詩人PIKKIのひとこと日記&詩

すっかりブログを放任中だった。
詩と辛らつ日記を・・

山口正紀のコラム : 公安警察の悪質なプライバシー侵害に損害賠償命令

2022年02月28日 | 四要素論
 
公安警察の悪質なプライバシー侵害に損害賠償命令――岐阜県警が住民運動を敵視・監視し、電力会社に個人情報提供

 公安警察が秘かに行っている〈市民監視〉の一端が2014年、岐阜県大垣市で明るみに出た。風力発電施設の建設に反対する住民を監視し、収集した個人情報を電力会社の子会社に提供していたのだ。この監視・個人情報提供で人権を侵害された人たちが、岐阜県(県警)に損害賠償を求めた国家賠償請求訴訟の判決が2月21日、岐阜地裁で言い渡された。判決は、情報収集に関しては「違法とまでは言えない」としたが、情報提供は「悪質」と違法性を認め、計220万円の賠償支払いを命じた。警察が収集した情報を第三者に提供した行為が裁判で違法と認定されたのは初めてだ。住民運動を敵視し、税金を使って集めた情報を民間事業者に提供して運動を妨害する――そんなことが「不偏不党かつ公平中正を旨とする」(警察法2条)はずの警察活動に許されるはずがない。関西生コンや韓国サンケン労組支援運動に対する大弾圧など、労働運動にも公然と介入を強める公安警察。だが、それに警鐘を鳴らした判決に対するメディアの反応は鈍い。闇に包まれた公安の反人権的活動を暴き出し、その実態を市民に「情報提供」するのがメディアの使命なのだが……。
(写真=「もの言う」自由を守る会HPより)

●『朝日新聞』が公安警察の「監視・情報提供」をスクープ

 岐阜県警大垣署によるこの市民監視事件が明るみに出たのは2014年7月24日。同日付『朝日新聞』(名古屋本社版)が1面トップ《岐阜県警が個人情報漏洩/風力発電/反対派らの学歴・病歴》との見出しで、次のように報じた。

《岐阜県大垣市での風力発施設建設をめぐり、同県警大垣署が事業者の中部電力子会社「シーテック」(名古屋市)に、反対住民の過去の活動や関係のない市民運動家、法律事務所の実名を挙げ、連携を警戒するよう助言したうえ、学歴または病歴、年齢など計6人の個人情報を洩らしていた。朝日新聞が入手した内部文書でわかった》

 社会面では、《企業肩入れ 警察に憤り》の見出しで、公安警察に監視されていた人たちの怒りの声を伝えた。権力チェック報道の手本にしたい見事なスクープだった。

 当時、シーテック社(以下、シ社)は大垣市と関ヶ原町の山麓尾根伝いに風力発電施設16基の建設を計画し、環境影響評価の手続きを進めていた。この計画に対し、地元の上鍛治屋地区の住民の間から低周波による健康被害や土砂崩れ、生態系の破壊などを心配する声が出て、風力発電に関する勉強会などが開かれ、建設反対の声が高まっていた。

 大垣署警備課は、この住民たちの動きを察知して監視を始めた。そのうえで13年8月から14年6月にかけて計4回、シ社幹部を呼び出し、大垣署内で情報を交換していた。その動かぬ証拠があった。シ社の担当者が残していた警察との協議の議事録だ。

 

●公安警察と電力会社が住民運動つぶしのための「情報交換」

 『朝日』報道で自分たちの活動が公安警察に監視されていたことを知った上鍛治屋地区自治会長・三輪唯夫さんや僧侶・松島勢至さんらは、裁判所にシ社の議事録の証拠保全を申し立て、問題の議事録を入手した。そこには大垣署警備課の幹部とシ社の担当者の間で行なわれた次のようなやりとり(一部要約)が記録されていた。

【警察】勉強会の主催者である三輪氏や松島氏らが風力発電に拘らず、自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることを御存じか。
【シ社】地元の有力者からあいつらは何でも反対する共産党と呼ばれていると聞いている。
【警察】三輪氏らは活発に自然破壊反対運動などに参画し、「ぎふコラボ法律事務所」ともつながりを持っている。大垣市内には自然破壊につながることは敏感に反対する近藤ゆり子氏という人物がいるが、御存じか。60歳を過ぎているが、東京大学を中退しており、頭もいいし、しゃべりも上手であるから、このような人物とつながるとやっかいになる。このような人物と「ぎふコラボ」の連携により、大々的な市民運動へと展開すると御社の事業も進まないことになりかねない。大垣警察署としても回避したい行為であり、今後情報をやり取りし、平穏な大垣市を維持したいので協力をお願いする。
【シ社】当社としても今後、地元交渉を精力的に開始する予定であることから、いろいろな情報交換をお願いしたい。

