蒸し暑い夜はなかなか寝付かれません。
そこで真夜中の散歩、親水公園の道をしばらく歩いてみました。
ところどころに柳の木が枝を垂らしています。
柳が似合うのはドジョウとユウレイ。
ドジョウはともかく、ユウレイなど絶対に出てくれるなよ・・・・怖がりなんだから。
水路には、ヨシだかアシだかがびっしりと、ひとの背丈以上にのびています。
根元をかき分けたらシャレコウベの一つや二つ出てきても不思議ではない雰囲気。
と思っていたら、少し離れた柳の枝の陰から人の声らしきものがかすかに・・・・。
声はすれども姿は見えず、ほんにおまえはユウレイか・・・・。
イチマイ、ニマイ、サンマイ・・・・何やら数えているふうにも聞こえます。
それが皿なら番町皿屋敷、きっとお菊さんのユウレイに違いありません。
そのお菊さんがなぜ縁もゆかりもない葛飾の地に出るのか・・・・さては、迷ったか。
怖いもの見たさで、柳に近づいてみると、輪郭のぼやけた白い人陰がゆらゆら。
揺れてじっとしていられないのは脚がないせいらしい。
ユウレイにはなぜ脚がないのか・・・・昔、読んだ本のはずだが、なぜでしょう?
イチマイ、ニマイ、サンマイ・・・・手のひらからつまんで数えているのは何だ?
ドジョウの干物のようにも見えるが・・・・。
好奇心が怖さに勝ったと見えて、意を決して訊いてみました。何を数えているんですか。
おぬし、死ぬぞ! 見てはいけないものを見たからな。
な、な、なんですか、いま数えていたものは?
冥土のミヤゲに教えてやろうか・・・・これは人間の舌じゃ。
舌というとベロですか? もしかしてあなたは舌きり婆さん!
違わい、嘘つきたちのベロを抜いて来るのがわしの仕事じゃ。
さて、抜くぞ、おまえの舌は何枚じゃ?
お菊さん、どうやら出てくるところを間違えたようです。
出るなら首相官邸にどうぞ! あそこなら舌がいっぱい・・・・一生、切るに困らない。