洪水が去った後、死の星には緑が蘇りはじめていた。
マイナス超能力者も、クラッシャーのメンバーも芽吹きはじめた死の星に降り立ち、この奇跡を喜んでいる。
そんな様子をフロンティア号の艦橋で、タケルとガッシュが並んで見ていた。
特に2人の間で会話は交わされていなかったが、タケルは何か言いたげな表情をしていた。
「・・・ガッシュ、聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「この前、"マーズは地球の人間"と言ってたが、あれはどういう意味なんだ?」
それは数日前のことだった。
地球を追放されたタケルが、ガッシュ達に協力を申し出た時
「マーズは地球の人間。これは我々マルメロ星人の問題だ。」
と、ガッシュはタケルの協力を断った。
拒否されるであろうことは予測しておりさほどショックはなかったのだが、
"マーズは地球の人間"
という一言がタケルの脳裏からどうしても離れなかったのだ。
「どういう意味もない。お前は地球の人間だろう?だからそう言ったまでだ」
どうしてそんなことを聞くのか判らないといった風にガッシュが答える。
「・・・俺は・・・自分が本当に"地球の人間"なのか判らないんだ・・・」
小さく、掠れた声でタケルが呟く。
「俺は地球で育った。故郷は地球だと、自分は地球人だと思っている。
俺のことを"マーズ"と呼ぶ人が俺をギシン星人だと言うのは仕方がないと思う。紛れも無い事実だし。
でも・・・俺を"明神タケル"と呼ぶ人の中に、俺のことをギシン星人だと・・・
地球に住みついた厄介者だと思ってる人が大勢いることを知ってしまったんだ。」
「・・・」
ガッシュは独り言のようなタケルの言葉を静かに聞いていた。
「その人達が俺を疎んじていること、持て余していることも・・・。」
言葉が途切れたタケルを、ガッシュが見遣る。
固く握られた拳が小さく震えている。
そんなタケルを見たガッシュが口を開いた。
「・・・良いではないか、疎んじられても」
ガッシュの言葉にタケルがガッシュを振り返る。
目を大きく見開いたタケルはどこか不安げな怯えた表情をしていた。
初めてみるタケルの表情に、ガッシュは驚きつつもその表情の理由を察していた。
「(この少年は自分の信じてきたものを全て覆されてしまった。
その中で地球という一つの星の運命を背負いながら必死に生きて、ようやく"現在の自分"を掴んだのだ。
しかし、その自分の存在が、自分の中で危うくなってきている。
"現在の自分"を否定する者がいるために・・・)」
否定する者の存在を露わにしたのがマルメロ星の内乱だと思うと、ガッシュはタケルを放っておく気にはなれなかった。
「我々は"海賊"と人から恐れられ非難されている。
だが、我々はマルメロ星のためと信じて行動しているからこそ、どんな非難も甘んじて受けることにしている。
マーズ、お前もそうではないのか?」
タケルを見つめるガッシュの瞳からはいつもの冷徹さが消えていた。
代わりに優しさが満ちている。
年少の弟に言い聞かせるようにガッシュが言葉を続ける。
「全ての人がお前を疎んじ、遠ざけようとしている訳ではないだろう?
お前を愛してくれる人々、お前が愛する人々が地球にいる。
それで良いではないか。
お前が地球と共に生きようとするなら。」
静かにガッシュの言葉を聞いているタケルの脳裏に、静子やクラッシャーのメンバー姿がよぎる。
そして、胸に熱いものがこみあげてきた。
「まして、呼び名など・・・。
お前が"マーズ"と呼ばれようと"タケル"と呼ばれようと、お前はお前以外の何者でもない。
呼び名一つでギシン星人や地球人に簡単に変われるものでもないだろう?」
心の奥底で凍りついていたものが融けていくのを感じた時、タケルの瞳に光るものがあった。
袖口で目許を拭った後、タケルの瞳には強い意志の光が宿っていた。
その瞳を見たガッシュは思った。この少年が自分の存在について思い悩むことはもうないだろうと。
「・・・ありがとう、ガッシュ。」
微笑むタケルに微笑み返したガッシュだが、一瞬の後にはいつもの冷徹な表情のガッシュに戻っていた。
この数日後、ガッシュはマルメロ星の雪原に散った。
愛するミカを守るために。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/64/8c96714c092b81e2a0c8009e1120c3cd.jpg)
***素材提供Moonlitさま***
---------あとがき ブログ掲載に寄せて---------
これは私が初めて書いたSSです。
GMのDVDを購入して喜んで見ていた時、ふと気になったガッシュの言葉がきっかけでした。
その言葉をタケルはどんな思いで聞いたのだろうと考えて出来たお話です。
EARTHLINGとは"地球に住むもの;地球人"という意味だそうです。