――以上は13年8月に行なわれた1回目の会合議事録の一部だが、同じような「情報交換」は14年3月、5月、6月と『朝日』が7月に報道するまで定期的に続けられた。

▼2回目・シ社「交渉可能地区や役場等から話を進め、周囲を固めることにより上鍛治屋地区を孤立化させる。周りの地区から、なぜ賛成できないかの声が上がるよう仕向ける」
▼3回目・警察「今後、過激なメンバーが岐阜に応援に入ることが考えられる。身に危険を感じた場合は、直ぐに110番してください」
▼4回目・警察「近藤氏が風車事業反対に乗り出しているのではないか。反原発・自然破壊禁止のメンバーを全国から呼び寄せることを懸念している」

 議事録の詳細なやりとりをみると、会議の実態は「情報交換」どころか、警察と電力会社による「住民運動を抑え込むための密談会」だった。

 この問題は15年6月、参院内閣委員会で取り上げられた。警察庁の高橋清孝警備局長(当時)は、大垣署による市民監視を「公共の安全と秩序の維持という責務を果たすうえで、通常行っている警察業務の一環として事業者の担当者と会っていたもの」と答弁、公安警察の住民運動・市民監視を、「通常の業務」と開き直った。つまり、公安警察が全国どこでもこんな市民監視活動をやっていることを国会で公然と認めたのだ。

 

●「もの言う自由」を取り戻すために損害賠償提訴

 三輪さんらはまず「大垣署の行為は地方公務員法の守秘義務違反」として岐阜地検に告発した。しかし、岐阜地検は15年12月、不起訴処分を決定した。

 このため「議事録」で名指しされた4人は裁判で闘うことを決意。支援者とともに16年4月、「大垣警察市民監視違憲訴訟の勝利をめざす『もの言う』自由を守る会」を結成し、同年12月、岐阜県(県警)を相手取って計440万円の国家賠償請求訴訟を起こした。

 17年3月8日、岐阜地裁で開かれた第1回口頭弁論には100人を超す支援者が集まり、私も裁判を傍聴・取材した。冒頭、三輪さんは原告を代表し、次のように意見陳述した。

《法は、警察に私の個人情報を無断で収集して管理し、第三者に教える権限を与えておりません。私も許可していません。私の風力発電反対の声は、私の生活を守るための悲鳴です。それがなぜ、監視対象者にされて、企業に情報が流されるのか。警察の情報収集のための監視は、言論の自由を萎縮させる効果が生まれます。そして、権力者が情報をコントロールし、国民には「自由にものを言わせない」社会になりかねません。今回の裁判は、「もの言う自由」を取り戻すための裁判であると宣言し、私の意見陳述とします》

 また、山田秀樹弁護団長は「大垣署による監視・情報提供は公権力の行使、市民運動に対する意図的な抑圧であり、警察法第2条『不偏不党かつ公平中正』の責務に反し、守秘義務にも違反する。これは原告らの私生活秘匿権、政治的信条に関するプライバシーを侵害し、表現の自由に対する不当な干渉であり、憲法13条、21条に違反する」と述べた。

 原告も弁護団も、この裁判を当時全国で取り組まれていた共謀罪を阻止する闘いの一環と位置付けた。弁論後に開かれた報告集会で、山田弁護団長は「共謀罪が作られたら市民監視、運動つぶしが強まる。それを先取りしたのがこの事件。風力発電の勉強会が治安を乱す行為にされ、組織的犯罪集団にされる」と述べた。「ぎふコラボ」事務局長をしていた原告の船田伸子さんは、「警察に監視されていたことがわかってから、何をするにも人の目を気にするようになった。ひょっとしたら今ここにも警察が、と思ってしまう。そういう自分が嫌です。そのうえ共謀罪が出来たら、もっと生きづらくなってしまう」と訴えた。

 

