姿がどこか滑稽でおかしくもある。
彼なりの創作理論も興味深い。


エンタテイメントゆえに後に残るものは少ない。
しかし読んでいる間は、楽しい時間を過ごすことができる。
『二流小説家』はそういう作品であるようだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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