-サイト初出 2005.02.01-
マイナス超能力者も、クラッシャーのメンバーも芽吹きはじめた死の星に降り立ち、この奇跡を喜んでいる。
そんな様子をフロンティア号の艦橋で、タケルとガッシュが並んで見ていた。
特に2人の間で会話は交わされていなかったが、タケルは何か言いたげな表情をしていた。
「・・・ガッシュ、聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「この前、"マーズは地球の人間"と言ってたが、あれはどういう意味なんだ?」
それは数日前のことだった。
地球を追放されたタケルが、ガッシュ達に協力を申し出た時
「マーズは地球の人間。これは我々マルメロ星人の問題だ。」
と、ガッシュはタケルの協力を断った。
拒否されるであろうことは予測しておりさほどショックはなかったのだが、
"マーズは地球の人間"
という一言がタケルの脳裏からどうしても離れなかったのだ。
「どういう意味もない。お前は地球の人間だろう?だからそう言ったまでだ」
どうしてそんなことを聞くのか判らないといった風にガッシュが答える。
「・・・俺は・・・自分が本当に"地球の人間"なのか判らないんだ・・・」
小さく、掠れた声でタケルが呟く。
「俺は地球で育った。故郷は地球だと、自分は地球人だと思っている。
俺のことを"マーズ"と呼ぶ人が俺をギシン星人だと言うのは仕方がないと思う。紛れも無い事実だし。
でも・・・俺を"明神タケル"と呼ぶ人の中に、俺のことをギシン星人だと・・・
地球に住みついた厄介者だと思ってる人が大勢いることを知ってしまったんだ。」
「・・・」
ガッシュは独り言のようなタケルの言葉を静かに聞いていた。
「その人達が俺を疎んじていること、持て余していることも・・・。」
言葉が途切れたタケルを、ガッシュが見遣る。
固く握られた拳が小さく震えている。
そんなタケルを見たガッシュが口を開いた。
「・・・良いではないか、疎んじられても」
ガッシュの言葉にタケルがガッシュを振り返る。
目を大きく見開いたタケルはどこか不安げな怯えた表情をしていた。
初めてみるタケルの表情に、ガッシュは驚きつつもその表情の理由を察していた。
「(この少年は自分の信じてきたものを全て覆されてしまった。
その中で地球という一つの星の運命を背負いながら必死に生きて、ようやく"現在の自分"を掴んだのだ。
しかし、その自分の存在が、自分の中で危うくなってきている。
"現在の自分"を否定する者がいるために・・・)」
否定する者の存在を露わにしたのがマルメロ星の内乱だと思うと、ガッシュはタケルを放っておく気にはなれなかった。
「我々は"海賊"と人から恐れられ非難されている。
だが、我々はマルメロ星のためと信じて行動しているからこそ、どんな非難も甘んじて受けることにしている。
マーズ、お前もそうではないのか?」
タケルを見つめるガッシュの瞳からはいつもの冷徹さが消えていた。
代わりに優しさが満ちている。
年少の弟に言い聞かせるようにガッシュが言葉を続ける。
「全ての人がお前を疎んじ、遠ざけようとしている訳ではないだろう?
お前を愛してくれる人々、お前が愛する人々が地球にいる。
それで良いではないか。
お前が地球と共に生きようとするなら。」
静かにガッシュの言葉を聞いているタケルの脳裏に、静子やクラッシャーのメンバー姿がよぎる。
そして、胸に熱いものがこみあげてきた。
「まして、呼び名など・・・。
お前が"マーズ"と呼ばれようと"タケル"と呼ばれようと、お前はお前以外の何者でもない。
呼び名一つでギシン星人や地球人に簡単に変われるものでもないだろう?」
心の奥底で凍りついていたものが融けていくのを感じた時、タケルの瞳に光るものがあった。
袖口で目許を拭った後、タケルの瞳には強い意志の光が宿っていた。
その瞳を見たガッシュは思った。この少年が自分の存在について思い悩むことはもうないだろうと。
「・・・ありがとう、ガッシュ。」
微笑むタケルに微笑み返したガッシュだが、一瞬の後にはいつもの冷徹な表情のガッシュに戻っていた。
この数日後、ガッシュはマルメロ星の雪原に散った。
愛するミカを守るために。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/64/8c96714c092b81e2a0c8009e1120c3cd.jpg)
***素材提供Moonlitさま***
---------あとがき ブログ掲載に寄せて---------
これは私が初めて書いたSSです。
GMのDVDを購入して喜んで見ていた時、ふと気になったガッシュの言葉がきっかけでした。
その言葉をタケルはどんな思いで聞いたのだろうと考えて出来たお話です。
EARTHLINGとは"地球に住むもの;地球人"という意味だそうです。
-サイト初出 2005.02.01-