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平和を考える

2011年08月06日 | スクラップ



平和を考える 原爆症認定訴訟=牧野宏美
 

 

■福島で「過小評価」繰り返すな


 原爆症の認定申請を却下された全国の被爆者が、処分取り消しを求めた原爆症認定集団訴訟のうち、最後の訴訟が7月、大阪地裁で結審した。これまでの判決は、原爆放射線が人体に及ぼす影響を国が過小評価してきた可能性を指摘し、原告側の訴えを認めている。判決を受けて国は、原爆症の認定基準を見直したものの、放射線の影響に関する考え方は一切変えていない。原爆投下から66年を経た今も原爆症認定を巡る問題が尾を引いているのは、こうした国のかたくなな姿勢のためだ。福島第1原発事故による放射線被害では、同じ失政が繰り返されてはならない。

 

 

■原発事故の被害者思い  


 「裁判所の公正な判決の力が、原爆被爆者に対する国の冷たい姿勢を改めさせるのみならず、今回の原発事故の被害者の方々に対しても国が正しく真剣に向き合っていくことにもつながると願っています」。7月8日、大阪地裁の法廷で、原告の女性(69)は震える声で訴えた。女性は3歳の時に広島で被爆。物心ついた頃から体が弱く、何度も病院に運ばれた。だるさで朝起き上がれないでいると「横着病」と周囲から非難された。04年に右目が見えなくなり、「右網膜動脈閉塞(へいそく)症」と診断された。原爆症認定を申請したが、却下された。


 私が胸を打たれたのは、女性が貴重な意見陳述の時間のほぼ半分を原発事故に割いたことだ。女性は福島の子どもが避難先で差別を受けたというニュースを聞いて胸が詰まったという。差別を恐れ、被爆した事実を隠してきた自分の人生と重なったからだ。


 高齢の原告の多くは「次の世代に同じ苦しみを体験させたくない」という思いで訴訟に臨んできた。それが今、原発事故後の対応で「ただちに健康に影響はない」と繰り返す国の態度に、「原発事故の被害者たちも、将来健康被害が出た時、自分たちと同じように切り捨てられてしまうのではないか」と感じている。


 被爆者援護法では、病気が放射線に起因し、現在も医療を要する状態であれば原爆症と認定され、医療特別手当などが支給される。だが、病気と被爆との因果関係などで国の基準は厳しく、認定数は被爆者健康手帳所持者の1%にも満たなかった。このため、国の審査は被爆の実態を見ていないとして、03年から全国17地裁で被爆者が集団提訴、原告側勝訴が相次いでいる。


 08年の大阪高裁判決は「(国が審査に用いる放射線量推定方式で)残留放射線は過小評価の疑いがあり、放射性降下物による被ばくや内部被ばくの可能性も考慮されなければならない」と判断。今年7月の東京地裁判決は、被害実態を把握する上での資料不足や調査の問題点を指摘し、「解明が進めば従前疑問とされてきたものが裏付けられる可能性もあり、(放射線の影響が)小さいと断ずべき根拠は見当たらない」と述べた。

 

 

■未解明なものは影響ないことに


 こうした司法判断が続いているにもかかわらず、国は「残留放射線や内部被ばくの影響は無視できる」という主張を変えようとしない。「未解明なものは影響がなかったことにする」という態度だ。


 なぜ、国は硬直的な姿勢を取り続けるのだろうか。


 訴訟で内部被ばくの危険性を指摘した琉球大学の矢ケ崎克馬名誉教授(物理学)は「原爆被害が過小評価されてきた背景には、『核兵器は破壊力はあるが、放射線で長期にわたり苦しめるものではない』としたい米の核戦略があった」と指摘する。


 原爆放射線の人体への影響は、1947年に設置された米国原爆傷害調査委員会(ABCC)が調査を始め、75年からは日米両政府で管理運営する放射線影響研究所が引き継いだ。その研究成果は、国際放射線防護委員会(ICRP)が放射線防護基準を定めるうえでも重視され、同委員会の勧告を受ける形で日本政府が定める放射線の被ばく上限値にも反映されている。


 しかし、この勧告については「内部被ばくを過小評価している」などの指摘があり、今回の原発事故による健康への影響も専門家間で意見が分かれる。それだけに、原発事故の周辺住民らは将来の健康や生活に不安を強めている。


 自身も長崎で被爆し、半世紀にわたって大阪で被爆者の診察を続けてきた医師の小林栄一さん(85)は「放射線の影響を低く見積もろうとし続けた国の姿勢により、救われるべき多くの人が切り捨てられてきた」と話す。福島の原発事故では、原爆被害のような「過小評価」が繰り返されてはならない。

 

 

毎日新聞 2011年8月3日 0時13分

 

 

 

 