●事実の認否も警察官の証人調べも拒否した県警

 第1回弁論から約5年。裁判はコロナ禍による期日延期や傍聴者の人数制限などいくつもの制約を受けながら続き、毎回数多くの市民が傍聴に駆けつけた。その経過・審理の概要は「『もの言う』自由を守る会」のHPに詳しく記録されている。

 原告は18年1月、「警察庁及び岐阜県警の保有する原告4名の個人情報を抹消せよ」と、人格権に基づく個人情報抹消請求を追加提訴した。議事録に残されたような原告4人に関する個人情報は、県警や警察庁にも報告され、記録として保有されているはずだからだ。

 5年を超す審理で、原告側は争点のプライバシー権について概略次のように主張した。

①公権力が個人情報をみだりに収集、保有、利用(第三者への提供を含む)することにより、個人の私生活における平穏が侵害され、個人が自由に自らの生き方を決定するという人格的自律が脅かされることになる。憲法13条は、個人の人格的利益を保護するための権利を保障しているから、自己に関する情報をみだりに収集、保有、利用されない自由は、憲法13条が保障する人格権としてのプライバシーとして法的保護に値する。

②大垣警察はシ社を情報収集活動の協力者に仕立てるため、シ社に原告らの情報を提供した。こうした行為は、思想、良心の自由(憲法19条)や表現の自由(憲法21条)が保障されているにもかかわらず、個人が思想良心を変えたり、表現を差し控えたりするなどの事態を招来する恐れがあり、本件情報提供は強い非難に値する。

 要するに、大垣署による原告らに対する監視・情報提供は、憲法13条、19条、21条などが保障する基本的人権を著しく侵害する違憲行為だ、というのが原告の基本的主張だ。

 警察の日常的な監視、情報提供によってプライバシーを侵害された原告の切実な訴えに対し、被告・岐阜県警は、原告たちをあざ笑うかのような不誠実な対応に終始した。

 民事訴訟では普通、原告の訴えに対して被告が事実の「認否」を明らかにし、そのうえで反論・主張を展開する。ところが、この裁判で被告は、原告が指摘した情報収集活動について、「その実態を明らかにした場合、今後の情報収集活動に困難が生じ、公共の安全と秩序の維持に重大な影響が生じる恐れがある」として、「議事録記載の内容、原告らの個人情報の収集、保有及び提供行為の実態については認否しない」との態度をとった。

 そうして情報収集に関する具体的な指摘には言及を避けつつ、一方で「本件情報収集等は原告らのプライバシーを侵害するものではない」として請求を退けるよう求めた。

 裁判の証拠調べで重要な意味を持つ証人調べについても、被告は関与した警察官の出廷を拒否した。進行協議で、21年5月に岐阜県警警備一課長、大垣署警備課長ら、住民運動監視に関与した公安警察幹部3人の証人調べ実施がほぼ決まっていたにも関わらず、県警側は土壇場で証人尋問に強硬に抵抗し、裁判所は不採用を認めてしまった。

 結局、この裁判で被告は事実の認否を拒み、公安警察幹部の出廷も拒否し、具体的な立証・反証はせず、ひたすら「情報収集活動は適法」と唱えるばかりだった。

 

●「公安の犯罪」を断罪した原告側の最終陳述

 裁判は21年10月25日に開かれた弁論で結審した。この日、原告代理人の岡本弘明弁護士は、最終準備書面で次のように陳述した。

《違法な情報収集行為等が白日の下にさらされても、被告らは、本件について認否もしないし、証人尋問にも応じない。ひいては、国会において、警察庁警備局長が、「通常行っている警察業務の一環」とまで答弁した。今日に至っても原告らに対して一言の謝罪もない。法と裁判所を軽視し、自らの行為を顧みることもなく、通常業務とまで言い放つ公安警察に対し、立憲主義の何たるかを知らしめるのは司法権の使命である。本件の本質が公安警察の情報収集行為にあることを正しく理解し、情報提供行為にとどめず、情報収集行為とその保有行為にまで、鋭く司法の鉄槌を振り下ろすことを期待する》

