利根輪太郎は友人の宮坂虎之助や荻野康治の車に乗って、松戸や千葉、大宮など競輪場へ度々行っていた。
当時はどこでも酒を飲んで運転して帰れた時代だった。
2人は元タクシーの運転手であり、運転はうまかった。
宮坂は運送業の時にはトラックの運転もしていた。
荻野は晩年は納豆屋に勤めており、取手競輪場の選手宿舎などにも納豆を納入していた。
スナック派の宮坂、居酒屋派の荻野、2人は好対照でもあった。
宮坂はカラオケで「無法松の一生」や「人生劇場」を歌う。
一方、荻野は一度も歌わなかった。
宮坂は高校の同期や後輩たちが競輪選手になっていたので、競輪には強い思い入れがあった。
宮坂は高校時代に100㍍11秒0の記録を持っていたが、親父の反対にあって競輪学校を断念していた。
農家を継いで5年、頭が上がらなかった父親が脳溢血で死亡してから、宮坂のタガ外れた。
畑を売っては競輪資金を捻出して、勝負に出ていたのである。
「宮ちゃん、競輪はしょせん遊びだよ。そんな無茶な賭け方は止めなよ」幼馴染みの荻野が諭していた。
利根輪太郎が宮坂と懇意になったころは、宮坂は借家住まいになっていた。
一方、荻野の妻は男ができて、2人の息子を残して取手から東京方面へ去っていた。
「かみさんのスナック勤めは辞めさせろ」と宮坂は諭していたのであるが・・・
2人の息子の面倒は荻野の母親がみていたのである。
偶然であるが、荻野の2人の息子は輪太郎の2人の息子と小学校が同じクラスであった。
輪太郎はそれまでは競馬ばかりしていたのだが、スナックで宮坂と出会ったことから競輪場へ通うようになった。
「競輪は面白いよ。一度やってみないか」
「そうですか、いずれ・・・」と受け流していたが、宮坂が輪太郎の自宅に車で迎いにきたのである。
助手席にスナック「ナイン」のママの万梨子が乗っていた。
「私はツキ女だからね。今日はお金儲けられるわよ」と万梨子が輪太郎に流し目を送る。
競輪場で宮坂から紹介されたのが荻野であった。
----------------------------------------------
佐藤正午の「きみは誤解している」に登場する男女は、いずれも競輪場へ通うギャンブラーだ。
一つのレースに何百万も金を賭けるなんてことは、小心者の私にはとても真似できないし、する気もない。
それなのなぜか、私は彼らに共感してしまう。
「遠くへ」に出てくる女性は、ギャンブルのセンスがあり着実に勝ちをかせぐ。
「この退屈な人生」の主人公も、競輪で生活費を得ている。
佐藤正午の競輪小説の出てくるギャンブラーたちは、勝つてもあまり幸福そうではない。
佐藤 正午(さとう しょうご、本名:佐藤 謙隆〈さとう かねたか〉、1955年8月25日 - )は、日本の小説家。長崎県佐世保市生まれ、在住。長崎県立佐世保北高等学校卒業、北海道大学文学部中退。代表作は1983年にすばる文学賞を受賞し、大竹しのぶ、時任三郎主演で映画化された『永遠の1/2』(えいえんのにぶんのいち)や、同じく映画化された『リボルバー』(1985年)『ジャンプ』(2000年)、ドラマ化された『身の上話』(2009年)など。
自身が競輪ファンである影響もあってか、『永遠の1/2』や『きみは誤解している』、『side B』など、競輪を題材にした作品もいくつか出版されている。
当時はどこでも酒を飲んで運転して帰れた時代だった。
2人は元タクシーの運転手であり、運転はうまかった。
宮坂は運送業の時にはトラックの運転もしていた。
荻野は晩年は納豆屋に勤めており、取手競輪場の選手宿舎などにも納豆を納入していた。
スナック派の宮坂、居酒屋派の荻野、2人は好対照でもあった。
宮坂はカラオケで「無法松の一生」や「人生劇場」を歌う。
一方、荻野は一度も歌わなかった。
宮坂は高校の同期や後輩たちが競輪選手になっていたので、競輪には強い思い入れがあった。
宮坂は高校時代に100㍍11秒0の記録を持っていたが、親父の反対にあって競輪学校を断念していた。
農家を継いで5年、頭が上がらなかった父親が脳溢血で死亡してから、宮坂のタガ外れた。
畑を売っては競輪資金を捻出して、勝負に出ていたのである。
「宮ちゃん、競輪はしょせん遊びだよ。そんな無茶な賭け方は止めなよ」幼馴染みの荻野が諭していた。
利根輪太郎が宮坂と懇意になったころは、宮坂は借家住まいになっていた。
一方、荻野の妻は男ができて、2人の息子を残して取手から東京方面へ去っていた。
「かみさんのスナック勤めは辞めさせろ」と宮坂は諭していたのであるが・・・
2人の息子の面倒は荻野の母親がみていたのである。
偶然であるが、荻野の2人の息子は輪太郎の2人の息子と小学校が同じクラスであった。
輪太郎はそれまでは競馬ばかりしていたのだが、スナックで宮坂と出会ったことから競輪場へ通うようになった。
「競輪は面白いよ。一度やってみないか」
「そうですか、いずれ・・・」と受け流していたが、宮坂が輪太郎の自宅に車で迎いにきたのである。
助手席にスナック「ナイン」のママの万梨子が乗っていた。
「私はツキ女だからね。今日はお金儲けられるわよ」と万梨子が輪太郎に流し目を送る。
競輪場で宮坂から紹介されたのが荻野であった。
----------------------------------------------
佐藤正午の「きみは誤解している」に登場する男女は、いずれも競輪場へ通うギャンブラーだ。
一つのレースに何百万も金を賭けるなんてことは、小心者の私にはとても真似できないし、する気もない。
それなのなぜか、私は彼らに共感してしまう。
「遠くへ」に出てくる女性は、ギャンブルのセンスがあり着実に勝ちをかせぐ。
「この退屈な人生」の主人公も、競輪で生活費を得ている。
佐藤正午の競輪小説の出てくるギャンブラーたちは、勝つてもあまり幸福そうではない。
佐藤 正午(さとう しょうご、本名:佐藤 謙隆〈さとう かねたか〉、1955年8月25日 - )は、日本の小説家。長崎県佐世保市生まれ、在住。長崎県立佐世保北高等学校卒業、北海道大学文学部中退。代表作は1983年にすばる文学賞を受賞し、大竹しのぶ、時任三郎主演で映画化された『永遠の1/2』(えいえんのにぶんのいち)や、同じく映画化された『リボルバー』(1985年)『ジャンプ』(2000年)、ドラマ化された『身の上話』(2009年)など。
自身が競輪ファンである影響もあってか、『永遠の1/2』や『きみは誤解している』、『side B』など、競輪を題材にした作品もいくつか出版されている。