平和を考える・戦争体験取材に思う=曽田拓




 今年も「平和」を意識する季節がやってきた。あの戦争にまつわる重い証言に触れると、私は記者としての「限界」のようなものを感じることがある。戦争の中を生きた兵士や家族の心情を理解しようにも、同時代を過ごした者にしか共有できない時間の壁のようなものがある気がするのだ。私にとって、夏は「記者」の仕事、書く責任を自問自答する季節でもある。


 3年前、フィリピンにあった戦犯収容所を舞台にした連載「モンテンルパのうた 兵士が遺(のこ)す言葉」の取材班に加わり、収容されていた元死刑囚の「獄中日記」が見つかったという話題を書いた。

 

 

■元戦犯の遺書に にじむ死の覚悟


 その娘の渥美礼子さん(69)から「父が戦犯だった時の遺書も見つかりました」と連絡を受け、7月半ば、長崎市の渥美さんの元を訪ねた。


 父の鳩貝吉昌さんは渥美さんの生まれる直前に出征。終戦後、住民虐殺容疑で死刑判決を受け、モンテンルパで獄中生活を送ったが、大統領恩赦で1953年に他の戦犯107人と共に帰国を果たした。06年に95歳で亡くなった後、遺書は他の書類に紛れており、一つ一つ整理する中で見つかった。遺書は妻や親戚、渥美さんら娘2人にあてた計3通で、日付は51年1月22日。同19~20日には14人の戦犯が絞首刑となったばかりで、死の覚悟が文面ににじむ。


 「お父さんは可愛い二人を残して神様のところに参ります。(中略)礼子ちゃんはお父さんを知らないでせう。只一度でよい逢(あ)ひたかった」「十五夜なんでせうか大きな月が出て居ますそして二人の姿がうつって居るようでした」


 死刑囚が作詞作曲した「あゝモンテンルパの夜は更けて」のヒットで、戦犯の釈放を訴える活動が活発化。帰国時には多くの市民が出迎え、渥美さんも「まだ見ぬ父を待つ娘」と新聞記事に取り上げられた。一方、元戦犯たちのその後はほとんど注目されず、多くの人の記憶には「ハッピーエンド」として残った。だが、少なくとも鳩貝家では、終戦から帰国まで、さらに8年続いた「空白の時間」で生まれた隔たりは、完全には縮まらなかったという。


 「本当は『父が帰ってくると言われても』という気持ちだった。会ったこともないわけだから」と、渥美さんは当時の率直な気持ちを打ち明ける。父は帰国後、知人に誘われて起こした会社が倒産するなど苦労した。それでも、天ぷらやステーキを食べに娘たちを銀座へ連れて行ったり、家族との失った時間を取り戻そうとしていた。だが、渥美さんは「知らないおじさんと歩くのが嫌」で父の横を歩けなかった。


 渥美さんが家を出て働き始めてから10年後、「帰ってこないか」と言われ、しばらく両親と渥美さんの3人だけで過ごした。毎日、3人で晩酌をしたが、当たり障りのない世間話がほとんど。幼いころの栄養失調が原因で片足が不自由になった渥美さんの話題になると、獄中で何もできなかった父と、日本で苦労した母の言い分がすれ違い、けんかになった。ある時、半生を記したノートを父から渡されたが、渥美さんは「いつか読むよ」と言ったままだった。


 「父は何とか、一緒にいられなかった時間を埋めたかったのでしょう。この年になってようやく父の気持ちを受け止められた気がします」。渥美さんは今年5月、初めてモンテンルパを訪れた。


 その話を一気に聞き、私はまた、あの思いが胸に浮かんだ。「時間の壁」は越えられないのか。3年前、私が「獄中日記」を記事にした時、当事者の複雑な思いをどれだけ書けたのだろう。

 

 

■被災者の胸中 伝える難しさ 


 同様に乗り越えられないものを感じたのは、東日本大震災の被災地での取材だった。今回は、時間ではなく空間の壁。ほぼ名残をとどめず津波で流された場所に立つと、かつて街があったとイメージすることもできなかった。宮城県名取市で家族を失った男性は、がれきが片付けられていく様子ですら、「思い出が消えるようで切ない」と語った。頭で分かっても、心で実感するには重く、そうした喪失感をきちんと伝えられるか不安がつきまとった。


 未曽有の災害の余波が続くこの夏。私は岩手県での取材班の一員として8月を迎えた。結局、私には、戦争体験でも震災でも、話を聞かせてもらい、できるだけ丁寧に伝える努力を続けることしかできない。「寄り添う」というほど立派なことでなくても。


 「聞きに来てもらえたから、話せることもあるし、話すことで分かる自分の気持ちもある」。渥美さんの言葉が、自分のよりどころの一つになっている。(東京社会部)

 

 


毎日新聞 2011年8月5日 0時23分

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