訪問レッスン先のチャイムを鳴らし、ドアを開けようとしたらロックされています。
いつもはロックされていないのに、どうしたんだろう?
そう思って、もう一度チャイムを押そうとすると、中からロックが外れる音が聞こえました。
「いや~、すみません。昨日はここで泊まりましてね」
仕事ですか?
「いえ、都心で友達と呑んでいまして・・・家まで帰るのが億劫になったもんで」
酒もほどほどにしていたほうがいいですよ。
「認知症に悪いんですかね~。医者の先生は少しくらいならいいでしょ、と言ってますけど」
まあ、楽しく適度に飲むお酒ならいいんでしょうけどね。
「もの忘れもひどくなったんです。教わって2,3時間たつと、もう忘れてしまうんです」
わたしだって似たようなものですよ。新しいことになると、とくに覚えられませんから。
「それが、近ごろは、昔のこともよく忘れて思い出せないんですよ」
それも同じです。以前は、もう少し昔のことも覚えていた気がするんですけど。
「医者に言われましたが、海馬が委縮しているんだそうです」
わたしもそうかな。20年近く前に、脳の外側がだいぶ委縮していると言われましたけどね。
「ほんとですか? とても、そうは思えませんけどね」
一時は、若年性アルツハイマーと診断されたんですよ。でも、あとで誤診とわかりましたけど。
そのことは以前にも話したような気がしますが、お互い忘れているのかもしれません。
「女房は、感心するくらい、昔のことをよく覚えているんですよ」
女の人には多いみたいですね。うちのカミさんも、ほんと細かいことをよく覚えています。
「そうなんですか。何年も前の葬式に、誰が来ていて、誰は来なかったとか・・・」
この茶碗や皿は、どこそこの何という店で、いつ頃、いくらで買ったとか ・・・。
「そうそう、うちの女房もそうなんです。どうしてそんな細かいところまで覚えていられるんでしょう?」
たぶん、脳の構造が違うんじゃないですか。それと関心ごとが男とはまったく違うとか・・・。
そんな調子で会話が続いたあと、さて、今日は何をやります?
「メモしていたんですが、そのメモがどこかへ行ってしまいました」
それから何をやったか、昨夜は覚えていたのですが、今朝はきれいさっぱり忘れています。