 また、原告の僧侶・松島勢至さんは最終意見陳述で次のように訴えた。

《当初から私の中にある疑問点を挙げます。まず第一に、なぜ一市民である私の行動が監視されなければならなかったのか? 第二に、警察といえども勝手に個人の情報を収集し、保有してもいいのか。第三に、たとえ私の情報を知り得たとしても、営利を目的にしている一企業に情報を提供してもいいのか。第四に、警察は平穏な大垣市を維持したいと言うが、私たちの行動が平穏を乱す行為なのか。(中略)警察とシーテック社の情報交換をした議事録を読むと、私の生き方を否定し、私の行動があたかも大垣市の平穏を乱すようなものだと言っていることには怒りを覚え、腹が立ちます。(中略)私は真宗大谷派の僧侶です。念仏をよりどころにして、佛の教えに沿って生きようとするものです。阿弥陀仏は、我々に「地獄・餓鬼・畜生」の無い世界を生きて欲しいと願いをかけています。それは、戦争、そして貧困と格差、さらに誰からも管理されず、権力者の言いなりになることのない生き方をして欲しいという願いです。それは人間の根本の願いであり、生きとし生けるものの「いのち」が損なわれてはならないということです。今回の事件は「いのち」が損なわれたものと受け止めています。今この時に、ここに生きていることを否定されたのです。人を監視し情報を収集するということはそういうことです。被告・警察はそのことをしっかりと受けとめて欲しいと思います》

 

●公安警察の「情報提供」を違法とした初めての判決

 こうして迎えた2月21日の判決。岐阜地裁(鳥居俊一裁判長)は、大垣署の公安警察官がシ社に原告らの個人情報を提供した行為について、「要保護性の高い原告らのプライバシー情報を積極的かつ意図的、継続的に提供した態様は悪質と言わざるを得ない」としてプライバシー侵害を認め、原告1人について55万円、計220万円の損害賠償支払いを命じた。

 判決はまず、被告が認否しなかったシ社の議事録について、その存在と信用性を認め、「提供された情報は原告らの私的または思想信条にかかる活動に関するものといえ、原告ら個人に関するプライバシー情報と認められる」とした。そのうえで、「公共の安全と秩序の維持のために必要な活動」とする被告の主張を退け、「大垣警察はシ社に対し、原告らの情報を提供する必要性があったとは認め難い状況であったにもかかわらず、原告らのプライバシーを積極的、意図的に提供したものであり、原告らのプライバシー情報をみだりに第三者に提供されない自由を侵害したもの」と原告の訴えを認めた。

 しかし、情報収集活動自体については、「本件情報収集の必要性はそれほど高いものではなかった」としながら、「仮に原告らの活動が市民運動に発展した場合、抽象的には公共の安全と秩序の維持を害するような事態に発展する危険性はないとは言えない」として情報収集の必要性を認め、「国家賠償法上、違法とまでは言えない」と結論した。

 また、原告が追加提訴した個人情報の抹消請求については、「原告は保有した一切の情報の抹消を求めているが、警察庁及び岐阜県警等が収集し、保有している原告らの情報が特定されていない以上、特定性を欠く請求は不適法」として却下した。原告が情報を特定できなかったのは、被告が認否も拒否したためだが、判決はそれを不問にした。

 これについて弁護団は判決直後に発表した声明で、「公安警察が特定の個人に着目して情報を収集し保有し続ける行為は、国民監視という他なく、国民の政府に対する市民活動や表現活動を萎縮させるもの」であり、「判決はこの観点からの判断が不十分」と指摘した。

 「『もの言う』自由を守る会」のHPに掲載された判決報告集会の記録、映像によると、判決言い渡しには約100人の支援者が集まった。言い渡し直後、法廷を飛び出してきた弁護士・原告は「勝訴」「公安警察の情報提供を断罪」と書かれた旗を高く掲げ、待ち受ける支援者たちの大きな拍手で迎えられた。

 判決報告集会では、情報提供の違法性を認め、この種の裁判では高額な220万円の賠償支払いを命じた判決を弁護団、原告ともに高く評価した。訴えが認められなかった部分については、「引き続き認められるよう取り組んでいく」との決意が表明された。

