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「不当な支配」判決 教委の存在意義が問われた

2009年03月19日 | スクラップ




 教育委員会はどこを向き、何のために存在しているのか。性教育をめぐり、都議らの一方的な教員非難を教育への「不当な支配」とし、損害賠償を認めた東京地裁の判決は、こう問いかけているようだ。

 判決によると、03年、都立七生(ななお)養護学校(現特別支援学校)で、教員たちが実践している性教育の内容が不適切だとして都議3人が学校を訪ね、「感覚がマヒしている」などと教員の資質を否定するような批判をした。これは当時の教育基本法にいう「不当な支配」で、同行した都教委職員には教員を保護する義務があった。だが職員は都議を制止したり教員を退室させたりすることもなく、非難されるに任せた--というのである。

 この性教育は、体の部位に性器の名称などを盛り込んだ歌を作ったり、人形で説明するなど子供たちに具体的なイメージや理解を持たせようとした。

 性教育は歴史が比較的浅く、授業手法は試行錯誤の上に工夫されてきた。知的障害を持つ子供たちが学ぶこの学校では、子供たちが性犯罪の被害者にも加害者にもならないためにもわかりやすい授業を目指し、教員らが教材、指導法を模索してきたという。

 必要なのは学校や教員たちの体験や情報を共有し、各現場で実践を重ねることだ。そして性教育に限らず、現場に一方的な横やりを入れさせず、教員の研修機会を充実させるなど、教委が果たすべき役割は多い。

 もちろん授業を見たり批判したりしてはならないというのではない。より適した改善や向上を目指す自由で建設的な批判や討議、意見交換は活発に行われるべきだ。しかし、判決が指摘したように、都議の言動は教員を萎縮(いしゅく)させる高圧的な非難といわざるを得ない。そして傍観的態度をとった都教委の責任の重大さを考えなければならない。

 全国で教育委員会制度に疑問符が付くような問題や事件が相次いだ。いじめ自殺への対応、高校の未履修問題、教員採用汚職などだ。また全国学力テスト結果公表問題では自治体や地域によって対応が分かれる。

 こうした状況で、教委を必ずしも置く必要はなく、首長が直接教育行政を掌握、遂行してもよいのではないかという意見もある。実際、議会の承認を得て首長が任命する教育委員が地元教育界功労者の「名誉職」と化し、事務局任せになっている所も少なくないといわれる。

 行政委員会である教委が首長と距離を保った存在とされるのは、首長の交代や急激な方針変更など外から左右されることなく、公教育に安定性や一貫性を担保するためだ。逆にいえば、教委は地域の学校教育に第一義的に責任を持ち、改善、充実に不断の関心と努力を払わなければならない。

 判決は改めてその原点を指し示したといえる。



 

毎日新聞 2009年3月18日 東京朝刊







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七生養護:都議らの介入は不当 独自の性教育巡り賠償命令

判決を受け会見する(手前右から)児玉勇二弁護士と原告の日暮かをる教諭ら原告団=東京・霞が関の司法記者クラブで2009年3月12日午後4時53分、内藤絵美撮影
判決を受け会見する(手前右から)児玉勇二弁護士と原告の日暮かをる教諭ら原告団=東京・霞が関の司法記者クラブで2009年3月12日午後4時53分、内藤絵美撮影



 障害がある児童・生徒向けの性教育を巡って厳重注意を受けた東京都立七生(ななお)養護学校(日野市、現七生特別支援学校)の元教員ら31人が、教育への不当な介入だとして、都や都議3人らに約3000万円の損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁(矢尾渉裁判長)は12日、210万円の支払いを命じた。

 判決によると、同校は性器の名称など体の部位を歌詞にした「からだうた」を歌うなど独自の性教育を実践していた。都議らは03年7月に学校を視察し「感覚がまひしている」と批判、都教委は「不適切な性教育」として教員を厳重注意した。

 矢尾裁判長は「都議らの行為は政治的な信条に基づき、学校の性教育に介入・干渉するもので、教育の自主性をゆがめる危険がある」と指摘。さらに「教育内容の適否を短期間で判定するのは容易ではなく、いったん制裁的な取り扱いがされれば教員を萎縮(いしゅく)させて性教育の発展が阻害されかねない」と述べ、都教委が事前の指導や研修などをしないまま教員を厳重注意したのは裁量権の乱用に当たると判断した。

 訴えられた都議は田代博嗣、古賀俊昭、土屋敬之の3氏。「過激性教育」と報じた産経新聞社に対する請求は棄却された。【銭場裕司】




 3都議の話
 私たちの調査は違法性がないと確信している。視察で都の過激性教育が改善された意義は大きい。

 大原正行・都教育長の話
 主張が認められず大変遺憾。内容を確認して対応を検討したい。

 


■試行錯誤の教材非難は現場無視

 「教育が壊れていくと感じていたので、今日の判決はとてもうれしい」。原告団長の日暮かをる教諭(60)らは判決後、東京都内で会見し判決を評価。「血のにじむような試行錯誤で教育を発展させてきたのに突然『異常な教育』と言われた」と振り返り、都の対応を改めるよう訴えた。

 学校を挙げて性教育に取り組んだのは、児童・生徒の性的な問題行動が発覚した97年から。性器がついた人形を使った授業が非難されたが、「障害がある子供は具体的にイメージできる教材でなければ理解できない。現場をあまりに無視している」と訴えてきた。

 判決は都議らの教育への不当な介入を認定したものの、教材は没収されたままで、従来の教育はできなくなっているという。【銭場裕司】


 

毎日新聞 2009年3月13日 0時16分(最終更新 3月13日 2時44分)


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