 私は(健康上の理由から)、判決言い渡しを直接取材できなかったが、後日、メールで原告の1人である近藤さんから、判決について次のような感想をいただいた。

《まだ、ざっとしか読めていませんが、判決書では、事実認定の大部分、公安警察のシーテックへの情報提供行為に関する9割方は、原告側の主張を認めているように思います。「この事件における岐阜県警大垣署の個人情報提供の態様」について、「違法だ」というのみならず「悪質だ」とまで言及しています。大垣署の公安が提供した個人情報は、プライバシー情報の中でも要保護性が高い、思想信条に関わるもの(市民運動に関連する情報は思想信条と関連する情報)。だから「原告らのプライバシー情報をみだりに第三者に提供されない自由を侵害したもの」であり、「必要性がないのに、積極的かつ意図的に、かつ複数回にわたり継続的に、シーテック社に提供したものであり、かかる情報提供の具体的態様は悪質といわざるを得ない」と。裁判所が、公安警察が情報収集すること自体を全面的に「違法だ」というのは難しいでしょう。私たちはあくまでも「法的根拠のない情報収集はダメ」と言い続けますが。そうすると、収集した情報の「利用」の面で、ここまで厳しく裁判所が断罪したことは、公安警察にとってはかなりの痛手で、そういう意味では「高く評価」するに値する判決なのかもしれません》

 

●メディアは公安報道を検証し、警察の人権侵害を監視する使命を果たせ

 日ごろ暗闇に隠れて市民の私生活や活動を監視し、個人情報を蓄積している公安警察にとって、その活動の一端である情報提供を「違法」と認定されたことは、近藤さんの指摘通り、「かなりの痛手」になったに違いない。22日付『東京新聞』1面によると、岐阜県警は「判決は真摯に受け止めている。内容を検討したうえで今後の対応を決めさせていただく」と、警察には珍しく殊勝らしいコメントを出した。

 ところが、公安警察の活動を「悪質」「違法」と断罪した画期的な判決にもかかわらず、大手メディアの報道は、ごく地味な扱いだった。

 22日付の朝刊報道では、『東京』が1面3段で《県警 個人情報提供は違法/風力発電反対巡り/住民への賠償命令/岐阜地裁判決/情報収集の違法性は否定》、第2社会面3段で《個人情報の抹消請求は却下/「司法救済の道閉ざし問題」/県警の提供「違法」》と大きく報じ、社説でも《警察と個人情報/野放図な収集は危うい》と論じた。

 しかし、この裁判の端緒となるスクープを放った『朝日』は、第2社会面に《警察が個人情報提供「違法」/学歴や病歴/岐阜地裁、県に賠償命令》の2段見出しで判決の概略を伝えただけだった(24日付で社説《警察と情報/逸脱を許さぬために》掲載したが)。

 『毎日新聞』も第2社会面2段で《県警情報提供「違法」/地裁判決/岐阜県に賠償命令》とそっけない扱い。また、『読売新聞』『産経新聞』には、記事そのものが見当たらなかった(以上、東京本社版)。テレビニュースの扱いも目立たないものだった。

 『東京』以外のメディア各社は、公安警察による人権侵害を認定・断罪し、高額の損害賠償を命じた岐阜地裁判決のニュース価値が理解できなかったのだろうか。

 『東京』社説は、《私たちは、自分たちの個人情報を警察権力がどれだけ収集し、どんな形で第三者に提供されているかをほとんど知らない》として、《各県公安委員会などは、捜査当局による個人情報収集がブラックボックス化せぬよう、何らかの手立てを講じるべきではないか》と述べた。『朝日』社説は、判決が情報収集について「違法とまでは言えない」としたことに疑問を呈し、《これではどんな情報収集も認められることになりかねない》と批判したうえで、『東京』と同じように公安委員会によるチェックの必要性を指摘した。

 だが、周知のように、公安委員会は国レベルでも都道府県レベルでも、人事も含めてほぼ完全に警察の管理統制下にあり、公安警察の監視・チェックなどとうてい期待できない。

 共謀罪の施行下、警察権力がますます肥大し、横暴になる中で、公安警察の人権侵害を日常的にチェックできるのは、ジャーナリズム・報道機関以外にないと言ってよい。

 しかし、現状は、記者クラブ制度のもとで記者たちが監視すべき対象の警察から管理され、情報コントロールされている。日ごろから公安警察の発表する情報を検証もせず(できず?)に垂れ流し、公安の広報と化している現実がある。そんな状況を突破しようとしたのが、今回の裁判の端緒を作った『朝日』記者の画期的なスクープだった。

 メディアは、今回の判決をきっかけに公安警察に対する取材・報道姿勢を検証し、権力による人権侵害を監視して市民に伝える本来のジャーナリズムに立ち返ってほしい。(了)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